甘噛み(風豪小ネタ)

2010/08/08

 

じとりとした視線を感じて、豪炎寺はゆっくり振り返った。

練習が終わった後の更衣室に長く留まる者はいない。早く着替えを済ませ、シャワーを浴びに行くほうがいいに決まっているからだ。
にも関わらず、豪炎寺が着替えに取り掛かったのはイナズマジャパン内でも一番遅かったのだが、それは更衣室に入るのが最後だったので仕方のないことである。
少し特訓をしていたので、豪炎寺が更衣室に入った時には三人ほどしか残っていなかった。それも、二人はさっさと着替えて出ていった。
鍵が扉の横に掛けられているのを確認すると、豪炎寺はユニフォームに手をかけた。汗を吸収した生地が冷たい。肌に張りつく感触が気持ち悪くて、勢いよく引き剥がす。しっとり湿ったそれは朝着た時と比べて少し重い気がする。疲れもあるのだろうが。
床に落とし、タオルでうっすらと肌に滲む汗を拭く。その途中、視線を感じた。
そういえばまだ一人残っていたなと振り返ると、案の定、その一人がベンチに座り、食い入るように豪炎寺を見ていた。

「……何か用か」

尋ねると、その人、風丸はああ、と呟いた。

「いや、豪炎寺の背中ってキレイだよなあ、と思ってさ」
「なんの話だ」
「なんていうかさ、筋肉質だけどそこまで筋肉じゃないというか、無駄がないんだな」
「みんなそんなもんだろ」
「一部を除けば、な」

風丸の言わんとすることが分かったのか、豪炎寺は小さく笑う。タオルをぐしゃぐしゃに丸めるとカバンに突っ込んだ。

「行かなくていいのか」
「何が?」
「シャワー浴びに」
「ああ、まあいいよ。それより」

風丸が立ち上がる。足元に落としたままのユニフォームを拾い上げる豪炎寺の背後に近付く。背中を起こした豪炎寺がユニフォームを軽く叩いていると、風丸が身を屈めた。

「いっ……!」

豪炎寺が詰まったような声を上げる。勢いで腕を振ったが、その時には既に風丸は遠ざかっている。
押さえた右の脇腹には、あまり濃くはないが綺麗に並んだ歯形がついていた。

「風丸!」
「や、なんかちょっと噛みたくなって、さ」

にこりと風丸は笑う。白く形の良い歯が、先程の暴挙など知ったことではないと行儀よく並んでいた。



―――
ヤマなしオチなしイミなし。まさしくやおいである。

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