どこかで凄まじい崩壊音が響いた。ドトウの根城の内部だ。
城の中心部でどっかりと椅子に腰かけるドトウは、けたたましい騒音に顔を上げる。すぐに部下が走り寄り、わかりきった報告をした。すなわち、敵襲である。その部下酷く焦った表情をしていたが、その主の顔にはただ余裕のある笑みが貼りついていた。



殺風景な通路を走っている足音が三つあった。一つは大きいが、二つは忍ぶように軽い。意識を取り戻したナルトが先導して小雪を引っ張り、カナはその隣を走っていた。そこは無論もう鉄格子の中ではなかった。
小雪はちらりとカナを見て、「侮れない子ね」とわざとらしく言う。応じたカナは笑って言った。

「なんのことですか?」
「あの鉄格子を壊すくらいの風を、チャクラ無しに出すんだもの。私に開錠を頼んだ手錠だって、自分で外すのもわけなかったでしょ?」

カナの手にはめてあった手錠には、チャクラを留める術がこめられていた。だが、風羽の特殊な能力は忘れられていることが多い。"風使い"である一族をもってすれば、風を使うのにチャクラは必要ない。それなのに、カナはわざわざ小雪に開錠を頼んだのだ。

「ごめんなさい。でも、小雪さんに外してもらうことに意味があったんですよ」
「...なによ、それ」
「オレもカナちゃんに賛成だってばよ!ねーちゃんが決めねえと、またねーちゃん戻っちまうかもしれねーだろ?」

小雪が自分で決断したと聞いたからか、ナルトは上機嫌に振り返って言う。そして笑いあう下忍二人に小雪は呆れてしまったが、結局肩をすくめて笑ってしまった。「生意気」とだけ言っておいたが。
そこで、和やかな雰囲気は崩れた。第一に気づいたのはもちろん忍二人。
敵が突然通路を阻むように降りてきた。

「カナちゃんっ」
「うん!」

小雪の手を掴んでいるナルトは飛びのき、後ろにいるカナが代わりに飛び出した。軽い身のこなしで低姿勢になりつつ接近し、床に両手をつき足を振り上げる。その足が掴まれるのを感じると、すぐさま敵のホルスターに手を伸ばした。
そこから拝借するクナイを、真上の敵に放とうとして__足がぱっと放され、カナはハッとして後方に下がった。それからまたすぐに動こうとしたの、だが。

「待て待てカナ、オレだから!」
「え?」

聞きおぼえのある声にカナは動きを止め、敵__雪忍を改めて真っ直ぐ見た。それと同時に、相手は自分の装束に手をかけ放り投げる。そこから現れた人物に三人は三人とも目を丸めた。

「カカシ先生!」
「待たせたな。お姫様も無事なようで」

カカシは小雪を確認すると同時に、ナルトとカナにポーチを放り投げる。武器類を少量しか持っていなかった二人はありがたくそれを受け取った。
その隣で、小雪は「ええ」と少し冷たげに返事をする。理由は小雪の持ち物の件だ。おかげで小雪は無駄にドトウに疑われた。

「六角水晶は、アナタが偽物とすり替えたのよね」
「ええ。すみません。奴らの狙いがこれであることは予想できてましたので...」

カカシは頭を下げてからその懐に手を入れた。出てきた煌めいた首飾りは今度こそ本物の六角水晶だ。受け取った小雪は数秒目を落とし、ぎゅっと強く握りしめた。
しかしそう感傷にふける間もなく、新たな爆音が間近に迫った。カナもナルトもぎょっとして振り向いたが、しかし、そこに見えた仲間たちに表情を明るくする。

「ダメ、こっちは警戒が厳重で!」
「サクラちゃん!サスケ!」

二人はこちらに走ってくる。サクラの言葉を理解しすぐに動いたのは、意外にも小雪だった。

「こっちよ!」

あらかじめ城内を大体案内されていたのかもしれない。有無を言わせぬ小雪の声に、誰も疑念を覚えることなくついていく。カカシが第一に小雪を守るように横につき、そこにナルト、サクラが続いた。カナも遅れて走り出したところで、軽く頭を小突かれる。
振り向いたカナの視線の先には、じっと見てくる幼なじみ。言葉はない。だがその意味を理解し、カナはいつも通りの笑みを零した。

