望み願うのは間違いなのだろうか(虎→豪)

2010/07/29

 

その姿を初めて見たのはテレビだった。

中学校サッカー大会、フットボールフロンティアの放送はベスト8からしか映像として流れることはない。それまでの試合は結果と少しの情報をアナウンサーが読み上げるだけだ。
今年もまた帝国学園の優勝だろうとしか思っていなかったから、テレビの音声は半分ぐらい聞いてなかった。
そんな中、ひときわ大きな歓声に驚いて画面を見たら、ちょうどゴールネットが揺れたところだった。

その時のフォワードが、豪炎寺さんだった。

ダイジェストなんか無いから、どんなシュートかを知ることはできなかった。ただ、試合のあとにあるヒーローインタビューのようなやつで、にこりともせずに淡々と答える姿が印象的だった。今大会で一年生にして最高のストライカーと言われても、喜ぶでもなく、一言、そんなことありませんと言うだけで終わらせてしまった、二つ上の人の横顔がひどく大人びて見えたのを、今でも覚えている。
その後、木戸川清修の試合を追いかけたけれど、決勝に豪炎寺さんは現れなかった。それがきっかけで友達とケンカしたけど、今でも俺は間違ってないと思ってる。

それが去年の話。

そして今年のフットボールフロンティアで、豪炎寺さんは雷門中のストライカーとして優勝を手にした。
それから日本全体を揺るがせたエイリア事件を経て、今、俺は豪炎寺さんと一緒にサッカーをしている。
憧れの人が目の前にいて平常心でいられるはずもなく、ついついはしゃいじゃったりしたけれど、豪炎寺さんは仕方ないなと言って俺の頭を撫でてくれる。

ゲンキンなことに、最初は近くで見るだけで幸せだったはずの俺は、いつしかあの人の一番になりたいと思うようになった。
追いかける相手じゃなく、並ぶ相手に。捕まえるんじゃなくて、手を繋ぎたい。

俺は、豪炎寺さんが好きだ。

だけど、豪炎寺さんの一番は別の誰かのもの。家族なのか、それともこの中にいるのか分からないけど、俺じゃない。
俺じゃ、ないんだ。

振り向いてくれるけど、立ち止まってはくれない。手を差し伸べてくれるけど、そのまま繋いでいてはくれない。

ねえ、豪炎寺さん。好きだって言ったら、俺のこと見てくれますか?





もがらは徒でしかないのだろうか。わたしがあのひとを、と望み願うのは間違いなのだろうか。それともわたし自体が間違いなのだろうか。どこかで何かを違えたことも分からずに、未だにあのひとを、と焦がれるわたしが愚かなだけなのだろうか。



―――
虎丸はファン暦長いと思う。

題:揺らぎ

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