もしサスケに告白されたら


りーんりーんと、虫が鳴いている。暗い夜空の下で、それは優しいけれど、どこか寂しくも感じるのは何故だろう。私の感受性のせいかそれとも、...今の状況のせい?
昨日も私はここにいた。アカデミー近くのベンチ。アカデミー時代よくここでお昼食べてたなあ、と現実逃避も兼ねて思い出す。ただ長々もそんなこと思ってられないほど、空気が張りつめている...正直、帰りたい。どうしてこんなことになってしまったのか。できることなら全てを忘れて無かったことにしてほしいのに。
どうやらそうもいかないようで、昨日の今日。昨日とは違う人に私は昼間 声をかけられて、ここにいる。そして私の隣に座っている人は、いつもは花のような笑顔で笑ってるけど、今はきゅっと下唇を噛み締めてる。


...恨んでいいかな?サスケさん。


昨日の彼、私の幼なじみの声がまだ私の脳裏に残っている。あまりに衝撃的すぎてきっといつまでたっても忘れられないと思う。

昨日 私は彼と休日恒例の修行をしてただけだった。それで、日が落ちたあと 彼とは別れ、私はなんとなく甘栗甘に寄ることにした、それがいけなかった。なんだか柄が悪い一般人の方々に絡まれた。昨日は額当てもつけてなかったから、私を忍とは思わなかったんだと思う。もちろん忍である私は彼らを腕っ節で伸すことも走って逃げることもできる。けど、一般の方たち、それも木ノ葉の住人の方に力を向けるのは躊躇われることだったし、あの時私は注文した甘味を待ってたところで逃げるわけにはいかなかったのだ。

『お前ガキの割にキレーな顔してんなあ』
『(お酒くさい...)』
『お嬢ちゃん、無視かい?随分 度胸あるじゃねえかおい』
『...私、お金は持ってませんよ?もうおまんじゅう買ってしまったところなので、あなたたちの注文代を立て替えることも..』
『はーァ?はっはーん、中々鈍いねお嬢ちゃん。そういうことを言ってんじゃねえんだよ、オレたちは......』

その時 一人の男性の方の手が私のほうに伸びた。皆さんニヤニヤ笑いをしててあまりいい雰囲気じゃないことだけはわかってた。けれど私の胸部に伸びてきたその手がそれから何をしようとしたのかは解らなかった...多分 胸ぐらを掴もうとでもしたんじゃないか、と予想はできるんだけど。
その手が伸びてくる直前だったのだ。

『おい』
『...あ?』
『...あれ』

幼なじみが唐突に現れた。男性方の背後に。
物凄い、形相で。

『何してやがる、こんなトコで...てめェら』

真っ黒の瞳に睨みつけられた男性方。それでも物怖じ一つされなかったのは、やっぱりサスケも休日故に額当てをつけてなかったので、忍とはお思いにならなかったんだろう。

『ああん?関係ねえだろボウズ。ホラお子様は行った行った』
『...アンタら...忍じゃねェな』
『サ、サスケ、だから手荒なことは...』
『なんだお嬢ちゃん、このボウズと知り合いかい?まあでも、この状況...どっち優先するかとかは決まってるよなァ?』
『え"』
『............おいカナ』

目の前には悪い笑顔をした男性方、その奥には物凄い顔で睨んできてたサスケ。なんだか酷な選択肢を迫ってきた方々。虐めだったのでしょうか。
もちろん正直な気持ちとしてはサスケを優先したいに決まっていた。しかし、状況が状況だった。あの場で素直にサスケと言ってしまえば面倒なことが起きてしまうに違いなかった。
だから、思わず。


『...サスケ......私は大丈夫だから、帰ってていいよ?』


言ってしまった。
そしてその瞬間後悔した。男性方の笑みが深くなると同時に、ブチィっと......言わずもがな、サスケさんから音がして。
それにも気付かなかったのか、男性の一人が何故か私の肩を組んだ。

『ハッハッハ、利口だねェ嬢ちゃん。まっそういうこったから、ボウズはとっとと...』
『.........サ、サスケ...(これはまずいかもしれない)』
『...馬鹿言ってねえで帰るぞ...カナ』

サスケの言葉は恐らく、最後の忠告だったんだと思う。けど相手はお酒が入って酔ってる人たちだった、断ってただで済むはずが無いのは火を見るより明らかだった。_サスケにはいつでも弁解ができる。でもこの人たちとはここで決着をつけるしかない。ここは大人しく引いて、何事も無く事を終えたい。...と思うのは当然だったのではないか。
私はサスケの刺すような視線を受け流しながら、口を噤むしかなかった。
とどめは多分、次の男性たちの台詞。それ以降、私は何を言う事もできなくなってしまったけれどーーーーー

『諦め悪ィってんだよガキが!!』
『まあまあ落ち着けってお前......フン、なんだボウズぅ、この嬢ちゃんのなんだってんだ?』
『その様子だと、ボウズ、嬢ちゃんの"コレ"ってわけじゃあなさそうだしな、ハッハッハ!』

その男性が突き上げた小指の意味は私には解らなかった。私に解ったのは、サスケが『コイツは...』と、ぽつりと呟いたことだけ。サスケが何を言おうとするのか、全て聞くまで解らなかった。


『ざ、けんじゃねェぞてめェら...』
『(...?)』
『あァ?口の聞き方が...』

『コイツは、______!!!』




「"オレの女だ"...か」
「......う.........昨日の今日で、どうしてそんなことまで知ってるの?サクラ......」
「なにいってんの。サスケくんの人気なめんじゃないわよ?一日も経てば、サスケくんファンにはすぐに広まってるわ」
「なにそれ怖い」

多分、私はまだうまく現実を認識できていない。サスケに、その、「オレの女だ」発言されてもすぐには何言われてるかわからなかったし...ううん、それどころか多分その後のサスケの表情を見なければ一生解らなかっただろう。
店の中での大声は一気に注目を集めて、男性方はたじろいだ。そこへちょうど注文した甘味が運ばれてきて、私は状況整理ができてないまま受け取った。途端、サスケに手首を掴まれて、店を出て___

「...でも、鈍いアンタのことだから、最初は意味なんてわかんなかったんでしょうね」
「...あはは、大当たり...私って、そんなキャラだったの?」

サスケも、混乱してたのかもしれない。なんでか家には直行しないで到着したのはこの場所で。
月明かりに照らされた彼の顔は異様に、赤くて。__『...聞かなかったことに...してくれねェか』。二の腕で顔を隠しつつ、らしくない口調でそう言われた時、__気付いてしまった。
気付かなければよかったとも思う。その瞬間から彼と私は、ただの幼なじみではいられなくなってしまったから。
ーーサクラとのこの会話にも応じることができるようになってしまったから。

「...案外冷静なのね、カナ」
「...サクラも」
「私は...結構これでも動揺してんのよ?...でも、多分...きっと、ずっと心のどこかで解ってたんだと思うわ......だってサスケくんとアンタは、いつも一番近かったんだから」
「...幼なじみっていうプラスもあったのに?」
「それも差し引いて、ね」

サクラの顔を見ることができない。私にはよく解らない感覚だけど、サクラを知ってる人は、誰もが知ってる。サクラが好きな人は、紛うことなき、サスケだから。
こうして話すことになったのはサクラから声をかけてきたからだけど、正直なところ私は顔を合わせにくい。もちろん私も知っていたから...ずっと前から、サクラがサスケに恋していた事。

「アンタは鈍いから気付かなかっただろうけどね。サスケ君、いっつもアンタのこと見てたんだから...」
「...鈍いって二回目...。でもきっと...サクラが私でも、わからなかったよ。それが当たり前だったんだから...」
「.........羨ましい」

少しの無言のあと呟かれた単純な一言に体が異常に反応した。
...後ろめたいのは当然、で。サクラの一言に返せる言葉がなくて、思わず目を閉じた。__瞬間、頬に違和感があった。驚いてすぐ目を開けると、ほっぺを突ついてくるサクラと目があった。多分今日初めて_サクラの綺麗な緑色の瞳を見た、と思う。サクラは目尻を下げて笑ってた。

「ごめん。冗談...とは言わないけどね。サスケ君のことは好きだけど、カナにそんな顔してほしくないもの。カナが目を合わせてくれないのも勘弁だわ」
「あ...ご、ごめん」
「今のでおあいこってことにしといて」
「......うん」

サクラが無理して笑ってるのも...わかる。今日初めて見たサクラの顔は、泣きつかれたって顔をしてる。サクラがいつこの事を知ったのかは解らない、けど...大泣きしたんだろう。でもそれに対する謝罪、は、さすがに私の口から漏れることはなかった。それは多分...侮辱になってしまうから。サクラの強がりを見抜いてそこを突くことは簡単だけど、そんなことはしたくない。私はサクラに、似たような笑顔を返すことしかできない。

「で!?」
「...えっ」
「どうするの?へ、ん、じ!」
「え...う、うーん...まだよくわかんない...んだけど」

なんだか信じられない気分からはまだ抜け出せていない。いつだって私の頭の中にいる、私に対するサスケの姿は、軽口を平気で叩けるほど近い...っていう認識程度だったから。飽くまでも幼なじみ、というのは、変わってない。ただ、今は...真っ赤になってた顔を隠すサスケも、浮かぶんだけど。

