進路調査中(立豪)

2012/04/30

「そう言えば、聖帝はもう廃業したんですよね」

全てが終わった、とあの人が戻ってきた。髪に入れた緑の色が抜けて、昔よりも印象が柔らかくなった気がする。立向居は細くなったような背中に声をかけた。
一つに束ねた髪を揺らして振り返る。

「新聖帝である響木さんがフィフスセクターの解散を宣言したからな」
「イシドシュウジでもなくなった」
「あれは聖帝のための名前だったからな」

自分を消すための、と呟いた声はひどく静かで、まだ全てが彼の中で終わったわけではないことを立向居は悟った。
それでも、戻ってきてくれた。

「…お帰りなさい、豪炎寺さん」
「……ああ、ただいま」

抱きしめた身体は二年前より薄くなったように感じた。

「チームやめてしまったんですよね」
「迷惑になると思ったから。実際、試合に出られない選手の登録なんていらないだろう」
「でも、戻るんでしょう」

顔を覗きこむと豪炎寺は肩をすくめた。その仕草がどこか小さな子供のようで、外見にそぐわない。

「さあな」
「戻らないんですか?」
「戻れないだろう、多分」

豪炎寺は苦笑する。昔もこんな顔をよくしていた。そう思ったら言葉が喉をついて出た。

「じゃあ、俺のところに来ませんか」
「それじゃ立向居に迷惑がかかる」
「迷惑だなんて思いませんよ」
「それに、今はしばらく休むつもりなんだ」

伸びをして豪炎寺は背中を向ける。数字を背負わない赤いジャージが目に痛い。

「……それは、イシドシュウジだったから?」
「それも少しあるが、一番単純に、疲れたんだ」
「だから休みたい、と」

豪炎寺は振り返らずに頷いた。このまま走り出してしまいそうな背中だ。

「それなら、俺と一緒に暮らしませんか」
「え?」

不思議そうな顔をする人の腕を掴んで引き寄せる。こんなに軽かっただろうか、空白の時間が記憶をぼやけさせる。

「あなたがいなくなったとき、胸が潰れそうになりました。傍にいて欲しいんです」

立向居の目を真っ直ぐに見て、それから豪炎寺は俯いた。

「……考えておく」
「うんと言ってくれるの、待ってますから」
「なんだか強引になったな」

見上げて言うから、立向居は笑顔で返す。

「豪炎寺さんには強引なほうがいいみたいだから」

困ったな、と豪炎寺は笑った。



―――
別題:俺に永久就職しませんか

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