もしサスケと仲良くなかったら


見えなかったわけでは、なかった。

『___!』

流れるような無駄のない動きは、オレの視界にちゃんと入っていた。

『ありがとうございました』

けれど痺れたように止まってしまった、

『......しょ、勝者、』

惹き付ける銀の髪色と、澄んで、それでいて深い暗闇を沈めているその両の瞳のせいで、


『..............風羽、カナ』


オレは初めて、同期のヤツに敗北を味わわされた。


噂は聞いていた、成績優秀者とは知っていた、顔も数十回と見たことがあった、
けど、
話したことはなかった、目を合わしたことはなかった、意識をしたことはなかった、興味というものがまるでなかった、
なにより、

"オレと似た目をしている"などとは、だれからも、聞いたことがなかった。
そう、一切目の前のことに捕われず、目の前のことなどには本当の意識はなく、見ているのはただ、もっとその先の───

だがその時、その瞳はオレの目を一瞥したのちに、何事もなかったかのような顔になりながら、
弓なりになった。 

その瞬間吹き上がったのは、熱く、深く、燃え滾る感情。




「ふざっ、けんな......!」

その憤りは数時間経った今も消えない。それどころかどんどん強く濃いものと変貌していく。これっぽっちも薄れることはない。自身の顔が怒りに染まっていることが自覚できる。
そのせいか、数時間前のあの組み手終了後からは寄ってくる奴らは極端に少なかった。鬱陶しいくノ一共が視界に入らない。いつもならそれだけで気分もいいはずだが、今はそれまで一つの怒りに呑み込まれている。今までに感じたことのない、"アイツ"への怒りとはまた種類の違う、それ。

正直、どういう方向への憤りかはわからない。だが、いいようのない不快感。わだかまり。鬱積。
それをどこかへ当てないことには気がすまない、それが現状で、授業が全て終わりすぐさま乱暴に席を立ったオレは、迷いなくある場所へと向かっていた。その際 背後から聴こえたひそひそと話す声も、いつもなら一睨みをするところだが、それをする時間さえも惜しんで。

風羽カナ。

組み手の対戦相手が決まった時、オレはクジに書いてあるその名を見て若干高揚した。成績優秀者だとは聞いていたからだ。しかし、すぐにそれも落ち込んだ。くノ一だという事実が後からついてきたからだ。
その時 同じ空間にいただろうその風羽カナを見もしようとは思わなかった。所詮、くノ一。大半がそうであるように、自分が何故アカデミーにいるかも忘れて、恋愛如きに身を注いでいる奴ら。どうせそいつも、成績優秀者と言われているとはいえ、それはたまたま才があっただけで他と同じだろうと思った。そんなヤツに、このオレが負けるわけがないと。
過信した。

だが自分自身の過ちを認識していても、それでも、その扉を力加減なく開けることに変わりはなかった。


ガンッ__!!


廊下に響いた盛大な音。しかしその廊下にもたまたま誰もいない今、静かに開けろと注意する教師の声もはやし立てる生徒の声もない。扉の上にかけてある札には、"くノ一組"の字。
都合の良いことに、くノ一のほぼがそこにはいなかった。終令を言い渡され、早々に帰ったのだろう。くノ一組に遅くまでアカデミーに残り 鍛錬や勉強をしようなどと思うヤツはほとんどいない。
ただ一人を、除いて。

それは今日 同期の名も知らないヤツに問いつめて聞いた情報で、それは、正しかった。オレの目的は、そこに座っていた。黒板に一番近い席で、分厚い図書を広げ、前髪を耳にかけて。僅かに驚いた表情で、オレと視線を合わせて。そして、口元に弧を描く。

「えらく騒がしい教室の入り方だね、うちはくん。クールかつ冷静って噂を聞いてたんだけど」

歌うような静かな声。驚いた表情は一瞬にして消えていた。オレを瞳に映し、それからようやく気付いたように時計を見る。

「......あれ、終令......終わってたっけ?あはは、いつものくせなんだ。本を読んでると周りの音が聴こえなくなるの。前はそうやってるとみんなが教えてくれたんだけど、何十回もしてるとさすがにね。あ、ごめんねうちはくん、勝手に喋っちゃって.........それで、くノ一組に何の用なの?明日は抜き打ちテストだっていわれたばかりなのに。あ、でも学年トップのうちはくんなら、別に今更勉強しなくてもいいのか......うらやましいなあ」

一定の音量で、一定の調子で、一定の感情で。屈託なく笑顔している相手に、オレは再びかっと体が熱くなるのを感じた。理由が口にできない、だが確かな感情が蔓延り、どんどん熱を増していく。未だ机を動かずにとっつきのないことを喋っている"風羽カナ"は、そんなのに気付いてもいないのだろう。風羽の話し声はそれ以上、オレの耳に届かなかった。
オレはようやくこの場で口にした。

「"その顔をやめろ"」
「!」

ぴたりと、ヤツの声も止まった。全てが一瞬、かたまった。

「"オレともう一度勝負をしろ、風羽カナ"」

数時間前からずっと考えていた言葉が二つ。ようやく形になったそれらはしっかりと相手に届いた。
風羽の顔はもうわざわざ確認しようと思わなかった。演習場に来い、ぽつりと呟いたあと、オレは苛ついた感情を足音に込めてその教室を出たからもう確認しようもなかった。
ヤツは必ず後から来る、と根拠もない確信を持っていた。



あの組み手の後、寄って来てあからさまに大はしゃぎしてきたのはクソムカつくドベだけだった。

『よーサスケェ!!へっへーん、オレってば、お前が負けるとこなんて初めて見たぜ!ざっまーみろってんだ!』
『黙れウスラトンカチ......絞められてえのか』
『いつものお前らしくなかったよなあ?カナちゃんは正々堂々真っ向から行ってたっつーのに、いきなり止まっちゃってよォ。まさか、カナちゃんがあんまりにもカワイーから見惚れちゃったとか、』

ナルトがそう言った瞬間、オレはヤツの胸ぐらを掴んで地面にたたき落としていた。幸い周りには既に誰もいず、ぎゃーぎゃーと騒ぐ者もいなかった。
本気で行動に移されるとは思っていなかったのか間抜け面を晒していたドベ。自分自身に舌打ちして、オレはすぐにヤツを放した。明らかに悪いのはナルトだったが、いつもならドベの戯言と流す冷静さを失っていたことに虫酸が走った。

『ふざけたこと言ってんじゃねェ......それ以上言うと本気でやるぜ』

風羽カナ、その容姿。汚れのない銀色の髪に透き通るような茶色の瞳、白い肌に身長に見合った体つき、整った顔に───そして笑顔。
組み手前までは自身の頭には全く無かったそれを、組み手で向き合った時に初めて知った。なるほど同期の奴らが騒いでいるのも納得だった。組手の前に「お願いします」と言ったその声にも、他のくノ一にはない落ち着いた静かさを感じ、好感を持てるほどだった。
だから、ナルトの言ったその女子への褒め言葉を否定するつもりはない。だが、オレのあの組み手で固まった理由は、そんな単純なものではない。そんな理由で片付けられるはずもなかった。

『.......ちぇっ』

目を放しているうちに、ナルトはむくりと起き上がったようだった。いつもなら突っかかってくるだろうが今回ばかりは自分に悪気を感じているようだった。それでも、悪ィ、と呟いた声はどことなく不満そうだったが。

『別に本気で言ったわけじゃねえってばよ』

続けてそう口にしたナルトにオレは疑念の目を向けた。どこからの話か、掴めなかった。そしてナルトはそのままオレに告白するように、いきなり言った。

『それにオレってば、ほんとはカナちゃんのこと、苦手なんだ』

ナルトに対して苛ついた心も忘れて、僅かに目を丸めてしまうくらいに衝撃的な言葉だった。



「ここまで付いてきといてなんだけど、断ってもいいのかな?この勝負は」

演習場の扉を背後で閉めた風羽は、オレに怒鳴られたにも関わらず、笑顔を絶えずにそう言った。無論、オレの答は否。今にも怒鳴ってしまいそうな感情を抑えて口を開ける。

「付き合ってもらうぜ......借りは返す。組み手のように一本勝負じゃねェ、なんでも有りの勝負。どっちかが動けなくなったら負けだ」
「......勝負が決まって、なんになるの?ここで再戦をしたとしても、私が勝ったって事実は変わらないし、成績表も変わらないよ」
「んなことを考えて再戦をしようってんじゃねェ。つべこべ言わずに構えろ」
「横暴だなあ。格好いいからってなんでも許されたりしないよ?......あ、でもそういうところを含めて人気なのかな、うちはくんは」
「そういうお前は、穏やかかつ物静かで常に"笑顔を振る舞ってる"から人気を誇ってるらしいな、風羽」

風羽は何も応えなかった。オレもそれ以上その話を続けるつもりはなかった。

「構えろ」

もう猶予は与えない。オレは一つも風羽から目を放さない。その表情から。
風羽はやはり、"笑顔から免れよう"としなかった。緩やかに笑んだ状態のまま構えを作る。その様はまるで戦闘を楽しいとでも思うかのような戦闘狂に見えなくもない。だが、風羽から滲み出る雰囲気はそれとは全く違った。

「何を言っても聞き入れてくれないか......しょうがないから、付き合うよ」
「とっととかかってこい......」
「......じゃあ」


クナイ。それだけを、理解した。

「!!?」

だが、オレには当たらなかった。


「危ない危ない......でも、わかったでしょ?"無理だよ"」


授業の組み手の時とはまったく比べ物にならない、スピード。
一瞬で飛んできたクナイは一瞬で風羽の手に捕らえられ、そしてその風羽はオレを既に通り過ぎている。
ということを理解することすら、オレにはすぐにできなかった。振り向けば、風羽はこちらを見ようともしていない。

「ごめん」

そしてそのまま、謝った。
急に、いきなり、唐突に。理由もなく、わけも言わず。簡単に。

「てめェ......」

ぽつりと、意図せず言葉が漏れた。やはり風羽は振り向きもしなかった。オマケにそのクナイはもう、手の中にはない。


「ふざけんじゃねえ!!」


オレの放ったクナイが風羽に飛んだ。クナイが風を切る音だけが耳に残った。他は何も。

「ふざけて、ないよ」
「!」
「ふざけて謝ったつもりはないよ?本当に申し訳ないって、思ってるよ。だから、もうこんなことは」

更にクナイを一本、手裏剣を二枚放った。だが、変わらない。苛ついた。冷や汗一つ流さず、この距離で髪の毛一本すら切れない。風羽は首を動かしただけだというのに。
風羽カナは、オレより圧倒的に、強いのだと、知った。

だが、だからなんだという?

「てめェは......オレが何故怒っているかすら分かってねえだろ」
「......」
「オレの顔を見て......オレの雰囲気だけで、怒っていることだけを判断し、それを落ち着かせるためだけの言葉だったんじゃねえのか」
「......否定は......できないな」
「そしてそんな行為が更にオレの怒りを高ぶらせてることすら分かってねェ!!」

風羽はようやくバッと振り向いた。だが、オレはその更に背後にいた。だが、その一瞬の無駄な行動があってもクナイは風羽に当たらなかった。
すぐさましゃがんだ風羽は、オレの足を払った。体勢を一度崩しはするも片手を地面について蹴りを出す。女にしては強すぎる力がそのオレの足を引っ張った。飛ばされる、が、焦らずに持てるだけの手裏剣を放って正確に狙う。
一枚を残して風羽はそれらを弾き、その一枚だけは風羽の背後の木に突き刺さった。瞬間、オレは印を組む。

「火遁 龍火の術!」

その一枚に引っ掛けておいたワイヤーに点火する。火の道しるべはワイヤーを伝い 風羽へと届く、だが、それを見届ける前にオレは着地してクナイを手に背後へと振り返る───キィン、と甲高い音がし、オレも、そしてそこでクナイを構えていた風羽もそれぞれ後方に跳んだ。

何度も、何度も───そんな、無駄と解りきっている攻防を、重ねた。
無駄だった。勝負は分かりきっている。
理由は知らない、だが、風羽がオレより遥かに強いらしいということは、ついさっき、知ってしまったのだ。

風羽は、強く。強く、強く。だが、それをひた隠しにして。これまで学年トップをとってこなかったのだ。そしてオレはそんな風羽の存在すら曖昧にしか知らず、それで学年トップだと思い込んできたんだ。

何十回と投げたクナイは既に自分のポーチの底をつき、しかし丁度良く大木の付近で着地したオレはそこに突き刺さっていたそれを抜き、また何十回目かの動作をした。
風羽もそれに対して何十回目かの動作に倣い、ほぼ動かずに避ける。
だけではなかった。


「もう、やめてよ!!」


避けたクナイの穴に指を通し、一回 回したかと思うと投げ返してきたのだ。
オレはハッとして避けたが、髪がぱらぱらと数本落ちたのが視界の隅に映った。風羽の声が耳に木霊した。

"もう、やめてよ"。

その本人は一つも息を荒げず、だが何故か眉を寄せていた。
一言でいえば、辛そうな表情、だった。笑顔が消えていた。......だが。

「誰が......」

風羽に聞かそうと思ったわけじゃない。聴こえたかどうかすら怪しい。

「誰が、やめるか」

オレは再び呟き、そしてまた、地を蹴った。


同じことをまた繰り返す。ひたすらに、ただひたすらに。
そのうち───オレの頭に過って行った感情は、風羽を一発殴りたいという、乱暴なものではなくなっていった。ただもう、こんなにも強いコイツの不意をつければ、それだけでもう十分だと。勝てないのはもう分かったから、なら、せめてと思った。

