波風ミナト、その姿に見覚えがあるのは当然、いつも木ノ葉を見守る四つ目の顔岩その人だからだ。
ナルトの回復をしているサクラは呆然とその姿を見つめた。

「あ…あなたは…」

ミナトのその目は穢土転生のもの。

「安心して。キミたちの味方だよ。ナルトを回復してくれてありがとう…ナルトの彼女かな?」
「う〜〜〜ん…うん?うん!まあ、そんな感じだって…」

テキトウここうとしたナルトに制裁が入る。

「アンタは黙ってなさい!!しゃべる体力も温存!!」
「イデデ…!回復どころかダメージ食ってんだけどもよォ…!」
「その分割増で回復してあげるわよ!!」
「…ハハ…息子をお手柔らかに願います…」

尾獣玉は消え去った。連合のみなはホッとして気が抜けているようだった。
ナルトはこの事を知っていたのだ。九尾モードが、遠方から迫ってくるいくつかの気配を感知していた。そして、その気配が他にも続々とたどり着く。


「ミナト…相変わらず速いの!」
「四代目、貴様ワシ以上の瞬身使いよの」
「よーしィ、始めるぞ!!」


歴代火影たちの姿。ミナトの横に、猿飛ヒルゼン、千手扉間、千手柱間が揃いぶむ。

「さ、三代目火影様…!?それに、」
「初代様、二代目様、三代目様…四代目ミナト様まで!」
「そうか、さっきの攻撃を止めてくれたのは、火影様たち…!」

特に木ノ葉の忍は動揺しているが、同時に安心感から少し頬が緩む。この時代に最も親しみのある三代目が柔らかい眼差しで忍たちを振り返った。

「大蛇丸がワシらを呼んだのじゃ。さっさとこの戦争を止めねばな……して、あの十尾とやらの頭上でヤツを抑えているのは、」

ナルトが頷いた。

「カナだってばよ…!」

土煙が酷いが、全員の視界に巨大な朱色の翼は捉えられている。尾獣玉が消えた今、カナは他に何を気にすることもなく十尾を相手にできている。
だが、付近には須佐能乎の防御を解いたマダラがいる。

「そうか…あれがカナの…神鳥の!」
「でも、やべェ…!マダラにカナを奪られたら終わりだ!カナも多分今フルパワーじゃねえし!」
「彼女が神人だね。大丈夫だよナルト、オレに任せて」

ミナトが頷く。だが、そもそもマダラも、目先の利益よりも、この場に現れた好敵手に感極めているようだった。

「待っていたぞ!!柱間ァーーー!!」

だが、柱間はにべもなく切った。

「お前はアト!!!」
「……」
「まずは十尾を止める!!その前に、あの少女を」

あっけらかんと諸悪の根源を言葉で押しやった柱間が、そう言い切る前に、ミナトの姿が一瞬消え、そしてまた一瞬で戻ってきていた。
その腕にカナが抱えられている。その目も口もぽかんとしているが。

「え…え…?」
「カナ!」
「ごめん、驚かせたね。さっき触った時、キミにマーキングしておいてよかった」

地面に降ろされたカナは、やはり頭がついていかなかった。

「よ、四代目様…?」
「ほう、シギにそっくりぞ!」
「シギよりも随分淑やかな感じだがな…」
「初代様、二代目様……」

その目が順々に見慣れない顔を映し、最後に三代目を見て、カナの胸にぶわっと感情が噴き上がる。

「おじいちゃん…!」
「大きくなった姿を見れるとはの…カナ。だが、感動の再会をやってる暇はなさそうじゃ」
「キミの抑えが効いてるうちに、オレたち歴代火影がヤツを封じる!」

その姿が黄金色のチャクラを身に纏った。───九尾のチャクラ。ナルトに宿る九尾の半身を、死の間際自分にも封じたその力が、ミナトの体を包み込む。
その手が二代目、三代目の背中に触れると、またも瞬時に飛んだ。
この場に残った柱間がひと角。そして、ミナトが他のふた角へ二代目、三代目を降ろし、四人で十尾の四方を囲い込む。


