サスケの進んでいく背中を、カナは二歩後ろで見つめていた。襟元に小さく描いてある団扇のマークは、ここ最近、暗闇の中でしか見なかったものだった。それがーー日差しの入る森の下にある。

迎えにきた。その言葉に返すこともできないまま、カナはサスケの後ろを歩いていた。何故サスケがここにいるのか。何故サスケが、ここに来なければならなかったのか。カナは信じられないでいた。
信じたくなかった。

「修行、は?」

カナの口から漏れた声は情けなく震えていた。僅かに振り返った黒の瞳の中に、カナははっきりとした感情は見出せなかった。

「どうしてここに来たの......ここはもう木ノ葉に近いのに」
「お前がここにいなければ、オレが来ることもなかった」

言うまでもない、原因はカナ自身だ。だが、カナが言いたいことはそうではない。

「何で、"サスケが"、ここに来たの?カブトさんがいたはず......そうじゃなくても、サスケがここに来る理由なんてない。それに、紫珀だっていたのに」
「逆口寄せはしないと紫珀に言われた」
「!」
「お前が木ノ葉にいるとカブトから連絡があった後だ。......」


『もし、アイツが"そういう"選択をしとったら、逆口寄せはアイツの選択を折ることになる......んなことは、やりとうない』


紫珀が言わんとしたところの想像は容易い。つまり、カナが"木ノ葉に残る"という選択肢をとっていたならば、という話だ。
カナは汗の滲む手を握りしめた。
そんなことあるわけないのにね、とあっさり口にすることは叶わない。取り繕いの言葉も吐けなかった。

「......何で、木ノ葉に残らなかった」

サスケが自ら口にする。サスケはとっくにまた真っ直ぐ前を見ていたが、カナは弾かれるように背中を見つめた。漏れたのは吐息だけだった。一瞬頭が真っ白になり、ぶわっと跳ね上がるように頭に熱が上っていた。

「何でまたこっちに来たんだ、お前は。木ノ葉にいればよかっただろ」

ざり、とサスケが小砂利を踏みつけ、その歩が止まった。黒の瞳が完全に振り返っていた。その前に晒されたカナは、同じく立ち止まって、呆然としていた。
今のサスケの姿が、あの時の、雨に打ち付けられていた、三年前の姿に重なる。あの時ほど感情は顕著ではない。だが、カナは今はっきりと感じていた。このサスケに責められていることを。

「オレが気付いてないとでも思ったのか」
「!」
「上っ面だけじゃなんとでも言える。復讐って言葉もな。......だが実際のところ、オレとお前は、復讐を求める"同志"じゃない」

ナルトやサクラ、ヤマト、サイがアジトに潜入してきた時の記憶が甦る。サスケはサクラにカナとのつながりの有無を問われた時、こう応えた。今はただ、同じ目的をもった同志というだけだと。

「自分の命を懸けてでも、成し遂げたい事がある"同志"だ」

サスケの静かな声がカナを襲った。
それは、サスケにとったら、兄への復讐で違いない。だが、カナにとったら。
北波への復讐心など、一度持ったきり、もうカナの心には留まっていない。

「......違わないはずだ」

サスケの刺すような視線を感じながら、カナはその目を直視することはできなかった。たった今、シカマルに本音をぶちまけた後で、何もかも見通すような黒の瞳に嘘をつくことができない。
サスケはずっとわかっていた。カナが覆い隠していた本心を。全て、わかっているのだろう。カナの本当の願いまで、全て。

「ずっと、そう考えてたの?」
「......お前が復讐を口にした時から、それは嘘だとわかっていた」
「じゃあ何で今まで......」
「お前の決意が全てオレのせいだったからだ」

心臓が誰かに思い切り掴まれたような気分になる。サスケの兄、イタチの顔が浮かんだ。

「だがわかっていても、オレは引き返せない。オレの道は決まっていた。......お前だけに、決意を折れとは言えなかった」

サスケは再び姿を翻し、歩き始めた。数歩遅れてカナも一歩一歩踏み出していく。
全て知られていた。そんなことも知らず、隠してきたつもりだったなど、滑稽以外の何物でもない。羞恥心よりも虚しさが勝る。だが、同時に思ってしまった。もう無理に隠さなくてもいいんだと。

