マダラは目を細めて自分の手が掴む少女を注視した。ずっとチャクラの引っ張り合いをしていた雰囲気が、微かに変わった。

朱色のチャクラが膨れ上がった。カナが引き戻そうとしていたものが、反対に膨れあがる。マダラが引っ張るまでもなく───いや。

それどころではなく、カナの体全体から溢れ出て、地面を這っていく。数十センチ、数メートル、数十、数百……この戦場の地に薄く、長く。

───最早止めはせん。だが、心しておけよ、カナ。

口角を上げたカナに、朱雀は静かに囁く。

───やるばやるほど、お前自身のチャクラも引っ張られて枯渇する。その全てを失い切った時、お前は……

その朱雀の声と、目の前にいるマダラに向けて、カナは笑った。

「少なくともこの戦争が終わるまでは、仲間も私も、終わらせない…!」



ーーー第七十九話 忍び耐える者こそが



誰もがハッとして地面を見つめていた。生温かいような何かがじわじわと這ってきている。
ナルトも目を丸めてそれの進行を見ていた。腕に抱えるネジにも纏わりついていく。それに抵抗しなかった。ナルトはこのチャクラを知っている。

「これは…?」

誰かがそう言った時、ナルトは確かに微かに感じた。ネジのチャクラを。

「ネジ…ッネジ!?」
「ネジ兄さん…!?」
「サ、サクラちゃん!!」
「えっ…嘘でしょ…!?そんな、即死だったはず…!」
「早く!」

サクラが慌ててネジの胸に手を当てて容体を見る。その目が更に驚愕に見開かれる。

「まだ全然危ない状態だけど…チャクラの流れが戻ってきてる…!」
「それって…」

サクラはハッと周囲の他の忍たちを見た。ネジと同じように倒れている者たちは多くいる。サクラがその次に視線を送ったのは、ちょうど近くで別の忍の容体を見ていたシズネで、シズネも息を呑んでいた。
そして、すぐさま声を張り上げる。

「医療部隊!!まだ諦めるな!!倒れている者たちを必死で診るんだ!!」

絶望に打ちひしがれていた医療部隊たちの士気が戻った。そこかしこで合意の声が上がり、一時静かだった戦場が慌ただしく動き始める。
サクラのその手でチャクラが当てられているネジを、ヒナタは涙ながらにじっと見つめていた。そしてハッとする。……消えかけていた、ネジの額の呪印が、ゆっくり色濃く戻り始めている。

「ネジ兄さん…これって…」
「…カナの…神鳥のチャクラのおかげだ…!」

ナルトは感極まったように呟いて、この流れの中心にいるだろう銀色を目で探した。



連合軍と同じように流れを見ていたオビトは、忌々しそうに目を細めた。

「これが…神鳥の“安定”とでもいうのか…」
「そうだ」

その横に、今までカナを捕まえていたはずのマダラが戻ってくる。オビトは睨みつけた。

「カナを捕まえてくるんじゃなかったのか?」
「安心しろ。幾分かはチャクラを奪ってきた。分け与えてやる」
「何故全てを奪ってこなかった」
「朱雀の“こういう”使い方をされたんで、取り急ぎ戻ってきてやったんだ。───気づいているか。十尾を動かしてみろ」

オビトはぴくりと眉を動かし、言われた通りに十尾を操ろうとする。だが、動かない。何かに押さえつけられているかのように…十尾から先ほどまで感じていた荒々しさが薄くなっている。
「なんだ…これは」とオビトは唸り、マダラは鼻で笑った。

「朱雀の完全体で抑えられるよりかはマシだがな」
「これは、何をされているんだ…」
「神人は…カナは、連合軍の忍共の即死を避けるために朱雀のチャクラを流し続けている。朱雀のチャクラで奴らそれぞれのチャクラの流れの“安定”を取り戻そうというわけだ。チャクラの流れさえ止めねば、あとは医療忍術が間に合えば助けられる、というわけだ」
「…そのくだらない悪足掻きが、十尾にも影響しているのか」
「狙っている用途は違えど、十尾の足元にも朱雀のチャクラが流れているわけだからな」

