新たに"蛇"と名を付けられた小隊は、次の目的地に辿り着いていた。
"空区"と書かれている看板が掲げられた街並み。建物ばかり並んでいるが、そのわりに人の気配はほとんどない。何羽ものカラスが来訪者を警戒するように鳴き喚いている。曇天の空が一層あたりを陰惨に見せるようだ。
その街中の建物の一つに一行は入り、電灯がついたり消えたりする通路を歩く。先頭はもちろんサスケ、だが今まで大体後方を歩いていたカナが、珍しくその次に続いていた。その足取りも確かだ。その些細な違いに気づいたのは、初めに仲間に引き入れられた水月だった。

「...僕さァ、カナって方向感覚ないのかなって思ってたんだけど」
「...!」
「だからいっつも後ろ歩くのかなって。勘違いだった?」

勘違いではない。「そんなのたまたまだろ」と香燐が横やりをいれるが、繰り返し言うと、勘違いではない。水月は香燐のその言葉で納得したようだが、カナは微妙な気分のまま、ひたすら振り返らない。だがカナの代わりというように、サスケがちらりと振り返っていた。

「......」

無言の視線が痛かった。

「しかし、こんな廃墟にアジトがあったなんてね。初耳だよ」
「大蛇丸は関係ない。オレの一族が使ってた武器屋だ。ここで戦いの準備を整える」

排水管だらけの通路がずっと続いている。それをサスケはもちろん、カナも迷いなく足を運んでいるのは、ただ知っている場所だから、という理由だけだった。うちはの武器屋、だが子供たちにとっては絶好の遊び場だった。カナが目を伏せ、懐かしい記憶の蓋を開けようとした時だった。

「しかし辛気臭いところだな。息が詰まるぜ」
「辛気臭いところで悪かったな」

香燐のセリフに返すように、サスケとカナにとっては聞きおぼえのある声が響いた。全員が振り向き、香燐はぎょっとしてその姿を目に捉える。水月も重吾も呆気にとられていた。

「久しぶりだな。デンカ、ヒナ」
「やっぱりサスケのボーヤか」
「それにカナだね。懐かしい二人だ。ここに何の用だフニィ?」

通路の真ん中にちょこんと座っている二匹は、小さな子猫だった。服を着て口達者に喋る猫は異様だが。
サスケは猫への手土産を片手に目的を言う。それを見て満足げに笑った二匹はくるりと身を翻す。向かう場所は猫・忍猫たちの長であり、人間との取引役の老婆の元。そこは忍猫たちの案内無しには通れない。無事認められた一向は、その老婆、猫バアの居場所に辿り着いた。
早々に目的を告げたサスケを目にし、猫バアはごそごそとタンスを漁る。

「久しいねェ。よもやまたうちは一族に会えるとは思わなんだ。そっちの銀髪も覚えとるよ」
「お久しぶりです......幼いころはお世話になりました」
「おてんば娘が立派になったもんだ。それ、サスケ。これでいいかい」

猫バアの前に立っているのはサスケとカナのみ。水月と香燐は数十匹もいる猫のうちの数匹と戯れていたし、重吾はここの看板娘に服をあてがわれていた。サスケは猫バアが揃えた忍具を確認し、頷く。「恩に着る」と言った瞳、その中で燃え盛る炎に気づいたのか、猫バアは懸念するように眉根を寄せた。

「やっぱりイタチのところへ行くんかいな?」
「......」
「アンタらのことは小さな頃から知っとるが...まさかこんなことになろうとはね。今やうちはもお前たち二人だけ、それが殺し合わにゃならんとは...」

だがサスケはあくまでもその話題には触れなかった。「もう行く。今まで世話になった」と、それだけ言って報酬を出す。カナもあえて何かを言うことはなかった。嘆かわしそうに猫バアが首を振っているのを見ていることしかできなかった。
それから重吾の服も、カーテンではあるが一応調達し、全員分のコートを受け取って、"蛇"は再び通路を抜けた。

曇天はもう雨天へとなっていた。しとしとと降る雨の中、五人は黒コートを羽織って"空区"を出る。向かう先は確かではない。これからは当てもなく目標を探すだけだ。
だが、不思議と誰もに確信があった。
この小隊の目的に辿り着くのは、そう遅いことではない、と。

「行くぞ」

サスケがはっきりと言う。雨に降られながら、カナはじっと前を見据えた。



───その地から離れた場所でも動きがあった。
木ノ葉の門前に集結した総勢八名と一匹。新旧第七班と第八班。このたびの任務・"暁"メンバー捜索また捕獲にあたって集められたチームだった。雨が降る中、白コートを羽織って木ノ葉を出る。

「出発だってのに、嫌な天気だねえ、どーも」

カカシがぼやくが、先頭に立つナルトには関係ない。

「よっしゃー!行くってばよ!!」
「熱くなりすぎてるヤツにはちょうどいい雨じゃないっスか」

それぞれの想いを胸に秘め、木ノ葉の陣営も出撃する。


───そして、"暁"側も。イタチ・鬼鮫に連れられた四尾の封印式が終わり、デイダラを待たせる鎖はなくなった。外道魔像の指の上でにやりと口元を上げる。

「さて、どっち行くかな......うん」
「どっちって?どっちとどっちのコト言ってんスか?」
「カカシ率いる九尾の人柱力か、はたまたうちはサスケか」

そのパートナーであるトビが焦って止めようとするが、デイダラの意思は変わらない。どちらにも借りがあると言って、さっさと現実世界に戻ってしまえば、トビもそれに続くしかない。
それを静かに見ていたのはイタチ、北波。どちらの目にもあるひっそりとした想いが静かに浮き彫りになり始めていた。



ーーー第四十二話 真実への開幕



それぞれの組織が各地で動き出す。情報収集は基本、まず何よりも真っ先に行われることだ。
木ノ葉は自来也から助言された通りのルートを行った。噂の出所を辿ればサスケとカナの現在位置もだいぶ絞れるとの考えの上でだ。数日をかけて移動した先は、木ノ葉から離れた山里付近だった。全員がとある家屋の屋根に降り、「よし」とカカシが全員に合図する。

「とりあえず、ここを中心ポイントにして近辺五キロ四方を探索する。もし何もなければ中心ポイントを移動して、同じように...ま、それを繰り返すわけだ。原則一人行動となる」
「五キロって......そんなに離れたら、無線も使えないじゃないですか!それに単独でそこまで離れたら危険です!」

サクラのその主張はヤマトに止められる。だが意見はもっとも。それに対応する策として、カカシは親指を噛み、扱いなれた優秀な忍犬たちを口寄せした。忍犬たちの能力は無線以上、戦闘の援護にも回ることができる。

「いいかみんな。まず第一に優先して追うのはサスケとカナの匂いだ。で、その次が"暁"。そしていずれかを見つけたとしても、場所を把握して一旦このポイントまで戻ること。わかったな」

それぞれが重々しく頷いたのを見て、カカシはすっと右腕を上げる。その手が降ろされた時、任務は開始された。



"蛇"もとにかくまずは情報収集を行った。数少ない漆黒の下地に赤雲模様の衣の目撃情報を辿って歩き続ける。 歩はいつしか山中へ。まさか木ノ葉の隊とそうそう遠くない位置にいるとは知らぬまま、"蛇"も似たように単独行動に出ようとしていた。
サスケは南へ、香燐は東、水月は西。いつ殺人衝動が出るともわからない重吾はカナと共に北へ。

そう指示を出され、各々が返事をする。だが出発する前に、カナはサスケに声をかけられた。重吾は後方で待っている。

「どうかした?」
「これを預ける」

手渡されたのは巻物だった。受け取ったそれを見て、カナはぐっと握りしめる。蛇の印が描かれたそれに封印されているものを、カナは言われずとも知っている。続いて小瓶を受け取り、それにも何も言わなかった。

「念のためだ。もしそいつに変化があったら、オレに何かあったと思えばいい」
「......不吉なことを言わないでほしいな。でも、わかった、念頭に置いておくよ。サスケ、気をつけて」
「......お前のほうがだろ」

