裂く。斬る。焦がす。飛ばす。そうして、次から次へと倒していく。赤の前にも、金の前にも、誰一人として数秒と立っていられない。あっという間に地面に落ち、うめき声があがっている。
広大な平野だった。そこに、何人、何十人、何百人と人がひしめき合っていた。炎が上がり、風が唸る。電撃が走り、水柱が立つ。異形の姿となり、異様な能力を使う。何百人と束になってかかろうとも、それが雑兵であるならば、全く二人の敵ではなかった。

それでも、そこには心もあった。
誰一人として、命は欠かない。


長い息をつく。気分が良いものではない。印を結束していた手を静かに解き、カナは静かに周囲を見渡した。一面、人が倒れている。仰向けに、うつ伏せに、重なり合って、倒れている。足元にも。

彼らに向かって一礼したカナは、倒れている忍たちの間を縫って歩いていく。目指す先にはサスケ、そして、大蛇丸。
倒した忍の上に座っているサスケと蛇は何かしら話していた。二人に近づく頃には、金色は消えていた。

「あなたもよ、カナ」

すぐに声をかけられ、カナは眉をひそめた。

「あなたたち二人、いつになったらもっと"らしく"なるのかしらね」
「......なんのこと?」
「あなたたちが嫌う、忍の本分の話よ」

カナはすぐには受け答えせず、サスケに視線を流した。だが、何も言わないところを見ると、どうやら既に何か言い返した後だったようだ。立ち上がって戻って行くサスケの背を見てから、大蛇丸に返す。

「あなたが言う"らしく"になりたいとも思わないので」
「でしょうね。つくづく私に刃向かいたいみたいだしね。......まあ、それはいいわ」

続いて帰ろうとしたところを引き止められ、カナはもう一度、どことなく不愉快そうに振り返った。

「後で私のところへ来て。いつもの、やってちょうだい」

ーーその言葉を聞いた途端、カナは一瞬 息を詰まらせた。本当に、ほんの一瞬。

すぐに「わかった」と返し、今度こそ姿を翻す。サスケの姿はもう近くないが、見えない距離ではない。だが後ろが気にかかると思ったちょうどその時、瞬身を使ったのか、背後で大蛇丸の気配が消えた。都合が良い。これで心置きなくサスケを追える。

しかし、カナが声をかける間もなく、サスケのほうがぴたりと止まっていた。アジト入り口のすぐそば。振り返ったサスケは、写輪眼を解いた瞳でカナを捉えた。

目が合う。
カナはこくりと頷いた。

月が地平線に近づいていた。もうすぐ、夜が明ける。



ーーー第三十七話 脱皮



部屋に戻ったカナは、蝋燭をいくつかつけ、それを机や棚に置いた。じめじめとした地下はもう随分慣れたもので、外の空気が全く入り込まない中、ゆっくりと寝台に腰を下ろす。そして数秒じっと目を瞑った。

思い返したのは、ナルトやサクラとの初めての邂逅の後、朱雀に言われた言葉だった。

『その選択が余計にあの者たちを苦しめているとしてもか?』

自分は自分の選択をした、後悔はしていない、と断言したカナに対し、朱雀はこう言った。この言葉にカナは答えられなかった。そんなこと関係無いと、向き合おうとしなかった。
だが会いたくないと思えば思うほど、どんな因果か、今となっては結局過去の仲間たち全員と顔を合わせてしまった。全員が強くたくましく成長していた。そして、全員が全員、過去の面影が残る顔で、カナを引き止めようとしていた。
悲痛の表情で。必死に、カナを叱咤し、説得しようと。

カナは自分の一時の幸せを捨ててでも、未来をつなぎ止めるために里を出た。
だけど、彼らのほうはそれをやめろと言う。何故そんな道にいるのかと。帰ってこいと言ってくれるーー。

「(......私がやってるのは、押しつけなのかな。朱雀は、それを教えてくれようとしたの?)」

目を瞑って唱えても答はなかった。聞いていないのか、それとも敢えて応えないのか。
カナはその後、何かを決意したように顔を引き締めた。惑いなく組んだ印は、相棒を呼ぶ合図。

