停滞するアルフレド(鬼+豪)

2012/02/21


豪炎寺がブランコを漕ぐのを、鬼道は黙って見つめていた。今の家に来る前、鬼道の姓を名乗る前は両親と妹とよく公園に行ったものだが、ブランコは背中を押してもらってばかりだった。あたたかな掌のことを思い出す。
きい、がちゃん。立ち漕ぎをする豪炎寺が遠心力で真上を見ては重力に引き戻される度に、金属の鎖が音を立てた。耳障りだと思ったが、そんなことはどうでもいい。

「鬼道は帝国に戻るんだな」
「帝国学園は本来ならば中高一貫校だからな」
「同じところに校舎が無くても『一貫』なのか」
「運営が同じなんだ」

ふうんと気の無い返事をして、豪炎寺は大きく膝を曲げた。座面を押しのけるように力を込めながら膝を伸ばす。単純な屈伸運動とブランコの前後運動の関連は物理学の分野だ。質量保存の法則やら慣性の法則やら、小難しいことを並べたところで、動けば大きく揺れる、それだけのことに過ぎない。
行っては戻りを繰り返すブランコの動きを眺めるのにも飽きて、今度は地面を動く影に目をやる。振り子の振れ幅と影の移動距離は同じではない。

「佐久間たちは一緒だと思うが、不動はどうなんだ」
「不動?」

豪炎寺の口から聞くとは思っていなかった名前に鬼道は思わず聞き返す。当の本人はなんでもない顔をしているので、世間話の一つのような気持ちでいるのだろう。実際、豪炎寺と不動は日本代表として同じチームでプレイしていたのだから話に出てきても問題はないのだが、勝手に興味がないと思っていたから、鬼道は驚いたのだった。
鬼道の心情など知る由もない豪炎寺は変わらずブランコを漕ぎ続けている。ぎぃぎぃと軋む音が大きくなった気がする。

「真帝国は正式な学校じゃなかったから帝国に編入したんだろう?そのまま進学するのか、それとも地元に帰るのか。そういえば不動は出身はどこなんだろうな」
「…ああ、あいつもそのまま進学のようだ。源田が言っていた」

鬼道の返事に豪炎寺は小さく笑う。

「もう心配ないとは思うが、ケンカするなよ」
「それは約束できないな。こっちにそのつもりがなくてもあっちが突っかかってくるかもしれないしな」
「そうか?俺が見ていた限り、不動のからかいにお前がムキになっていたように思うぞ」
「まさか」

豪炎寺はゆらゆらと揺れているばかりだ。地面に足を着けず、ゆらゆらと。不意にブランコの上にいるのが亡霊ではないかと思って、すぐに首を振る。何をバカな。鬼道の葛藤を嘲笑うように豪炎寺は大きく揺れるブランコから跳んだ。

「そのまま仲良くな」



―――
コピー本の没原稿が書きかけで放置されていたのでリサイクル。
最初は卒業をテーマに書こうとしていて、同時発行の立豪とほんの少しリンクさせるつもりだったのですが、うまくいかなくて、というよりもっといい流れを思いついたので没になったのでした。

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