「大丈夫」

立ち直れたか否かではない。カナは今、やるべきことをきちんと認識している。
その言葉にサスケはふっと笑い、前を向いた。カナもまた正面を見つめ、走ることに専念した。


城内は入り組んでいたものの、小雪は迷わなかった。途中で何度も雪忍と出くわすが、そのたびそれぞれが応戦していく。出てくるのは雑兵ばかりで主力は一切姿を現さない。その事に違和感を感じざるを得ないが、ともかく今は小雪を頼りに進むしかなかった。
どこに向かっているのか。なんとなく予想はつく。
一連の騒動を引き起こした張本人、風花ドトウのところへだと。

たどり着いた先は大広間だった。誰もが雰囲気を感じ取り、緊張に気を引き締める。待ってましたとばかりに照明がつく。大広間の最奥で、悪の親玉は階段を上った先の玉座に深く腰かけていた。
それを睨み見上げる第七班。ドトウはようやく玉座から立ち上がり、見下ろす先にいる忍五人、そして、ーー小雪を見てふっと口元を緩ませていた。

「ご苦労だったなーーー小雪」
「!?」

第七班は目を見開く__その誰もが静止をかける間もなく、走り出したのは小雪だった。
第一にカカシが「待て!」と追うように言ったが、その眼前を遮るようにナダレが現れる。続いて主力三人が姿を現し、下忍たちの行く手も阻んだ。その間に小雪はもうドトウの元へと辿り着いていた。
「まさか...」とカカシが零す。しかし嫌な予感は的中し、小雪は六角水晶を自らドトウの手に置いたのだ。そして冷たい目で言い放った。

「みんな忘れていたようね。あたしは、女優なのよ」

ナルトもカナも怯んで口をつぐむ。呆然としている"役者"が多い中で、ドトウだけが愉快そうに笑った。

「そういうことだ。全てはこの小雪が一芝居を打ってくれた!これが上手い世の中の渡り方よ...どうだ"神人"、小雪を見習え!」

そんなはずない、とカナの口から漏れた言葉は弱かった。あの牢の中で見れた小雪の変化が嘘であるはずない、と思うと同時に、今の小雪の表情が嘘であるようにも見えなかったのだ。
いつだったのか、いつからだったのかーーーそれとも。

「そう...」

小雪はふっと目を閉じていた。

「全ては、芝居」

その目が次に姿を現した時、そこにあったのは、荷が重すぎるほどの決意だった。
第七班がまずそれを確認した。小雪が懐から取り出したギラリと光る刃、その鋭さがドトウの腹を突き刺したのだ。

「な...!?」
「だから言ったでしょう!?あたしは女優なんだって!!」

いつから、ではない。小雪の芝居は、先ほど初めて始まったのだ。
まんまと騙されたのはドトウだけでなく七班もだった。ナルトやカナでさえ、その見事な演技に呑まれた。小雪以外が目を見張り、痛みを感じたドトウは怒りを燃やし始めた。

「くっそォオオ!!!」

小雪の首が引っ掴まれる。「姉ちゃん!」「小雪さん!」と下忍二人が叫ぶ。小雪の口からか細い悲鳴が溢れたが、それでも刃を突き刺す手は下ろさない。自分の死が迫ろうとも、ドトウを殺して自分も死ぬ、それがシナリオだとでも言うように。

「わ、かっていたのよ、ナルト、カナ...!ここに戻ってくる時は、死ぬ時だって!だから、、せめて...!」

小刀を手放せば逃げられるかもしれない、それでも。「やめろォ!ダメだ、姉ちゃん!!」とナルトの切羽詰まった声が響くが、それでも小雪は諦めなかった。

「アナタたちのおかげよ...、最後の、最後で、逃げずに、済んだ...!」
「違う!そんなの、逃げてんのと一緒だ!」
「小雪さん、その手を放して!!ドトウを倒す手は他にだって__!」