「忍法 四赤陽陣!!」


朱雀のチャクラでただでさえ弱っていた十尾は、その結界に呆気なく捕まる。柱間は追って印を組む。

「さらにオレだけ加えての───仙法 明神門・封十!!」

赤い結界が十尾を囲み、そして更に柱間が繰り出した十の鳥居が尾をそれぞれ縛った。

「すごい…さすが火影様たち…」

サクラが言う。ようやく状況に追いつけたカナも、頷いた。

「でも、なんで…?」
「それが…さっき、三代目様は大蛇丸に呼ばれたって…」
「大蛇丸…!?」
「嫌な気持ちになんのも分かるけど、今回は味方みたいだってばよ、カナ、サクラちゃん……それに、アイツも」


ナルトは不意に上空を見上げた。


「味方らしい」


それにつられて、カナとサクラも目を上げる。他のみなよりも早くその姿を目に捉えて、息を呑む。
その足が三人の前に降り立った。

その背中の団扇マークが、懐かしかった。


「随分遅かったじゃねーの……サスケ!」



ーーー第八十話 第七班



歴代火影たちは、大蛇丸より穢土転生をされて復活した。しかしその大蛇丸とて、本来サスケが殺して死んでいたはずだった。
それを甦らせたのは、他でもないサスケ自身。イタチと共闘し、兄のあまりにも大きな里への想いを実感したサスケは、里について全てを知る者、火影たちと対話するために動いたのだった。

そしてサスケは全てを聞いた。今や忍界の常識である一国一里制度を作った立役者、初代火影・柱間に。木ノ葉の存続のために様々な改革をした二代目・扉間に。そうして生まれてしまった不和を正そうとした三代目・ヒルゼンに。志なかばで若くして命を賭し里を守った四代目・ミナトに。

全てを聞き、導き出されたサスケの答は。


「───オレは戦場に行く。この里を、イタチを…無にはさせん!」


そうしてサスケは、戦場に降り立ったのだった。


「サスケ…くん…?」

サクラが唇を震わせた。その一身にみんな───同期たちの目が集中した。誰もが目を見開き、そしていち早く駆けつけてくる。

「え、サ、サスケくん!?」
「おい、いの!止まれ!!こいつは敵だぞ!」
「うかつに近づかないほうがいいよ!」

いの、シカマル、チョウジ。

「てめェ何しに来やがった!」
「キバくん、待って…!」
「落ち着いて対処しろ」

キバ、ヒナタ、シノ。
疑いの目線が集中する。一定距離を保って警戒する。
そして第七班。ナルトは冷静に見つめている。サクラも不安感が否めない。

「…なんでサスケくんがここに…?」
「………」

まだ一言も発していなかったカナは、薄く口を開けて、深く息を吸っていた。
サスケの黒い瞳が全員を映している。そこに今まであった深い憎しみは消えているようだった。全員を見て、そして、カナの顔を見て、止まる。
カナもその視線を受けて、ようやく口をきゅっと閉じた。こくりと唾を飲み込む。
ナルトは先ほど、サスケを、味方らしい、と言った。

「……サスケ、……木ノ葉は」

サスケの目が細まった。───カナが記憶を取り戻したことが明確となる一言だった。
視線が逸れた。

「色々あったが…オレは、木ノ葉の里を守ることに決めた」
「…!!」
「そして……オレが」

全員を混乱の渦に叩き落とす。


「火影になる」


数秒時が止まった。ナルト以外が口をあんぐりと開ける。さすがにカナも目を瞬いた。

「え〜〜〜!!??」
「ごぶさた抜け忍がいきなり帰ってきてギャグかましてんじゃねーぞ!!火影の意味分かってんのかゴラァ!!」
「お前に何があったか知らねーが…!ありえねーんだよそんなこと…お前、自分が何言ってんのか…」
「今までのことがチャラにできると思っているのか」