煙が噴き出る音と共に、羽撃く音が部屋に響いた。

「よう」

ばさりと飛んだ紫珀は、トンとカナの肩の上に降りた。カナも一言うん、と返す。
だが、それきり言葉はなかった。紫珀は怪訝そうに相棒の顔を覗き込んだ。この部屋の中、敵がいるわけでもなし、話をするつもりもないのなら、口寄せの意味がない。

「何の用や?」
「......ケジメをつけようと思って。すごく遅くなったのはわかってるけど」

カナの声は酷く冷静でいて、どこか怯えも感じられた。真剣にわからない紫珀は黙って首を傾げる他なかった。もう一度目を閉じたカナは、伏せがちな目で紫珀に顔を向けた。

「憶えてるよね。......前に、私が紫珀を叩いたの」


『なんでそこまでして、アイツらなんか......なんで自分のことを一番に考えられへんねや、お前は!?』

そう言った自分の声を紫珀は思い出した。ああ叫んだ途端、紫珀は、カナに初めて叩かれたのだ。大した力ではなかったのに、随分と長く続いた痛みを覚えていた。

「はは......なんや、まだんなこと気にしとったんかい。いいんや、あれは、オレの失言やったし」
「でも、私ね。自分の気持ちばっかりで、紫珀のこと考えてなかった」

"アイツらなんか"。その言葉が許せなくて、カナは咄嗟に手を上げてしまった。どれだけ紫珀がカナを想ってくれようと、カナにとっては自分のこと以上に、その"アイツら"が大切だから。だから、許せなかった。
しかし、あの瞬間の紫珀の顔は、未だカナの脳裏にこびりついていた。紫珀は自覚がなかったかもしれない。あの、酷く傷ついた表情。

「私はあの後謝ったけど、あれは、叩いたことにだった。でも、もう一度謝りたいの」
「......何に対してや?」
「紫珀の気持ちを無視してしまったことに。......ごめんなさい、紫珀。それから......ありがとう」

ありがとう。目を見て、カナは強く言う。紫珀は目を反らしてしまった。僅かに目が熱くなっている。阿呆、と精一杯強がった声を漏らした。遅過ぎやねん、とも。紫珀は幼い頃から知っているカナを思い返していた。

「......お前は、木ノ葉のヤツらが大切なんやろ。けどな、オレにとってはちゃうんや、カナ。お前が大事にしとるからオレも大事にしたる。ホンマはオレにとっちゃどうでもええヤツらでもな」

「ま、サスケのヤツは昔から知っとるから、そうとも言い切れんけど」と紫珀は小さく笑った。ケンカばかりしていたとはいえ十分情は移っている。サスケが一人で立ち往生していたなら、結局助けるだろう。「けどやっぱ」と紫珀は続けた。

「オレにとっては、お前が一番大切やから、お前がお前を粗雑に扱っとったら腹も立つ」

カナは相棒の言葉を静かに呑み込んでいた。どんな言葉をかけられようとも、もう今は受け入れられた。カナにはカナの大切なものがあるように、紫珀にも紫珀の大切なものがある。自分が一番に思っているものは、他人とは違ってしまう。それが相容れなくてぶつかってしまった、それだけだった。

「それをわかってくれとったらええ。別に、オレの思う通りに動けなんて言わん。けど、考えんのをやめんで欲しい。それだけや、オレは」
「......うん。ありがとう......本当に」
「何度も何度も礼言わんでも、十分受け取たて」

暗い空気を吹き飛ばすように、いつも通り笑った紫珀は、ぽすりと羽でカナを叩いた。うん、と頷いたカナは、先ほどよりは随分すっきりしたようだった。柔らかく笑ったカナを見て、紫珀は思わず目を瞬く。

何かが変わったということに気付くのは容易い。サスケが感じたように、カナの雰囲気がどことなく変わっている。だがそれが何故かは紫珀にはわからない。恐らく言ったら逆効果だろうと思い、その事は口に出さなかった。

「そういえば、何で急に"ケジメ"なんや?」

何気なく聞けば、カナはすっと顔を引き締めた。

「始めるの」

それだけで十分だ。紫珀は僅かに目を見開き、体が強ばったのを感じた。緊張だ。

「大丈夫なんか?」
「もうそろそろ三年。限界だと思う。あの人が堪え性あるようには思えないし......条件はさっき満たしたよ」
「条件?」
「私の力を借りようとする時が、彼の一番弱ってる時期」

つまり、"神鳥"のチャクラだ。大蛇丸も早々いつもカナに頼るわけではない。普段はカブトの薬で凌んでいるのだが、それが限界に来た時、"神鳥"の特殊能力で体調を整えようとするのである。大蛇丸は先ほどカナに来いと言った。用はただ一つしかない。

「後は、サスケを信じるだけ」
「......お前は?」
「カブトさんを。邪魔されたら厄介だから」
「そうか。オレはなんか手伝えんか?」
「ありがとう。でもきっと大丈夫。ピンチになったら呼ぶよ」

紫珀は戦闘タイプではない。多少術は使えるが、それは主に封印術だ。人に変化すれば多少は戦えるが、訓練したわけでもなし、向いているわけではない。だが、不安は大きい。失敗すればどうなるか。命運が懸かっている。

「......やっぱサスケとお前、二人でやったほうがええんちゃうか」
「え?でもそうするとカブトさんが」
「カブトのヤツはオレが止めといたるから。隙見て結界使えば、そう簡単には抜け出せんやろ」

なにせ、カカシも止めたことがある。紫珀は自分の唯一使える忍術にだけはそこそこ自信があった。

「......!」

だが、その瞬間、カナがぴたりと動きを止めていた。目を見開き、紫珀を凝視していた。

「ど、どうした?」

紫珀は引き気味になる。カナの表情は真剣な色だった。

「......紫珀。カブトさんとは私がする。もう決めてるの。それに、私がサスケの傍にいたら多分逆に足手まといになる」
「そ、そうか......。......ほんで、お前はなんでそんな顔」
「紫珀、北波さんとはどんな関係なの?」

今度は紫珀が目を見開く。
沈黙が下りていた。

カナは早鳴る鼓動を感じていた。
一連の戦闘で忘れていたが、紫珀の発言で、火ノ寺での出来事を思い出したのだ。角都がカナに使った一種の封印術。北波が使っていた術だという"遊戯の形"。その名の体は、まさに紫珀が得意としている封印術と酷似していた。無関係だとは到底思えない。

「紫珀、前に言ってたよね。三年前のあの日、サスケと私が話してた間に北波さんと偶然会って、戦闘になったって。それが初対面だって言ってたけど......本当?」

カナはじっと紫珀を見つめた。目を見開き固まった紫珀の反応を見れば、答は一目瞭然だった。紫珀は更に目を逸らす。小さく上下したくちばしは、しかし、何も言わなかった。

代わりに聴こえたのは、小気味良いノック音だった。カナも紫珀もぱっと扉に顔を向けた。

「始めるぞ」

ギィ、と開いた扉からは見慣れた姿。
カナはきゅっと口をすぼめ、紫珀を一度見た。紫珀はその時には煙となって消えていた。引き時と思ったのか、それとも逃げたのか。
一つ息を吐いたカナは、「わかった」と応え、ゆっくりと立ち上がった。



咳き込みが激しい主人の傍で、カブトは終始眉を寄せていた。大蛇丸の鬱陶しいほどの長髪は汗で顔に貼り付いている。ようやく咳が止まっても、苦しみがなくなるわけではない。苛立ったような目はカブトに向けられた。

「カナはまだなの......」
「どうでしょう......まだ気配はないようです」

それほど不思議ではないとカブトは思う。カナにしてみれば、大蛇丸の不調ほどどうでもいいことはないだろう。とはいえ、契約───サスケの無事と引き換えの契約はまだ期限を過ぎていない。「来ないということはないでしょうが」とカブトは主人の機嫌を損ねないように応えた。

