木ノ葉の里に夕暮れの赤い光が差し込む。破壊の限りを尽くされた家々は、これからも果てしない作業になることが分かるが、徐々に復興しようとする影を見せている。ここ最近ずっと里を賑わわせていた大工たち、住民たちの声は、日が落ちるに伴って数が減っていくようだった。

その里の隅で今なお、いや、今だからこそ集まる彼らは、木材の傍で顔を向かい合わせていた。夕日の赤がその姿を照らす。悲痛な嗚咽が響き、誰もの顔に暗い陰が差していた。
かつてルーキーと共に言われた少年少女たちは、もう随分と成長し、自ら決断をしなければならなくなったのだ。今や犯罪者とされてしまったいつかの仲間が、もう里からも見放され、断罪の対象となってしまった───

「......泣くな、いの!!」
「キバ、そんな言い方!いのはね、サスケくんのことを.....!」
「仕方ねえだろ。もう昔とは違うんだ!」

サスケが、殺しの対象となった。
キバはたまたまその話を耳にし、最初は七班へ。そして雲隠れが絡んでいるという事情も聞き、かつてサスケと繋がりがあったこのメンバーに伝えていた。
ここ数年間離れていた人物であれど、サスケは仲間だったのだ。誰も彼もが最初は目を見開いた。胸の中に侵入する息苦しいものを感じたのも全員だった。

「大丈夫なのか。いのがこれだ。サクラやナルトは......」

シノが懸念の声色で言う。いのの涙は未だ止まりそうになく、テンテンとチョウジがずっとその肩を支えている。
ヒナタはその様子をずっと目を伏せながら見つめていた。必死に嗚咽を堪えようとしているいのの姿が痛々しくて、胸の前できゅっと手を握る。もう数年前になる、里抜けをしてしまった仲間。
......仲間、たち。ヒナタはその脳裏に黒だけでなく、銀色の影も浮かぶのを感じた。

「カナはどうしちまったんだか......」

その時、ちょうどキバも漏らす。全員の視線がそちらへ向かう。

「アイツ......ずっとサスケの傍にいたんじゃないのかよ。今頃何やってんだ......何でサスケを止めなかったんだ。......まさか、死んだとか」
「キバくん、やめて!!」

考えられる可能性だ。木ノ葉側が知らないだけで、この忍の世界、どこで戦いが起こり命を落とすか分からない。カナはずっとサスケの傍にいたはずだ。なのに雲隠れへは共に出没してないという、ならば。
しかし、ヒナタがそれを遮るように声を上げる。そんなこと言わないで、と声を押さえ込んで続けた。

「何か......何か事情があったんだよ。サスケくんのことも止められなかった理由が......」
「.....とにかく、今はサスケのことを考えよう。カナのことは言っても憶測にしかならない」

ネジがヒナタを気遣いながら言う。その通り、何よりも重大視すべきは今目の前に迫っている問題だ。
サスケの処罰の話を受けて、このメンバー全員、そして今はここにいないシカマルが決したこと。シカマルはそのことを伝えるために先ほどナルトとサクラの元へと急いでいた。
もう自分たちは、目を背けていられるほど子供ではなくなってしまったのだから。


そのシカマルはまさに今、サクラの元に辿り着いていた。綱手が寝込んでいるテントの中に、サクラ、そしてサイとシズネ。始めから暗い空気が充満していたその空間に割り込み、シカマルは低い声で告げる。

「オレたちはもうガキじゃねえ。オレたちが"暁"を止める。......そして、サスケを止めるんだ」

"暁"はシカマルの師、アスマを殺した。それだけじゃない、火ノ寺の僧侶たちも、風影我愛羅も、今や至るところで"暁"による被害が報告されている。そこにサスケが入った今、もう仲間だったからといって無視できるレベルじゃなくなったのだ。

「......オレはここに、第七班のメンバーに承諾を得に来た」
「まさか......承諾って」
「そう。それッスよ......サスケのせいで、木ノ葉隠れ、雲隠れが戦争するワケにはいかねえ」

シズネの声に静かに返す。サクラはと言えば既にサイとの話で惚けたように俯いていた。その様子を伺い、少し遠回しに話す、とシカマルは前置きして目を逸らす。
今回のペイン戦で思い知らされたこと。正義と名のつく復讐が、何度も何度も繰り返されること。サスケが殺されれば、第七班や同期たちが。それで雲が仇討ちに来れば、今度は更に自分たちの親世代までもが。繰り返しは止まることを知らず、いつか本当に歯止めが効かなくなる。

「そして......気付けば戦争になる」

戦い合うことで更なる痛みを生み出し、相手にぶつけるために。

「雲の伝令役の情報からして、サスケはもう国際的にも重罪人として扱われる。サスケがこれ以上"暁"に同調してあちこちで憎しみを増やしていくなら、サスケを......木ノ葉の手で処理すべきと、オレは考える。......無論、それはカナも同じだ」

シカマルはそこで一旦区切り、深く息を吸う。その胸には様々な想いがあるが、今シカマルはここに"忍"として居なければならない。サクラがサスケのことを好きなら、シカマルはカナのことを。

「カナの情報は今はない。けど、たまたま雲隠れに行かなかっただけで、もしカナも"暁"に与してるんだとしたら。カナもサスケと同等......対処は、変わらねえ。アイツらは......」

"木ノ葉の手で処理すべき"。その意味が理解できないサクラじゃない。次第にその瞳から雫が零れ落ちる。それは頬を伝い、顎を伝い、ぽたぽたと床に落ちて染み入る。
シカマルはそれを見て、一気に言おうとしたセリフを止める。一人でに足が震え、それを必死で制した。喉の奥に何かが詰まったようだ。何度か浅い呼吸を繰り返した。それでも、言わなければならないのだから。

「......その為の承諾だ。サクラ、お前は」
「シカマル......」

しかしそれをサクラの声が止める。やっとのことで吐き出したような声だった。

「それより先は、何も言わないで......」

サスケとカナの顔が、脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消える。希望を持っていればいつかきっとまた、と希望しか見ていなかった前までのことが遠い昔のようで、いつの間にかやって来た重い現実が壁として立ちはだかっていた。

「......悪いがサクラ......お前の答がどうであれ、木ノ葉の未来の為にオレは行動させてもらう。この事はナルトにも話す......アイツはどこにいる?」
「ナルトは今、鉄の国へ行ったよ。雷影に会うために」

サイがサクラの代わりに応える。雲隠れの忍と一悶着があった後、ナルトはカカシ・ヤマトと共に既に里を出た。全ては雷影にサスケのことについて許しを請うためだ。
察したシカマルは「アイツ、そこまでして......こりゃ一筋縄じゃいきそうにねえな」と呟き表情を歪めた。

「......ナルトには私が話をする」

その時サクラがやっとしっかりした声で言った。サクラ、とシズネが気遣う声を背に、ゆっくりと顔を上げていた。
サスケとカナの顔の代わりにナルトを思い出すと、サクラの脳裏にはいつでも周囲を明るく照らしてくれた笑顔が映った。ナルトはいつしか誰よりも頼もしい仲間となって、人知れず誰もが甘えていた。その事の一番の記憶として、サクラの脳裏に甦るのは、数年前"一生の約束"をしてくれた少年の顔。自分も辛いだろうに、ナルトはいつだって笑って、励ましてくれた。

「私なんかを好きになってくれたバカだから......だからそれは、私の役目にさせて」

サクラの瞳には強い意志が戻りつつあった。シカマルは僅かに躊躇うも、最後には浅く頷いた。

木ノ葉が出した"暁"は木ノ葉の手でケリをつける。サクラは強く拳を握りしめた。サクラさえ、もうその事に異を唱えることはできない。けれど、ナルトはきっと頷かないだろうことは、サクラには火を見るより明らかだから。
サクラは胸の中で一人決意する。これは、自分一人の役目であると。


ーーー第五十七話 凍てついた


日が沈んでいく。世界を赤らめていた太陽はいつしか山の向こうへ落ち、反対側からは月が姿を見せ始めていた。
以前より少し伸びた銀色をなびかせながら、カナは夜闇色が空を侵食していく様子を一人見つめていた。

"鷹"に付き添い木ノ葉へ向かおうとしたところに現れたマダラ、ゼツ。彼らの話の大まかな流れは"鷹"を五影会談へ導くこととなった。何よりダンゾウが六代目火影として会談へ向かったという情報がサスケにとって大きかったのだろう。それに、標的としていた木ノ葉はもう全壊しているという。

『全てペインが平和への第一歩としてやったことだ』

あの時マダラはそう言い、カナに視線を向けた。平和という言葉が出るとカナは縛られたように向き合うしか無い。

『そして、次の段階は五影たち。世界の平和のために、ヤツらを相手にする』
『......それがペインさんの意志だと?』

マダラは違う。しかしペインは本気で平和を志していた。そのやり口が何であろうと、"今のカナ"は「平和に向かうのならそれで良い」としか考えられない。
"今のカナ"に、木ノ葉で過ごした頃の記憶はないのだから。

『そうだ。だから今はソイツら"鷹"と行け』
『......』

だから、カナは未だに"鷹"に付いて来ている。それは"鷹"と共にいることで自分の記憶を回復させる為でもあり、ペインと交わした協力の約束の為でもあった。

マダラたちと会う前と一つ違うことは、イギリがこの場にいないことだ。
その代わりに白ゼツが案内役に加わった。五影会談に行けば戦闘になることが予想される。イギリは戦闘タイプではない、ゆえに一度あの場で別れることとなった。

そして今、"鷹"とカナは"鉄の国"の気候へ入る直前の木々の中で体を休めていた。もう夜も更け始めているし、五影会談は明日午前に開かれるらしい。明け方に出発すれば十分間に合う計算だ。温かい気候に身を包まれている内に、"鷹"のメンバーたちは仮眠をとっている。

一方でカナは木々の上、一番高い枝の上に腰をかけて、一人夜空を見上げているのだった。


胸にぽっかりと空いている、いつまでも埋まりそうにない穴のことを考えると、カナはずっとゆっくり眠れないでいた。イギリや"鷹"、マダラと、話す人々はたくさんいたはずだが、それでも埋まらないこの空洞はきっと孤独心なのだと、カナは自然と理解していた。

今カナの記憶は中途半端に途切れ、繋がっている。一族を殺しに来た蛇たちがぱっと消えたかと思うと、未来にでもやって来たかのように、唐突に自分が大人になっていた。

目が覚めてからもう暫くになるが、カナは未だに自分の視線の高さや、手の大きさ、体の成長ぶりに違和感を感じる。どうして自分がここにいるか分からず、人の話を聞いても"前の自分"の考えさえ掴めない。初対面の人たちは、みな自分を知っているような顔をした。けれどそれは、"前の自分"に向けられた表情の数々だった。

"今のカナ"を見る者はいない。そして、自分自身を一番自分が理解できない。

恐怖に近い孤独心。それは、こうして静かな夜になると尚更膨れ上がる。
だからカナはずっとまともに寝れていない。ただ、考えるのだ。自分は一体誰であるのか、ということを。

「(父様、母様......)」

もう今はいない両親を思うと、じんわりと目頭が熱くなる。
そうしてカナは、無意識に口を開いていた。胸の穴を埋めるために、母が繰り返し教えてくれた歌を、その口に。


___夜空 羽根が舞う


風羽の平和を象徴する歌を、か細く、か細く。それは、とある鳥の成長物語の詩だった。

白いフクロウが夜空を飛び、そして寂しいと言って朝にする。するとそこには穏やかな一日があって、誰かが彼を呼んでいた。友達ができて、仲間が増える。笑い合うことができて、独りぼっちではなくなる。朝は次第に昼へ、そしてまた夕方へ夜へと太陽は落ちていくけれど、もう彼は寂しくはなくなっていくのだ。


___ありがとう、また逢おうと


最後に仲間たちに別れを告げて、フクロウはまた一人、夜の森へ帰っていく。けれど、もう夜は怖くなくなっている。その心には仲間ができたのだから。

そして歌はまた序盤と同じ歌詞に、───



「夜空 羽根が舞う......」



───カナは今、ハッと顔を上げた。
カナが紡いでいた歌は途切れる。だが、どこかで声がする。本当に微かな、メロディを刻んでいるとは言えない、だけれど確かに、カナの歌を引き継ぐかの様に、誰かの声が。

「誰......!?」

カナは瞬時に立ち上がって足元を蹴った。
風に吹かれて耳に届いた歌詞。母はこの歌は風羽の先祖が作り口伝してきた歌だと言っていた、それなのに今、カナ以外に一体誰がこの歌を知っている?

木々の間を抜け、声の出所を捜す。夜闇が落ちたこの森の中では視界が悪い、それでも目を左右に見渡し続けた。気のせいなんかじゃない、距離はそんなに遠くない、今も微かに聴こえている、ただの呟きともとれるようなそんな、

声。


「......!」


カナはざっと立ち止まった。どくんどくんと跳ねている鼓動が耳にうるさかった。
無意識に捜していたのは、自分と同じ銀色だった。けれど今目に捉えているその人物はまるで正反対の髪色。

薄い雲が月にかかり、数秒。また月光が地上に降り注いだ時、その瞳の闇色がくっきりと映し出された。

「サスケ......さん」

息を整えて、やっとのことでカナはぼやく。そこにいるサスケは、岩に腰掛け月を見上げていた。

その口はもう何も紡いでいない。だがカナはようやく思い出した、先ほど聴こえた声は、このサスケのものであったことを。サスケが風羽の歌を口ずさんでいたのは確かだ。その事実が酷くカナの心を揺さぶる。
サスケは一向にカナのほうを見ようとしない。それでもカナはその場から声をかけた。

「どうしてあなたが、私たちの歌を......?」
「......」
「......私、思い出したいんです。歌まで知ってるなんて、"前の私"とあなたは、一体どれほど」

ざり、とサスケの足が地面を踏みつけ、カナは言葉を止める。立ち上がったサスケはすっとカナのほうを向き、ゆっくりと歩いて来た。だがカナはもう気付いている。
サスケはカナを見ていない。あの時と同じようにその横を通り過ぎようとしているだけだ。その歩みを遮ることができず、カナは小さく俯いてしまう。

また、通り過ぎて行く。
何も聞けないまま。

「......」

だが今度は違った。
カナは決心したようにバッと振り返り、今にも離れていこうとしたサスケの腕を掴んだのだ。

今度こそサスケは振り返る。どこまでも黒い瞳が、縋り付くように自分の腕を掴むカナを見下ろした。

「......どうしてあなたは、私のことを知ってるのに、教えてくれないの?」

口調が砕ける。サスケは僅かに目を細めた。

「離せ」
「離してほしいなら教えて」
「忘れたくて忘れたんじゃないのか。辛いことも重いことも、オレのことも全て」

カナはハッと目を見開く。サスケの瞳は、まるでカナを責めているようだった。その視線に貫かれて、しかしカナは目を離せない。サスケのその目に意識を奪われる。
またこの感覚だ、とカナは思った。こんなにも冷たい色をしているというのに、何故かサスケに負の感情を抱けない。腕を掴む力が更に強くなる。

「......そんなことない」
「何でそんなことが言える?お前はもう何も憶えてないはずだ」
「憶えてない......だけど、私......あなたを見てると余計、思い出さなきゃいけないって思うから」

胸に何かが流れ込んでくる、この感覚の名前はなんだろう。
何故か今、突然両親の姿を思い出した。子供の自分にはよく分からない話で笑っていて、少し疎外感も感じたけれど、幸せそうに仲睦まじく笑う二人を見るのが好きだったこと。

「......あなたを見てると......思うから。前の私は、きっとあなたのことを」

しかしカナが全てを言う前に、サスケの手が急にカナの胸ぐらに伸びた。
そのままサスケの顔の目と鼻の先にまで引っ張られる。その距離、数センチ。カナは目を丸め、サスケの腕を掴んでいた力も緩んでいた。どこまでも深く、底の見えない黒目がこの至近距離でカナを捉えていた。

「全てを忘れて笑ってるくせに、よくそんな勝手なことが言えるな」

引き上げられたからといって、物理的な苦しさは感じなかったのに、サスケのその言葉でカナは息を詰める。

「......オレはもう、お前のことを"カナ"だとは思ってない」

淡々としたセリフが、直接カナの胸をえぐった。胸ぐらから手が離れて衝動で後ろによろめくも、カナは最早サスケに縋り付く気力も失ってしまったし、サスケは早々に姿を翻していた。

固まったカナを背後に、未練もなく歩き出すサスケ。凍てついた心はもう失った光を取り戻そうともせず、今はただ、闇の先を見つめたまま。
あの歌を耳に拾い、無意識に繋いでしまったことを、忘れようとした。



朝方。鉄の国の寒い気候の中、しんしんと雪が降り続いている。
とある宿の二階、その部屋の窓の外には一面の雪景色が広がっていた。温暖な火の国木ノ葉隠れではそうそう見れない光景だ。しかし、いつもならそう言ってはしゃぐだろうに、今のナルトはその窓にも背を向けて寝転がっていた。

雲隠れの長・雷影にサスケ抹殺の命を解いてもらうため木ノ葉を出たナルトは、だが、その願いを叶えることはできなかった。
切実だった。雪に頭を押し付けてまで嘆願した。無論自分がいかに無茶苦茶なことを言っているかも分かっていた、それでもナルトにはああして言葉を使って頼み込むしかなかったのだ。

長門との戦いで、力は何も解決しないことを学んだ。復讐がいかに次の痛みを生み出すかを知ったから。そしてナルトは何より、復讐を望んで闇に走ってしまった友のことを、痛いほど知っているから。

「(......サスケ)」

瞼を瞑ると浮かぶ姿。兄を憎み、兄を殺すためだけに生きてきたと言っていたあの声。
しかし、サスケはその復讐を果たしたはずだ。戦い打ち勝ち、兄を野望通り殺したことで、里抜けの動機を失ったはずだ。
そして、

「(カナちゃん)」

カナはずっとそんなサスケの傍にいたはずだ。大蛇丸が死んだと聞いた後からのカナの目的は、ナルトたちにははっきりしなかった。しかし、サスケ以上にカナが里に戻らない理由はなかっただろう。サスケと共に木ノ葉に帰ることこそがカナの望みだったのだから。

なのに、二人とも帰って来なかった。それどころか状況は悪化した。
ワケが分からないことが、尚更苦しかった。サスケが"暁"に入った理由も、カナがそんなサスケを止めなかった理由も。

「(今どこにいて......何を考えてんだ。何で、木ノ葉に帰って来ねえ......?)」

サスケとカナ、今はもう幼いと感じる二人の笑顔が遠い。あの邂逅の時から随分強くなったはずなのに、あの時よりもずっと遠ざかってしまった気がしている。

ナルトはうっすら目を開ける。空色の瞳が覗き、ぼうっと自分の手を見つめた。いつかこの手が本当に二人の姿を掴めるのか、今は自信がない。
弱気になってしまいそうな自分を戒めるように、ナルトは強くその拳を握りしめた。

だがその時、ナルトの目は驚愕に開かれる。


「よう......」


突如感じた気配と声。

「話でもどうだ?うずまきナルト」

振り返った瞬間見えた黒衣に赤雲模様、"暁"のコート。


「てめェは......!!」


瞬時、ナルトの螺旋丸が壁を破壊した。轟音が響き、砂埃が巻き上がる。しかしその煙が晴れた時、狙ったはずの獲物はそこになく、「いきなり螺旋丸か」と呆れたような声が落ちナルトはハッと顔を上げた。
渦巻き模様の面をつけた男は、ナルトが破壊した壁の淵に立っていた。

「この間の戦いで効かないのは理解しただろう」

余裕を滲ませた態度は、その身に木遁忍術が巻き付き、背後に雷切が迫っても変わらなかった。
ヤマトはナルトを守るように立ちはだかり、ナルトの前に木遁の格子を発動させる。カカシは男の背に降り立ちその姿を睨みつけた。

「そう簡単にナルトに手は出させやしないよ。......"うちはマダラ"」
「だったらさっきのオレのセリフは聞いているだろう。この"うちはマダラ"には、一切の攻撃は通用しないと」
「アナタが体を消しているのか、霊体化しているのかは分からないが、ナルトを捕まえる時は実体化する必要がある......だからそこを狙う。ここはもう、僕のテリトリーだ」

ヤマトの木遁が宿の屋根から突き出るようにマダラを囲む。カカシは写輪眼で一分の隙もなく目前の相手を警戒する。既に不意打ちができなくなったことを考えれば、マダラが"人柱力"をさらう難易度は非常に高まっただろう。

「フッ......オレとて別にそう簡単にいくとは思っていない。オレにも計画ってモノがある」

しかしやはりマダラは笑うだけだった。

「それよりも、今は話がしたい」
「話?」
「そうだ。ペイン長門を裏切らせたものは何なのか......ナルト。お前に興味が湧いてきた」
「そんなことはどうだっていい!!」

面の奥の写輪眼に見下ろされるも、ナルトはただ今自分の中に沸き上がったものだけに従った。サスケ、カナの姿が脳裏に過る。

「てめェがサスケを利用してんのか!!カナちゃんもてめェが隠してやがんのか!?」
「......カナか。そうか、悪かったな。カナの情報は全く入らず不安だっただろう」

その言葉の意味が分からないはずもない。ナルトは目を見開き、ヤマトとカカシは眉根を強く寄せた。「やっぱカナちゃんまで......!」とそう言うナルトの声が怒りに震える。それはかつての上司も同じく。

「カナをどうした。あの子は"暁"になんか入るような子じゃないはずだ」
「ああ、そうだな。カナに関しては少しイジらせてもらったよ。"神人"であると同時に、サスケを闇に染めるための駒にもなってもらうためにな」
「サスケを染めるための駒......!?ふざけんな......カナちゃんに何しやがった!サスケをどうするつもりだ!あの二人について、教えろ!!」

なぜサスケが"暁"の目的に手を貸したのか。カナは現在どこで何をしているのか。
ナルトが怒鳴ると、マダラの答はあっさり返ってくる。「いいだろう」とそう言う声は嘲笑っているようだった。

「忍世界の憎しみ恨みに骨の髄まで侵された男、うちはサスケについて。そして今や自らの一族が求めた"平和"の本質をも忘れ、幼なじみを更なる闇に引きずり込んだカナについて......全てを、話してやろう」

写輪眼がナルトを見下ろす。その面の下で、長い話を語りだす。
鉄の国の寒空から落ちる冷たい雪は、まるでナルトの心に積もっていくように降り続ける。カカシもヤマトも、ナルトでさえもマダラの話に口を挟む余裕を得られなかった。

サスケが憎んだはずの兄、イタチについて。その記憶を失くし"自分"すらも失ったカナについて。
そして、その二人を失ったことで、サスケが"自ら"選択し突き進んだ"忍道"について。

ナルトは全てを知ることとなる。
降り続ける雪は、冷た過ぎた。




その冷たさを甘んじて受け止める顔があった。
"鷹"の最後尾を歩きながら、カナはずっと雪を降らせる曇り空を見つめていた。黒衣を身に纏い、それほど寒さは感じていないはずなのに、まるで誰かの心を凍らせるようだと人知れず思っていた。
やがてカナは視線を前に戻し、あの背中を見る。それはもしかしたらあの人の心かもしれないと、何の根拠もなく考えた。
サスケの瞳に宿る冷たさは、目的地に近づくたびに増している気がする。

五影会談の会場はもうすぐそこに迫っていた。


 
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