印象(浪川+聖帝)

2012/01/29

あの方が直々に目をかけて俺をシードにしてくれたと知ったのは、何もかもが終わった後だった。
俺たちと一回りも離れていなかったが、その姿はいつだって威圧感と威厳に満ちていた。あの玉座に泰然と腰掛けて俺たちを見下ろすとき、あの方は何を考えていたのだろう。俺などには知る由も無い。
しかし、ただ一度、あの方が俺に触れたことがある。それは謁見の中での一幕だった。



「海王学園はめざましい成果を出しているそうじゃないか」

フィフスセクター本部に呼び出されて謁見の間に通された俺に開口一番あの方が言ったのは、その言葉だった。淡々と事実を確認するだけの口調に、俺の背筋は自然と伸びた。暗がりでそれほどはっきりとは見えないが、あの方は真っ直ぐにこちらを見ているようだった。

「聖帝の指示に従ったまでです」
「いや、君たちの実力によるものだ。一年と経たずに化身の能力に目覚めた君の力だ」

あの方が認めてくれた。そう思うだけで身体が震えた。
力のなかった俺に勝つための力を下さったのは、勝利と強さを下さったのは貴方です。貴方がいなければ、今の俺はなかった。貴方が俺を救ってくれた。

「ありがとうございます」

たった一言なのに声が震えなかった自信はない。深く深く頭を下げる。涙が出そうだ。

「それより浪川くん、その目はどうしたのかな」
「え、」

予想だにしていなかった言葉に反応が遅れた。顔を上げてあの方が俺を見ていることに動揺する。あの方が俺から見て左の目を上から下に指で撫でた。それを見て合点する。この左目のことを言っているのだ。

「これは、練習のときに少し」

うっすらと残る傷跡を押さえるが、指先にほんのわずかに感触があるだけで痛みも何もない。変色してしまったのが目立って見えるだけの、些細な傷でしかないのだ。
あの方が立ち上がる。ゆったりと降りてくる様ですら上に立つ者の品格を携えている。なんと、偉大な方なのだろう。
呆然としながら考えているうちに、あの方は目の前まで迫っていた。大きな掌が左頬に触れる。温かくて、でも肉の薄い手だった。

「視力には問題ないのか」
「は、はい」
「サッカー選手には視力も重要な要素だ。君のように才能ある少年の道がそういったことで閉ざされてしまうのは惜しい。気をつけたまえ」

親指がそっと傷跡を撫でた。傷一つない指だと思った。あの方はそっと眉を寄せていた。何がそんな表情をさせるのかがすごく気になったが、聞くことは出来なかった。

綺麗な指の人、聖帝というそれ以外であの方に持った印象はそれだけだった。



―――
浪川くんと聖帝さま

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