コキコキと首を鳴らしたマダラもまた、柱間細胞を使って改めて十尾の手綱を握る。オビトとマダラ、二人の意志を受けた十尾はそれで、再びその一つ目に禍々しさを取り戻したようだった。グウウ、と低い声で唸る。




マダラの手から解放されたカナは、地面に膝をつき、暫く咳き込んでいた。チャクラはまだ薄くその体から流れ出していて、額にはずっと汗が滲んでいる。
その顔の前に手が差し出されて、カナはその手の主を見上げた。
シカマルは仏頂面のまま、カナを見下ろしていた。

「大丈夫か」
「…うん。ありがとう」

その手をとって、立ち上がる。だが暫くその手は離されない。違和感を感じて見上げると、シカマルはじっとカナを見つめていた。

「お前、これは…この力は、アスマが使うなって言ってたヤツじゃねえのか」
「…うん」
「相当、お前の体に負担をかけるんだろ」
「…あの時は、大蛇丸に神鳥の力を封印されてたからだよ」
「いや、嘘だ。こんな都合のいいモンが、なんの影響もないワケがねえ」

眉間に皺を寄せっぱなしのシカマルの、カナの手を握る力が強まる。その手を見ながらカナは小さく笑う。

「嘘はついてないよ。シカマル相手じゃ見破られちゃうの、もう分かってるし」
「…」
「…このチカラに限らない。無理にチカラを引き出し続けたら、確かに私自身に負担はかかる。朱雀にも散々念押しされてる。でも、これくらいさせてほしい」
「…もう十分だろ」
「私にできることは全部、させてほしいんだ。私が無事で、みんなが死んだら意味がない。みんなが命を賭けて戦ってるのに、私が自分を賭けないわけにはいかないから」

カナはふわりと微笑む。シカマルを安心させるように。それを見たシカマルは、少し苦しそうに顔を歪めて、何も言えなくなってしまった。
カナは自分の手を掴むシカマルの手をゆっくりと解いて、そして十尾を見上げた。カナの中に迷いはない。

「……シカクさんの作戦、実行しなきゃ」

その言葉に、シカマルも頭を切り替えたようだった。ああ、と返ってきたその声が、様々な感情を押し殺したことが伺えて、カナは強く拳を握った。
さすがに本部のほうまで朱雀の力は届かない。手の届かない者もいる。
だが、手の届く範囲の者だけでも。

朱雀のチャクラがこの戦場全域に行き渡る。
やっと垂れ流していたチャクラが途絶えた。


「どうせみな死ぬというのに、ご苦労なことだ」


戦場全体に、声が響いた。
誰もがその遥か頭上を見上げる。再び揃ったオビトとマダラ。オビトが冷たい目で全員を見下ろしている。

十尾が止まって数分経った。ずっと蔓延していた土煙が晴れてきていた。カナからも、ナルトからも、ようやくお互いの姿がしっかりと視認できた。

立っている仲間はかなり数を減らしたかもしれない。だが、医療部隊はまだ地に伏している仲間も諦めていない。彼らの姿が、全員の心を鼓舞していた。
まだ、繋がりを諦めないでいられるのだと。


ヘッ、と、ナルトは口角を上げた。


「ヒナタのおかげで、オレはまだ自分の言葉を諦めねえでいられる」


─── 仲間は絶対に殺させない…その言葉も、信念も、偽りじゃない…!


「カナのおかげで、みんながまだ仲間を諦めねえでいられる」


───少なくともこの戦争が終わるまでは、仲間も私も、終わらせない…!