だが風羽はオレの攻撃を悉く防御し、逆にカウンターを狙ってくる。オレの攻撃は全然風羽に届かない。
攻撃は全て、まるで風羽は脳で気付く前に体が反応しているかのようだった。
そしてその一瞬の顔は───やはり、オレそっくりで。

「......何に怯えてるんだ」
「!」

思わず漏れたオレの声に、風羽はハッとして大きく目を丸めた。それだけで、十分だった。
風羽の不意を、


「............え」


殴ったわけでもなく、蹴ったわけでもなく、クナイで切ったわけでも手裏剣を放ったわけでもなく、
オレが、両腕を伸ばした、それだけで。

「な......なに、なにしてるの......うちはくん」
「知るかよ」
「し、し、知るかって......ちょっと待って、ねえ、う、うちはくんっ」

攻撃するための悪意と敵意を全て払ってとったオレの行動は、まさしくビンゴだった。
風羽は動かなかった否、動けなくなった。それまで反射的に避けたり受け身をとったりしていたことができなくなり、風羽はオレに不意を完全につかれていた。

風羽の体は今や、オレと地面に挟まれていたのだ。
逃げ道をオレの手によって封鎖され、風羽はこれまで見たことがない取り乱し方をしていた。

「う、うちはくんって、こんな、軽々しく、ね、ねえッ」
「......」
「なんで黙って、ていうかほんと、手を放してくれないと、ほ、ほら、春野さんとか、お願い、早くはなれ......!?」

無言で頬を抓ってやると、風羽はもう半ば呆然としていた。オレは、自分の心がようやく怒りから解放されてきたことに気付いた。

「......それがお前の、本当の表情だな」

風羽は目を見開く。恐らく否定するつもりで開いた口は、そのまま固まっていた。

「......ナルトが言ってた。お前はいつでも笑ってる、けど、それは本当の笑顔じゃないと分かるんだってよ。だから苦手だ、読めないから、とも言ってた」
「うずまきくんが......?」
「ま、それに気付いたのは多くともナルトとオレくらいだろ......理由はお前にだって分かるだろ」

風羽はようやく落ち着き、大人しくなっていた。慣れないことをされて取り乱していたのも消え、笑顔がない、風羽カナの本当の表情のままで。
オレも風羽の頬を放してやり、ふざけた体勢をやめて風羽を引っぱり起こしてやる。地面に座り込み、二人、向かい合う。
それから風羽は俯いて口にした。

「......孤独」
「......ああ、そうだ。一旦それを味わった者は否が応でも他人の反応、表情、行動に敏感になる」

ナルトは生まれた時から。オレはつい数年前から。......しかし、コイツはいつからなのか。

「お前も"そう"だということは、知らなかったけどな」
「......そりゃ、そうだよ。本当に小さいときの事件だもの......同じ世代のうちはくんたちが知ってるわけない。知らされることもあんまりないだろうから......うちはくんのところの事件よりも、さらに、ずっと前のこと」
「だから......そんなにガキの頃から修行を詰み続けてきたから、お前はそんなにも強いのか?」

風羽は小さくかぶりを振った。

「......自分が強いだとかそうでないとかはよくわからない......今の私は、ただの、結果なんだよ。もう二度と、と思ったから、だから、」
「なにが、もう二度と、だ?」

オレはただ、分からなかったことを聞く。嘘ばかりを貼付けてここまで来た風羽は、今ばかりはその仮面を剥いで、力無くぽつぽつと言うばかりだった。

「......もう二度と味わいたくなかった。周りの人が......大切な人が、私のせいで傷ついて、死んでしまうなんて感覚なんて」
「......だから終令中も本読んでるとか言ってたのか。今まで強さを隠してたのも一つの手だな。他人を近づかせねえように......"大切な人間"を作らねえように」
「......」
「じゃあ、何で無理やりな笑顔を貼付けてたんだよ」
「......私を引き取ってくれた三代目様に、心配かけないようにだよ。笑ってたら元気そうに見えるでしょ......」

言った風羽は、また笑顔を浮かべてみせる。オレやナルトにとっては何の意味もない、むしろ偽物くさ過ぎで気持ち悪い笑みを。三代目はこれに気付いてたんだろうか。だが気付いていたとしても、三代目はオレみたいに直球で物を言えなかっただろう。言ってしまえば、オレは今、無理やりコイツの化けの皮を一気に剥がしたんだ。
かさぶたを剥がした。風羽は、暗い目でオレを見ていた。

「うちはくんは、何で怒ってたの......?」
「......最初はただ腹が立ってただけだ。お前がこれまで強さを隠してたことが。しかもお前は、オレに勝った瞬間、その気持ちの悪ィ笑顔でオレを見やがった」
「......そっか。学年トップの人と当たって、思わず力試しがしたくなったんだ。ごめんね」
「だから、そういうのやめろっつってんだよ。相手に苛立たせるだけの謝罪を吐くな」
「......」
「お前、笑顔とか言葉だけで全てが解決するって思ってんだろ。今まで人と関わろうとしなかったからだな。オレも言えたこっちゃねえが、お前よりマシだと思うぜ」

図星を突かれたのか、風羽は俯く。さらりと流れた銀髪が風羽の顔を隠した。その肩が震え始めている。オレは暫く風羽が何かを言い出してくるのを待った。
オレを最初に苛立たせたのは風羽のほうだが、これだけ好き勝手言われて何も思わないわけがないだろう。案の定、再び風羽が顔を上げた時、そこにあったのは敵意を匂わせた視線だった。

「なんで......?」
「なにが」
「なんでそんなこと言うの......?いいでしょ、別に......!うちはくんには関係のないことだよ!今の今まで、なにも関わってこなかったのに!」
「だが、もう関わった」

偶然に、関わることになった。そして知った。同じ目をしていることを、嘘の笑顔で取り繕っていることを、周りと距離を作っていることを、本当は強いことを、それを隠していることを、そして、その諸々の事情のせいで他人との付き合い方を把握していないことを。

理解できないわけではなかった。むしろ十分にできることだった。
オレにとっては、今オレを突き動かしているものは全て兄への復讐心のみ、他は全て足手まといで無駄なだけ、関わりを持つだけ面倒くさい。だからあの事件の日からオレはなるべく他のヤツらとつるまないようにして、くノ一がクールと呼ぶ性格を振る舞ってきた。余計なつながりを増やさないようにと。できるだけ。
だから、分かる。

「別にお前を更正させようとしてるわけじゃねえよ。オレはただ、オレが苛立ったから言っただけだ。それ以上のことは確かに関係ねえよ。変えてやる義理もねえしな」

座り込んだままの風羽の前で、立ち上がる。ぱっぱっと砂埃を払って、それから改めて風羽を見下ろした。
未だに睨んできてるその瞳は、しかし、オレが手を差し出した途端に目を丸くした。

「この勝負は、オレの勝ちだ」

ポカンと動けなくなったのは、圧倒的に強かったはずの風羽のほう。
コイツはきっと今まで、敵意や悪意には敏感になってた代わりに、その反対のものにはうまく反応ができなくなってたんだろう。だから、邪念さえ払って接してやれば、コイツはうまく動けない。思うツボに嵌るのは風羽のほうだ。

「早く手ェ取れよ」
「......な、なにを考えてるの?」
「......三代目がお前に接する時、三代目はお前に何か見返りを求めてんのか?違ェだろ。それと同じだ」
「で、でも......三代目様はそりゃ、優しいけど」

暗にオレは違うと言ってるらしい。否定はしないが、また苛つきが沸く。手を差し出したまま、「じゃあ見返りを求める」と言ってやった。

「お前を立ち上がらせてやるから、これからオレの修行に付き合え」
「えっ」
「それとその時は気持ちの悪ィ笑み貼付けんな。無表情でいい。二度とオレの前でヘタクソな笑い方すんな」
「そ、そんなの......別に、自分で立ち上が、」

その反応は予想済みだ。それを見越して、オレは自ら風羽の手を掴んでいた。手を握られて風羽の顔が強ばった瞬間、有無を言わさず立ち上がらせる。素の間抜け面がそこにあった。

「お、横暴!」
「勝手に言っとけ」

フン、と笑みが零れる。存外自分がコイツと接することに楽しんでることに気付いてしまった。
手を掴んだまま、校舎のほうに歩き出す。引っ張られながらついて来てる風羽が何やら抗議の声を上げているが知ったこっちゃない。この後はすぐに修行に付き合ってもらうんだから、逃がすわけにはいかねえよ。

この日オレは、一羽の兎を捕まえた。



(後書き───サスケと幼い頃に出会っていなければここまで性格も違ったかもしれないというIF話。それだけ本編でのサスケの存在が大きかったということを書きたかっただけでした。)

 
|小説トップ |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -