困った、可愛い(立豪)

2012/02/23

つんと通った鼻筋、少し吊り上がった目、黄味を帯びた白い髪。短めの毛に覆われた三角の耳、髪と同じ色の毛が柔らかそうな長い尻尾。毛の生えた耳と、尻尾。

豪炎寺が猫になった。

にゃあとしか言わず、さすがに四つんばいでは歩かないが、日の当たる窓際で膝を抱えこむ体勢で眠る。何か伝えたいときは爪を短く切り揃えているのに背中を掻くか鳴く。やっぱりにゃあと。
行動様式まで見事な猫である。
朝はさすがに驚いたし度肝を抜かれた。重くて目を開けたら豪炎寺の上半身が胸の上に乗っていたのだから無理もない話ではあるが。加えて顔を平手で軽くぺちぺちと叩かれれば何があったのかと一瞬で目が覚める。
そして耳と尻尾に気が付いて、また驚いて。落ち着くのはとにかく難しかった。
昼を過ぎればなんとか慣れてきたが、それでも見れば見るほど不思議である。

「ねえ、豪炎寺さん。心当たりとかないんですか?」
「にゃあ」
「……こっちの言うことは分かっているみたいなんだけどなぁ」

ベッドで耳の毛繕いをしていた豪炎寺は立向居を見つめて小さく首を傾げる。ぱたんと尻尾の先が布団を叩いた。

「にゃあ」
「なんですか?」

豪炎寺がもう一度にゃあと鳴く。何かを要求しているのは分かるのだが、一切分からない。目は口ほどにものを言うはずだったが、こうして全く喋らなくなってしまうと端的でもいいから言葉が欲しい。
とりあえず、立向居は豪炎寺の前のスペースに座った。いつもは綺麗な姿勢なのに背中が丸まっているせいで小さく見える。正座をしているというのも一因ではあるだろうが。

「豪炎寺さん」
「にゃあ」

ふんと鼻を鳴らした豪炎寺が立向居の膝に乗り上げ、肩に顎を乗せて満足げに目を細める。喉を鳴らさないのは身体の作りが違うからだが、問題はそこではない。

「あ、あの」
「なーお」
「……はい」

しかし、反論は許さないとでも言いたげに豪炎寺が鳴く。すると立向居は何も言えずにじっとする羽目になるのである。異様に密着した体勢が気になって仕方ない、というより緊張するのだが、猫になってしまった豪炎寺はどうも意識が違うらしい。諦めて好きにさせることに決めたが、同じくらいの体格の豪炎寺に圧し掛かられると正直キツイ。その上、正座にした足がしびれてきた。

「豪炎寺さーん…」

情けない声を上げるが、豪炎寺からの返事はない。耳元ですうすうとゆっくりした静かな呼吸が聞こえてくる。長く伸びた尻尾をそっと撫でる。ぴくぴくと先が動いたが、それ以上の動作がない。立向居は大きく息を吐いた。

「なんでこんな体勢で寝られるんだろ。猫だからかなあ」

豪炎寺の身体が動かないように抱いて、周囲のスペースを確認する。一番は前に倒れることだが、それでは起こしてしまうかもしれない。それなりに後ろが空いているのを見て、立向居はゆっくり倒れる。片手で二人分の重さを支えるのはとんでもない重労働だが、感覚のなくなってきた爪先をそのままにするよりはマシだ。
がくがくと震える肘でどうにか背中を蒲団につけ、身体の下に敷いた足をどうにか動かす。豪炎寺が身動きしたから起こしてしまったかと焦るが、顔の向きを変えただけだった。耳の先が鼻をくすぐる。首筋に当たる吐息が熱い。無防備すぎて、辛い。

「…明日もこのままだったらどうしよう」

立向居の危惧など知らずに、豪炎寺はくうくうと寝つづけるのだった。



―――
一日遅れの猫の日!ただ単にべたべたするだけの中身のない話である。

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