「まだ、オレたちの心は死んじゃいねえ!心が死なねえ限り、この世界も諦めねえし、繋がりも諦めねえ!未来は、諦めねえ!!」


ナルトの声が戦場に響く。この暗い世界にひたすらに明るく誰もの心を支える。
そしてナルトの体に、九尾チャクラモードがブワッと戻っていた。黄金色に光るチャクラが夜を照らす。

そしてそのチャクラが、手を繋ぐヒナタにも伝染した。
誰もがそれを驚いて見る。マダラやオビトも一瞬反応が遅れる。

その隙に、ナルトの影分身が数人現れ、戦場の各地を奔走していった。
その手が触れる者がみな、ナルトの九尾チャクラを帯びていく。


「おせーぞナルト!」

その姿がシカマルやカナの元にも辿り着いた。わりィ、と言ったナルトがパンッとシカマルの手を掴むと、一瞬でチャクラが伝染する。
それからナルトはすぐにカナを見て、少し泣きそうに笑ってから、その肩に手を置いた。すぐには離れない。カナの肩に頭を寄せる。

「ありがと、カナちゃん……」
「…ふふ、呼び方戻ってるよ」

だが、九尾チャクラは二人が触れている間はカナも包み込んだが、離れた瞬間にふわっと消えた。

「朱雀がいるから私には持続できないみたい。みんなのところへ行って」
「…オウ!」

ナルトもすぐ切り替える。その姿が再び走り出し、他の仲間へとチャクラを渡しにいく。


「ナルトのガキ…九尾のチャクラを渡しているのか」

目を細めたマダラ。オビトはすぐさま十尾を動かした。神鳥のチャクラで鈍っていた重い尾がやっと動き出し、地上を狙う。
だがそれを弾いたのはヒナタ。

「八卦空掌!!」

九尾チャクラで一段と強力になった技が、十尾の巨大な尾を弾いた。連合軍のみなが歓声を上げる。
続いて二撃、三撃と襲うが、全員がこれまで以上のパワーを発揮して、その尾を弾き返す。その中の一つが、猪鹿蝶の力。

倍化したチョウジたち秋道一族が尾を掴む。いのが心転身の術で、一瞬でもオビトの意識を奪う。操作が一瞬鈍ったところに、シカマルたち奈良一族が十尾の影を確実に縛り、十尾の動きを止める。


戦場が再び止まった。オビトは忌々しげに睨んだ。


「お前らがそうやって必死に守っている繋がりとやらに、どれだけ意味があるというんだ」

戦傷者たちが次々と遠巻きに運ばれていっている。医療忍者たちは休む間もなく汗を流し続けている。そんな彼らを守るように、いつでも攻撃を阻めるようにとカナは風遁の印を組んでいる。

「その繋がりとやらが…今のオレを作ったのだ。それは、強い呪いであることも知っておけ…!」

ナルトの影分身は動き続けている。今動ける、全ての仲間たちへとチカラを渡し続ける。
本体であるナルトだけが、真っ直ぐオビトを見上げた。

「“それ”に忍び耐えられなかっただけだろーが……てめーはよ」
「…何?」
「オレたちは繋がりを諦めねえ…そのせいで“痛い”ことだってあるのは分かってる…!けど、そういう傷と向かい合って、忍び耐えるモンが、忍者っていうんだろ…!」

ナルトの頭には、たくさんの人影が浮かんでいる。これまでだって多くの繋がりを失くしてきた。自来也、長門、三代目、シカクやいのいち、そして両親───ミナトとクシナ。

「そもそもそういう傷が、仲間がまだここで生きてくれてるってことじゃねーのかよ」

ナルトの親指がトン、と自分の胸を指す。

「夢の中で自分が傷つかねえように作った仲間なんて、本物じゃねえ!それって、本物の仲間を消すってことだろ!呪いだろうがなんだろうが、オレは本当の仲間をここに置いときてェんだ!」


九尾チャクラが全員に行き渡った。ちっぽけだった一人一人の力が、何倍にも膨れ上がって、これまで以上の意志をもって十尾を睨みつける。もう誰一人臆することもない。
ナルトを先頭に、金色の光が戦場を包んでいた。

十尾はまだ動けない。マダラがまだ余裕な顔で笑う。

「オレももう少し力を貸してやろう…朱雀のチャクラを奪った、遥かなコントロール力でな」

十尾の尾が揺れた。抑えていたシカマルたちの影縛りが跳ね除けられ始める。必死でチャクラを練るも間に合わない。

「ナルト今のうちだ!!行け!!」

シカマルのその声を皮切りとするかのように、十尾の尾の襲撃と、連合軍の忍たちの術がぶつかりあった。ビーの尾獣玉が、侍達の剣技が、日向一族の空掌が、砂隠れの風遁が、尾を跳ね除ける。
跳ね除けられた十の尾は的を外し、そのまま周囲の地面にめり込む。まるで鳥籠のように連合軍のみなを囲んだ。

