あまりにも暗い雨雲の下には、枯れ果てた木々が生えていた。降り続ける雨に晒されている広大な大地。そこは、ようやく戦が終わったばかりの土地だった。クナイや手裏剣、刀があらゆるところに突き刺さり、数々の武者たちが倒れている。その全てで先の戦の凄まじさを現していた。

「オレたちは...どこにも辿り着けない...」

雨音に掻き消されそうな弱々しい声が届く。長髪を濡らす男ーー助悪朗は、既に気力を失っている。「この先に...道はない」。その体躯に残る数々の傷跡。絶望に近い瞳の色。その助悪朗の言葉を繋いただのは、力つきて仰向けに倒れ伏している獅子丸だ。

「無理だったんだよ...こんな旅は...」

大柄な体格で低く呻くような声。それに更に、木を背にして空を仰ぐ、鰤金斗という名の男が続けた。

「...ここまでだ...。諦めよう...」

三人は同志だった。この悲惨な世界を救うため、風雲に仕え 旅を続けてきた同志。しかし彼らの敵は多かった。今まで何度となく数々の敵と刃を交え、ぎりぎりの戦いを乗り越えてきたーーーだが、彼らはもう、疲れ切っていた。
限界だ。三人の誰もがそう思っていた。しかし、不意に透き通るような声が響いた。

「...道はあります。信じるのです...必ず、探し出せると」

すっくと立ち上がった人影。三人は目を向ける。それは、まさに三人がずっと仕えてきた風雲家の美しい姫君、風雲姫だった。疲労は色濃くあれど、凛とした表情は変わらない。

「諦めないで」

未だに強い希望と未来を見ている流麗な女性。誰だったか、いつしか、「姫...」と呟いていた。
その時、不気味な笑い声が響いた。廃墟の上に立つ人物、それは悪頭魔王。風雲姫らの旅の最終地点である倒すべき相手である。
「魔王...!」獅子丸が呻く。鰤金斗、助悪郎も恨みの籠った目を向けた。「まさかこの嵐も貴様が!」確信のある声を聞くと、魔王は勝ち誇った顔でくつくつと笑う。そしてぎらりと光った眼光に応えるように、姫たちの背後の鎧武者たちが立ち上がった。


ーーー「危ない、風雲姫!」ーー第三者である少年が思わず叫ぶ。


姫の背後に迫った鎧武者。だが、姫は優雅に攻撃を躱し、短刀を以て武者を制す。がらんと鎧が砕け、その一体は潰えたが、武者の数は並のものではない。

「諦めるがいい!!観念するがいい風雲姫!!!」

一つの戦を終えたばかりの姫たちに、また戦う力などあるはずがない。その憶測の元に高笑いする魔王。だが、唸る風の中 真っ直ぐに魔王を見据える風雲姫の瞳に、暗い色など有ろうはずもなかった。「私は諦めない」その声は相変わらず、凛と。

「この命あるかぎり....その全てを力に変え...必ず道を切り開いてみせる!!」

その途端、姫から溢れ始めたのはーー虹色だった。
「七色のチャクラが、燃えている...」呆然と助悪郎が零し、「オレたちもチャクラを燃やすんだ!」と鰤金斗が叫んだ。今も次々と武者たちが立ち上がっているが、それが何だという。護るべき主人の心根に感化されたように、同志たちは頷き合う。

「笑止!!」

嘲笑うように言った魔王が杖を振り回すだけで吹き荒れる風。周囲の瓦礫は呆気なく飛ばされ、鎧武者たちも慌てる始末ーーーだが、風雲姫ら四人には届きもしなかった。七色のチャクラが護っているのだ。
「あああああ!」勇ましい声を上げ、風雲姫は剣を魔王へと向けた。虹色が刃先を伝い、魔王の風などとは比にもならない程の圧力を以てして、それは魔王に到達した。一瞬だ。罵声を上げた魔王はあっという間に彼方に消えていた。七色のチャクラは天へと昇る。暗かった雲は散り散りになり、_後には虹が残った。



「...っ」_少年はその感動を抑えきれなかった。大きく拳を振り上げて歓声を上げたのである。

「ヤ......ッタァアアア!!」

...閉鎖された空間に少年の大声が響く。大慌てしたのは少年の仲間たちのほうだった。異常な程 目立っている彼らに突き刺さる数々の視線......「ちょっと、静かに...!」一人の少女が慌てて嗜めたのだが、それはもう遅い。
次の瞬間には、下から「コラァ!」と怒りに満ち満ちた怒声が上がっていた。

「そんなところで何やってんだァ!!」

「うおわァッ!?」ビクッとして反応した少年...うずまきナルトは、情けなくも落下していた。
ーー何を隠そう、この木ノ葉隠れの下忍・ナルト以下、未だ上でナルトを呆れた目で見つめているうちはサスケ、春野サクラ、風羽カナは、この里外の映画館で何故か天井に張り付きつつ映画鑑賞をしていたのだ。
暫く頭を押さえていたナルトは涙目で怒鳴り返した。

「何だよ、急に!」
「何だよじゃねーぞお前!忍び込んでタダ見しようなんざどういうこった!」
「いやそうじゃねーって!映画見ながら修行してただけだったばよ!」
「修行ぉ!?」

当然ながら怪訝そうにこの男性、映画館の管理人が首を傾げると、ちょうど下りてきた三人の人影_サスケ、カナ、サクラのうち、サスケが一歩前に進み出た。

「券ならある」

サスケの手には確かに四人分の券。まごついた管理人だったが、すぐにサスケの額にあるマークに目をつける。「お前ら木ノ葉の忍者かァ?」呆れたガキどもだと言わんばかりの表情である。食いついたのはナルトだった。

「ヘッ...その通り!オレってばいずれ火影の名前を受け継ぐスーパー忍者!うずまきナルぶっ」
「ちょっと落ち着いて、ナルト」

だが全てを言わせる前に、カナがナルトの口を抑えていた。もごもごと未だに何かを言っているナルトだが聴こえようもない。再び溜め息をつくサスケ、サクラの前で、カナはそのままナルトの頭を抑えて頭を深々と下げた。

「ほんっとうにすみません、すぐに出て行きます」
「お、お?」

......だがそれも遅かった。第七班の他、映画を鑑賞しにきた観客たちの堪忍袋の尾はとっくに切れていた。「邪魔だぞお前ら!」「早く退きなさいよー!!」「どこだと思ってんだ!!」...云々。ナルトの頭には座布団がクリーンヒットし、呆気にとられたカナの手からも逃れて金髪少年は地に伏していた。
当然、クライマックスを終えたからといって映画が途端に終わっていようはずもなく、未だ上映途中...観客たちの怒りは当然。空き缶、ペットボトル、食べカス、その他、様々なものが第七班に投げつけられる中、画面の中の風雲姫だけが凛々しく笑っていた。

"さあ、参りましょう...あの虹の向こうへ!!"

映し出される大きな虹。四つの影は誇らしげに立っていた。
...ただ、そこにうつるゴミの影のせいで、かなり無惨な映画となってしまったのだが。



暗い映画館の外は快晴である。悠々と飛び回っている鳥の声が聞こえる。
その下で、情けなくも映画館から追い出された四人は未だその映画館の前に燻(くすぶ)っていた。その情けない理由を作った張本人は映画の広告をうっとりと見つめている。そこに映るのは勇ましく美しい"風雲姫"富士風雪絵だが、土管に凭れるサクラは蚊ほども目をとめず大きな溜め息をついた。

「はーあ......カカシ先生、遅いわね」
「...いつものことだ」
「まさか任務先でも待たされるだなんて思わなかったけどね...」

愚痴愚痴と。不機嫌顔のサスケに続き、カナも苦笑いを零す。高い塀の上に立つカナはそうしてきょろりと町を見渡した。
そう遠くもない場所にきらきらと輝く海が見える、港町だ。今回 担当上忍であるはたけカカシに下忍たちが連れてこられた場所がここだった。しかしながら、未だに任務内容を詳しく知らされてもいない...のだが、七班の一員、ナルトはさして気にしてもいないようである。

「良かったよなぁ...さっきの映画...。オレすっげー感動したってばよ...」
「なーに言ってんのよ!アンタが大騒ぎするから、最後まで見られなかったんじゃないの!助悪郎役のミッチー様のお姿を、もう少しこの目に焼き付けておきたかったのに...!」

今回の映画でサクラの心を射止めた美男子がいたようである。だが、そこで我に帰ったサクラは「あっもちろんサスケ君が一番なんだけど!」といじらしく言う...とはいえ、サスケは全く相手にしていないのだが。ぽつりと呟いたのはナルトだった。

