三文って今だといくら?(ヒロトと豪炎寺)

2012/12/30

ピンと張り詰めた空気。透明なガラスの刃が突き刺さるような、そんな雰囲気が冬の早朝には満ちていると思う。
富士の樹海は死に絶えた夜の冷たさがいつだってあったけれど、この空気とは全然違う。大きく息を吸い込もうと吐き出した呼気が白く上がる。肺いっぱいの冷たい空気が背中を震わせた。

「やっぱり、寒いな」

ただ立っているだけで熱を奪われていく指先は赤い。ジャージのポケットに突っ込んでみたところで、暖かさはなかった。昇り始めた太陽がじわじわと大気を温めるけれど、見つめる先の息は白いまま。

「寒いなあ」

もう一度呟いた。口から零れた小さな雲はあっという間に青に溶ける。耳が痛い。少し温まった手で耳を覆うように押さえたら、とても冷たかった。

「上着くらい着たらどうだ」

静かな声が遠くから聞こえてくる。振り返ったらすぐそばにジャージ姿の豪炎寺くんが立っている。おはよう、耳から手を離しながら言うと、おはようと返された。今度の声はとても近い。

「そういう君も、上着は?」
「走るからいらない」
「朝練?早いんだね」
「お前こそ」

応えながら赤い指先の手を組んで伸びをする。太陽の光が豪炎寺くんの横顔に差す。やっぱり君は照らされる人なんだ。
冷たい指先を手のひらに握りこむ。少しだけ温かい。

「俺はただ目が覚めただけだよ。でも、そうだね。せっかくだから一緒に練習してもいいかな?」
「そんなこと、聞く必要ないだろ」

豪炎寺くんが笑う。ほら、と手が差し出された。思わず手を重ねて冷たい、と当たり前のことを思う。

「いつもこんな時間に一人で始めてるのかい?」
「今日はいつもより少し早いな」
「でもいつも一人」
「少しすれば誰かしら起きてくる」

手を繋いでいるのでそのままストレッチを始める。まだ眠い身体が伸ばされて少しずつ目を覚ます。太陽の光が射し込んで夜の残滓は融けてゆく。

「素敵な朝だね」
「今日もきっと一日晴れだな」

さて、と手が離れる。温まっていた手のひらが淋しいと訴えるが、走るのに手を繋ぐ必要は無いのだ。

「戻ったらマンマーク練習からだな」
「パス練習はしないのかい」
「走りながら出来るだろ」

転がっていたボールを爪先で掬い上げた豪炎寺くんは、リフティングを二三回すると弓なりの高いパスを上げて走り出す。

「こぼした回数が多いほうがジュースおごりだからな!」
「負けないよ!」

追いかけてボールを蹴る。先を走る豪炎寺くんの髪は日光に眩しく光っている。
ああ、やっぱり素敵な朝だ。



―――
ということでヒロトと豪炎寺。時期的にはFFIの合宿らへん。仲はいいと思うんだ。

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