しかし、鳥籠には阻まれない意志がある。
九尾チャクラを纏ったみなで、一斉に十尾へ、オビトとマダラへ、突撃する。黄金色はまるで大きな一羽の鳥のように。

忍連合のみんなで、籠を破る。




「カナ、ここは任せて」

不意に言われて、カナは振り返った。まだ負傷者の傷を癒やし続けているシズネが汗を流しながらカナを見ている。笑っている。

「えっと…あなたは、確か」
「シズネよ。綱手様の付き人で、サクラの先輩。何回かは会ったわね」
「…たくさんご迷惑をおかけしました」

木ノ葉の牢に捕まった時だとか、記憶のない間に何回か顔を合わせたことを思い出した。

「あなたのおかげで私たち医療忍者の心が折れないで済んだ。ありがとう」

ぶんぶんと頭を横に振ったカナを見て、シズネは笑う。その眼差しが戦場の前方へ向かった。
先程の挿し木での負傷者は粗方集められた。カナや他の忍たちが確実に守ったおかげだ。痛ましいことには変わりないが、神鳥のチャクラで生きながらえた者たちは医療忍術に当てられ、生の方向へと向かっている。

「でもまだ終わってない。この戦いに勝つために、まだカナの力は必要でしょう。勝手だけど…あなたの力にもう少し頼らせて欲しい」
「…もちろんです。では、ここは任せます」
「ええ!」

カナはシズネにしっかりと頷き、戦場の前方へと走り出した。九尾のチャクラで守られたみなは、もう誰もが恐れず十尾に立ち向かっている。


十尾の尾が降ってくるそこに、カナは割り込んだ。

「風遁 風繭!」
「カナ!!」

ずっと先頭でみなを庇いながら戦っていたナルトが頼もしそうに振り返った。

「ナルト、お待たせ…!大丈夫!?」

「ああ!ヘーキだってばよ!」とナルトは大きな声で返すが、その額に滲んでいる汗は相当無理している証だ。これだけのチャクラを全員に分け与え、尚且つそれで全員を守りながら戦っているのだから、当然キツイだろう。

「ここでお前が一緒に戦ってるの、全然違和感ねーな、カナ!」
「当然だ。何故ならカナはナルトと同じくらい当事者だぞ。キバ、お前よりもな」
「うるせー!」
「カナ!お前体力はどうなんだ!」

奇しくも同期が集まっている。居心地の悪さも感じるが、むず痒さや懐かしさが強い。無駄なことを言わないシカマルに聞かれ、カナは振り向く。

「大丈夫!だけど、大技はここぞという時だけかな…!」
「カナちゃんもナルトくんも、無理しないでね…!」
「ほんとに!二人が倒れちゃったらもう終わりなんだし」
「ちょっとチョウジー、情けないこと言わないでよね!」
「お前ら、雑談ばっかしてっとペチャンコになんぞ…!来るぞ!!」

十尾の口に尾獣玉が集められている。明らかにナルトやカナを狙っている。カナの足が先頭に向かった。

「朱雀!!」

金色に目を光らせた状態で強大な力の名を呼ぶ。周囲から集まった風が尾獣玉の勢いを消し、上空へと軌道を逸らした。遥か上空で爆発音がする。

「細かい攻撃ならこうやって私が跳ね除けるよ…!」

ただ、連合全員を狙う攻撃は、一人一人を守れるほどの範囲はカナに無い。まさにその時、十尾の頭上から降ってきたオビトとマダラが膨大なチャクラを練っていた。

「火遁 業火滅却!!」
「火遁 爆風乱舞!!」

戦場全体を包まんとする炎が眼前に迫ってくる。全員がそれぞれ退避を号令する声を挙げるが、間に合うわけもない。火に劣勢の性質の風遁使いは身を固くする。
だが、

「カナ、大丈夫だ!!」

ナルトの声が上がって、カナは迷わず一人、上空に退避した。
ナルトは両手を突き合わせ、再び凄まじいチャクラを練っていた。すると、連合軍のみなを包んでいる九尾のチャクラが勢いを増して、業火を跳ね除ける。
丸焦げにならずに済んだ、そして続けてマダラの須佐能乎から巨大なクナイや勾玉型の刃が飛んでくるが、それも各々の九尾チャクラが変形して、バシッと跳ね返す。

「(みんなナルトが守ってくれてる…!)」

上空に上がったカナは、十尾を睨んで風遁を構える。朱雀のチャクラを練り込む。

「有翼式───」
「カナ!!上だ!!」

だが、カカシの声が飛んできて、カナは咄嗟に身を翻した。
時空間から出てきたオビトがカナを狙っている。すぐさま地面に降り、ナルトの横に戻った。ナルトがかなり息を切らしていて、カナの気にかかる。

「みなを庇い、防戦ばかりになってきてるぞ。この状況に意味があるのか?」

同じように地面に降り立ったオビトが言う。

「ただ弱っていくだけだな…」
「…一人になりてェてめーにゃ分かんねェだろうけどよ…」

しかしナルトは沈まない。

「オレの近くにみんながいてくれる…オレはそれがすっげー嬉しいんだよ!!そんだけで力が湧いてくる!!」

そのナルトの声で、みなで一斉にオビトにかかる。しかし誰もの技が通り抜けた。渦を巻いて時空間に逃げた姿が、また別の場所で現れる。

「仲間の死の痛みもつながりだ。そう考えれば仲間を無理に守る必要もなかろう?」
「なァんだよヘリクツヤロー!!お前のそーゆうとこが、めちゃめちゃ大っキライだ!!そういうこと言ってんじゃねえんだよヘリクツバカ!!」

ひたすらに見下してくるオビトにナルトは怒鳴る。

「仲間とのことならどんだけ痛くてもガマンするっつってんだ!!それを捨てたくねーって言ってんだ!!ワガママかもしんねェけど」

ナルトはダン、と自分の胸を叩く。

「ここに仲間がいねえのが、一番痛ェんだよオレは!!以上!!!!」

自分で作ってきたつながりを、やっと誰もに認めてもらえた今を、ずっと描いてきた夢のためにも、ナルトは決して諦めない。

オビトの沈黙があった。カナは違和感を感じてその顔を見上げる。面があった頃は掴めもしなかったこの男の気持ちが、少しだけ伝わってきたような気がした。
並々ならぬ欲望の裏側にある、深すぎて闇に染まってしまった愛情が、その目に見えた気がした。

その沈黙を破ったのは、十尾の咆哮。
岩隠れの忍たちで十尾を抑えていた土遁が脆くも崩れ去った。
咆哮が耳鳴りになる。朱雀の焦った声がカナに聴こえた。

───天変地異だ…!このあたり全てを消し去るつもりだぞ!もうチャクラを練り切っている!


「オレが消す…!」

言ったのはカカシだ。その左目が万華鏡を描き、十尾に狙いを定めた。
だが、そこに降ってきたオビトの影が、それを邪魔する。

「狙ってたようだがそれはオレも同じだカカシ!」

オビトの目が神威を発動し、カカシと自分諸共時空間へと誘った。「カカシ先生!」と挙げられた声に、「こっちを頼む!!」と残された声。
そして更なる声をカナの耳が拾った。背後に悪寒。

「お前だけは掻き消されては困るのでな」

マダラだ。身を守る須佐能乎でカナを引き込もうとしている。だが、いくらなんでも敵の手中で守られるつもりはない。風で接近を跳ね除けた。

「結構です…!」
「…かわいくない女だ」



───まさに、天変地異が、地上を襲った。
地面が割れる。洪水が湧き出す。雷がほとばしる。台風が唸りを上げる。噴火が起こる。
そういう、大自然の災害がいっぺんに押し寄せる。到底人が立っていられる状態でもない。
その中央で、十尾は突っ立っている。ぎょろりとした一つ目が地上を見下ろしていた。



「さすがに少しは掃除できたろう…」

何十秒後か、地上の災害がゆっくりと帰っていく。だが、マダラの意に反して、そこかしこでうめき声───生きている者たちの声が聞こえ始めた。
九尾チャクラがやはり、みなを守っていた。

ナルトは笑っている。


「きかねーな…」


カナはナルトの背中に自分の背中を預けることで、大災害の中を切り抜けていた。ナルトに触れている間だけは、カナの体も九尾チャクラが守ってくれていた。
そしてその間、チャクラを練ることに集中していた甲斐がある。

「ナルト、朱雀のチャクラ、分けるよ…!」
「ああ!九喇嘛に仲良くしろって言っとくってばよ」

もう限界が近いナルトにチャクラを渡す。ナルトの中では九喇嘛が悪態をついている。

───ケッ、胸糞悪ィが懐かしいチャクラだ。六道のジジイ由来のチャクラだから相性も良い。これでもう少しはもつが、まだお前は大技出せねえぞ、ナルト!
「(みんなを守れりゃあ充分だ!)」

ナルトを囲っていた九尾チャクラは姿を消したが、仲間たちを守るそれはまだ失せなかった。守ることを優先した結果だ。
その間、連合のみながナルトとカナの前に並び立つ。その先頭にいるのはヒナタ。

「皆さん!!力を合わせていきますよ!!」

引っ込み思案だった性格が見る影もない。ヒナタの掛け声で、みなが合意の声を合唱した。

「ナルト、アンタ自分へのチャクラは…!」
「今はオレ自身にチャクラ使ってても、技出せるほどは残ってねーんだ」
「サクラ、ナルトの回復お願い」

任せて、とサクラが頷いたのを見て、カナは再び前に向かう。
視界の中で、十尾はまた大きなチャクラを練り込んでいるようだった。ナルトが攻撃に入れない以上、いくら九尾チャクラで守られているとはいえ、連合軍だけでは防戦一方になってしまう。
カナが攻撃の核になるしかない。

「カナ、気が進まねーけど、お前に行ってもらうぜ」

シカマルが眉間に皺を寄せながらカナの隣に来た。目は十尾を睨んだままだ。カナは頷く。

「もちろん。どうしたらいい?」
「あの様子だ、十尾はまたなんか出してこようとしてる。だがさっきの大災害ほどのチャクラじゃねーようだ」
「尾獣ダマだ。オレにはダマせない♪」

ビーさん、とカナは振り向く。ビーも相当にボロボロの体になっている。

「おい、またなんか変化してるぞ…!」

連合軍のどよめきが漂った。
チャクラを溜めている十尾が、がぱっと大口を開けた。そこから花のツボミのようなものが姿を表し、皮を剥こうとしている。ひとひらずつ、めりめりとツボミが剥けていき、毒々しい花をその大口に咲かせた。
そしてゆっくりとそこに白黒のチャクラ───尾獣玉の元を集め始めている。

「尾獣玉か…」

シカマルは汗を流して口角を上げた。

「ナルトのチャクラがオレたちを覆ってる以上、またアイツが守ってくれようとはすんだろう。だが、ジリ貧でやっててもしょうがねえ」
「うん。ナルトにも限界がある」
「だから、お前もあの尾獣玉は無視しろ、カナ」
「え?」
「ビーさん、オレが合図したら、カナを十尾へぶん投げてくれ。マダラも追っつけないスピードでだ。カナにヤツ本体を任す……できるか」

シカマルの目がカナに向く。少しだけ迷いのある眼光が、カナの身を案じるもののようだった。その胸にずっとある想いのために。
カナはそれに気づいてしまう。だからこそ、目を逸らして、十尾を見据えた。

「もちろん」
「……」
「シカマルの作戦を疑うこと、ないよ。それでいこう」
「……ああ、頼む。お前とビーさんはその準備を後方で頼む。前方はオレたちが行く」

カナは笑って、何の疑いもなく頷いた。その足が後方へ向かう。「そうだ♪オレ達がみんなの操舵♪」と口ずさみながらビーもシカマルに背を向ける。

それを最後まで見送らずに、シカマルは大きな深呼吸をした。雑念を払う。ちょっとした気の迷いが世界を滅ぼす、と改めて自分に戒めた。
十尾の尾獣玉が完成形に近い。

「いの!オレと繋げてほしい人がいる!」

シカマルの作戦が動き出した。



「…そういうことね」

シカマルと離れて一分ほどで、カナやビーの脳内にもシカマルの声が伝達された。いのがここにいる全員に繋げているようだ。
作戦の概要を聞かされ、カナもようやく理解する。

「ってカナお前、どうするか分かってたから頷いたんじゃないのか?」
「いや、私、そこまで頭回らないです…単純に、シカマルだから何も聞かなかっただけですよ」
「すげえ信頼だなオイ、負い目感じる、疑ったオレ♪」
「ふふ、同期だから───ビーさん、構えといてくださいね!」

有翼変化がカナの背中に現れる。ビーの手だけが尾獣化し、その巨大な手の上にカナは降り立った。シカマルの合図を待つ。



今まで作られてきたものとは比ではない尾獣玉が、完成したようだった。恐らく爆発したらこのあたりが完全に消え去るだろう。
撃ち放たれる。それと同時に、シカマルの連合軍への号令が上がった。


「壁を作れェ!!!」


───土遁使い、黄ツチについ先ほど聞いたばかりの、誰でも出せる程度の土遁の壁が、連合軍の忍の数だけ連なっていく。元よりの土遁使いはより堅固な壁を。何度も何度も破壊されてもなお。
地響きで足が揺れる。地面に両手をつけてチャクラを練る。
その先頭にいるシカマルが、声を張り上げた。


「カナ、突っ込め!!!」


それを合図に、八尾の腕が思いっきり振りかぶった。
翼が風を切る───尾獣玉が壁を崩すスピードよりも数段早く、カナの体が壁の上空を通過して行った。
マダラは爆発に備えて須佐能乎を構えていて、動く様子はない。


「行けェ!!!」


連合のみなの声が背中に届く、その瞬間、カナの体が十尾の真上まで届いた。
口の中に花を咲かせているその姿。シカマルの読み通り、これだけのチャクラを放った今、この巨体は無防備だ。一つ目は頭上に来たカナを捉えたが、尾で薙ぎ払われる前に、カナは朱雀のチャクラを練った。


「有翼式・風神々楽!!!」


カナの背後から渦を巻いた台風が幾多にも連なって十尾を襲った。
十尾の悲鳴が轟く。尾が振り回されるが、当たりそうな尾は全て風で弾き返す。カナの足がようやく十尾へと着地した。心臓が跳ねる中、膝をつき、手を十尾の頭へかざす。

「朱雀…!」

カナの体全体が朱色に包まれ、それがどんどんと十尾の頭へと伝っていった。そうすると、十尾の荒々しさが段々と萎んでくる。
カナはその様子を捉えながら、連合を振り返る。───だが、まだ尾獣玉は消えていない。

「(間に合わない───!)」

尾獣玉は十尾自身が抑えられたことで若干の威力を落としたようだったが、それでもその前に、壁を突き抜けてしまいそうだった。
だがここまで来てしまえば、カナに選択肢はない。必死にチャクラを十尾に送り続ける。


「間に合えーーーッ……!!!」



そこに、唐突にポン、と肩に手が置かれた気がした。


「大丈夫だよ」


優しい声。だが、ハッと目を上げるも、もうその姿はそこになかった。
今のは、とカナが思う間もなかった。

尾獣玉の荒々しい気配が付近から消えた。
直後、はるか遠く彼方のほうから爆発音と振動が。

この戦場で初めて現れるその姿は、金色の髪と碧眼、どこかで見覚えのある人物。
凄まじい速度で唐突に現れた男が、サクラに回復してもらっているナルトの前に現れた。


「遅かったか?」
「いや…ぴったりだぜ、父ちゃん!」


ナルトの父、波風ミナトが、尾獣玉を彼方の地へと飛ばしていた。


 
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