「...サクラちゃん、相変わらず男の趣味が悪いってばよ」
「なんですってェ?」
「いいいいえ、なにも!!」

途端に鬼の目に変わったサクラにナルトはたじたじだ。
塀の上でそんな様子を見ていたカナはまたも苦笑を零し、トンと土管の上に降りた。そこに座っていたサスケは肩を竦めてカナを見上げる。

「なんとかと煙は高いところが好きっていうぜ」
「...サスケ...いくらなんでもそれがわからないほどバカじゃないんだけど...怒るよ?」
「そりゃ珍しいこったな」

大層楽しげな様子のサスケ。言ってみたものの得意ではないカナは、もうという言葉と共に三度目の苦笑。
ナルトはと言えば、サクラの逆鱗に触れかけたことに息を零し、もう一度 広告を見上げていた。

「...どこかにいねーかなァ...風雲姫みたいなお姫様...。あんなお姫様のために戦えたら、忍者も本望だよな...」

夢心地の中でナルトがぼやけば、サスケが冷たい目で現実を叩き付ける。「くだらない...所詮 映画の話だ」。夢も何もないサスケの台詞はいつも通り正論だが、いつもはそれに噛み付くナルトは今ばかりは何も言わない。本当に浮かれきっているようで、サクラは呆れ返った目だけを向けた。それからナルトと同じように凛々しい風雲姫を見上げる。

「それにしても...カカシ先生。どうして、任務の前にこの映画を見ておけ、だなんて言ったのかしら」
「しかも、珍しく自腹をきって、ね。カカシ先生がわざわざ無意味なことをさせるはずないとは思うけど」
「...じゃあ、任務に関係あるっていうの?風雲姫が?」
「いや...それもどうかな...」

ーーーそう、カナがサクラに曖昧な笑みを返してすぐのことだった。突然、塀の向こう側から尋常じゃない音が聴こえたのだ。
まるで、馬の、蹄のような。
バッと塀から遠ざかるナルトたち。それから数秒もなかった。


まさに映画からそのまま飛び出てきたような姫ーーー風雲姫が、白馬に股がって現れたのだ。


パカラッ...塀を飛び越えた馬は弧を描いて地上に降り、あっという間に七班の視界から遠ざかっていく。その間、姫、もとい富士風雪絵の視線が七班に注がれることはなかったし、七班の誰一人すぐさま叫声をあげることは叶わなかった。ようやくサクラがリアクションをとれたのは、姫が消えてから数秒経ってのことだった。

「うそっ風雲姫...!?」

そして、すぐさま予測して行動を起こしたのはカナーーーナルトとサクラの腕を掴み、後方に跳ぶ。
うわっとナルトが声をあげたのも束の間、そこにあった巨大な門が開き、今度は黒い馬の軍勢が姿を現した。そして白馬と同じ方向へ走る、走る、走るーーーその黒馬に股がっていた連中は、またも画面からそのまま飛び出してきたかのような、鎧武者そのものだった。それが七班の視界から消えたのもあっという間のことだ。

その場に残ったのは、嫌にしんとした空気だった。

「............何事?」

とりあえずナルトとサクラの腕を放したカナが呟く。が。一先ず落ち着いて状況整理、というのは許されなかった。頭に血を上らせたナルトとサクラが真っ先に走り出していたのだ。二人は姫や武者たちに負けず劣らずのスピードであっという間に走り去っていた。
残されたのはカナと、サスケの二人のみ。カナの横に並んだサスケはこきりと首を鳴らした。

「止めるだけ無駄だな。サクラはともかく、ウスラトンカチは聞きゃあしない」
「...そうかも。サスケは?」

どうする?の意でカナが問えば、サスケもナルトたちと同じように一飛びして近くの屋根の上に乗った。来いよ、とカナを顎で促す。

「映画で使ってた鎧武者を被ったヤツらが悪人だとは思えねえが...今はあいつらを追いかけるしかねェだろ」

「...だね」。笑ったカナもサスケに倣って屋根に飛び乗る。そして、二人して走り出した。



風雲姫は周囲を全く気遣うことなく馬を走らせていた。
勢いづいた白馬は既に散々な被害を生み出している__出店の商品にぶち当たり、そこら中の瓶を割り放題、垂れ幕を引っ張って破り放題...馬の顔に引っかかったその幕を姫は後方に投げ捨てた。姫と白馬の後ろには今もまさに鎧武者たちが迫っていた。