「......まだ引き返せるぞ」

小さな声。カナは口元を上げる程度の笑みを零し、首を振った。前を向いているサスケには見えないだろう。だが、止まらない歩みが答になっている。
もう二度、サスケは自ら、カナに言葉をかけた。

ーーオレが自分でここに来たのは、お前の選択を見届けるためだった

それから、

ーー悪い

と。

最後のはカナの聞き間違いだったのかもしれない。聞き返してもサスケは同じ言葉を繰り返さなかった。
カナはそっと奈良の森を振り返っていた。

好きだと、そう言った少年の声。感じたのは驚愕と、言いようもない罪悪感だけだった。熱い程の体温が、まだ感覚に残っている。結局何も応えられずじまいだったと思うと同時に、果たして応えられたなら、自分が何と言うつもりかもわからなかった。


ーーー第三十六話 地を這うものへ


サクラはシカマルの背中の数歩後ろを歩いていた。既に夜の暗闇の中で、シカマルは立ち止まらない、サクラはそれを追いかけていた。一緒に帰ろうと言ったわけではない。シカマルがヒナタの病室から出たのを、勝手について歩いているだけだった。シカマルはその背後の存在に気づいているだろうに、止まろうとしなかった。
その時間がずっと続けば、サクラの家に近づいてくる。奈良家はまだその先にある。

シカマル、ねえあんた、......

サクラは先ほどからそう声をかけようとして、しかし躊躇していた。まだ何も言っていないのに既に心臓が波打っている。そうしている間にも別れ道は近づいてきている。シカマルの背中は何も言わなかった。ただじっと無言で__

「おい」
「きゃあっ!?」
「......んだよその悲鳴」
「い、いきなり振り向かないでよ!びっくりしたじゃない!」

「ずっと後ろついてきといて何言ってんだめんどくせー......」とシカマルは頭をかいている。その顔は、多少汚れていることをのぞけば、いつも通りだ。サクラはじとっとした目を向けた。なんだよ、とシカマルは言う。

「なんか話があるんじゃねーのか?ゆっくり歩いてたのになんも言わねえし」
「......じゃあ言わせてもらうけど。なんであんたもっと落ち込んでないのよ」
「落ち込んでてほしいのかよ」
「フられたんじゃないの?」
「はっ!!?」

いきなり素っ頓狂な声を出したからだろう。盛大に咳き込み始める同期を見ても、サクラは既に罪悪感のカケラも感じなかった。新生七班で初めてカナ、サスケに会って逃げられた後は、誰もが暫く落ち込んでいたというのに。

「おま、なんで......!?」

ゲホゲホ、と本気で驚愕しているシカマルに対し、サクラは一言「乙女のカンよ」で済ます。

「それで?なんて言われたの?」
「......お前なんかもう目的見失ってねーか?」
「励まそうと思ってたのに、落ち込んでないからその気も失せたわ。今は好奇心のほうが強いのよ。それで?」

よりによって恋バナちっくだ。シカマルは基本的に女子の話が苦手である。めんどくせー、とまたぼやいたシカマルにももう既に恥じらいはなかったが。

「別になんも言われてねーよ。あいつがまともにそんな話ができると思うか?」
「......確かにね」

シカマルの隣にようやく並んだサクラ。二人はまた歩き出す。恋愛ごとは得意でなかった銀色を思い出していた。「けど、ちゃんと意味はわかってたみたいだぜ」とシカマルは苦笑した。もし三年前に告白していたら、きっと意味までもはき違えて認識されただろう。

「意味がわかってたのに返事がなかったわけ?」
「いいんだよ。返事がもらいたかったわけじゃねー。言っちゃ悪いが、引き止めるための手段だったんだ」
「......あんたって、あっさりそういうこと言うのね」
「けどま、引き止められなかったんだ。結局失敗したけどな。......ある意味、フられてんのか」

