♯共に笑い共に生き(土方←豪)
2010/07/14
幾つの夜を共に越えたのだろう。
あの日々はとうに過去のものと置き去りにされ、思い出という形で胸のうちに巣くうばかり。それだって消費されていく記憶の容量に押されて、もうはっきりと思い出すことはできない。
目まぐるしく過ぎ去る時間が置き去りにしていく。
感情と思考だけを残して、全ては進んでいってしまう。
「……土方」
広くたくましい背中に向けて小さく呟く。気付いてくれたなら嬉しい。でも別に気付かなくてもいい。
卑怯者だと思う。常に逃げ道を用意している。けれど、真っ向から向き合うのは、怖い。どうしてもできない。
土方が振り返った。図らずも身体が少し反応する。
「お、やっぱりな。いるなら声ぐらい掛けろよ」
「悪い。考え事していた」
破顔する土方の隣に並ぶ。こんな風に二人で歩くなんて、いつ以来だろうか。
イナズマジャパンの中はすごく居心地が良い。誰のそばにいても楽しい。
けれど、心安らぐのはほんの一握りだけだ。その中でもたぶん、一番は土方だ。あの日々に培った絶対的で無条件の信頼が、いつしか大きな存在へと変化していた。
「今日もまたハードな練習だったな」
「そうだな。腹がへりすぎて倒れそうだ」
「背負ってやってもいいけど、汗くせーぞ」
「それは勘弁」
軽口を叩き合いながら笑って歩く。肩を叩いたり、たまに腕が触れる、そんな距離。
過ぎ行く日々の中で、いまだ変わらないもの。
安心しているけれど少し落胆もしている。いつか変わるだろうか。
その時はきっと、今以上に怖いのだろう。
共に笑い共に生き、共に死んでゆける朝が欲しい
―――
土方に片思いな豪炎寺
題:meg
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