小雪の意識はどんどん遠のいていく。二人が何やら叫んでいるが、うまく聞き取れなかった。ドトウも小雪も互いの命を握ったまま、よたよたと檀上の端までふらついている。このままでは落ちるだろうと、小雪が頭のどこかで認識した時、呼んだのは父親と三太夫の名だった。
二人の体が傾いていくーーー

「カナ!!」

急くように叫んだのはカカシだった。そうされてカナはようやくハッとした。
小雪の足はもう檀上から離れていた。雪忍の邪魔されている今、走ったところで追いつかないのは必至だった。カナにやれることはただ一つ。
風に念じる。小雪を受け止めろと。

その途端素早く風が吹き、小雪の体をさらった。ドトウの体だけが埃をあげて落ちる。既に意識のない小雪は、静かな音で床に受け止められた。

「姉ちゃん!」

真っ先にナルトが小雪の身を案じて走り出す。何故か雪忍はそれを止めなかったーーナルトはあっさり敵の主力を追い抜かし、走り抜ける。すぐに小雪の体への一歩手前に差し掛かった。
だが辿り着くことは叶わず、ナルトは直前で殴り飛ばされたのだ。仲間たちがナルトの名を叫ぶ。ーー犯人は、倒れていたはずの悪の親玉だった。

「フン...こんなオモチャみたいな刀では、わしは死なん」

小雪の小刀は確かにドトウに刺さっている。刀の根本までしっかりと。にも関わらず。ドトウが受けたダメージは小さいようだった。誰もが目を疑う中、ドトウは羽織りを脱ぎ捨てた。カランと音をたて、小刀が落ちる。
ドトウが身にまとっていたのは頑丈な鎧。ナダレたち雪忍が着ているものと相違ないものだった。

「そう、これが最新式のチャクラの鎧だ!」

言ったドトウは敵忍たちに見下すような目を向け、次に自らの足元を見下ろした。その時、ちょうど同時に小雪の体はぐっと丸くなり、吐き出すかのように幾度も咳をした。ーー生きていたのだ。
「小雪さん」、と木ノ葉の面々が安堵したのは束の間だった。小雪の体に影がかかり、ドトウが小雪を掴み上げていた。小雪は悲鳴もあげられないが、代わりにナルトが踏み出す。

「汚ねェ手で姉ちゃんに触るんじゃねえ!!」

そしてドトウに果敢に向かっていくーーが、振り向いたドトウにまたも一撃で吹っ飛ばされる。それでもすぐにナルトは体を起こすが、上手く力が入りきらないことは本人が重々分かっていた。腹に埋め込まれた制御装置が働いているのだ。

「無駄なことを。貴様のチャクラは完全に封じられているのだぞ」
「くっそ...!」
「さあ行こうか小雪。虹の向こうへ」

寸でのところで意識を留めていた小雪は、その言葉にハッとしていた。ドトウの手には既に六角水晶が渡ってしまったのだ。
ドトウの言葉を皮切りとしたように、崩壊音が聞こえ始め、カカシらは誰もが天井を見上げた。ビシリとヒビが入った城が唐突に壊れ始めていた。「ウソッ...!?」_その隙を狙うように、ドトウは上空へ飛んでいた。ワイヤーに捕まり、どんどん手の届かないところへ向かっていくーーそれをナルトは許さなかった。
ロープ付きクナイが飛ぶ。

「ナルト!?」
「行かせて、たまるかってばよォ!!」

__ロープは見事 小雪の手首に巻き付いていた。吊られて体が浮き上がっていくナルトに、カナが咄嗟に手を伸ばしたが、あと一歩のところで届かなかった。
その間も城はどんどん崩れている。遂には大きな瓦礫が転落し始め、残された四人も遠ざかっていく仲間に気取られている場合じゃなくなった。雪忍たちはいつの間にか消えているーー早く脱出しなければ。


一方で、城外へ脱出したドトウ。その鎧の背中からは翼が生え、自由に空を飛んでいた。進む先は一直線、虹の氷壁が待つ場所だ。この高さでは小雪も抵抗するすべがない。だが気がかりなのは、自分の手首に繋がるロープ、そこに垂れ下っている少年だった。
ナルトは必死にロープに食いつき、頭上のドトウを睨んでいたーーその子供一人分の重みにドトウが気づかぬはずもなく、放っておくはずもなかった。ロープはあっさりと切り離され、ナルトは一人暗闇に落ちていく__。

「ナルトーー!!」

小雪の叫び声は暗い空に響くばかり。


ナルトが落下したのは森の中だった。木々が悲鳴を上げることで、多少のクッション代わりになったものの、完全に勢いが死んだというわけではない。雪の中に身を落としたナルトは痛みに耐えつつふらりと起き上がった。チャクラさえも使えない今、持ち前の体力もかなり消耗していた。

「くっそ...。絶対に、諦めねえぞ...!どんなに嫌がっても、どこまでも、追っかけてやる...!」

畜生−−−!!
ナルトはどこへと知れず吠えた。その声は、雪に浸透し、木々を揺さぶり、暗闇の薙ぎ払うかの如く__。
その時、聴きなれない音がナルトの耳に届いた。はたと動きを止め、その方向を見る。敵かと一瞬身構えた体の力はすぐに抜けていた。
マキノや、その他映画スタッフが、専用の乗り物の上で、ナルトに手を振っていたのだ。「乗れ!」__力強いその言葉に応え、ナルトはしっかりと頷いた。


その時にはドトウ、そして小雪は、既に虹の氷壁と呼ばれる場所に辿り着いていた。だがその場所は華やかなその名とは裏腹に酷く暗い。小雪は薄い氷のその上にへたりこんでしまった。

「やっぱり...ここに来てしまったのね...」

ドトウは最早小雪には目もくれず、丘の上の小さなほこららしきものを目指した。そこに刻まれている紋章は六角形型。紛れもなく六角水晶と同じ型・大きさであり、ドトウの手は迷うことなくその紋章に水晶を合わせていた。
かちりと、噛み合った音がした。

漏れだしたのはまばゆいほどの光だった。それが広がっていくのには数秒とかからなかった。ほこらを中心とし、周囲に大きな雪の結晶の文様が描かれていくーー周囲に立っている柱へ向かうように。
秘宝が現れる前兆だと確信し、ドトウは勝ち誇った表情を浮かべた。



一方、サスケとサクラ。
第七班の下忍たちは雪忍に追われていた。カカシとカナも含む七班は城から脱出した後、ナルトと小雪の元へ向かおうとしたのだが、その間に雪忍たちに見つかってしまったのである。そして現在、カカシ・カナとははぐれ、サスケとサクラはフブキとミゾレを相手にしていた。
上空から幾本を降ってくる雪の刃を避けつつ、サスケはサクラに目をやる。

「サクラ、まだか!」
「もうちょっと!」

サクラは雪の上を転がって刃を避けた。
厄介なのは、雪忍たちの鎧には翼が付いていることだ。この森の中では地上から上空にいる敵を視認するのが困難なのだ。攻撃された瞬間は相手の姿が見えるも、すぐにまた逃げられては埒が明かない。
この状況を突破するために、サクラは持ち前の頭脳をフル回転させていた。

「分かった...! サスケくん、五秒後に左二十度、三十メートル!そこの枝のところよ!」

「よし!」サスケはすぐにその指示に従う。懐から頑丈なワイヤーを引っ張り、取り付ける。
サクラはそれを確認してから、疲れたように見せかけるためにしゃがみこんだ。それが罠だとは気づかずミゾレが姿を現す。

「これで終わりだァ!」

己の力を過信している今がチャンス。雪忍たちとは違い、七班の武器はチームワークだ。
迫りくるナダレとの距離を測り、サクラはばっと立ち上がり、大きく防寒具のマントを広げたーー姿を現したのは大量の小袋だ。それらをクナイにくくりつけ、サクラは全て周囲に放った。当然、ミゾレの鎧とも接触する。障害物に当たった途端、小袋は弾け、中身の紙吹雪をまき散らした。
視界が悪い。一度立ち止まってしまったミゾレは、ハッと、自分の周囲を完全に覆われていることに気づいたーーーその紙吹雪、否、起爆札に。

