♯戦闘(化身大戦パロ)
2012/10/18
戦況は拮抗していた。ライモンの化身使いは二人、対するフィフスは一人であったが、実力も戦力もライモンの比ではなかった。もともと寄せ集めの反乱軍であるライモンが国軍と戦うことは無謀でしかない。しかしそれが現在可能であるのは、ひとえに彼らに先日加わった軍師の力に他ならなかった。
「敵の化身使いは疲弊している!一気に畳みかけろ!」
「はい!」
双眸を隠す硝子は森のように青々しく、その表情を見せまいとするように巨大であった。軍師の声に応えた少年の背後で顕現する四つ腕の巨人は、一つ手の指揮棒を振りかざす。指揮者の姿をした化身の腕が空を切るたび、巻き起こる衝撃波が相手の化身を襲った。優美な女性の姿をした化身が苦悶に身をよじる。使い手である少年は、化身に劣らず穏やかで優しげな顔を苦渋の色に変える。
「俺もいるぞ!」
鋭い声を上げた少年の化身は鎧に身を包む騎士だ。剣を女性に突き出す。間一髪で地から這い出た黒い無数の手がそれを押し留める。化身使いではない兵たちも加勢するが、化身同士の戦いに加わることは出来ない。戦況は化身に左右され、今はライモンの有利に傾きつつあった。
「押し切れ!」
「させませんよ」
穏やかだが熱さを秘めた声が軍師の言葉を断ち切るように戦場に響いた。それと同時に大地を分断するように炎が一線を引く。女性の化身を守るかのごとく、赤い化身が現れた。荒い息を吐く少年を支えるのは、やはり穏やかな、美しい相貌の少年だった。豊かな髪を緩く束ね、肩から垂らす少年はにっこりと笑った。
「お久しぶりですね、鬼道宰相」
「……黒裂か」
「おや、覚えていてくださっていたんですか。てっきり俺たちのことなどどうでもいいと忘れているかと」
笑う顔は美しいが、その口から出る言葉は辛辣で、まるで刺のある薔薇のようだ。お疲れさま、そう言って少年の肩を叩くと、それを待っていたかのように女性がすうと掻き消えた。立つのもやっとの少年を兵に預けると、黒裂は鬼道たちに向き直った。
「天瀬がずいぶんお世話になったようで。しかも剣城もいるとは、懐かしい顔ぶれですね」
「黒裂さん…」
「こんな形で再会をしたくはなかったがな」
黒裂を前に躊躇を見せる剣城と眉をひそめる鬼道を交互に見やり、もう一人の化身使いは困った顔をする。笑ったままの黒裂はどうです、と手を広げた。
「戻ってきませんか、今ならそれほどひどい処罰にならないように出来ますよ」
「いや、俺たちは戻らない。あの場所では変えられない」
「……そうですか。なら、俺もそれ相応の対処をさせていただきます」
黒裂が目を細めた。瞬間、空気が一変する。肌を刺す熱波のような殺気が上から襲いかかる。膝をついてしまいそうなプレッシャーが身体の自由を奪う。剣城が息を飲んだ。
「俺が意外と激情家なのは知っていただろう?覚悟はいいか、骨も残らず焼ける心の準備は出来たか。さあ、始めよう」
黒裂の化身が声もなく吼えた。
―――
お久しぶりです。聖堂山のお気に入りは黒裂くんです。
不在の間に通販の申し込みがありまして、対応させていただきました。イベント参加したくなりました。
戻る
←|→