幻影(照美と聖帝)

2011/11/24

友人と同じ顔をした男のことを、アフロディはなんとも思っていなかった。
全く何も考えなかったわけではない。男はサッカーに変革をもたらしたカリスマである。その影響力の偉大さには驚いたものだ。
何より、彼と同じ顔をしていることが、一番衝撃的だった。頑なさと柔軟さが奇妙なバランスで同居していた少年時代の彼を眩しく見ていたことを思い出すくらいには。
仲間までは近付けず、知り合いと友人の間というなんとも中途半端な立ち位置だったが、彼は公平だった。アフロディを一人の選手と見て、それ以上の詮索も踏み込みもなかった。どこまでも公平に、他の人と同様に扱った。
彼のことを思い出すと、間違いを犯したあの日の自分が許されているような気がするのだ。罪を持つ自分で良いと言われているような、そんな。

「そんなはず、ないのにね」

アフロディの呟きは男には届かなかったようだ。気だるげに足を組んだまま見下ろす男は退屈を隠そうともしない。

「なんだ」
「いいえ、何も。それより、木戸川清修ならフィフスの監督が既に就任していたはずでは?」
「私の役に立たない者には去ってもらうことにしている」

男が笑う。アフロディがなぜお眼鏡にかなったのかは分からないが、男には信用されているようだ。
彼がかつていた学校。母校と呼ぶべき場所に、これからアフロディは行くことになる。彼がいたのはほんの一年。それから十年余り、痕跡は残っていないだろう。それでも、あの学校は彼を形成した一部でもあるのだ。

「……分かりました」
「期待しているよ」

影を追いかけるつもりはないけれど、あの頃の彼に会えるかもしれない。その時は、久しぶり、元気だねとでも声をかけてみようか。



―――
聖帝≠豪炎寺

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