キバ、シカマル、シノの反応は当然だ。だがサスケの表情は揺らがない。

「ああ…チャラにはできないだろう。だが、お前らがオレのことをどう思うかは関係ない」

その言葉がナルトとカナを揺さぶる。二人が聞いたイタチの言葉が思い返された。

「今までの影たちがこの状況を作った…だからオレが火影になり、里を変える」

火影になった者がみんなに認められる、のではなく、みんなから認められた者が火影になるのだと。
二人の脳裏に蘇ったイタチの言葉は同じだった。だからこそ、カナは目を伏せて笑って、ナルトを見てしまう。
カナがナルトに言ったのだ。


『ナルト。私も一緒に、サスケを救いたい。ナルトにしかできないことは、ナルトにしてほしい……でも、私にしかできないことは私がする。それにきっと、サクラにしかできないことは、サクラがしてくれる』


サスケが唐突に“火影”を持ち出した。ならば、この状況は、“みんなに認められている”ナルトにしかなんとかできないことだ、とカナは認めるしかなかった。
カナの視線を受けて、ナルトも笑っていた。

「火影になるのはオレだってばよ」

その足が立ち上がり、サスケの横に並ぶ。

「回復ありがとサクラちゃん!今度はサクラちゃんが休んでてくれ…行くぜサスケ!」

二人の背中が更に一歩前へ、十尾を囲う結界へと近づいた。
カナとサクラ、二人の目に懐かしい光景が蘇る。いつも真っ先に先頭を切るナルトとサスケの背中を、カナとサクラは数多く見てきた。

「……昔に戻ったみたいだね、サクラ」
「……」
「サクラ?」

込み上げてくるものを口に出したカナだったが、返事がない。疑問に思ったカナはサクラの顔を覗き込んで、ぎょっとする。サクラはカナとは全く別の感情を抱いたらしい。
サクラの足もまた、その場を蹴って、ナルトとサスケの横に立っていた。

「私が二人に届かない、か弱い女だと思ってる?三忍の綱手様だけ弟子の鍛え方が下手なわけないでしょ…」
「サクラちゃん…?」
「もう少しなの。もう少しで、溜まりきる…本当の力が出せる。私だって第七班、そして三忍の弟子の一人。……あと、カナも!!」
「えっ」
「アンタも来る!!」

微かな怒りさえ感じさせる声で名指しされ、カナはたじろいだ。サクラの有無を言わせない呼び声で、カナも諦めてその横に足を運ぶ。

「散々先頭走っといて、今更後ろにいないでよね…!私たち、四人で第七班なんだから!」
「そ、そんなつもりは…なかったんだけど…でも私、大蛇丸の弟子には数えられたくないし…」
「別に弟子じゃなくたっていいわよ。いいじゃないじゃあ、新生・四忍!」
「あはは、ゴロ悪くない?」

───ナルトを真ん中に。左にサスケ、右にサクラとカナが並ぶ。四人で並び立つ。
ちょっとした軽口を叩きながら、本人たちが一番、懐かしさを感じている。心の底から熱くなる気持ちがある。


「よっしゃー!第七班、ここに復活だってばよ!!」


ナルトがパンっと手のひらに拳を打ち付けた。


「行くぜ、サクラちゃん、カナ、サスケェ!」
「ええ!」
「うん…!」
「オウ…」


第七班だけじゃない。
それを周囲で見ていた第八班、十班もまた、ここには揃っている。サスケを疑いの目で見ていた彼らも、ナルトたちのやり取りを見て、諦め半分、笑っていた。

「なんか懐かしい画じゃない?シカマル…」
「…どうあれ、目の前の敵を倒すのに協力するってんなら今は仕方ねえ……認めたくはねえが」
「同期が全員揃うって久しぶりだよね!この感じも中忍試験以来だし!」
「火影になんのはオレだァ!!お前ら聞いてんのか!?」
「キバ、今は誰も聞いてない…何故なら、いきなり出てきて“火影になる“とのたまったサスケのインパクトが強すぎるからだ」
「キ、キバくん、私はちゃんと聞いてるよ…火影はみんなが目指すものだもんね」

色々思うところがあったとしても、この全員が揃った高揚感には敵わない。

「オレらの力、見せてやるってばよ!!」

十人で、十尾を睨んだ。



結界の中、ようやく動けるようになった十尾のツボミに、再び尾獣玉が完成していた。だが、巨大な尾獣チャクラは弾けない。火影が結ぶ四赤陽陣の中でただ暴発する。
自爆を喰らった十尾は、それでも忌々しそうに結界の外の忍たちを睨んでいた。

この最強の結界を作っている筆頭の柱間の分身が現れる。その姿が結界の四方に分かれる。

「オレが結界の四面に忍たちの出入り口を作る!!オレに続け!!」

これほど頼もしい先陣がいるだろうか。
忍たちの合意の声が合唱する。みな、それぞれ近い面へと走っていく。

ナルトたちも一面で、柱間の号令を待っていた。


「今ぞ!!」


赤い結界が上がった。みなが走り始める。
結界の中央で、柱間の明神門に抑えられている、十尾の巨体の元へと。
しかし、

「!!」

カナもナルトとサクラに続いて走り出そうとして、不意に手首を掴まれていた。
驚いてそのまま振り返る。忍たちがどんどんと過ぎ去っていく中、ここだけが時が止まったかのように、深い黒の瞳がカナを見つめていた。

「サスケ───どうしたの」

───色々、色々あった。
だけれど、今はこの世の存亡を懸けた戦争だ。カナは全てを後回しにするつもりだった。

「…戦わないと…みんなで、一緒に」
「腹は」
「……」
「治ったのか」

今のカナには、今のサスケが、どこを目指して歩いているのかが分からなかった。少し前までなら、サスケの想いはどこかで分かっていたような感覚はあったが、離れた少しの期間がそうさせてしまった。

「治ったよ。木ノ葉で治療してもらった」
「……そうか」

掴まれたままの手首が熱い。自分が熱を持っているのか、サスケの熱が移っているのか、分からない。

「…大丈夫だよ。怒ってない」
「…だろうな。お前は」
「私だって、謝りたいことはたくさんある。言いたいこともね。でも全部後回し。世界が終わったら、言いたいことも言えなくなっちゃうんだから」

昔のように、カナはサスケに笑いかける。

「ちゃんと一緒に木ノ葉へ帰るために、一緒に戦おう」

カナの目の中で、サスケの視線が逸れた。
その言葉に対して返事はなかった。ただ手首が放される。サスケの足が一歩前に進んだ。一言「行くぞ」と言われ、カナは目を伏せながら頷いた。

火影になると言い出した、サスケの本意はどこにあるのだろうか。
だが、そうだ、今は何よりも、戦いだった。


二人の足はすぐに先頭に追いついた。
本体の十尾から生み出されている、人間と同サイズの十尾の分身のようなものが、忍たちを足止めしていた。何十何百となる分裂体は、どうやら敵を本体に近づけさせたくないらしい。

ナルトは既に一番前で戦っている。サスケとカナも追いつき、すぐ手近の分裂体に向かい合った。
だが、不意に、ナルトとサスケ、カナの間を、何かが凄まじい勢いで通り抜けていった。

「サクラ!!」

十尾の分裂体が吹っ飛んでいった。と思いきや、桜色の髪が先頭を突っ走る。
その拳が、地面を殴った。

「しゃーんなろー!!」


最早地割れだ。多数の断末魔が響き渡った。頼もしくもあり、恐ろしくもある。

「オ、オレってば、二度とサクラちゃんに歯向かわねえ…塵にされる…!」
「…私、帰ったらひっぱたくって言われてるんだけど、もしかして、あ、あんなレベル…?」
「フッ…」

かつて、いつも一番後ろにサポート役としてついていたサクラが、一番前で多くの忍たちを鼓舞している。花のように笑ったサクラが、ナルトたちを振り返った。
その額には、長年緻密にチャクラを溜め続けてきた証、綱手と同じ百豪の印が刻まれている。

「私は若造りする必要がない分、師匠よりも腕力にチャクラを回せるの!」

そのサクラに黒い影。砂埃に紛れていた分裂体が顔を出す。
すぐさま三人が動き出す。

「螺旋手裏剣!」
「炎遁 加具土命!」
「風遁 風鎌!」

いっぺんに攻撃を食らったその体が、他の分裂体諸共吹っ飛ぶ。一瞬目を瞑ったサクラは、助けてくれたその姿にぱっと頬を赤らめる。

「サスケくん!!」
「…あの〜〜、オレらも居んだけど、サクラちゃん…」
「あはは、懐かしいなあ、この感じ」
「足を引っ張るなよナルト」
「だから何でオレだけ!?」
「そういう細かいこと言ってると私が火影の座、ぶんどるわよ!!」
「え〜〜サクラちゃんまでその気ィ!?まさか、カナまで…!」
「あ、これ、乗ったほうがいいやつなの?」

自然と四人、背中を合わせる。まだ周囲に分裂体は残っているが、不思議と何でもやれる気がしてくる。

「今度は背中合わせで行くわよ!!」

もう守られるだけの女じゃないのだからと、サクラが嬉しそうに笑った。

そんな第七班の横を、また別の影が走っていく。

第八班、キバと赤丸の混合変化・巨大な三頭犬が咆哮を上げる。シノの寄生虫が分裂体の中から貪り食っていく。ヒナタの柔拳が遂に六十四掌まで完成され、敵を再起不能に落とす。
第十班、彼らは猪鹿蝶のコンビネーション。シカマルの影が巨体となったチョウジをコントロールし、いのが完璧な感知をシカマルに伝えて、狙った敵を一体も逃さずに破壊する。

そんな場合ではないと分かっていても、倒す数を競うかのように、張り合っている。まるであの、全員で競い合った中忍選抜試験の時のように。

みんな、戦いながら口角を上げている。


「(…戻ってきたみたいだ)」

戦いながら、カナは思わず周囲を振り返ってしまう。目頭が熱いのを感じている。
ナルトたちがいる。他の同期たちがいる。何より、その内心がなんであれ、サスケの姿もここにある。
カナが木ノ葉の里を出たあの時から、ずっと思い描いてきた、取り戻したかった世界がここにある。


「僕も一応、第七班なんですけどね」

聞こえた声に、カナは振り返った。サイが巻物に絵を描いていた。声をかける間もなく、印を組んだその瞬間、鳥獣戯画の鳥が発動されてはばたく。

「僕は空から一気に行く!」

サイの体がひらりと鳥に飛び乗り、カナは咄嗟に手を伸ばしていた。

「サイさん!」

それに気づいたサイがカナの手を掴み、共に上空へと急上昇する。空へ上がると、分裂体の大軍の数が浮き彫りになる。

「カナ、キミ、翼は」
「今ちょっと、温存中。それより確かに空からだと一気に飛び越せますね」
「…ナルトたちと一緒にいなくていいんですか?」

この場に似合わない声色だ。カナは思わずサイの顔をきょとんと見る。そして小さく笑ってしまった。

「サイさん、拗ねてるんですか?」
「…まあ、少しね」
「…私とサスケがいない間、第七班を支えてくれてましたもんね」
「あとそれに、キミがいつまでも堅苦しい喋り方してるし。さっき、咄嗟に僕のこと呼び捨てにしなかったっけ?」

さっきとは。と思って、もう随分前のことのような気がする、マダラと対峙した時のことが甦る。サイがマダラに攻撃されて、咄嗟に叫んだような気がする。
だが不意にその時、地上から声が上がった。

「カナ、サイ!!」

危険を知らせるナルトの声。
地上の分裂体がサイの鳥獣戯画を狙った。カナが咄嗟に風を出してその攻撃を退けるが、続いて何度も何度も攻撃が飛んでくる。その全てを跳ね除けるだけの力はあるが、このままでは意識が分散して本体どころではない。

「…私たち二人だけで、“第七班”もできないもんね、サイ」

カナがふわりと笑って言うと、サイは少し目を丸める。

「今は五人で第七班。やっぱりみんなで一緒に進まないと」
「…そうだね」
「私たちは上から。下のみんなは…」

ナルト、サクラ、サスケは圧倒的な力で先頭を走っているが、後から後から分裂体が湧き出していてキリがない。多種多様な容貌をした異形たちはそれぞれ能力を持ち始めている。

「でも、下の彼らが十尾に辿り着くには、一筋縄じゃいかないよ」

サイが眉間に皺を寄せる。

「分裂体を薙ぎ払いつつ、すり抜けていくとか…一気にジャンプして近づくとか…」
「……」
「あとは出来れば、回復する役目も一緒に前に行かないと、いざという時に手遅れになる」

カナはサイの言葉を聞いて、改めてナルトたちを見つめた。
そして口角を上げる。───すぅっと大きく息を吸って、声を張り上げた。


「やっぱり“伝説の三忍"が一番ゴロいいよ!!」


ナルト、サクラ、サスケの目が空へと上がった。そして多くの言葉を必要とせず、次の瞬間には、三人ともが笑って、同じ印を組み始めていた。


「口寄せの術!!」


サイの言葉は奇しくも、三人ともに当てはまる。

ナルトには大蝦蟇・ガマ吉。脚力はもちろん、その両腕で幾多の攻撃も弾き返す。
サクラには大蛞蝓・カツユ。幾千にも及ぶ分裂で、幾千もの忍を回復する。
サスケには大蛇・アオダ。有象無象の攻撃などには目もくれず、ひたすら狡猾に目標を狙う。

かつて忍界で名を馳せた三竦みが出揃い、みなの歓声が上がった。

「悪いわねカナ!寂しくない!?」
「全然!ナルト、サスケ、分裂体の処理は任せて───本体に行って!」
「ああ」
「任せたってばよカナ!!」

鳥獣戯画を狙う攻撃はサイに任せ切り、カナは印を組む。それと同時に新しい時代の三忍が動き出した。

サクラの指示するカツユは、ばらばらと小さい蛞蝓に分裂していき、周囲の忍たちを回復していく。
そしてナルトとサスケは前へ。
ガマ吉が大きく跳躍する。アオダの体躯が滑り出す。カナの印が完成した。

風が二人の体を覆う。
ガマ吉の全体を覆った風は、跳躍したところを狙われた攻撃を全て弾き返す。
アオダを覆った風は、風が確かな通り道を作り出し、視界を遮る分裂体たちを跳ね除けていく。


新たな時代よ、と、かつて三忍を師事したヒルゼンが呟く。
まるでそれに代わるかのように、カナが二人を目的地まで風で導く。

ナルトとサスケ。二人が、十尾の頭上まで辿り着いた。
全員が昂ぶる高揚感を胸にそれを見つめる。二人の手が印を完成させた。


「風遁 超大玉螺旋手裏剣!!」
「炎遁 須佐能乎 加具土命!!」


風が、火を助ける。それはナルトがずっと、友であるサスケと共に作り上げたかった技だった。

黒い炎が大きく舞い上がる。十尾を襲う。十尾の悲鳴が上がる。一度燃え上がれば燃やしつくまで消えない黒炎がその背中に。
今この場に他の敵もいない。マダラは柱間が相手をしている。オビトは先刻、カカシと共に時空間へと入った。
この状況で十尾に大打撃を入れられた。連合軍の歓声が上がった。

長く、長く続く、十尾の叫び声。

「…サスケの天照の黒炎…あれは、逃れようがない術だよね」
「……」
「これで、本当に…」

サイが眉をひそめる。その瞳が、十尾の上に立つサスケを疑わしそうに見つめる。カナの懸念が混じる視線も、同じくサスケの背を見つめている。

「…サイ、私も前に行くよ。十尾を封じないと」
「…鳥獣戯画を貸すよ」
「ありがとう」

サイの手が新たな絵を産み、現れた墨の鳥にカナは飛び乗った。

サイ自身がこの場に残ったのは、もう一人の第七班の背をその目が捉えたからだった。サイの足が地上へと降りる。周囲を囲う十尾の分裂体はまだいるが、本体が攻撃されて、その勢いを失くしているようだ。

