交換


なにか盛大な眩しい光に包まれ、この状況下であるにも関わらず思わず目を瞑ってしまった、それが間違いだった。
次に目の感覚を取り戻した時、とんでもない事態になってしまったことに気づいたのだから。

「えっ…!?」
「は!?」

そこにいたのは、私、だった。目を丸めている私、を、私が見ていたのだ。

「えええ!?なんで私!?」
「…!?お前、カナか!?」
「えっなに言って…ってこの体、」

私の声で普段私が使わないような言葉遣いが聞こえたことに違和感を覚えた、なんてことはどうでもいい。
ふと自分の体に目を落としたら、見覚えのある腕当てがついていた。それから、深い青色の服。間違いなく、幼なじみのいつもの服装で。

「これ、私、サスケ…!?どうなってるの!?」
「マヌケな姿だな、てめーら!!!」

その時不意に聴こえてきたあからさまにバカにする声。私たちは揃ってそちらに目を向ける。
不意にもなにも、そういえば私たちはこの人と戦ってたんだけど。

場所、木ノ葉郊外の林の中。珍しく里外の任務になり、任務自体は無事に終了させ、里に帰ろうとしていたところだった。他国の忍と鉢合わせ、なんやかんやで戦うハメになったのだ。敵は二人で、カカシ先生とナルトとサクラで一人、私とサスケで一人と分かれて対処していた時だった。
相手の身のこなしや忍術は私たち二人でも十分対応できるレベルだった。だから、もしかすると少し油断していたのかも。相手の繰り出した術に反応することもできなかった。

「てめえ、何しやがった」

サスケのいつもの口調なのに、私の声が相手に凄む。とてつもない違和感が襲ってきたけど、今はそんな事態じゃない。

「これ、あなたの術ですか?」
「…カナ、オレの声でそんな喋り方すんな」
「そ、それを言うならサスケだって私の口調で喋ってよ!」
「私とか言うな、やめろっつってんだろ!」
「大体今はそんなこと言ってる場合じゃ、」

自分の視線が自分に向けられてるという違和感に苛まれ続けてるところで、下品な笑い声が耳をつんざいた。しまった、また忘れてしまった。

「そうそう、そういう混乱してるツラが最高なんだよ、この術は!!ちょっと出来るからって調子に乗りやがって、てめえの体じゃなきゃもう思うようにも戦えねえだろ、ギャッハハハ!!」

ひどい馬鹿にされようだ。内心呆れつつ、でもそれを表には出さず、改めて相手に向き直った。

「…それで?あなたたちの目的はなんなんですか?」

自分が言いたいことが、幼なじみの声で再生される。話し方を改めろと言わんばかりの視線が突き刺さってるけど、今は無視させてもらう。失礼ながら強そうには見えない相手方のニヤニヤ顔を見るばかり。

「木ノ葉潜入ミッションよ。里に出入りするヤツをここ最近捜しててな。コピー忍者がいるから迷ったが、お子様下忍を四人も連れてちゃあ隙も当然多い。そしてこの状況…はたけカカシの相手をしてるオレの仲間には勝ち目もねえだろうが、このオレが相手してるお前らはたった二人のガキだ」
「…フン。そのガキ二人相手にさっきまで苦戦してたくせによく言うぜ」

この空気の中、私の声でもサスケにかかればここまでワルそうになるんだなって思った。

「黙れ!!今じゃてめーら、さっきまでみてえに戦えねえだろうが!!」
「それで?不自由になったオレたちを打ち負かし、カカシ相手に人質にでもしようってか?」
「ああそうだ、それでオレらはお前たちに変化し、里内に潜入する!お前たちをここで始末してな!!」

また彼の高笑いが林に響いたけれど、なんだか虚しく聞こえてしまった。
サスケ、というか、サスケが入ってるらしい私の視線と目が合う。サスケのほうも微妙な感覚のようで、一瞬顔をしかめたけどアイコンタクトを送ってきた。もちろん、その意味を承知でうなずき返す。

二人で同時に足元を均す。視線を戻し、敵のほうへ。
相手も私たちの行動の意味に気づいたようだったけど、余裕綽々の態度は変わらなかった。

「へっへっへ、どうするつもりだあ?見てたところ、てめーら二人は同じ性質変化を持ってるわけでもなし、今は術の発動も満足にできねえくせによお!」

それは事実だ。サスケは火遁、私は風遁。性質変化は生まれつき備わっているものだから、中身の意識が違えど、体自体はお互いのものである以上自分の得意技は使えないだろう。

だけど、思わず笑ってしまったのは、サスケも私も同時だった。
なんといっても、私たちは幼なじみだから。

吐き捨てたのはサスケだった。

「オレたちが何年一緒にいたと思ってんだよ」

まったくだ、と内心笑ってから、邪念を振り払った。ポカンとしているお相手をまっすぐ見据える。

印を組みだしたのは同時。
私に入ってるサスケは風遁の印を、サスケに入ってる私は火遁の印を。
暇があれば一緒に修行してたんだから、お互いの印なんて大体は覚えてる。使い方だって何度も何度も見てきたんだから。

「火遁、豪火球の術!」
「風遁、風波!」

威力十分、いつもと変わらず。ぎょっと目を見開いた彼が慌てて逃げようとするけど、直前まで油断していたから間に合わず、彼は気の毒にも術の直撃を食らってしまったのだった。





「…で。その術、解く方法を聞き出さなかったわけ?コイツが気絶する前に」

他国の忍との交戦を終え、それから数十分後。
無論あっさり敵を倒したカカシがナルトとサクラを引き連れて現れ、第七班は無事合流していた。こっぴどくやられた敵二人はぐるぐる巻きにされ、現在はそれをカカシが抱えながら里への帰路に戻っている途中である。

「「……」」

カカシの問いかけに、カナに入っているサスケも、サスケに入っているカナも気まずそうに目をそらす。その暗に呆れたような問いかけにももちろんだが、まじまじと目を向けつつも若干戸惑い気味なチームメイトの視線が非常に痛いのだ。

ちなみに、最初はお互い自分の姿に変化することでやり過ごそうとしたのだが、さすがは上忍と言うべきか、カカシは見事あっさり術を見破ったのである。

「…だから、」

カナの声がぶっきらぼうな雰囲気をかもす。

「術者を気絶させれば術も解けると思ったんだよ」

あと、挑発されて癪に障ったというのもあるが、それはあえて言わない。
苦笑いするサスケもといカナは、さっき「なるべく喋んな」とサスケに念を押された後だった。そのわりにサスケは喋るのだから、実に理不尽である。

「へー、そ。…なんかカナに反抗期が来たみたいですごい変な感じあるんだけど」
「オレはカナじゃねえ」
「うっ、カナちゃんがオレとか言ってる…!」
「カナがカカシ先生睨んでる…素材がカナでもそんな顔できるのね…」
「…言われたい放題だなあ」
「喋んなっつってんだろ、バカ」

いつもの調子でサスケがカナを小突こうとして、ぴたりと止まった。そして嫌そうに顔をゆがめてから、結局手を下ろす。自分の意識で自分の体に制裁を加えることの違和感に抗えなかったか。
はたから見たら、「あ、叩かれなかった」と目をぱちくりさせたサスケが言って、「喋んな」と再三カナがサスケに文句をつけている。カナが、サスケに、である。

ほか三人の目はいつもと違うサスケとカナの間を言ったり来たりで、ナルトですらいつもの調子で茶化すことはできず、口をうずうずさせていた。

その中で、「ね、ねえ、カナ」とサスケを見て声をかけたのはサクラ。それでカナはサスケとの会話を中断し、「うん?」と振り向いたのだった。

カナは基本的に、いつも笑っている。皮が違えど、そのクセが変わるはずがない。
カナはいつもどおり、口元を緩ませて応じたのである。

「……サッ」

結果的に、それはこうなる。
あのサスケが、素直に振り向いて、しかも親しげに笑いかけているのだ。

その瞬間、サクラの頭からそれは実はカナだという認識は消え去った。
あっという間に頭に血が登り、真っ赤になったサクラはくらっと後ろに倒れ込んだのだ。

「えっちょっ…サクラーーー!?」
「うわあっどうしたんだってばよぉサクラちゃん!!!」

間一髪でナルトが支えるも、サクラは意識ここにあらずといったように口をパクパクさせている。

「サスケくんが、私に、笑顔…!!!」
「サクラちゃん…!!てめーサスケェ、こうなるって分かってて何愛想振りまいてんだってばよ!!」
「わっ!?私サスケじゃないって!!」
「ハッそうだった。こっちか!てめーサスケェ、」
「オレはなんもしてねえだろうがウスラトンカチ!」

もう大混乱だ。
真っ赤になってフラフラなサクラ、慌ててサクラに駆け寄るサスケ、カナに怒鳴り散らすナルトに、負けじと罵声を放つカナ。
この四人、全員が全員性格が全然違うがために、一度入れ替わったら非常にややこしいメンバーである。カカシは目の前の騒ぎを見ながら頭をかいた。本当に心から思うが、更にナルトとサクラが入れ替わった、なんてことにならなくてよかった。

「あのね、お前ら…里に帰るまでが任務なんだけど?」

カカシがやれやれといった調子で言って、ようやく下忍たちはハッとした。入れ替わっていることにようやく頭が追いついたのだ。
とりあえず、ナルトとサスケは互いに気まずそうにそっぽを向いたことで落ち着いた。ただ、カナは未だに心配そうにサクラを気遣っているので、サクラの顔は相変わらず赤いままだが。

「大丈夫?サクラ」
「だ、大丈夫よ…サスケくん」
「サスケじゃないってば」
「もう、二人とも、ずっと入れ替わってたらいいのに…」
「ええ!?やだよ!」
「そうじゃない!カナ、サスケくんみたいに喋って!」
「そんな無茶な……」

苦笑いするサスケというのも、通常では見られないかなりのレア度である。更にはカナに歯の浮くようなセリフを言わせようとしているサクラは結構楽しんでいるようだ。
一方で、サスケとナルトは。

「……うう……中身がカナちゃんだってことは分かってんだけど、サクラちゃんがサスケと仲良く喋ってるみたいですっっっげーイヤだ」
「……」
「…お前がカナちゃんに入ってるとカナちゃんに無視されてるみてえだしィ!さっさと元に戻れってばよサスケェ!」
「オレが知るか!そこの寝てる忍に言えよ!」

もうそろそろ里に着く頃だが、カカシが抱えている二人は一向に起きる様子がない。サスケとカナが相手した忍は焦げ臭くもあって、むしろ気の毒に思うくらいである。彼さえ起きてくれればどうとでも解き方を聞きだせるのだが、この調子では今日一日ほどは厳しいかもしれない。

この微妙な違和感からさっさと解放されたいサスケは、不機嫌そうな目をカカシに向けた。

「大体、オレたちは変化ができるんだ。なのに何でさっきやめさせた?」
「…そんなに嫌なら、暫く変化してみればいいけどね。ただ一応言っとくと、術を発動し続けるってのは相当消耗するもんなのよ。たかが変化だとはいえ、発動する時間が長ければ長いほど集中力もいるし、チャクラ消費量も多い。サスケにカナ、お前らなら多分平均値以上にはうまくやるだろうが…」

まあやりたければやれ、というスタンスらしいが、なんとなくそこまで言われてしまえばやりにくい。サスケもカナも顔をしかめて、肩を落とした。

「大体、お前らがそこまで気にする?お互いのことほぼ熟知してて、互いの術まで発動できたってのに」
「カカシせんせー、二人が気にしなくてもオレやサクラちゃんは大ダメージだってばよ!」
「アンタだけでしょ!私はしばらくこのままでも…サスケくんが私に優しくしてくれるなんて夢みたい…」
「…サクラ、その中身はカナだぜ」
「そっそうだけど!」

サスケ本人が呆れた目をむければ、慌てて弁解するサクラだが、それでもその目は笑っている"サスケ"に向けられている。頬はやはり染まり気味だ。
カナは笑って「まあ確かに、ちょっとくらいならいいんですけどね」とカカシに返したが、サスケはやはり頷けるものではなかった。長い銀色が時折視界を掠めて非常に落ち着かない。

里の大門が見えてくる。時刻は夕暮れになりかけだ。やはり術者は目を覚ます様子を見せなかった。



珍しくカカシが単独で任務報告を請け負うこととなった。普段はこれも経験だとか言い必ず付き添わせるが、今回ばかりはオレとカナを連れ歩くややこしさのほうが勝ったんだろう。術者が起きたら聞き出しとくから、とだけ言い残して、カカシはさっさと消えた。残されたオレたちは妙な沈黙に陥る。

「……」
「…どうしよう?」

オレの声でカナがぼやく。正直本気で気持ち悪いから喋んなと思う。
ナルトとサクラも微妙な視線を投げかけてくる。夕焼け空を飛ぶカラスどもがカーカー鳴いてんのが鬱陶しい。やっぱり目にかかる銀色が居心地悪いのもある。本当に厄介な術にかかってしまった。

「…カカシが解印方法を聞き出してくるまでどうしようもねえだろ」
「でも、二人とも…それまでどうするの?」
「家とか…メシとか」

サクラとナルトがおずおずと聞いてくる。面倒くさいポイントはそこだ。カナと目を合わせようとして、オレ自身の目と合った。
実際のところ、家はどうとでもなる。オレたちは二人とも一人暮らしだから、なんとかと言う家族もいない。ただ、…

「…帰る」

とりあえず踵を返して歩き出せば、後方から「えっちょっカナ…じゃなくて、サスケくん!」というサクラの焦った声と、「おいっ待てよサスケ!」とナルトの若干怒りが混じった声が届く。カナもといオレの声は聞こえないが。

「どうすんのかってこっちは心配してんだってばよ。何とか言え!」
「余計なお世話だよ。自分のことは自分で世話できる」
「んだとォ!?」
「どうせ明日にはどうにかなんだろ。困ったことがありゃあ変化でやりすごしゃいいんだ、お前らに心配されるまでもねえよ。…おいカナ、」

いつまで経っても動き出そうとしない気配に声をかけると、びくっと跳ねた。何度も思うが、体はオレだから本当に気持ち悪い。
ようやく動き出したカナにサクラがなんとかと声をかける。それに何度も謝りつつ、歩き始めたオレを追いかけるように小走りしてきた。


「…あんなに意地の悪い言い方しなくても」
「アイツら、お前のこと知らねえんだろ」

困ったように言うカナにすぐさま核心を突きつければ、大人しくうな垂れた。「…うん。多分」と若干バツの悪そうな声で言う。というのは、コイツにもオレと同じように家族がいないことの話だ。オレの知る限り、カナが自分の身の上話をしたことはない。

「別に、隠してるわけじゃないんだけど…」
「あの話の流れだとお前、心の準備をする前に言わざるを得なくなっただろ。オレに注意する前に言うことがあるんじゃねーか」
「…うん。ありがと、サスケ」

言っておいてなんだが、自分の姿が自分に礼を言ってくるのは違和感を通り越してやはり気持ち悪い。もう一度喋んなと言えば、じゃあ私の声で不遜な言い方しないでと言われる。本当に面倒な術だ。

「それで、どうするの?」
「何が」
「どっちの家に行くのかなって」
「……は?」

思わず立ち止まった。横には、目を瞬いているオレが。

「…変なこと言った?」
「自分の家に帰りゃいいだろうが!」
「その場合、姿に見合った家に帰るの?それも使い勝手悪そうだし…自分本来の部屋に帰ったら、今度はご近所さんに不審がられそう」
「別にそのくらい…」
「カカシ先生が今晩中に教えに来てくれる可能性も考えれば、やっぱり一緒にいたほうが都合いいかなあとは思ったんだけど」

おかしい?と聞いてくる幼なじみに、頭が痛くなった。言っていることは正論だし、なんにもおかしいことはない。けど、そういう問題じゃない。
なんでこいつは恥とかないんだ。いくら幼なじみとはいえ。無駄に意識してるこっちのほうがバカみたいで、癪にもほどがある。
目の前に何度も現れる銀色を払いのけた。ため息が口から漏れる。

「……ったく」

でも実はそこまで嫌がっていない自分には気づいていた。





オレの家は住宅街の中心にはなく、割と外れのほうにある。だから近所の住民に見られることも少ないだろうということで、オレの家にすることにした。不幸中の幸いか、道中で知り合いに遭遇することはなかった。もし他の誰かに知られたら余計な噂が立つことになったに違いない。
そう思う一方で、違う考えも生まれた。

「(コイツの姿で嫌な態度を取ってやったら、…)」

考え切る前にやめにしたが。
アイツのほうは絶対考えないだろう邪な考えを振り払って、今度こそただ"音"を聴き始めた。


自分以外の人間がこの時間にこの部屋にいることが変な気分だった。カナでさえ何度もこの部屋に来たことはあっても、夜に訪れることは当然少なかった。

それが、今は自分以外の気配が、台所に立っている。なにかを煮たり、包丁がまな板に当たる音や、食器を出す音がする。
自分以外が出す、生活の音。

それを、オレはソファーに座って、台所に背を向けながら、目をつむって聞いていた。
懐かしい音だった。必然的に頭に浮かんだ昔の光景は、思い出すのももう嫌なはずなのに、振り払えそうもない。昔はいつもこの音を聴いていた、気がする。気がする、というのは、その頃は特別なことだと思っていなかったから、耳に焼きつけようだなんて思いもしなかったからだ。失くした今は、こんなにも胸を疼かせるというのに。
鼻をくすぐる香りが漂ってきて、ついにはっきりとした記憶を持って、母の姿が思い浮かんだ。


「サスケ。できたよ」
「…カナ、自分の姿に変化しろ」
「え?」
「いいから。…なんで好き好んで自分の姿したヤツと飯食わなきゃなんねえんだよ」
「…確かに、そうかも。ちょっとくらいなら、カカシ先生が言ってたみたいにしんどくならないかな」

先に術を発動して、最早懐かしいと感じてしまった自分の姿に戻った。次いで煙が立ち、カナも自分の姿を取り戻したようだ。その姿を認めて、当然ではあるが、やはりこっちのほうが断然いいと思った。不思議とその顔を見ていると心が落ち着く。

「おいしいといいけど」
「…前と変わってないならな」
「あはは、腕が落ちてませんように」

カナが運んできた皿には、特別なものは何もない料理が盛られていて、いかにも普通の食卓という感じがした。いつも自分で作る栄養を摂るだけのものとはどことなく違う。「誰かに振る舞うのは久々だから、結構頑張ったんだけど」と前置きするカナもまた、いつもはもっと質素なものを作るんだろう。じゃあこれはオレがいるからのものか、と今更なことを考えて、少し胸が熱くなった。

いただきます、という声が同時に響く。ちらりと向かいの顔に目をやれば、カナも少し照れくさそうにこちらを見ていた。考えていることはきっと同じだから。

飯を口に運びながら、取り留めのない話をした。とりあえずうまいと言ってやったら、本当に嬉しそうに笑うものだから、思わず意味のない罵倒を飛ばした。今更気にもしないカナは「照れ隠しでしょ」とだけ言ってまた笑うから、本当に癪でしかない。
話す内容と言えば、大概は七班のことだ。カナもそうお喋りなほうではないが、オレと二人だと自然にカナのほうが口を開く。この間の任務であったことや、サクラとした話がどうのこうの。少し前にサクラがオレやナルトに隠れてオレを褒めまくっていたらしく、「私、なんて応えようかすごく困ったよ」「どういう意味だよ」と凄めば、カナは取り繕うように明後日の方向を向いた。

疑うべくもなく、心地いい空間だった。笑うカナを見ていると、尚更そう思う。
窓からの夜風を感じながら、虫のさざめきを背景に聴きながら、何のことはない話を交わし続ける。お互いのことをほぼ知り尽くすほどには一緒にいた幼なじみだから、なにを気負うこともないし、むしろその声がそばにあることに無性に落ち着く。

「(…いつか)」

この光景が、普通になる日が訪れるだろうか。

「あのね、サスケ」

心の奥底でそう思っていた時、カナが不意に切り出してきた。無言で目を向けると、照れくさそうに笑っていた。

「サスケは怒るかもしれないけど…さっき、こんな入れ替わりの術にかかって良かったなって思っちゃった」
「!」
「おかげで久々に、サスケとご飯を食べるきっかけができたから。…最初は厄介なことになったと思ったけどね」

照れ隠しのように再び口にメシを運ぶカナ。言ってから恥ずかしくなるところまでオレと同じかよ。
思っていたことも。

「……オレもそう思った」
「…!?」
「…なんだよその顔」
「えっ…いやだって…サスケがそんなに素直なことなんて、」

大丈夫?とまで聞いてくるその頭に、思いっきりチョップを食らわす。若干本気混じりに痛がったカナは、変化解けるからやめてよと言って、不満そうな目を向けてきた。

本当はいつだって一緒にいたがってるのは同じらしい。
そう思うと、口元が緩む。

今はそこに特別な理由なんて無くていい。なんとなく、安心できる人と一緒にいたいだけ、それだけで。

今日の夕刻前、丸焦げにしてしまったどこぞの里の忍を思い起こし、心の中で「悪かったな」と呟いておいた。
いつか、そんなきっかけなんてものがなくても、当たり前のように一緒に飯を食う。
そういう日のことを思った。



結局二人の術が解けたのは次の日のことだった。
例の忍は早朝にようやく目を覚まし、その時目の前にいた拷問班・イビキにあっさり恐れをなして、ペラペラと自里の情報と共に吐き出したのである。結局のところ被害はまだなかったので、三代目の温情もあり里への厳重注意で納めたようだが。

元に戻った二人を見て、心から喜んだのはナルト一人だったようだ。サクラはもう少し優しい"サスケ"を見ていたかったらしい。
そしてサスケとカナはといえば、昨日のことを思い出すと少し、ほんの少しだけ名残惜しい気がして、カナは苦笑し、サスケはそっぽを向いたのだった。

 
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