出陣(化身大戦パロ)

2012/11/16

赤い衣を身にまとい、玉座で黙って報告を聞いていた男が立ち上がった。

「私が出る」
「何を言っているんですか、イシドさま!」

血相を変えた重臣の制止を振り切るように肩を覆うマントを引き剥がす。身軽になった男の背中はすっと真っ直ぐに伸びていて、今すぐにその前に跪きたい衝動に駆られる。その衝動に抗わず膝をついた男は二人。重臣はぐっと堪える。

「聖帝の、ご意志のままに」

頭を垂れる男の束ねられた金の髪が、まるで絹の紗のようにすずやかに揺れる。美という概念に形を与えたなら、きっとこの男の姿になるに違いない。
だが、男は見た目にそぐわない苛烈さと冷淡さも兼ね備えている。だからこそ近衛としてこの場にいることを許された。
その隣で同じくかしずく男も同様に近衛である。こちらは緩く波打つ艶やかな黒髪を高い位置で少量だけ束ね、残りは肩に流している。細く吊り上がった目は金色の男と揃いの赤だ。
この国の王たる者だけが纏うことを許される禁色と、同じ色。
重臣は顔をしかめる。

「…俺は、絶対に止めますよ。どんな影響があるかも分からないのに、そんな危険なことをさせるわけにはいきません」
「これは王命だ、虎丸」

男の言葉に重臣はぐっと言葉を飲み込む。彼がなんと言おうと、最終的な決定を下すのは聖帝である男だ。男の言葉は神の言葉にも等しい。
悔しげに唇を噛む重臣の横を通り、男は王の間を出て行った。
残されたのは重臣と近衛二人の合わせて三人。金色の近衛が口を開く。

「宇都宮くん、君は聖帝に逆らうのかい」

にこやかに問う声音も表情も、この状況を面白がっているかのような素振りを見せているが、赤い瞳は冷たく光っている。重臣は負けじと濃紺の瞳に憤りと怒りを込める。

「忠臣が王を危険に晒す愚か者のことを言うなら、そんなものになりたくありません。それよりも、あなたたちはどうして行かせたんですか」
「我々はあの方を信頼している」

黒の近衛が淡々とした声で言う。彼の言葉には微塵の揺らぎもなく、それが心からの発言であることが重臣には分かった。だからこそ、重臣は噛み付く。

「根拠のない信頼は信頼じゃない。ただの盲信です」
「そうかもしれないね。でも、僕たちは信じている」

何をです、唸るような声に金色の近衛は今度こそ心からの笑顔を向けた。

「あの方には守るものがあるから、絶対に帰ってくる。あの方自身はその守るものには含まれていないけれど、彼が途中で投げ出すほど無責任な人でないのは、君ならよく知っているだろう?」

それじゃあ僕たちはあの方の準備を整えてくるよ、金色の近衛の言葉に続くように黒の近衛が踵を返す。守るべき主のいない部屋に立つ重臣は、血反吐を吐くように呟いた。

「…だから行かせたくないんですよ、ぼろぼろになって帰ってくるあの人を見るのはもうごめんだって思ったのに」



―――
フィフス組。普段は仲は悪くないと思う。

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