「...好きとか...やっぱり、よくわからないよ」

正直な気持ちだった。

「サスケのことはもちろん好き...だけど、これは違うんだってことは解る。サスケに対する好き、は、サクラやナルト、カカシ先生に向ける好きとはなんとなく違う。けど、サクラたちがサスケに向ける好きとも、多分、一緒じゃない」
「.........カナらしいわ」
「......だから、返事とか......そもそもサスケは、聞かなかったことにしてくれ、なんて言ってきたし」
「.........ほんとアンタらしい。そういうの、解らないのね」
「え?」
「返事、欲しいに決まってるじゃない。どんな形ででも、なんも言われないほど...辛いことはないわよ、きっと」

サクラの顔をそっと見る。真剣な眼差し。優しい色。
目の前にいるのは恋敵のはずなのに。サスケのこと、私のことを心底から考えてくれてるみたいで。きゅっと胸が掴まれる。

「ま、だからといって...サスケ君のためにイエス、って応えることはないとも思うけどね。...あ、勘違いしないでよ?何事もアンタの気持ち次第ってこと」
「う......」
「...ふふ、アンタには大抵 負けることが多いけど、恋に関しては私のほうが上手よね!あー、なんか優越感!」

花のようとはあまりいえないけれど、にっこり笑っていつもの調子で言うサクラに、私は心中でホッとした。
気のせいか、物悲しい感じの夜は薄らいでいる。いつも通りの夜空に見える...というのも多分、気のせいなんだろうけど。ふっと空を見上げた時、ちょうどサクラが立ち上がった。振り返ったその顔に微笑まれる。

「...じゃ、サスケ君にイエスって返すわけじゃないのね、カナ」
「...そう...そう、だね。こんないい加減な気持ちではなにも言えない...でも、何も言わないのは駄目なんだよね。...サスケには...なんらかの形で、返すつもりだよ」
「じゃ、まだ私にはチャンスがあるってことよね!!!」

「え?」イイ笑顔で言ったサクラに、思わず私は瞠目してしまった。多分相当な間抜け面だったような。

「なーにその顔?もう私がアタックしちゃいけないっての?」
「いや、そうじゃ................ふふ、あはははっ、サクラらしい!」
「...ちょっと、笑わないでよ!...いきなり呼び出したのは、これだけ言いたかっただけなの。悪かったわ、こんな夜に」
「...じゃ、例えイエスって言ったとしても諦めるつもりはなかったってこと?」
「当たり前でしょ!私のサスケ君への愛をなめんじゃないわよ!」
「...あはは、ふ、あはははははっ!」
「...カナー?」

多分、肩の力が抜けたんだと思う。私はサクラにひっぱたかれるまで笑ってた。痛かったけど、違う意味での涙も、少し。暗かったからサクラには見えなかっただろう。夜で良かったと思う。
サスケには悪いと思ってるけど、正直...サスケの気持ちに気付いた時何よりも気がかりだったのは、...サクラとの関係だったんだ。サスケとはやっぱりこれまでの長い付き合いがある。これからどうなるにしても、ヒビが入ることはないって確信があったから。


「...ありがとう、サクラ」


サクラには、意味がわからないだろうけど。











「.........」
「...............サスケ」
「...んだよ、ウスラトンカチ」

「......なんか...なんて言えばいいのか、私もよくわからないんだけど...」
「...............忘れろ、っつったろ...」
「忘れるにはちょっと......忘れられないよ、やっぱり。サスケの言葉だし」
「っ......そういうの、わざとじゃねぇだろうな」
「え?なにが?」
「...なんでもねェよ馬鹿」

「.........変な感じ、なんだよね。やっぱり今、隣に座ってるサスケは、幼なじみ...だし」
「......」
「特別な存在ではあるけど、やっぱりこれは違うんだろうね」
「...だから、忘れろってんだよ...お前に知られるつもりはなかったんだ」
「でも、」

「でもね、嬉しいって思うよ」
「!」
「イエスとか、ノーとか言えない。そんな簡単には...勝手かもしれないけど、時間が欲しい」
「......」
「......いいかな」

「......駄目とか...言えるわけねェだろ、ウスラトンカチ...」
「...あはは。今日ウスラトンカチって二回目だよ」

「...じゃあ、呼び出しちゃってごめんね。また明日も任務だし、私はもう帰るよ」
「...ああ。......カナ」
「うん?」


「...惚れさせてやる。覚悟しとけ」


「、............うん」


(...今のは、すごく、かっこよかった...な)

 
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