そしてその更に後ろを屋根伝いに追いかけている姿があった。ーーナルトだ。
空色の瞳は武者たちを監視するように目配りをする。すると、その視界の端で鎧武者たちが何かを伝え合っていた。何かしらの作戦が練られたことなど全く知らない姫はそのまま突っ走るばかり。だが気づくのも遅くはないーー挟み撃ちにされたのである。咄嗟に手綱を引いた風雲姫だが、そう機敏に方向を変えられるはずもなく、武者の一人はすぐさま網を投げつけた。姫に逃げるすべはない。_だが。

どこからともなく現れた手裏剣が、その網を容易く切り裂いていた。ハッと見上げる姫と鎧武者たち。今まさに落下最中である金髪小僧ことナルトだ。危機一髪で姫を救ったナルトは印を組み、「影分身の術!」と自分の分身を作り出した。それに気を取られる武者たちーーだが、姫はチャンスだとばかりに再び馬を走らせる。武者たちの数人はナルトの影分身によって取り押さえられていた。
しかし、鎧武者たちの数はまだまだある。

「追えッ逃がすな!!」

倒れている武者たちを乗り越え、そう叫んだのは眼鏡をかけた男。切羽詰まった様子で風雲姫を追いかけていく。
その男を先頭として走っていく第二の鎧武者軍勢を見ながら、ナルトは自信満々に口元を上げた。

「風雲姫は、オレが護るんだってばよ!!」

そうしてオリジナルの彼が走り出せば、役目を終えた影分身たちも消えていった。
「ったく...」と、そんな"ウスラトンカチ"を見て溜め息をついたのは一度立ち止まったサスケである。その隣には、カナ、サクラ。

「どうする?サスケ君、カナ。あのままじゃいつかは...」
「...あの馬鹿が頭を使うなんて到底思えねェしな」
「(酷い言われよう....)...じゃ、フォローするのは私たち、だね」

サクラ、サスケ、カナと三拍子でそれぞれ言った三人は、やるべきことを言わずとも分かり、"鎧武者たちを"追った。


___そしてその数分後。鎧武者たちが気付きようもない手口で見事、三人は彼らを罠にはめたのである。


風雲姫は、ややこしい道を曲がりくねりながら、まだ必死に追っ手から逃げていた。
小さな階段を白馬が駆け下りていく。その後ろに迫るは何十という鎧武者たち。最後の数段というときに、風雲姫は手綱を引いて一気に飛び降りさせた。だが、一人の鎧武者が、白馬が今にも降り立とうとしているところに小瓶を投げつけていた。
中に入っているのは濁った液体ーー油は小瓶が割れると同時に飛び散り、地面に広がった。それに足を取られた白馬は見事に滑り、こける。もちろん騎馬している姫も同様だ。振り落とされた彼女が無防備になるのを見るやいなや、眼鏡の男が「今だ!」と指差す。それを合図とばかりに武者たちは一斉に飛びかかった。

多勢に無勢。最早 どうすることもできず、風雲姫は抑えられてしまう。姫が大勢の鎧武者に捕らえられた光景を見て、眼鏡の男はようやく安堵の息をついた。

「やっと捕まえたか...」

__だが。その安堵は数秒としないうちに消え去っていた。
何故なら、取り押さえられている"姫"が急に思ってもみない力で反抗しだし、オマケに、姫と馬、一人と一頭が同時に煙に包まれたからだーーー風雲姫は、桃色の少女・サクラに。白馬は、銀色の少女・カナに。武者たちが追っていたはずの風雲姫の姿はどこにもなかった。

「なっ...なんだキミたち!」

___そして。眼鏡の男が呆気にとられているうちに、男の乗る馬の上に立ったのが、黒の少年・サスケだった。サスケはその男の首に手刀をあて、男は呆気なく落馬する。どさりという音が耳に入り、鎧武者たちは戦(おのの)く。
加えて、鎧武者たちの中心から少し弱気ともとれる声が響いた。

