軋轢(不豪)

2010/07/11

 

時間潰しに会場の中を歩いていた不動は、見覚えのある背中を見て立ち止まった。

フットボールフロンティア・インターナショナル、いわゆる子供たちのW杯は、半ばダークホースだった日本の健闘によっていつにない盛り上がりを見せていた。貸し切られたライオコット島の中は熱狂的なサッカーファンたちで満ちている。試合のスタジアムは当然、それ以上の熱気に包まれることになる。
冷めた思考の不動は興奮状態の観客を一瞥して、小さく悪態をついた。チームメイトと馴れ合おうとしない不動はそのまま控室に戻ろうとせずに、ミーティングまでの時間を散策に費やすことにした。

そして、人影を発見した。

銀色というよりは金色を限りなく薄くしていったような髪色が目を引く、チームメイトの一人が、誰も来ないような行き止まりの通路にしゃがみ込んでいる。
何か落とし物でもしたのかと声をかけようとしたが、微かに聞こえた切羽詰まった吐息に足が止まる。背中が忙しく上下している。真っ先に身体の不調が思い至った。

しかし、朝に宿舎を出たときには健康そのものという顔色だったし、その後も青ざめたりといった様子は全くなかった。変な物を食べた可能性はない。もしも食中毒なら不動だって無事ではない。ならばなぜだ。

震える豪炎寺の背中を見ながら考えていた不動は唐突に思い当たった。
もしかして、緊張性の腹痛というやつだろうか。
話だけならば聞いたことがあるが、不動には現実味がなかった。自信という名の過信ばかりで装飾された不動明王という人間は、緊張とは縁遠く生きてきたからである。自信のない弱者がするものが緊張だ。必要ない。そう考えてきた。

しかし、それでいうなら目の前の人物、豪炎寺修也は過剰ではないが自信に溢れていたはずだ。本来の意味で。

不動は静かに距離を詰める。壁に手をつきうなだれる豪炎寺は不動の存在に気付かない。あまりに弱々しい姿、けれど今までで一番人間味のある姿。

不動の目には豪炎寺は完璧すぎるように見えていた。父に従ういい息子、後輩を思ういい先輩、仲間を思いやるエースストライカー、まるで漫画の中のヒーローのようで吐き気すらした。生き物に見えなかった。

それが今、重責や何やらに押し潰されそうになっている。正直、意外だった。すっとした。なんだ、人間か。そう思った。

不動は無言のまま豪炎寺の斜め後ろに膝をつく。小刻みに動く背中に手を乗せた。手の下でびくりと跳ねる。豪炎寺は振り返った。

「……不動、なんで……?」

眉を寄せたまま驚愕の表情を浮かべた豪炎寺の質問に答えず、不動は背中を撫でた。自分と変わらない大きさの背中は少し冷えている。言葉もなく手を動かしていると、少し呼吸が落ち着いたような気がした。

床についた膝は完全に冷たくなった。他人に触れている手だけが温かいのを、不動はわざと考えようとしなかった。



―――
腹痛三部作ラスト!
不動難しい。

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