♯正解はどこにもない(立豪小ネタ)
2010/07/31
届かないと思っていた。一歩余計に引いたから、届くはずがないと思っていた。
鬼道の手も円堂の手も、届かない距離だったから。
染岡や土門のように背の高いやつなら分からないが、同じくらいの身長だから安心していた。
「……豪炎寺さん…!」
一瞬の出来事だった。縋るように伸びた手が、油断していた俺の腕を掴み、引き寄せた。たたらを踏んで倒れるのをどうにか回避する。
一歩、大股に縮められた。さっきまで根が生えたように動かなかったくせに、あっけなく、簡単に。
長い腕に抱き締められて、呼吸が止まる。
「豪炎寺さん、豪炎寺さん…」
胸がぴったりとくっつく。肩に乗せられているせいで顔が見えない。立向居はどんな顔をしているのだろう。
あの、少し気弱そうなおとなしい少年の顔か。それとも、試合の時に見た勇ましい顔か。
あるいは、どれも違うのだろう。見たことのない顔を、しているのかもしれない。
「豪炎寺さん」
想いとは両刃の剣だ。抱えた本人を傷つけ、向けられたものを傷つける。喉元に突き付けられた剣は既に、立向居の血が滲んでいるのだろう。
助けを求めるように繰り返し繰り返し名前を呼ばれ、きつく抱き締められる。腕ごと閉じ込められては、身動き一つ満足に出来やしない。
お前は俺に何を求めてるんだ?
そんな言葉が喉元までせり上がってきたが、声になることはなかった。
「あなたが、好きなんです。豪炎寺さん……!」
叫ぶように告げられた言葉が、痛い。胸を裂くように、貫くように、内側まで入り込んでくる。俺という存在を、蝕んでいく。
振り払えばいい。押し退ければいい。拒めばいい、のに。
言葉を探していた。このぐちゃぐちゃな心の中を表す言葉を探していた。そして俺は口をつぐむ。
時折、立向居が呼ぶ俺の名前だけが、世界の音の全てだった。
―――
前後の状況が全く分からない、よ!
雰囲気で読んでください。
昨晩から今朝がたにかけて、チャットに参加いただきました方々、どうもありがとうございました!
たまに寝落ちしたり弾かれるような不甲斐ない主宰その一でしたが、皆様のおかげで充実した時間を過ごすことが出来ました。本当にありがとうございました。ログは明日にでも編集して振り返れたらと思います。
次は9月か10月を予定しています。今回参加いただきました方々も、気になったけど参加しなかった、出来なかった方々も、ぜひいらしてください。
重ね重ね、本当にありがとうございました。
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