もし北波が木ノ葉にいたら


「よ、姫」
「あ、北波さん」

木ノ葉の抜け道を通ってきた時にいきなり声をかけられ、私はゆっくり振り向いてその姿を確認した。
心情の読めない薄い笑みを浮かべ、右手をひらひらと振っている彼は、いつからか木ノ葉にやってきたらしい人で、私をいつまでも「姫」と呼ぶ、得体の知れない人だった。苗字は知らない。彼は「北波」としか名乗らなかった。

「珍しーな、任務はねーのか?」
「はい、今日はお休みです。そういう北波さんは?」
「オレだって毎日毎日任務やってらんねーよ、たまにゃあ休まねーとな」
「お疲れ様です。......で、私になにか?」

私の質問に、彼はニッと端正な顔で笑うだけで。何も言わなかった。ぐしゃぐしゃと撫でてくるのはいつものことだ。私は不満に思って彼を見上げる。
私の目に映るのは、私のものより少し濃い銀色の髪と、同じく私のよりも濃い茶色の瞳。他人に言われるまでもなく自分でも思う。私とこの人は色々似過ぎている気がする。こうやって二人で歩くことは多いわけじゃないけれど、たまに近所の人に「あらカナちゃん、お兄さんがいたの?」と言われることもある。
他人から見たら雰囲気までもがどことなく似ているらしい。それに彼は、土遁しか使おうとしないけど、風遁も使えるはずだ。そんな空気を放っていることを、特殊な一族の私はどことなく感じてしまう。

「私に何か用があって来たんじゃないんですか?」
「別に?たまたまだよ、たまたま。木ノ葉はそんなに広かねーだろ?」
「......こうもしょっちゅうたまたま会うとも思いませんけど。大体こんな抜け道で」
「そういうお前はどこにいくんだ?」

話を逸らされたことに気付く。けれど追及したってこの人は何も言わないだろう。飄々とした態度で軽く受け流す人だ。
心中で溜め息をついた私は、一応「待ち合わせ場所に」と答えておいた。もちろん彼は「へえ、誰と?」と聞いてくる。自分は何も言わないくせに人のことは気になる人なのだ。

「サスケと。久々に一緒に鍛錬しようかって話になって」
「休みの日くらい大人しく休めよな。体壊すぜ」
「平気ですよ。任務はいっつもDランクのものだし、任務によるけど、そこまで疲労しないし。こんな時じゃないと自分の技を磨けないんです」
「こんな時じゃないとできないことは、他にもあるだろ?例えば、ソイツとまったり甘栗甘にでも行くとかさ」
「甘栗甘にならいつもみんなで行きますけど」

任務帰りにでもそのくらいの時間はあるし。
そう言えば、北波さんは呆れるように首を振った。なんだというのだろう、彼の言動に一々呆れたくなるのはこちらだというのに。北波さんはまた私の髪をグシャグシャにかき回してから、「わかってねーなー」と口にした。何か私はおかしなことをいったんだろうか。わからない。
「何のことです?」と不満げに彼に問えば、「そーいうとこだよ」と答えられた。

「みんな、じゃねーだろ?ボウズだけと行く話をしてんだよ、オレは」
「サスケとだけ?......みんなでわいわい食べたほうがおいしいんじゃ」
「色気ねーヤツ」

よくわからないけど、貶されたことだけは確かだと思う。むっとして私は北波さんの顔を見るのをやめた。
その後も北波さんは一人で喋り続けていたけれど、私は相づちだけでとどめておいた。そろそろ待ち合わせの時間に間に合わなくなる。喋りながら歩いていたから随分歩調がゆっくりになっていたようだ。

路地を抜けて、大通りに出る。ところどころにある店の間をくぐり抜け、角を曲がる。最短距離で行く為に私......と何故かついてきてる北波さんは、様々な道を歩いていった。

そうして最終的に辿り着いたのは公園の前。案の定そこにはもう幼なじみの姿があって、「サスケ!」と駆け寄りながら呼べば、彼は私を見た後、私の背後の存在にも気付いたようだった。

「ごめん。少し遅れたみたい」
「別にそんな待ってねーよ。ついさっき来たとこだ......で、なんでアンタがいるんだ?」
「年上への言葉遣いがなってねーな、お前は、相変わらず」

私の目の前であからさまに敵意を持った目をしてるサスケと、相変わらず薄笑いをして余裕綽々な北波さん。いつも思うのだが、この二人はあまり仲が良いように見えない。......といってもサスケが一方的に敵視しているだけな気がするけれど。
北波さんの表情は読み取りずらいから、細かい感情を捉えることができない。とりあえずいつも楽しそう、という印象はある。

「これから二人で修行だって?でもお前、実はそんなことしたくないんじゃねーの?特にコイツとは」
「何のことだ」
「わかってるくせにな。そんな事だと、コイツはすっげー鈍いから一生このままで終わるぜー?むしろ、他のヤツに盗られてるかもしれねーなー」
「......行くぞ、カナ」
「えっサスケ、ちょっと!」

意味深な北波さんの言葉を私は理解できないまま、サスケに腕を引っ張られていつもの修行場所の方向へと連れて行かれそうになっている。引っ張られながら、私は振り向いて北波さんのほうを見た。どうやら彼もこれ以上はついてくる気はないらしい。またひらひらと手を振ってきていたので、私は軽く頭を下げる。

多分、木ノ葉の中で私は彼以上に理解できない人はいないと思う。彼は自分のことを何も話さないくせに、初対面から私を知った風に「姫」と呼びかけてきた。一体 私は彼とどこで会ったというのだろう、まるで思い出せない。聞いても教えてくれそうにないことはわかる。まあ別に害はないのだけれど...。

「サスケ、ちょっとサスケ、自分で歩くってば」
「......」
「(......なんかすごく怒ってる?)」

北波さんはどうやら迷惑なことをしてくれたらしい。サスケをこれからどう宥めようかと考える羽目になってしまった。

 
|小説トップ |
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -