痕跡(聖帝小ネタ)

2011/12/09


男は少年を抱き寄せる。しなやかな筋肉のついたまだ完成しない身体は細く、男の腕の中に簡単に収まった。

「……こんなに、小さかった」

やわらかな丸みの頬、薄い肩。象牙色の髪も黒い瞳も、褪せることなく変わらないというのに、少年は既にこの世にいない。
男は少年が消えてしまうのを恐れるかのように、きつく抱き締めた。少年は写真と同じ穏やかな笑顔でじっと佇んでいる。男の気持ちなど知らないと言いたげに。
ユニフォームからのびる少年の手足は未来に満ちた瑞々しさで、もういないと思うにはあまりにも現実的すぎた。男の指先が少年の手のひらに触れる。柔らかい皮膚が弾力をもって男をはねかえす。
男は少年と一つになれない。少年は男を受け入れない。
肩に顔を埋めて男は呟いた。

「……まだまだだ。君がこの世界に戻ってくるためには、まだ浄化が足りない」

少年は不意に霧のようにかき消えた。男の腕の中に不自然な空間だけを残して。
男は少年の面差しの残る顔を苦渋に歪め、笑声を漏らした。



―――
豪炎寺さんのことを探している聖帝

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