「とりあえずは僕の薬で凌いで下さい。これからカナを呼んできますから」
「早くしなさい、もう限界よ......」
「ではランク10の薬を」

薬ビンがカブトの手から大蛇丸に渡る。とはいえ、気休めだ。威圧感に晒され、カブトは身を引いて頭を下げた。不機嫌時の蛇に必要以上関わるのは得策ではない。
足早に退室したカブトは、できるだけ迅速にカナを呼ぶことを考えた。修行が終わったところだ、部屋で休んでいるだろう。幸いカナの部屋まではそう遠くない。それよりも、カナが素直に従うかどうか。


カブトは不意に、先日自分の前で笑みを見せたカナを思い出した。
途端、どくりと心臓が跳ね上がり、立ち止まる。

「(......嫌な予感しかしない)」

違和感を見つけ出そうとすればするほど浮かび上がる。サスケは特に変化はないが、カナはどこかが違う。今までは反発ばかりだった。今も"音"側の言葉には従わないが、取り巻く全てに対する緊張が少しずつ失せている感じだ。
カブトは再び歩き始めた。

「(サスケ君と話す頻度が高くなった、というわけでもない。表面上は変わらない。だけど何かが変わった......あの日、サスケ君が迎えに行った以来だ。木ノ葉で何かあったのか、それとも)」

カナが使っている部屋がカブトの視界に入った。カブトは深く考えることなくその扉のほうへ足を進めた。
だが、結局わかったことは、中に人の気配がないことだけだった。扉を開けてみるも、蝋燭一つもついていない。

深い溜め息をついたカブトは、次に、何気なく床に目を落としていた。

「......偶然かな」

よくよく目を凝らせば、廊下に蝋燭の蝋が点々と落ちていた。それはカブトが来た方向と反対の方向にずっと続いている。

ここ最近のカナの様子が変化なければ、何も思わなかっただろう。だが変化があっただけに、疑いも深くなる。まるでカブトを誘っているようだ。だがそう思ったところで行かないわけにはいかない。主人が待っているのだ。
カブトは一度振り返り、大蛇丸の部屋の方向へ目を向けたが、結局前に進み始める。

後方ではもう始まっているとも知らず。


ーーー真っ直ぐ突き進んだ電撃の刃は、蛇の腕を深く突き刺していた。
続いてガラガラと、それまで壁だったものが崩れる。切れ味の良い草薙の剣と共に、襲撃者は姿を現した。

アンタの前でも非情になれそうだ。

サスケはその蛇を、かつて兄と慕っていた男と重ね合わせていた。くだらない目的の為に他者を犠牲に弄ぶ、それが、くだらない理由で一族を殺されたサスケの何よりも許せないことだった。木ノ葉出身として、これまで人を殺すことを好めなかった、それでも、殺したいとまで憎むほどには。

刃で壁に縫い止められ、大蛇丸は既に逃げ場がなかった。
逃げ場があるとすれば、一つだけだった。それを止めるものがあるとすれば、"契約"があった。

"三年以内にサスケに手を出せば、"神鳥"の研究が終わる前に自分の命を断つ"

サスケに手を出さない限り、カナは研究に協力する。これまでこの契約は生きてきた、そしてもう間近とはいえ、未だ三年ではない。しかし、___

大蛇丸が心底、喉から手が出るほど欲しているものは、何より、うちはの体だった。
理性で止めるものはなにもなかった。


大蛇丸の口からずるりと這い出た巨大な白蛇は、カナとの契約を破棄したことを意味していた。




カナは静かにその場に立っていた。研究材料や薬品の匂いがたちこめている場所だった。そこには台があった。人一人は十分に寝れる大きさの寝台だ。
カナは、何度もそこに寝てきた。何度麻酔で意識を奪われたか。実際何をしていたのか、一から十までは知らない。しかし、ただ確かなのは、不快だったこと。この場に身を預ける時間から何度逃げ出したいと思ったことか。

カナはゆっくりと歩を進め、この部屋にただ一つある本棚に近寄っていた。
いくつかの段は埃が被っているが、とある一段だけはそれがない。ずっと出し入れされている証だ。カナはその段からおもむろに一冊引き抜き、両手で抱えた。
表紙にはただ二文字書かれていた。

"神鳥"、と。


「ここにいたのかい」

突然部屋に声が響く。しかし、カナは一切驚かず、表情一つ動かさずに顔を上げた。部屋の入り口に立っているカブトは、眼鏡の奥の瞳でカナを貫いていた。一目でわかるほど緊張が顔に現れている。

「カナ、キミは、この部屋が嫌いだと思ってたけど」
「......そうですね。大嫌いです、こんな部屋。匂いがキツいし、そこら中に蛇が漬けてあるし」
「それで、その大嫌いな部屋で何を?」

カナは応えなかった。それどころか、カブトから目を逸らし、もう一度両手に抱えている資料に目を落とした。カブトはそれをじっと見ていた。もちろん、カナが何を持っているか気付いている。だができるだけ何気なく振る舞う。

「いいから、早く来てくれないかな。大蛇丸様に呼ばれてるはずだよ。その呪印を使われる前に動いたら?」
「そうですね......」
「その呪印、相当痛いんだろう?」
「......痛みで人を縛り付ける」
「?」
「カブトさんも、そうされたんですか?」

カブトはぎくりと固まった体を自覚した。カナはやはりカブトを見ていなかった。
カナはこれまで基本的に音隠れの者に深く関わったりはしなかった。それゆえに、深く関わるような質問はこれまで少なかったはずだ。特にカブトには余計だった。誰より大蛇丸に近かったのだから当然だ。
だというのに、カナは初めて、カブトの内部に入ろうとするような質問を投げかけた。

「なに......今更なにを知りたいんだ?僕のことなんか興味ないんだろう」
「......そうですね。やっぱり何も言わないでください。同情はできるだけしたくないから」

カナは再び本棚に顔を向けて、更に先ほどの棚から資料を取り出し始めた。表紙に書いてあるのは全て同じ題だ。多くはない。しかし、他のどの里も持っていない情報だと断言できる。カナは中身を見ようとはしなかった。内容を、知りたいとも思わなかった。

「何を考えてるんだ、カナ」
「この里に......"蛇"に逆らうことなら、なんでも。知ってるでしょう」
「最近のキミの様子はおかしい。気付いてないとでも?」

カナは応えない。手は動き続け、そしてその時ようやく、その段にあった全ての資料が、カナの両腕の中に収まった。軽くはない量だ。カナには実際以上余計に重く感じられた。
振り向いたカナの目とカブトの目が再び合った。

「......その資料をどうするつもりかな。場合によっちゃ、サスケくんの命が危ないよ」
「もう、三年になりますね」
「まだ少しある。儀式を自ら早めてもいいのかい?」

カブトは、そこで息を呑んだ───カナがまた笑っていた。
滅多に音隠れの者に向けない笑みを、カブトに向けて、作っていたのだ。

「もう、いいんです」


風が吹いた。資料のページがカナの手の内でぱらぱらと開いた。


「知ってますよね。蛇はいつまで経っても飛べないけど、雛はいずれ飛べるようになるんですよ」


そして、空へと駆けるのだ。蛇の毒牙が届かない場所へ、飛んでいく。
初めは巣の中で怯えているしかなかった。だが、蛇は自らが自分のために鍛えてきた雛に、これから一杯食わされる。まさかそれが、鷹の子供だったとは知らぬまま。


鋭い風がカナに集まっていた。カブトは見ていることしかできなかった。
カナの手から、資料が一気に離れる。放り投げられ、ぱらぱらとページがめくられる。

ーーーそして、大量の文字は、一気に引き裂かれていた。


「すみませんが、契約を破棄してもらっていいですか?」


 
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