「...ちょっと失礼」

未だサクラと共に押さえつけられていたカナだ。その途端だった。ーー少なくとも鎧武者たち程度では耐えられないほどの、突風が吹き荒れていた。「うわぁあっ!!」_鎧の中から人の叫び声が聞こえてから、方々に散った鎧のがしゃんという音が響いた。
やっとのことで解放されたカナは大きな溜め息をついた。...そして、もう一人の少女はというと。

...鎧武者が立ち上がって逃げる方向には、腕組みをして立っている怒れる彼女・サクラがいた。

「しゃあぁあああああああああ!!!」



・・・・・その形相は、鬼といっても過言ではなかった。募った怒りだけで武者たちを薙ぎ倒していくサクラに、今、誰が声をかけられるだろうか。
当然のことながらそれをできないカナは、蚊帳の外で自分の服の埃を払ってから、冷や汗をかいてサクラを見つめているサスケに近づいた。「手加減、ちゃんとした?」地に落ちている眼鏡の男性を見てカナが言えば、「程々にな」とサスケは返す。

「それよりもナルトだ。あのウスラトンカチ、脇目も振らずどっか行きやがって...」
「...カカシ先生に何も言ってないしね。今日こそ、カカシ先生に遅刻を咎められる私たち、って構図ができちゃうかも」
「............死んでもごめんだな」
「確かに」

深々と同意するカナ。普段から遅刻魔の上忍に何を言われたいと思うだろう。遠い目をしたカナは気を取り直し、「じゃあ」と切り出した。

「とりあえず、私がナルトを迎えにいってくるよ」
「.............................迷う元だ。やめとけ」
「...その沈黙が妙に痛いです」

相も変わらず方向音痴という病気を治せていないカナは、サスケの哀れみの籠った視線を前に心中で涙を零した。驚くほど方向感覚を持ち合わせていないカナは、知らない場所ではあっという間に迷子になるというなんとも悲しいレッテルを貼られている。

「...いやでも、さすがに地図持ってるから。大丈夫」
「............」
「...!行ってきます!」

疑わしそうなサスケの視線から逃れるように、カナは一瞬で消えた。その場に残されたサスケはやれやれと首を振る。
果たしてカナの方向音痴は地図云々で解決できる話だったか。本人のあまりの無自覚っぷりにいくら長年の付き合いであるサスケでも呆れることこの上ない。「(...まあ、迷ったら紫珀でも呼ぶか)」...今更呼び戻せない幼なじみを思って、サスケは改めて状況を確認した。

既にサクラは一人で大半の武者たちを締め上げていた。



その数分後、その場には鎧を剥がされた大勢の男たちが少年少女によって縛られているという、なんとも情けない光景がそこにはあった。
遠慮なく相手の背中を足で抑えながら力一杯縄を引くサスケと、ぎゅっぎゅと締め直すサクラ。男たちはもの凄く途方に暮れた顔をしている...。

「サスケ君、そういえばカナは?」
「アイツなら、さっきナルトを探しに行った。迷いさえしなけりゃすぐ戻ってくる」

最もだ。彼女の方向音痴を知っているサクラは、そりゃあ無理に違いないと思って乾いた笑いを漏らした。
その時、不意に別の声が聴こえた。「ありゃりゃぁ」などという、なんとも気の抜けたものだったが、それは間違いなくサスケたち第七班の担当上忍。「カカシ先生!」。サスケとサクラだけでなく、元鎧武者たちもカカシを見上げる。もう何かに縋り付くような目である。階段の上で状況を確認したカカシはぽりぽりと頭をかいた。

「なーにやってんの、お前ら」
「...暇つぶしだ」

そう答えたサスケは、パンパンと埃を払う。...が。
その途端、サスケとサクラの仕事は姿を消していた。カカシがぱっと消えたかと思うと、一瞬にして全員の手を縛っていた縄をほどいたのだ。...最後にサスケの前に姿を現して、カカシは「いやぁ、どうもすみません」と頭を下げた。...それは無論 サスケに対してでなく、今サスケがまさに縛っていた男への謝罪だった。

「え?」

ぱちくりと目を瞬いたのはサクラだ。男に手を貸したカカシは、すぐに応えた。

「この方は今回の任務の、依頼人だ」

振り返ったその人物は、最初にサスケが手刀を加えた眼鏡の男だった。そのガラス越しに見える目はなんとも人の良さそうなものだ。
この時、サクラは初めてとんでもないことをしたということに気付くのだった。

 
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