青天雨香(豪炎寺♀)

2010/06/02

 

「最近、みんな忙しいんだな」

ん?と木野は振り返る。
公式戦用のポジションの打ち合わせをしている部員たちは、歴史ある部室でホワイトボードと睨み合っていることだろう。ここにいるのは木野と、試合に出ることのできない豪炎寺だけだ。雷門も音無も、用があるのだということでここしばらくは現れない。
豪炎寺の問いに、木野はタオルを干しながら答えた。

「そうかもしれないわね」
「どうしてか知っているか?」
「誰かを引き抜くための手続きが大変みたい」

ぱん、とタオルが鳴る。白ばかりの万国旗が風にはためく。豪炎寺はカゴの中のまだ湿っているタオルを手に取った。いつもドロドロに汚れてしまうのに、翌日には真っ白になっている。毎日毎日、木野が綺麗に洗ってくれるからだ。残りのタオルを全て抱えると、豪炎寺は木野の隣に並んだ。

「ありがとう」
「いいんだ、することもないし」

ブラウスの前がしっとりと冷たい。木野はいつものオレンジ色のジャージ姿だ。少し日に焼けた、少女らしい細い手がタオルを手に取る。慣れた手つきで広げては干していく。

「誰を引き抜くんだ」
「すごい人としか聞いてないの、わたしも」
「そう、か」

ミーティングは当分かかるだろう。着替えは部室の中だ。豪炎寺がスパッツを履いているといっても、あまり派手に動き回ることはできない。
それに、スパイクもボールも部室の中だ。終わるまで何もできないことに変わりはない。手持ち無沙汰な豪炎寺は、木野を手伝うぐらいしかすることがない。

今までだってこんなことはあった。
女子は公式戦に出られないのは知っているし、例外は存在しない。
木戸川にいた頃はマネージャーのようなこともしていたから、時間が潰せないなんてことはなかった。
雷門に来てからだって、それなりに手伝うことはあったし、別に問題はなかった。

なのに、なぜだろう。今日はやけに落ち着かない。
雷門と音無がいないからだろうか。
次はフットボールフロンティア本選への出場がかかった試合だからだろうか。
それとも、引き抜きの話題を突然聞いたからだろうか。

どれも正解のようでいて、どこか違う気がする。よく分からないもやもやが広がっていくようだ。
豪炎寺は不安だった。落ち着かない気分の原因が分からない。そして、不安なことが不安だ。
じわじわとブラウスにしみる微かな水分のように、うっすらと、でも着実に浸透していく。

空は青いというのに、豪炎寺は雨の匂いを感じた。



―――
久しぶりに豪炎寺♀です。この次が一番書きたいところだと思う。そしてその先を考えていない。無計画っぷりが露呈しました。
タイトルは造語。

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