「サクラ」

カツユを操るサクラもまた、十尾をまとう黒炎をじっと見据えていた。ただその表情は明るくはない。

「…サイ」
「少し聞いていいかな」

サイはサクラを見つめる。サクラは未だ十尾のほうを見たまま。その目の中で、墨の鳥が十尾に近づき、銀色が近場の───サスケの操るアオダの上に降り立ったのが見えた。

「僕は彼を知らない分、冷静に見える…サスケは本当の仲間として信用できない。…サクラ…キミは本当はどう思ってる?」

沈黙があった。

「…大丈夫。サスケくんはちゃんと帰ってきてくれた…私はそのことが嬉しいし…彼のことを信用してる」
「……」
「第七班に戻れた。ナルトはサスケくんと闘えて嬉しそうだし…カナだって、ああやって隣に立ててる………昔と同じよ。本当に、良かった」

サクラはそう言ってサイに笑いかけた。しかし、サイは何も応えずに、ただサクラの笑顔を見つめて拳を握りしめた。
サクラは本当は花のように笑う人だ。しかしサイが今見たものは、昔サイがいつも張り付けていたような、偽物の無理した笑い顔だった。



鳥獣戯画に乗って十尾の本体を目指す間の僅か数秒、朱雀の声がカナに語りかけていた。

『(───できるか)』

手短な説明に、カナは言葉を失っていた。冷や汗が流れて、だが、十尾に着く直前、軽く笑う。もちろん、とカナは呟いて、鳥獣戯画の背を蹴った。


着いた先はサスケの隣。アオダの頭の上に降り立つ。
サスケはちらりと横目でカナを見る。隣のガマ吉の上のナルトもハッと気づいた。

「カナ!ちょうど良かったってばよ、サスケを一緒に説得してくれ!」
「え?」
「このままだと、中にいる他の尾獣たちごと燃え尽きちまう…!尾獣たちは何も悪くねえんだ!オレと九喇嘛でアイツらを引っ張り出せっから」

カナは目を瞬いてナルトを見て、それからサスケに目を移した。
サスケの瞳。万華鏡写輪眼は、カナが最後に見たそれとも姿を変えている。イタチの瞳を移植したその目が、暗い心を写している。

「…サスケ…どうするつもりなの」
「このまま焼き尽くす…尾獣ごとだ」
「サスケェ!!」
「尾獣たちの存在はこれからの世界にいらない。軍事力となって、再び争いの火種になるだけだ。なら、この機会に消し去るまでだ」

“火影”を持ち出したその口が言う。カナはサスケを睨んだ。

「私は神鳥を体に飼ってるから分かるよ…この強大なチカラたちにも、きちんと感情がある。それを無視して、その軍事力っていうのを理由にして、殺すっていうの?」

だがサスケも浅い考えの元動いているわけではない。その信念の上で、サスケは淡々と「そうだ」と口にする。
一秒、二秒。カナはふーっと長く息を吐いた。額に冷や汗が滲んでいる。

「ナルト…サスケを説得するのは一筋縄じゃいかないよね…よく分かってる」
「カナ、けど…!」

このままじゃ。ナルトはそう続けようとして、息を呑んだ。
ナルトの瞳の中でカナがぐっと足に力を込めた。サスケもその違和感にようやく顔ごとカナに向ける。

二人が止める前に、カナは跳躍した。二人よりも前へ、十尾の頭上、黒炎の上へ。

「カナ!!」
「バカ、お前…!」

サスケの口から久しぶりに焦った声を聞いた気がする。カナは状況にも関わらず笑ってしまった。
このまま十尾に足を下ろせば、カナも同じように黒炎の餌食となる。

もちろん、自殺するつもりで行動したわけではなかった。その手が印を組み始めている。だが、完成する前に、

「!!」

黒炎が消え去った。
ナルトもカナもハッとしてサスケを振り返る。サスケの表情は見えない───だが意図したところは明白だ。サスケお前、とナルトが呟くのと、カナの印が完成するのは同時だった。


「六道朱雀!」


十尾の姿が、歪んだ。


 
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