♯世界の雛(聖帝と照美)
2011/11/21
「やっぱり彼はダメだったね」
少年の頃は風になびかせていた金色の髪を束ねて、ますます増した美しさを振りまきながら男は現れた。緋色の瞳は細められている。フィフスセクターの本部にはそぐわない輝く姿はしかし、妙にこの場に馴染む。
「やあ、君の母校の生徒たちは皆可愛いよ。素直でいい子たちばっかりだ」
「それはどうも」
イシドはうっすらと笑みを浮かべて返事をした。アフロディは階段をゆっくり踏みしめる。
「鬼道くんは結局理想論者なんだよ、あの人と同じで」
「おや、私も理想論者のつもりだが」
「君の理想はどちらかといえば夢想だね」
「夢、か。そんな綺麗な言葉は好きじゃない」
アフロディはイシドの座る椅子の背もたれに手をかけ、顔を覗き込んだ。象牙色の髪は変わらず綺麗だったが、うす緑色のメッシュは少々似合わない。自身もメッシュを入れた身ではあるが、合う色というものは決まっている。アフロディはそっと髪を梳く。
「そう?君は今も夢を見ているよ」
「そうだろうか」
「僕はそう思っている」
でなくちゃ、そんな痛そうなことする理由ないからね。少年の頃と違って節の目立つ、それでも綺麗な男の手でイシドの頬を包む。
「もっと長い夢を見よう、みんなで」
「夢なら醒めてしまう」
アフロディはその美しい顔にそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。
「醒めないまま死んでしまえばいいんだよ」
―――
水曜日が来る前に!
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