灰燼(ゲートキーパーズパロ)

2010/06/06

 

その日、少年は妹と共に公園を訪れていた。ここ最近、部活の練習が詰まっていて忙しかったので遊んでやれなかったことの埋め合わせのつもりだった。
休日の、それも二時過ぎという時間もあってか、広い公園の中は親子連れがほとんどだ。まだ小学校にも行かない妹の手を引き、少年は歩く。片手にぶら下げたバケツの中で、おもちゃのシャベルがかたかたと鳴る。

「おーっきいおやまにしようね!」
「ああ。夕香がびっくりするぐらい大きくしてやる」

少年のつり目がちな黒い瞳が柔らかく細まる。傍から見ても仲の良さが窺える、ごくありふれた兄妹だった。

ほんの、数分前まで。

子供たちの楽しげな笑い声とあたたかな笑顔が溢れていたはずの公園は、今や阿鼻叫喚の惨劇の現場となっていた。
黒い帽子に黒いサングラス、黒のスーツと黒尽くめの中で顔色が異様に白い男たちが、先程までの『休日の公園』というのどかな風景に立ち入った時に世界は一変した。
男たちの手などが機関銃やライフルなどに形を変える。気付いた人が声をあげる前に、一斉に銃撃が開始された。耳障りな轟音を立てながら、黒い弾が無差別に人々を襲う。
少年は妹の手を引き、走った。
ニュースで見たことはあった。エイリアと呼ばれる地球外生命体が人々を襲う映像を。
しかし、それが自分たちに起こるとは考えていなかった。遠い世界のことだと思っていたのに。

「夕香、頑張れ!」
「うん!」

少年は走る。いっそ妹のことを抱えて走れたならもっと早かったのだろうが、少年はまだ中学生で非力だった。
そして妹は、走り続けるには幼くて体力がなかった。
どちらも二人には非のないことだったが、それが少年を悲しみの淵へと突き落とすことになるのである。

「きゃあ!」
「夕香!」

疲れからか、妹が足を縺れさせて倒れ込んだ。少年は勢いのまま少し走ってから慌てて振り返る。泣きそうな顔をしている妹に駆け寄ろうとした。

「お兄ちゃん!」

妹が手を伸ばす。少年も手を伸ばす。二人の距離があと少しまで縮まった、次の瞬間。
小さな身体が跳ねた。
少年の目が見開かれる。高い悲鳴は一瞬で途切れた。
倒れ伏す妹の力の入らない身体を抱き上げる。少年の細い腕に、意識のない妹は重かった。

「…夕香、夕香?夕香、夕香!」

妹の名を繰り返し呼ぶ少年の声は悲痛な響きに満ちているが、誰も目を向けない。混乱の最中だからだ。妹の顔色が白くなっていく。

「あ、あ、あ、ああああああああああああああああ!!」

少年は吠えた。喉も張り裂けんばかりの声量で無力を嘆き、絶望に叫んだ。
黒尽くめの男たちが少年に顔を向ける。銃口がずらりと一点を狙う。少年は妹を抱えたまま叫ぶばかり。通報で駆け付けた警察も、少年の負傷を覚悟した。
キィ…ン、と耳鳴りにも似た音が響く。音の発生源は、少年だ。
赤く透明な二重の円が少年の前に現れる。叫び声に呼応するかのように震え、揺らぐ円。中心が強い光を発したかと思った、その時。
どこからともなく現れた炎が男たちをあっという間に飲み込んだ。火種も燃えるものもないというのに、赤い炎は勢いを増していく。

「あああああああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙!!」

炎は少年と妹のいる場所を除いた公園の全てを、緋色で覆った。もはや誰がいるのか、何があったのかも分からなくなるほどの光景。まるで地獄のような、と目撃者は後に言った。

少年はこの日、赤熱のゲート能力に目覚めた。



―――
豪炎寺覚醒篇。このあと夕香ちゃんは病院に運び込まれて昏睡状態で入院します。でも一年も眠るわけじゃない。三ヶ月……も長いかなあ。考え中。
この時点では豪炎寺はまだ木戸川在住です。覚醒した人は雷門中に集められるので、このあと転校します。

つか暗いなあ……。

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