言われて、カナはぱっとサスケを見上げた。
黒く深い瞳と目が合う。復讐を追い求めて里を抜けた目とは違う。だからこそ戸惑った。その目がカナを映していることに、酷く心を揺さぶられる。

「お前は"暁"に狙われる理由を持つ。重吾と行かせるのは殺人衝動に対処するヤツが一人は必要だからだが、その役目をお前にしたのは、お前が捕らわれる可能性を低くするためでもあるんだ。......気をつけろよ」

表情は動かない。だけれど、今のサスケの目の色は、カナが三年前まで見ていたものそのままだった。
熱い感情がカナを襲う。不自然に俯いて、こくりと頷くだけで応えた。下を向いたカナの視界にサスケの足が映る。サスケの足は数秒、ためらうようにその場で砂利を鳴らして───結局すっとカナから離れていった。

顔を上げてその背中を見ていたカナは、重吾に声をかけられてようやく動き出し、重吾と共に地を駆けた。



デイダラとトビは上空を飛んでいた。乗り物はデイダラ作の粘土の鳥、大空で無色の翼が風を切る。先陣を切るのはもちろんデイダラ、その左目にある小型探査機で地上を見渡している。

「それで、デイダラ先輩!どっちに向かってるんスか?九尾とサスケくん!」
「さて......どっちにしようかな、うん」
「って、まだ決めてないんスかぁ?」

デイダラにとってはどっちも魅力的な獲物だ。
九尾の人柱力には、その九尾の本性が出た時に一発殴られた思い出がある。おまけにそちらには腕をとった張本人のカカシ付き。借りを返すにはいい機会でもある、が、サスケもサスケだ。こちらにも"神人"が傍にいるというしーーー何より、デイダラの憎むべき相手・イタチの弟だった。
一度写輪眼に屈服させられた屈辱を、晴らさずにはいられない。

「見つけたぞトビ、うん」
「えッ早!」

その目標は、やはり。降り立った先に対峙したのは、イタチと顔立ちが似ている少年だった。



サスケが"暁"の一人であるデイダラ・トビと遭遇した頃、他の"蛇"はそれぞれの役割を果たしていた。
東へ向かった香燐は、その敏感なチャクラ感知能力にて、より強いチャクラを探す。水月はこれまで集めた情報を元に"暁"関係者をかたっぱしから捕まえて情報を吐かせる。

カナと重吾は北の山地を歩き、見晴しのいい崖で立ち止まっていた。

「うん......ここがいいですね」

カナが切り出すと重吾も頷き、背後に鬱蒼と生えた茂みや木々を見上げた。すると、顔を出したのは小鳥たちだけではない。小動物たちの顔も見つけ、カナは目を瞬いた。

「......すごい。動物たちと意志疎通できるんですか?」
「オレたち一族の間では、仙人化と呼ばれる能力の一部だ。お前たちのほうでは呪印と呼ばれてるようだが、オリジナルのオレたちは、戦闘能力が上がる以外にも様々な使い方ができる」

重吾の体の一部に呪印が巡る。静かにしゃがむと、リスやウサギたちがその場に寄ってきた。

「こうして能力を聴力に集中させると、動物たちの声も聞き取れるんだ」

そう言う重吾の表情は、これまでにないほど穏やかに見える。カナの頬は自然と緩み、そしてカナもまた自分の能力を発揮した。手を伸ばせば、小鳥たちがあらゆるところから羽ばたき、その腕や肩に止まる。それを重吾は見上げる。

「カナの一族は......」
「"鳥使い"、と呼ばれてるんです。本当のところはどうか知らないけど、どんな優れた忍鳥使いよりもうまく鳥を扱うって言われてるらしいです」

