やさしさがくやしい(立豪)

2012/03/30

ぼんやりした意識が不意に浮上する。ギィと扉の蝶番を軋ませて誰かが入ってきたのが分かった。

「…だ、れ……?」
「ああ、悪い。起こしたか」

あまり足音をさせずに近付いてくるその人を見ようと重たい瞼を持ち上げる。ぼやけた視界でははっきり分からないが、マネージャーの誰でもないのは口調で理解した。
耳に膜が張ったように音が遠くて、声の判別も出来ない。そう言えばどうして自分は寝ていたのだろう。新しい必殺技の特訓の最中ではなかったか。立向居はうまく回らない頭で考える。その間にその誰かは枕元まで来た。
ランプが灯りを点す。眩しさに顔をしかめると、光が弱められた。それでもまだ光に慣れない目で輪郭をたどる。すっとした頬のラインに逆立った髪型。

「ご、え…じ、さん…?」
「喉が渇いただろう。起きあがれるか?」

肯定は返ってこなかったが、否定もされなかったということはそうなのだろう。ぐっと腕に力を込めたが、身体は思うように動かない。苦戦しているのを見るに見かねたのか、豪炎寺が手を貸してくれた。
ふらつく上半身では重い頭を支えられずに視界がぐらぐらと揺れる。コップを手に持ったまま、豪炎寺がじっと見つめてくる。受け取らなくては、そう思うのに腕が金属で出来ているみたいだ。ゆっくり持ち上げてコップに手を伸ばすが、結局、豪炎寺に手を貸してもらって水を飲んだ。冷たい水で目が覚める。そうだ、疲れて倒れ込んでしまったのだ。

「その様子じゃ、もう少し寝ていた方がいいな。ここにピッチャーとコップ置いていくから、目が覚めた時にでも飲むといい」
「い、いえ。もう、大丈夫です。それより、特訓、しないと…!」
「特訓なら後で俺が付き合うから、今は休め。身体を休ませないと身につくものもつかなくなる」

立向居の身体は少し押されるだけでたやすくベッドに倒れ込んだ。大して力を入れた様子もない豪炎寺は布団を掛け直し、立向居の頭を撫でる。疲労困憊した身体ではまともに動けず、抗って出ていくこともできない。唇を噛む立向居を宥めるように話しかける声の優しさが、なおさら心に突き刺さる。

「また様子を見に来る。もう少し寝れば、きっと疲れもとれるから。そしたら特訓すればいい。俺ならいつだって協力する」

な、と豪炎寺が言うのに小さく頷くと、安心したのかランプの灯りを消して部屋を出ていった。扉が閉まるのを確認して寝返りを打つ。ぼろぼろとこぼれる涙が枕を濡らす。拭うことも出来ず、立向居は泣き続けた。



―――
今更FFIのマオウ習得練習の話。立向居にとっては豪炎寺も円堂のように先達者ということ。
追い掛けるものばかりだ。


戻る




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -