雪が降っている。だが、不思議と寒さは感じない。幼い雪絵ーー小雪は、屋敷の渡り廊下を小さな足音を鳴らしながら歩いていた。

『父上。どこなの?父上』

夜なのか、辺りは暗く、ただしんしんと降る白雪が見えるばかりで、現実味はない。不安に煽られた小雪は更に歩みを速くした。
そのうち、小雪はその渡り廊下の終点を見つけていた。襖がわずかに開いており、温かな光が漏れだしている。『父上?』。幼い声に反応するように、その奥で何かが動く気配がし、小雪には見慣れた姿が現れていた。

『小雪か。おいで』

父親である早雪の柔らかい声に促されるまま、小雪は襖の中に立ち入った。
そこは摩訶不思議な部屋だった。襖の奥に待ち受けていたのは、鏡ばかりに囲まれた空間だったのである。至るところに自分の姿が映り小雪は首を傾げる。微笑んだ早雪は、ぽんと小雪の背を押した。

『そこに立ってごらん。何が見える?』
『父上と...わたし』
『よおく見てごらん。......未来が、見えてくるから』

小雪は父の言葉に従って、更に足を踏み込んだ。水晶のような鏡はより大きく小雪を映し出したーーが、それだけではないと気付いたのは、そう遅くはなかった。

幼い小雪の瞳に映りだしたのは、大きく燃え上がる炎と、冷たく凍てついた氷。
そして水の深く深くへ沈んでいく、自分の姿だった。ーー






ぴくり、と長い睫が震えた。耳に届いていたのは静かな波音だった。
ゆっくりと目を開いた雪絵は、しかしすぐに眩しさに目を閉じる。今度は手をかざして体も起こし、まだうつらうつらする頭に鞭を打った。

「...あたし...」
「おはようございます、雪絵さん」

ぼやいた雪絵に続くように、穏やかな声が流れ出ていた。そちらを見た雪絵は目を瞬く。「アナタ...」
日の光に反射する銀の色。ふわりと微笑んだ少女、カナは、雪絵の表情など物ともせず椅子から立ち上がった。

「三太夫さん、雪絵さんが起きられました」

扉のほうへ向けられた声。すると、規則正しくノックする音が鳴り、後に三太夫が室内に入ってくる。「ありがとうございます、カナ殿」「いいえ。では失礼しますね」。カナはそうして雪絵に軽く会釈したのち、三太夫とすれ違いで部屋を出て行った。

「...三太夫、なんで、あの子...。...いいや、その前に、お水持ってきて...頭がくらくらする、気のせいかまだ揺れてるみたいな感じ...」
「...それは気のせいではございません」

すかさず返ってきた三太夫の応えに、雪絵は瞬間的に「え?」と呟き、_そしてさっと下りてきた"予感"に頭に熱が一気に集まった。「まさか...!」
意識を失う以前の事態、その結末、全てを思い出した雪絵は、二日酔いすら一瞬で吹っ飛ばし、ベッドから飛び降りて...扉をバンと開け放ったのだが。


「ッ何なのよ、これーー!!!」


そのまさか。雪絵を乗せる大層な船は、帆をいっぱいに張り、大海原を進んでいたのだった。



晴れ渡った空の元、第七班は甲板の隅で、じいっと忙しく動き回る映画スタッフたちの様子を眺めていた。
がやがやと騒がしいのも当然、彼らはこれから始まる撮影の準備を進めているのである。はりぼての建物、本格的なカメラ、ライト、その他様々な芝居道具...その中心では諦め切った表情の雪絵が今も化粧を施されていて、完璧な風雲姫と化していた。

「...あの姉ちゃん、オレ苦手だってばよ」
「何言ってんだナルト。どんなことがあってもあの人を護り抜く!これは重要な任務だぞ」

ぶつくさと呟いたナルトをなだめるカカシ。それに続いて、ふと思い立ったカナが「そういえば、ランクは...」と呟いた。すると、カカシはあっけらかんと言う。

「Aランクだ」
「...Aランク!?」

ぎょっとして声を上げたナルトとサクラ、ぽかんと口を開けたカナ...とは対照的に、サスケはいつも通りスカした表情でフンと鼻で笑った。

「たかが映画女優の護衛が、そんな難しいとは思えないがな」
「そんなことないぞ、サスケ。有名人は色々を狙われるもんだ...しかも、相手を想定しずらい。くれぐれも油断するな」

存外まともなことを宣ったようだが、そんな如何わしい本を開きながら言っても説得力ないわよと、サクラは心中で呟いた。もっともである。
その隣で、すっと雪絵に目を映したカナは、「狙われる...」と一人ごちた。思い浮かべたのは昨夜の光景だった。暗いバー店内で、酔っぱらった風な男が雪絵に近づいていたこと。ーー

「(計画的なものじゃなかったなら良いけど...もしそうだったとしたら......)」

と思い、カナが口を開こうとした瞬間、しかし、比較的大きな物音がそれを遮っていた。どうやらすぐに撮影が始まるようだ。ライトがカッと光を放ち、中心にいる役者を照らし出した。

「よおし!気合い入れてけよ!」
「はい!シーン23、カット6、テイクワン!アクション!!」

カン!とカチンコが音を鳴らす。同時にカメラが回り始め、周囲のざわめきは一気に消えていった。緊張感が波のように押し寄せる。全員の視線が、カメラの先に。
甲板の上に座り込んでいた雪絵、否、風雲姫は、そっと振り返っていた。その先に倒れ込んでいるのは獅子丸ーー姫は、驚愕してその傍に寄る。

「獅子丸...っ獅子丸、しっかりして!!」
「...姫、様...お役に立てず、申し訳ありません......」
「何を言うのです...!あなたのおかげで、私たちはどれだけ勇気づけられたことでしょう!」

数々の武器が刺さった甲板の上で、獅子丸は蚊の鳴くような声を吐き出す。今にも閉じそうな瞳に風雲姫の酷く歪んだ表情が映っていた。

「姫様......、一緒に、虹の向こうを...見たかった...!」

残っていた力の全てを使い切った獅子丸は、がくりと甲板に頭を落とした。ハッと息を呑んで、「獅子丸...っ」と声をあげる姫の様子は、まるで映画の場面とは思えなかった。


「すごい演技...」と呟いたサクラ。カナは完全に雰囲気に呑まれ、雪絵を凝視している。サスケと並んで始めは興味なさそうだったナルトも、いつのまにか拳を握り、「現実の姉ちゃんとは全然 違うってばよ」と些か失礼なことを口にしていた。が、それを否定する声。

「いいえ。あれが、雪絵様です」

口元に小さな弧を描いている三太夫だった。温かく見守るその眼差しには自信が満ち溢れていた。

「一旦 カメラが回り始めたら、あの方の右に出る者はおりません...!」


四人の視線の先には、倒れ込んだ獅子丸の衣装を掴みながら、今にも泣き出しそうな雪絵がいた。「獅子丸...獅子丸...!」ーーー・・・
しかし、結果は予想を裏切ることとなる。


「はい止めてえ〜」


今の今まで熱の入っていた演技をいとも簡単にすっぽかし、普段通りのやる気のなさそうな表情でカメラマンに指示を出したのは、こともあろうか雪絵本人だった。
第七班がぽかんとする中、溜め息のつきたそうな顔で「何なんっスかもう...」とぼやく助監督。しかし他人など一切気にしない雪絵はただマネージャーに目を向け、「三太夫、"涙"持ってきて"涙"ー」と声をあげる。ナルトの横であたふたとしていた三太夫は情けない了承を返し指示に従っていた。

目薬を、一滴、二滴。それがこれまでの雪絵の涙の正体だった。

「零れる零れる、早くカメラ回して!」
「ったく...おい、寄りで抜くぞ」
「ハイ...。シーン23、カット6...の2!アクション!!」

それからの雪絵の変わり身の早さといったら。
目薬によって目から流れる雫を涙として使い、「獅子丸〜〜!」と何事もなかったかのように演技を続ける雪絵。
第七班にとって、知りたくもなかった映画の裏側を知ってしまい、誰もが呆れたような、微妙な気分になるのは否めないのであった。


船はゆっくりと、雪の国へと向かっていく。



翌日 目を覚ましたカナは、なるべく身動きをとらないようにしつつ時計を見上げた。時刻はまだ早朝。普段通りなら、まだ寝ていてもいい時間である。しかし一旦 起きてしまえば、任務地も普段とは違うという高揚からか、二度寝は難しかった。
隣のベッドではサクラがまだ夢の中。起こしてしまわないように静かに立ち上がったカナは、その気温に身震いした。

「(...さむ...寝てるうちに気候が変わったんだ)」

もう雪の国に近いのだろう。防寒用に仕立て上げた忍服とコートに着替えたカナは、そうっと寝室を抜け出した。

辺りは一面、氷の世界だった。水上のあちこちに氷の塊が浮き、灰色の空からは雪が降り続ける。あまりの寒さよりも目新しい光景に目を輝かせるほうが先である。霜で白い甲板をゆっくりと歩きつつ、周囲を見渡す。まだしんと静かな船上で、聞こえるのは波音と、いかにも寒そうなヒュオッと通っていく風音だった。

手袋をしていても冷たくなった手に息を吹きかけつつ、カナが最後に見つけたのは、見慣れた後ろ姿。船の最後尾で雪景色を見てるその姿に、カナは迷いなく近づいた。

「おはよう、サスケ」
「...カナか」

振り向いたサスケの鼻の頭はほんのりと赤かった。いつからいたの?とカナが聞けば、そんなには経っていないと言うサスケ。ウスラトンカチのいびきがうるさくて起きた、と眉根を寄せる様子に、カナは肩をすくめると同時に苦笑をこぼした。

「風邪引かなければいいけどね。任務中に熱なんて出したら、目も当てられないし」
「だったらお前こそ中に入っとけよ」
「..."なんとか"と煙は高い所が好きだって言ったのはサスケでしょ。その"なんとか"は、風邪なんてひかないらしいよ?」

してやったりと笑うカナを、サスケは一瞥してから溜め息をついた。前言撤回するのはかなり癪である。
カナはといえば大して気にしていないようだが。しかしサスケにとっても、唐突にしゃがんで雪だるまを製作しだす幼なじみになど、最早慣れたようなものだ。互いに互いの性格はほぼ把握済みであるゆえ、何も深くは気にしない。

「...そういや、お前、昨日なんか言いかけたろ」

サスケが思い出したように言えば、「え?なんだっけ?」と雪玉を手にカナは首を傾げた。「風雲姫の撮影が始まる直前」と言いつつ、サスケはその手でカナの頭に積もっていた雪を払ってやる。

「深刻そうな表情をしていたのは気のせいか?」
「...ああ。うん...でも、もしかしたら私の勘違いかもしれないし」
「いいから話しとけ」

サスケに促され、カナは再び立ち上がり、二つの雪玉をくっつけた。わりと歪な形の雪だるまが手すりの上に鎮座した。

「雪絵さん、本当に狙われてるかも」
「!...どういうことだ」

その時の様子をありありと思い浮かべて口にするカナ。普段どこか抜けているとはいえ、カナの忍者としての才は確かだ。それを信用しているサスケは疑うべくもない。

「可能性の話。あの時のバーで、かなり怪しい人がいたから。それも、明らかにカタギじゃない人がね」

気配が消えていたわけではない。足音も酔っぱらいのようだった。だが、カナにはそれはいかにも"作り物"臭かったのだ。カタギではない、という言葉の指す意味は、忍者である、ということ。
ただの短絡的行動だったのなら、もう危険はないんだろうけど。と締めくくったカナをサスケは横目で見る。

「...それで、その時は?」
「ちょうどナルトが飛んできてね。おかげで何もなく」
「......フン、たまにはウスラトンカチのバカも役に立つってわけだ」

いやいや言いすぎだろうと思うカナは苦笑いをしておいた。ある意味これはサスケとナルトの一種のコミュニケーションなのだから、カナには返答が難しいお言葉である...ナルトはいないが。
「...しかし、たかが映画女優が本当に狙われるモンなのか?」と気にもせずサスケが言うので、カナも気持ちを切り替える。

「たかがって...カカシ先生も言ってたけど、一般人だって被害に合うこともある世の中なんだから、女優さんならそれ以上に襲われそうな気がするよ?」
「一般人なら普通は護衛はいねぇ。だが、有名人なら別だぜ。もしオレが悪党なら、リスクの高い女優の大金を狙うより、やりやすい一般人を狙って数を稼ぐ。利口なのは後者だろ」
「.......サスケが悪党ならって、すごい笑えない例えですね」

どういう意味だと凄むサスケに、いいえ何もと後ずさりするカナはご愛嬌。慌てて、「でも、それってお金を狙われてたらって話でしょ?」と早口で言う。

「...嫌な話になるけど、雪絵さん自身が狙われてたとしたら...」
「...富士風雪絵自身に、狙われる理由があるってことか?」
「やっぱり、可能性の話。お金とは限らないんだから。でもそうだとしたら...もっと、厄介なことになりそうだよね」

サスケから自分の作った雪だるまに視線を映す。あまり丸くもない上に、胴体と頭の接着部分が歪んでるそれ。カナはそれに手を伸ばし、もう一度作り直してやろうとした。

だがその寸前、前方からの物凄い衝撃波が後方の甲板まで襲っていた。

「うわっ!?」
「バカ、掴まれ!」

後方にバランスを崩したカナの服を引っぱり、サスケは手すりにカナを誘導した。
前方からの激突音。氷山か何かにぶつかったのか。あまりの揺れに、カナが作った歪な雪だるまは、手すりからずり落ちそのまま海の中に消えていった。無論、今 二人はそんなこと気にする余裕もないがーー。

「な、何が...?」



船首付近では、衝撃を聞きつけて出てきた乗員たちが悲鳴を上げていた。

「か、か、監督、大変ッスーー!!」

筆頭は助監督。あたふたとする彼の視線の先には、氷山というレベルではない、最早島レベルの陸が存在していた。どうやら船は思い切りこれにぶつかったようだ。「コイツは...」出てきたマキノは目を瞬いた。

「き...」
「え?」
「きたァァアアアアアア!!!」

突然 叫んだマキノに付いて行ける者は誰もいなかった。駆けつけた第七班も、目をぱちくりして事を見守る。

「化けるぞォこの映画!見ろ、この絶好のロケーションを!!ここでカメラを回さないでどうする!?」
「え、えええ??」
「こういうのを映画の神様が降りてきたっていうんだ...!総員、上陸準備ィ!!」

しかし誰もが付いて行けないといえど、監督であるマキノに言われてしまえば、誰も逆らえないのであった。



ロケの準備は手慣れたものでそれはそれは早かった。何度か備品の確認の声が飛び交った後、「本番に入りますので、スタンバイお願いします!」と一際大きな声があがる。
この寒さの中での映画の衣装は相当に応えるだろう。今の今までしっかり温まっていた役者たちは、顔を引きつらせながらも逃げるわけにはいかなかった。

とはいえ、役に入れば表情は一変する。甲板の時同じく助監督が声を張り上げた。

「ハイ!!シーン36、カット22!アクション!!」


降り積もる雪、刺すような寒さ。獅子丸を除いた風雲姫一行は氷山の頂上を睨みつけていた。そこにいるのは、悪趣味な衣装をまとった悪党、悪頭大魔王。

「ハァッハッハッハァ!!ついにここまで来たか、風雲姫!!」
「お前は...っ魔王!!」

姫が叫び、両脇にいる助悪郎、鰤金斗が武器を構えた。「姫様、お下がりください!」「ヤツはオレたちが!!」_頼もしい二人だが、それを見て魔王はフンと鼻で笑う。

「クズ共が何人束になろうと、ワシの相手になるものか!」

どうやら魔王は風雲姫以外は鼻から眼中にいれていないようだ。余裕の笑みを讃え、腕を振りかざす。まるで見えない力を溜めるが如くーー「ハァアア...!」そうして、一気に技を放った。


ボガン__!!


爆発したのは、魔王の背後の氷山だった。それは見事なタイミングの演出......のように見えたが、それは実際、違った。
「え!!?」映画スタッフが驚愕する。役者たちも驚き口をあんぐり開けた。_当然だ。本来ならここでカットが入り、後で演出効果を加えるだけのはずだった。役者は役者、忍者のような力など有り得ない。

「ど...どういうこと?」

一番戸惑いの声を上げたのは魔王役の男性。が、その姿もいち早く動いた下忍ーーサスケがかっさらい、地上に下ろしていた。

「ちょっ...何すんだよアンタらァーー!!」

何も知らなければ怒るのは当然だ。爆発の原因も、七班の担当上忍のカカシの起爆札。風雲姫一行の前に立ちはだかったカカシがクナイを放った格好のまま、氷山の頂上を睨みつけていた。

「全員下がって!!」

カカシのその様子に、ただ事ではないと感じ取った下忍たち。すぐさま行動に移していたサスケも戻り、カカシと同じように氷山を睨みつける。爆破によって上がった煙の向こうに人影が一つ立っていた。
カナはすっと目を細めた。警戒心と同時に、カナの中で沸き起こっていたのはーー焦燥だった。


「ようこそ...雪の国へ」


雪の色に化ける為に使っていたのだろう、白い布に隠れていたのは、怪し気な鎧を着た男、狼牙ナダレ。

「お前は...!」

ただ一人、顔見知りのように目を見開いたのはカカシ。だが積もる話をする間もなく、誰もが他の人影にも気を取られた。樹の上、氷柱の上に一人ずつ、くノ一が。鶴翼フブキ、雪季ツララ、それぞれ実に愉しそうな笑みを顔に口を開いていた。

「歓迎するわよ...ご一行様。...いいえ」

「小雪姫。そして、"神人"」


「ーーー!!」


目を見開いたのは、雪絵と、第七班。中でもカカシは唯一、"どちらも"解る者だった。

「(小雪姫だって...!?しかも、"神人"___カナもか!!)」

雪絵は冷や汗を大量に流していた。_一方でカナはというと、すぐに自身の感情を押し止め、ただ敵を睨みつけた。
カナの中で沸き起こっている焦燥感は、自分まで狙われていたことに対してではないのだ。何よりーー"風使い"の能力を持ち合わせていながら、カカシが反応するまで、一切 敵の気配を感じなかったことだった。

「(...もしかして、いつも慣れてる気候との差が激し過ぎて、感覚に追いつけてない...!?)」

そう思った瞬間、カナは別の風を"ようやく"感じて即座にそちらを見た。
一定距離 離れた雪の中から現れた__今度は、男。冬熊ミゾレは「さすがはたけカカシ...これ以上は近づけなんだか」と低く笑う。

ナダレ、フブキ、ツララ、ミゾレ。四人の雪忍の登場に、映画スタッフたちはおののき、忍五人は身構えた。ホルスターに手を宛てがい、いつでも戦闘に入る準備をしている__そんな下忍たちを見て、カカシは声をかけた。「サスケ、ナルト、サクラ、...__」_だがカカシの視線はカナで暫く止まった。
そのカカシの意図に気付いたカナは、場の雰囲気を和らげるように小さく微笑した。

「大丈夫です、先生。...自分の身は自分で護りますから」
「...そうか」

カカシも応えるように僅かに笑い、そして気を引き締め直した。

「サスケ、ナルト、サクラ、カナ。お前らは雪絵さんを護れ!その他は、全員 船に戻るんだ!!」

下忍たちは元より言うまでもない。スタッフたちはカカシの剣幕に口答えはできず、曖昧に頷くしかなかった。
そうしてわらわらと船に逃げ帰る様子を、氷の上にいる男_ナダレは、余裕満面の顔で見下ろしていた。

「フブキ、ミゾレ!お前たちは小雪姫だ。それからツララ、お前は"神人"を頼んだぞ!」

それから、氷を伝い徐々に下方へと降りて行く__じっとナダレの様子だけを警戒していたカカシは、それに応じるように相対した。視線が交じり合い、ナダレは笑い、カカシは眉をひそめる。

「久しぶりだな、カカシ。今度は逃げないのか?あの時のように!」
「...狼牙、ナダレ...!」

互いに互いを知っているらしい二人は、合図もなしに双方に飛び出した。
ナダレの蹴りはカカシの腕で受け止められ、カカシの拳はナダレの手で受け止められる。ナダレは怯まず また回し蹴りを放ったが、カカシは寸分狂わず避ける。二人とも氷壁を駆け上がりつつ攻防を続け、重い拳のぶつかり合う音が木霊した。


それを見ていたナルトは、雪絵を中心に卍の陣を組んでいたのにも関わらず、すぐさま飛び出していった一人だった。

「よくわかんねェけど、なんか映画みたいになってきたぜ!!風雲姫の姉ちゃん、ここはオレが!護ってやるってばよ!!」

意外性、というより、落ち着きのないのは相変わらず。真っ先にミゾレの元に突っ走ったナルトは、他が止める暇さえ与えなかった。卍の陣、組んだ意味ねェだろうが!と心中舌打ちするサスケ、呆れ返ったサクラ。
それからサクラはハッとしてカナのほうを見た。

「カナ、アンタは無理すんじゃないわよ.........って、ええ!!?」


__しかし、カナもナルト同じく既にその場にいなかったのであるーーその場に刺さっていたのは、氷で象られたクナイ。
「あのバカ...!」気付いたサスケは毒づき、バッと上空を見上げた。そこには一人奇襲をかけられたカナが、"風使い"の能力を発動しつつ、ツララと相対している姿があった。

「"神人"、風羽カナ!アンタと戦えるだなんて光栄だね。アンタの中の"神鳥"の力、目一杯見せてもらうよ!!」

ツララが何らかの印を組む。と同時に、氷でできた鋭い針が四方八方から飛んできた。カナはすぐさま対応し、印を結んだ。_風遁、風繭。ゴゥとカナの周りで風が吹き、全ての針を弾き返す。
そして風が止むと同時に、カナはツララへと飛び出した。

 
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