なきながらひとりになったきみ(南→豪)

2010/07/25

 

「よお、元気?」

他愛ない挨拶、他愛ない笑顔。懐こそうな顔して呼び掛けたら舌打ちされた。愛想ねえなんてもんじゃねーって。マジで。

まあ原因は知ってんだ。
むしろ俺たちが犯人的な?
嚇しをかけて身動き取れなくしたのは味方らしいから。直接的じゃなくても、充分な原因だ。

それを考えると、若干胸が痛い。俺は父さんのことを抜きにしてもサッカーが好きだから、やめろと言われるのも、やめなくちゃいけない状況になるのも、辛いと思うから。

でもこいつがやめないでよかったと手放しで喜ぶわけにもいかない。
敵、だから。
父さんの邪魔をする奴は敵だ。どんなに好きになれそうな奴でも、排除しなくちゃいけない。

世界は不公平だ。俺たちに親をくれない。自由をくれない。公平をくれない。
好きなことをしているだけなんて、許されないのだ。

「……南雲?」

いつの間にか考えることに没頭していたらしい。怪訝そうな顔で名前を呼ばれて、ぱっと意識が浮上する。
相手をする気がないのなら知らないふりをすればいい。覚えた名前を呼ばなければいい。

でもこいつにはそれが出来ない。一人が寂しいことを知っている奴は目の前に出された手を振り払えない。
それがどんなものか分かっていたとしても、だ。

「なんだよ、やっと相手してくれる気になったのか?」
「いや、ぼーっとしてるから具合でも悪いのかと思ったんだが」

平気ならいい、と呟いて、また黙々と一人でボールを蹴る。
何のためか知っている。サッカーが好きなのもあるが、いつかのためだ。
いつか、仲間たちのもとへ帰るときのためだ。

そんなもの捨てちまえ。お前を守れなかったような奴らなんかいらないだろ。
なんもかんも無くして、ひとりになって、それから俺のところに来いよ。お前が壊れたって大事にしてやるよ。
なあ。辛いのを隠した顔をするぐらいなら、全部終わらせてやるから。世界を全部俺たちのものにして、それから俺たちに優しい世界にしようぜ。俺が世界の一番になって、そうだな、そしたらお前は三番ぐらいに入れてやってもいい。

だからさ、俺のところに来いよ。



『なあ、なんでお前、一人でサッカーやってんの?一緒にやったほうが楽しくないか?』
『……別に』



とりになったきみのくびすじをどうやってなぶってやろう。ゆるくか、それともこのみにやどるほのおのすべてをもちよるようにかれつにか。ひとりはこわいとなきながらひとりになったきみのこころをどのようにこわしてやろうか。むじひに、それともわずかににじむあまさとじひをもってしてむじょうにか。いつかきみはまたひとりをおそれてなきわめくだろうけれど、もはやそれをのぞむことすらないように、いっそこのてでおわらせてあげようか。
ひとりになった君の首筋をどうやって嬲ってやろう。緩くか、それともこの身に宿る炎の全てを持ち寄るように苛烈にか。一人は怖いと泣きながら独りになった君の心をどのように壊してやろうか。無慈悲に、それとも僅かに滲む甘さと慈悲をもってして無情にか。いつか君はまた一人を恐れて泣き喚くだろうけれど、もはやそれを望むことすら無いように、いっそこの手で終わらせてあげようか。



―――
in沖縄。南雲は豪炎寺が好きだというのをガン押しでいきます。

題:揺らぎ

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