渡す前にシワシワになったチケット(立→豪)

2012/03/29


「あっれー、どこやったかなぁ」

がさがさと物を散らかしながら立向居は捜し物をしていた。いつもならベッドのサイドボードに置いているはずの腕時計が見当たらないのだ。
床に落ちているかと周辺も探してみたものの、どこにもない。昨日は酔って帰ってきたからいつもと違う場所に置いたのかもしれないと、こうして大捜索中なのである。チェストの引き出しに手をかけて、立向居はハッとした。皺の寄った白い封筒が物言いたげにそこにある。

「……もう一年になるのか。早いなぁ」

そう呟いて苦く笑う。中に入っているのは随分と前の日程の試合のチケットだ。立向居がスタメンとして初めて出場出来た試合の、ゴールがよく見える席のチケット。
一週間前までは普通に使えていた携帯が解約されていた。かつての仲間も友人も、あの人がどうしているのかを知らなかった。部屋に駆けつけたときには、そこはもうあの人の部屋ではなかった。何も言わず、何も残さず、忽然とあの人は消えてしまったのだ。
あの時はその事実を受け入れられなかったが、今ならばその理由も朧気だが分かる気がする。優しくて真面目で不器用な人だから。うまく立ち回ることが出来ないから、こちらに『自分』を残していくわけにはいかなかったのだ。

「俺、ここで待ってますから。あなたの居場所を用意して、お出迎えの準備だってして、待ってますから。だから絶対に帰ってきてください」

ごうえんじさん、呼ぶことの出来ない名前を呟く。返事などあるはずもなく、立向居は眉をハの字にして笑った。
テレビの向こうのアナウンサーが時刻を告げる。

「あ、やばっ!結局腕時計も見つからなかったし!」

封筒をチェストにしまい、大慌てで荷物の準備をしてテレビの電源を消す。ばたばたと音を立てながら玄関に走る。何気なく靴箱の上を見て、立向居は大声を上げた。

「あー!あった!」

飾り気のない革ベルトの、シンプルだが品のいい腕時計がなぜかすごく丁寧に置かれている。そっと手に包んで部屋を出る。鍵の確認をして腕時計を見つめる。かちかちと秒針が時を刻んでいく。立向居だけの時間を確実に、そして着実に。

「今度は俺がプレゼントする番ですからね」

腕にはめる。時間はぎりぎりだ。これは走らないと遅刻かもしれない。時計の針は進んでいく。



―――
GOでのお話。虎丸はついて行ったけど、立向居は帰る場所を用意していると思って。
一応立豪前提なんだけど片想いちっくである。

そしてお久しぶりです。次の青春カップ7の新刊書いてました。書けました。とりあえず立豪出ます。

戻る




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -