♯目隠し鬼(佐久間+豪炎寺小ネタ)
2010/06/27
視線を感じ、顔を上げる。決して雄弁ではない少年がじっと、佐久間のことを見つめていた。
「この下が気になるか」
右目を覆うものを指先でなぞる。体温など感じようはずがないそれの手触りを知るのは、佐久間一人だけ。もはや身体の一部と言っても過言ではない。
右だけ少し欠けた視界の中心で、豪炎寺は少し眉を寄せた。不快とは違うので、おそらく戸惑いの表情だろう。それもそうだろう。さほど親しくもない人間のパーソナルスペースへと深く踏み込む話だ、これは。佐久間だって、豪炎寺の胸元でたまに光るペンダントの由来など聞く気にはなれない。
それなのに今、佐久間は彼を拒むどころか招き入れようとしている。何故だろう。
「……気にならないと言ったら嘘になるな。でも嫌なことを聞くつもりはない」
「確かに、他人にこの目のことを聞かれるのはあまり好きじゃない」
眉を寄せたまま、豪炎寺は視線を逸らす。そして次の言葉は決まっている。
「わる」
「でも、自分から話す分には問題ない」
だからその前に言葉を被せた。豪炎寺は真っ直ぐに佐久間を見る。黒というには柔らかい色をした瞳。不釣り合いだと思った。
何に?
「俺の目は鬼の目なんだ」
「鬼……?」
眼帯を外すことはできない。外すことが怖い。
色だけなら似たようなものを持つ人が大勢いる。佐久間の尊敬する鬼道は彼よりも鮮やかな赤色をしている。
佐久間の異質は他の形で表れている。奇異なものを見る視線が嫌で着けた眼帯は、立派な防壁の役目を果たしていた。
「見ると呪われる」
だから外せないと言外に匂わせる。そんなことせずとも豪炎寺はその下を見たがらないだろうことは分かっていたが、人とは壁を作らずにはいられないものだ。佐久間は眼帯を爪で軽く掻いた。
何故、豪炎寺に話してしまったのか、なんとなく分かっている。関心のない人間のことは誰かに話そうとはしないものだ。豪炎寺はきっと、佐久間のことを見ていないだろう。
そう思うと、この距離は果てしないもののように感じて笑いたくなった。
捕まらないし、逃げ出さない。鬼もいない一人ぼっちの鬼ごっこ。
―――
2で佐久間の眼帯からのぞいた目のことを思い出したので。
なんにしろ謎な組み合わせパート2。
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