「サクラ吹雪の術。なあんてねっ」

いたずらっぽく言ったサクラは、起爆装置を投げつけた。
途端に爆音が響き渡る。煙がもうもうと立ち上がり、それはその上空を飛ぶフブキの元へも届いていた。鎧の翼が爆風を受けて流される。体勢を支えきれなかったフブキは、気づけばワイヤーの網にかかっていた。サスケが先ほど仕掛けたものだが、フブキが意表を突かれたのは一瞬のことで、すぐにワイヤー全てを断ち切り、後方に跳んでいた。

「このくらいでやられるほど、雪忍はヤワじゃないわよ!」
「だろうな」

しかし、その低い声はフブキの真後ろから聴こえた。振り向くのも間に合わない。影舞葉ーー

「獅子連弾!!」

攻撃をまともに食らい、フブキは真っ逆さまに落ちる。更にそこは雪の上ではなく、たった今爆発が起こった場所、つまりミゾレの真上だった。互いを認識する間などなく、二人は互いに強く体を打ち付けたーー

ここまでは全てサクラの計算。しかしその直後、予想を上回ることが起こった。

「「ッァアアアアアアア!!!」」

二人がぶつかった瞬間、強力な電流が迸ったのだ。
サスケ、サクラは息を飲んでそれを見ていた。最後にその場は爆発し、辺りは再び煙に覆われた。すぐに後方に下がった二人だが、全てが終わった爆発の跡を前に、暫く沈黙してしまう。倒れている雪忍二人は完全に気絶しているようだ。バチバチ、とまだ静電気が走っていた。

「...なんだ、今のは」
「よく分からないわ...。...でも、もしかしたら」

サクラは一歩踏み込んでよくよく雪忍たちを観察した。重要なのは二人がまとうその鎧。頑丈だったはずの鎧はもうあちこち壊れている。特に、ミゾレとフブキに共通していたのは、胸の中心部にある核(コア)に走った亀裂だ。
これが割れる瞬間をサクラは見ていた。二人がぶつかり合う瞬間散った電流でヒビが入ったのだ。

「...サスケくん」

一声かけたサクラは、真剣な表情で振り向いた。

「カナの無線機に繋げて、今から言うことを言って。カカシ先生ならともかく、カナは戦うすべを持ってないかもしれないわ」



カカシとナダレは雪山の絶壁付近に立っていた。互いに見据え合い、十年前のことを思い返す。
あの時のカカシは小雪を連れてこの国を脱出することしかできなかった。しかし今は真正面から向き合っている。

「フン。お前に勝ち目があるのか?あの時逃げたお前に!」
「...仕方ない。見せてやるよ、オレのオリジナルを」

ナダレのセリフは意にも介さない。カカシは言うや否や素早く印を組み、ナダレもそれに対抗して術を発動した。

「雷切!」
「氷遁 狼牙雪崩の術!」

カカシの手には電流が、ナダレの背後からは数匹の氷の狼が。
狼たちの走る勢いで術名通り雪崩れを誘発している。しかし、カカシは難なくそれを飛び越え、向かってくる狼も雷で一発粉砕し、そのままナダレへ突っ込んだ。バチィ、と一層 電流音が響く。とはいえ浅いーーナダレは後方に下がることで直撃を避けていた。
パキ、と音をたてたのは、ナダレの鎧にあるコアだった。

「惜しかったな......」

ナダレは自分の身を顧みて言う、だが、不意に雪山を見上げた。今の衝撃のせいか、二度目の雪崩れが起ころうとしているのだ。
第一に恐るべきなのは自然災害だとナダレはすぐさま避けたのだが、その一瞬の隙があだとなった。ナダレは目を見開く、いつの間にかカカシに回り込まれ、体を拘束されたのだ。

「なッ...!」
「忍術幻術が封じられても、忍には体術がある!お前はこの鎧に頼りすぎた!」

ぐるり、とナダレの視界が上下反転した。あらん限りに開かれたナダレの目には、迫りくる雪があった__カカシは上空から一気にナダレを突き落とし、その身を雪に沈めた。



そして、最後の一人。カナはひたすら反撃のチャンスを狙いながら、それを見つけることができないでいた。

「(だめだ、あの鎧、本当にびくともしない!)」

術を使えばチャクラを吸収される。その仕組みをカナは既に何度も見せつけられたのだ。かといって体術で向かおうにも、それをさせてくれるほどツララは甘い相手ではなかった。何よりカカシほどの体術をカナはまだ身に着けていない。

「ほらほら、どうしたんだい!もう防戦一方じゃないか!そろそろ諦めてもいいんだよ!」

上空を飛び回り、地上に殺傷力の高い氷の針を生やすツララに対し、カナは避けられるものは避け、危ないものは風繭で対処する。ツララの言う通り防戦一方ではチャクラを消耗するだけの泥沼戦になるだけだーーーなんとかしなければ。
そう思った時、カナは不意に何かを耳に捉えた。無線機だ。カナはツララを警戒しつつも通信に応じた。

『カナ、聞こえるか!?』
「サスケ...!? サクラは!?そっちは大丈夫!?」
『ああ、こっちは既に終わってる。その様子じゃやっぱお前はまだだな。オレたちの得た情報を聞け!』

仲間の無事を聞いて息をついたのも束の間、カナは気を引き締めなおした。

『胸のあたりだ。そこに赤く光っている核があるはずだ!鎧を対処するにはそこしかねえ...けど』
「...けど?」
『恐らく、それの唯一の弱点は、電流だ。オレたちはなんとかできたが、お前に雷遁はない......どうする』

同期トップであるサスケと頭脳明晰なサクラが出した結論だ。疑うべくもなく、カナはツララを観察した。その間にも攻撃は続いているがなんとか避け通す。
胸の部分のコアを見つけるのは容易い。確かにそこから赤い光が漏れている。攻撃するならそこだけ、しかも、効果があるのは電流のみだという。
数秒慎重に考えた。結論を出すのはそう遅くない。カナは相手を見据えつつ、小さな笑みを浮かべた。

「大丈夫。自分のことは自分でなんとかするよ。サスケたちはナルトを追って!そこまで分かってるなら、ナルトのほうにもフォローに行かなきゃ...でしょ?」
『...分かった。...必ずお前も来いよ、カナ』

ぶつりと無線機が切れる。頭に反芻するサスケの言葉が、カナの背を後押ししてくれる。

「(必ず、みんなのところへ行く)」

そのためにはここで倒れるわけにはいかないのだ。
カナはすっと念じ、風の力を借りて上空に飛び上がった。先ほどまで見上げていたツララを今度は見下ろす形になる。その間にカナは手早くポーチに手を伸ばした。
手に取ったのは一枚の札。それをクナイの刃に巻き付け、クナイの柄を握りしめる。

「便利な能力だね、羽なしでも飛べるってのは? それで、ただのクナイでどうする気だい?」

挑発するように笑うツララを、カナは真剣に見つめた。
チャンスは一度っきり。
静かにクナイを構える。更に風に念じた。もう上空に留まっている必要はないーー今欲しいのは、速度。風を蹴ったカナは一気に加速しツララへと迫った。

「いい度胸だ...! 氷遁 氷柱矢(つららや)!!」

対してツララが発動したのは、数百数千にもなる鋭い氷柱の矢。向かってくるカナに容赦なく刺さっていく。氷の矢はその瞬間に溶けて消えるが痛みは残る、カナの体は途端に傷だらけとなるーーー
進む速度をそのままに、カナは頭の隅で退くことを考えた。頭だけは守り両手で庇っていたが、瞼に矢がかすり血がどろりと垂れてくる。ここで一度後ろに退けば、これ以上キズは増えないだろう。
だが、何も変わらない。
氷の矢が降る中、カナは臆さず一気に間合いを詰めた。

「なに__!?」

カナが振り上げたクナイ、その刃には、"雷"と書かれた札がついていた。
ナルトが鉄格子を掴んだ際に流れた、あの強力な電流。
それを最大の武器とするクナイは、目を見開いているツララ、その鎧の核に、一気に振り落された。

大きな雷が鳴り響いた。

 
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