言いながら、カナは鳥たちを携えて、崖の淵に立った。

「人探しをしてるの。強いチャクラを持つ人や、そういうチャクラが集まっているところがあったら教えに来てくれる?」

その瞬間、鳥たちは応えるように鳴き、上空へと羽ばたいていく。崖から急降下しあちこちへ。鳥を扱えるカナにとったらこの方法が何より効率的だ。そして、それは重吾にも言える。重吾も小動物たちに何事かを伝え、頼んでいる。動物たちが一心に聞いている様子がかわいらしい。重吾の一声で彼らは森の奥に消え、頼み事を遂行しに行ったようだった。

立ち上がった重吾は、意図的にカナと視線を合わせていた。髪色と同じ、山吹色の目が相手を見透かすようにじっと見つめる。その間数秒、先に居心地が悪くなったカナが首を傾げる。

「......重吾さん?」
「少し......変わったな、カナ」
「!」
「何があったのか知らないが、そっちのほうがいい。.....オレを連れ出してくれてありがとう」

穏やかに笑った重吾は歩きだす。カナは一拍遅れてそれに続いた。ポイントを変えて動物たちに捜索を願い回るのが二人の仕事だ。

カナは言われた言葉に動揺を示していた。カナ本人は変わったつもりはない。だが、もし変わったというならば、きっかけはわかっていた。
気づかれていたと知り、隠す必要がなくなったからだ。木ノ葉やサスケに、カナの本当の目的を。

「お前に初めて会った時がもう懐かしいな。あの時は、こうして外を歩くことなんて考えたこともなかった」
「......衝動は、大丈夫そうですか?」
「今は気分が落ち着いてる。起きそうになる、と感づいた時は、よくお前の歌を思い出すようにしてるよ。安心するって、前にも言っただろ」

微笑まれて、カナも目尻を下げて笑う。重吾はカナの歌を知る、数少ない一人だった。

初めて会ったのは、カナが大蛇丸に連れられ、北アジトにある修練場に足を踏み入れた時だった。先にその場にいた重吾は既に呪印に取り込まれ、本来の性格が消えていた。それは問答無用で戦いになることを意味し、大蛇丸が笑って見守る中、カナは意味がわからないままに応戦するしかなかった。
しかし、どちらもそれなりの実力者。決着は最後までついたとは言えなかった。ただ、カナが重吾の背を蹴って吹っ飛ばした時、血反吐を吐いた重吾が徐々に本来の姿を取り戻し始めたのだ。褐色の体が消え、性格が一変した。

『続けなさい』

大蛇丸が冷淡な声でそう言ったのを覚えている。だが、カナはもう動けなかった。それまで戦っていたはずの好戦的な人格は消え、その時の重吾の目に宿ったのは、純粋な恐怖だけだったからだ。戸惑ったカナだったが、それでも、『もう戦えない』と断言した言葉は強かった。大蛇丸が呆れたようにため息をつこうが、カナはもう重吾に攻撃をしかける気はなかった。

カナはそれから北アジトで情報を聞きまわった。そして、"天秤の重吾"と呼ばれる青年が、呪印の元であることも、強烈な二重人格を持つ者であることも知った。知ってからは、戸惑う必要はなくなった。北アジトに赴くたびにカナが足を運ぶのはその重吾の元になった。
あの修練場では酷く怯えていた重吾も、扉越しだとまともに話していた。重吾が怯えるのは自分に眠る凶暴性のためだった。だが、カギをかけられた扉越しなら、誰かに危害を加える可能性もない。それでも精神が不安定な時は何も話せなかったが−−−そんな時は会話の代わりに、カナは密かな声で歌ったのだ。
二人の性格は似たり寄ったりだ。だからこそ、互いに安心していたのかもしれない。


「歌ってたことは......できれば、誰にも言わないでください」
「......なぜだ?」
「本当は、戒めだったんです。......嘘つきの自分への。歌ったら、自分が解放されるみたいで、罪悪感に苛まれてしまうから。音隠れに行ってからは、そうして自分を縛ってた......そんなつもりでした。だけど、重吾さんのところでは......」

無意識に口ずさんだ時は、甘えるなと自分を罵った。そんなカナが唯一自ら歌った場所が重吾の牢屋の前だった。

「他人のためだと思うことで、罪悪感から抜け出してたのかもしれません......ごめんなさい」

サスケが幼い頃カナの歌を「安心する」と言ってくれたように、重吾も同じことを言ってくれたからかもしれなかった。重吾がその殺人衝動から逃れられるならと、理由がつけられたのだ。そうすることで逃げられる場所を探し出したのかもしれなかった。
カナが目を伏せて白状すると、しかし、重吾はやはり表情を柔らかくしたままだった。

「お前にはお前の事情がある。オレにはそれがわからないが、そう自分を責めることはないだろ。オレが救われていたことは確かだし、そういう意味ではオレもお前を利用していたんだから。気にすることはない」

重吾が立ち止まり、また森に目を向けてしゃがむ。小さな生物たちが顔を出しはじめ、重吾の優しい表情につられるように集まってきた。カナはその背中をじっと見つめ、小さく唇を噛んだ。いつも誰かの優しさに励まされている、そんな気がする。

だがそれ以上会話を続ける間もなく、カナは不意に気が付いて上空を見上げていた。重吾も遅れて気づく。数羽の小鳥たちがカナの肩に止まり、ウサギたちが遠方から駆けて重吾の元へたどり着いた。

「見つけたの?」

チルル、と小鳥が鳴く。その話を聞き取ったのは重吾のほうだ。

「そうみたいだ。いつも不穏なチャクラを感じているところがある、と言ってる......数か所」
「"暁"のアジトかな」
「可能性は高いんじゃないか。なんせここらには忍里がないから。一度、サスケのところに戻って報告しよう」

はい、とカナは頷く___



ーーー忍同士の争いは、よほどのことがない限り数分で決着がつく。サスケがデイダラ・トビと遭遇してから、既にそれだけの時間は十分経過していた。

トビは戦闘に参加していないため、実質一対一の勝負で、対峙する二人は今どちらも満身創痍。強力な起爆粘土を練り続けたデイダラ、その土遁術に対抗するため自分に千鳥を流したサスケ、両者ともチャクラ切れが近い。

デイダラはいつか、うちはの赤い瞳・写輪眼、その美しい色に平伏してしまったことが許せなかった。うちはーーイタチの何事にも冷めた姿勢にイラつき、それは弟であるサスケに向けられた。二人は兄弟だった。なにからなにまで似ていた。デイダラの芸術に興味を示さないことが、何よりの怒りの根源だった。
互いにチャクラ切れとはいえ、この戦闘はほぼサスケに制圧されたようなものだーーーだが、デイダラはなおも止まらない。
ひたすらに、自分の芸術を他者に示すために。

自分の身を以てして、世界に己の芸術を知らしめた。
命と引き換えに、遥か数十キロ離れた地点まで見える、大爆発を起こして。

デイダラの芸術は完成した。

暴風と共に轟音が響き渡る。誰もがその太陽にまで届く光を見て目を丸めた。

木ノ葉の小隊はそれぞれの場所から呆然とそれを見る。水月、香燐は振り返り、ハッと気づいて駆けだした。
あの爆発の場所は、サスケが向かった位置。サスケが誰かと戦闘になったのだと考えるのは容易い。

それにはカナと重吾も例外なく気づき、息を飲んでいた。暴風がカナを襲い、それを感じた"風使い"は瞬時に爆発の強大さを察する。サスケにあんな爆発を起こす術はなく、カナの脳裏によぎったのは、三年前に遭遇した金髪碧眼の"暁"だった。

「サスケ...!?」
「行くぞカナ!」

サスケは君麻呂の生まれ変わりと信じる重吾も血相を変えた。重吾に引きずられるように走り出したカナは、数秒後にようやく我に返り、少し前のサスケの言葉が思い返す。

『もしそいつに変化があったら、オレに何かあったと思えばいい』

重吾に引っ張られながら、カナはごそりと懐を探った。その巻物に描かれていたはずの蛇は、消えていた。
カナは今一度 息を飲み、だが立ち止まるわけには行かず、前方を睨みつけ、逆に重吾を引っ張るように走り出した。

「重吾さん、向かうのは爆発の場所じゃなく、集合場所へ!」
「! どうしてだ!?」
「"暁"はツーマンセルで動く。サスケが今一人に勝ったんだとしても、あの場所に行ったらもう一人と遭遇するかもしれません!きっと水月と香燐も向かうならそっちです!」





辿り着いたカナと重吾は既にそこにいた水月の姿を見つけた。「遅い!」と怒鳴られたが、そんなことは気にも留めなかった。

「ねえさっきのアレ、どういうこと?サスケ来ないし、アイツまさか」
「その先は、こっちを確認してから言って」
「それは......さっきサスケに渡されていたものか?」

水月の元に走り寄ったカナはすぐ地面に巻物を広げた。こんな事態でなければ絶対に使わないものだ。そこに書かれた術式の上に、同じく渡された小瓶を開け、中の液体を垂らす。真っ赤な血がそこにしみ込んだ。

「それ、口寄せ?」
「うん───口寄せの術!」

瞬間、ぼわりと大きく煙が吹いた。もうもうと三人の視界を数秒遮る。口寄せされたものの大きさに応じて煙も多い。
現れたのは、全身に大火傷を負った大蛇。カナは一瞬怯まずをえなかったが、すぐに立ち上がってその周囲を探る。

「こいつって......大蛇丸の蛇じゃないか。確か、マンダとかいう」
「目に写輪眼を映されてる......サスケの幻術か?じゃあ、サスケは」
「サスケ!!」

重吾が言った直後、カナの声が上がった。水月と重吾も走り寄る。マンダの口元、そこに転がっていたサスケを、カナが抱き起こしたところだった。全身傷だらけでところどころ火傷しているのはマンダと変わらない。カナに支えられたサスケは、一応意識があるようだった。

「サスケ、」
「平気だ......そんな顔をするな」
「ホントに大丈夫なの?ボロッボロだけど。誰とやりあったワケ?」

水月の問いに応える前に、息絶え絶えのマンダが僅かに口を動かしたのがわかった。カナは僅かに震える。

「オレ様を利用、しやがって......この、クソガキが......!その目でオレ様を、操ったのか......この、オレさ、ま、を......」

それを最後に、マンダは完全に動かなくなる。
「あーあ。死んじゃったよ」と水月がさほど興味なさそうに呟いた。重吾は労わるようにその蛇皮をさすり、カナは目を伏せる。マンダの言葉から推測するに、サスケはマンダを使って危機を逃れたのだろう。

「もう大丈夫だ。はなせ」

言われ、カナはゆっくりとサスケから手を離すが、今の状態では立ち上がることもままならないだろう。呼吸だって乱れている。

「......チャクラを随分消耗してるよ。"神鳥"のを、」
「いい......暫く休めば元に戻る。お前まで消耗することはない」

その時、香燐も遅れて到着する。「遅い!」とまたもや水月が同じセリフを吐いた。

「うるさい!遠くにいたんだ。急にサスケのチャクラが消えたからどうしたのかと思えば......飛んでたのか?」
「あ、そうだった。サスケ、見たところ、マンダの中に入って時空間忍術で逃げたんだろ?で、なんでそんなにボロボロなの?」
「飛ぶ寸前にマンダと一緒に爆風を受けた。相手は"暁"だ。一人は爆弾使いで、一人は面を被っていた。面のほうはどうしたか知らないが、爆弾使いのほうが自爆して、さっきの大爆発だ」

カナはどくりと高鳴った心臓を感じた。
面を被った"暁"。それを、カナは知っている。もう二度と会いたくない相手。サスケにも接触すると言っていた。
それが、現実となってしまった。

「とにかく、少し休養をとらないとね。......カナ、どうかした?」
「......ううん、なんでもない」
「ったく、それでも大蛇丸を殺った男かよ。とりあえずここを移動したほうがよさそうだな。人が集まってきたらややこしい」
「サスケ、オレの背に乗れ。動けないだろう」

"蛇"は数秒後、ざっと姿を消す。
先の爆発が追手の手がかりになろうことは知るよしもなかった。


 
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