泥濘(不+豪小ネタ)

2013/09/21

凍るような、灼けつくような、切り刻まれるようで貫かれるような気がして振り返る。夜の闇に似た混沌とした黒が二つ、ただ真っ直ぐだった。
近寄るのにも気付かずひたすら前を見つめている。遠くから回り込み、後ろに忍び寄る。

「人を殺してきたみたいな目ェしてるぜ」

耳に顔を寄せて言うと、驚いた様子もなくゆっくりとこちらに顔を向けた。

「ああ。もう何回殺したか分からなくなったところだ」

やはりあの目をしている。
遺体は見る陰も無かったと、ライオコット島で荼毘に付された。故郷である日本に帰って行われた葬儀に、影山零治その人の親族は誰一人も現れなかった。
当然だろうな、と考えるのと同じ頭で不動はその男を憐れんでいた。全てが手の内にあると思っていたのに何もかもが彼のものではなかった。閑散とした葬儀場、訪れるのは彼が疎み、厭っていた人たちだけだ。
アンタは『カワイソウ』なニンゲンになったんだよ。カワイソウにな。
黒いスーツの中に紛れ込む制服姿の子どもたち、異質だったのは一人だけ。

「誰、殺したんだよ」

いつも通りの静かな声で、この儀式の主役の名前をそいつは言った。

「刺したり首を絞めたり突き落としたり、思い付く限りの方法で殺してみてるんだが、まだまだいるんだ。何かいい方法を知らないか」
「毒でも使えよ」
「もう使った」
「なら鉄骨でも落とすか?」
「ああ、それもいいな」

なんでもないような声で答える、冥い目をしたまま。
あの男の遺したのは負の遺産ばかりだ。鉄骨を落とされた人間が鉄骨を落とすことを考える。同じところまで引き摺り下ろす。貶めて、気高くあろうとした人を闇に染めるのだ。
彼が何度も殺しているのは男への憎しみで、綺麗だった頃の自分だ。
不動はそっと腕を肩に回した。自分と変わらない、薄い肩だ。

「俺も一緒に考えてやるよ。だからここから動こうぜ」

あんなもの面白くもねぇ。冷えた目で呟けば、そいつはそうだなと答えて肩に乗った手に触れた。指先のひどく冷たい手だった。



―――
ゲームの3終了直後くらいの気持ち。私は未だに影山に関しては不完全燃焼です。
不動と豪炎寺がそれなりに距離を保ちながらも関わり合うような仲であればいいな、と。



一ヶ月以上振りですが生きてました。ネタが無かった。

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