へっと笑ったシカマルは、気にしていないようにも見えるし、強がっているようにも見えた。
シカマルは同期の中でも飛び抜けて成熟している。それは、三年前でもそうだった。情けない口癖のせいで、同期全員がシカマルを呆れた目で見ることもあったが、反面、同期全員がどこかで頼りにしてしまうのはシカマルだった。シカマルは大人だーーーだけど。

「......私やナルトも、サスケ君もそうだけど、一度カナにもフられてんのよ。嘘ばっかりの言葉で、私たちは否定されたの」

曲がり角。サクラはここで左に曲がる。二人は自然と立ち止まり、体を向かい合わせていた。

「でも、嘘だってわかった。だから私、ナルトと約束したの。帰ってきたらあの子を一度ひっぱたくって」
「......ただのケンカかよ」
「だってムカつくじゃない。それに傷つきもしたわ。目の前で拒絶されたら、そりゃあね。......でもきっと、無反応でいられたら、私は余計に痛かった」

一瞬目を丸めたシカマルは、不意にサクラから目を反らした。

「......なんだよ、結局励まそうとしてんのか?」

声は無感情を努めているようだった。サクラもシカマルから目を反らし、一歩進んだ。

「強がってんじゃないわよって話。私はぐすぐす泣いたのよ。あんただって特別強いわけじゃないでしょ。女の前で吐き出せるかって言うんなら、チョウジに聞いてもらってもいいじゃない」
「......んな情けねえことできるかよ」
「別に情けなくなんてないわよ。逃げるように一人で帰ろうとした事のほうが情けない」

シカマルは口を閉ざした。夜の冷気が這うようだった。
サクラも一呼吸置く。シカマルが病室を出た後、残っていたチョウジは、ずっと親友のことを気にしていた。サクラのように追いかけて来れなかったのは、彼の優しさのためだろう。

「こんなこと、指図されたかないでしょうけど。一度ぶちまけたっていいじゃない。......カナのこと、嫌いになれないんでしょ?」
「......そうじゃなきゃこんなに苦しんでねえよ」
「なら余計よ。一度吹っ切れないと、今度はきっとあんたが逃げるんじゃない」
「へっ......また返事されねえかもってか?」

シカマルも一歩踏み出した。

「......あーあァ、情けねー」

笑ってそう言う。いつも眉間に寄っている皺は消えていた。目頭が熱い。仲間が温かい。

「......サンキューな。サクラ」

僅かに振り返って言えば、サクラもちょうど振り返り、ニッと笑っていた。その目に浮かんでいる涙は気のせいではないだろう。

「じゃあ、また。今度会う時はそんな情けないツラしてんじゃないわよ」
「うっせー。お前もな」

笑って別れる。きっとお互い、数歩先では涙を流すだろうことを予感しながら。
今度会った時には、お互いを笑い合うことを想像しながら。










「余計なことを、してくれましたよね」
「そう?自分では良いことをしたって思ってたんだけどな」

背中に手が当てられている。様々な実験道具が眠っている部屋で、カナは身動き一つせず、じっと椅子に座っていた。カブトがその後ろに、数週間もの間も戦いに身を投じていたカナを医療で癒している。

「策略だってことはわかってます。私があっさりここに帰ってくるようにしたんでしょう。サスケなら、って」
「違うよ。聞かなかったのかい?彼は自ら進んで名乗り出たんだ。オレが行くってね」

オレが行くってね。笑ってそう言うカブト。どんどん疲れが癒えていくのを感じながら、カナは何も言えなくなる。そう言われたところで、単純な感情は湧かなかった。複雑な想いがずしりとのしかかる。

「......カブトさん」

カナはひと呼吸置いて呟いた。カブトは一切不審がらずになにかな、と聞く。

「機会をくれて、ありがとうございました」

だが、その途端カブトは止まった。

「......驚いたな。まさか礼を言われるとは思ってなかったよ」
「私にはまだ役目があります。それは、木ノ葉にいちゃできない。それがわかってたはずなのに、私は呆然自失としてるだけでした。......目を覚まさせてくれて、ありがとうございました。......それと、いつも治療も」

治療が終わり、薄緑色のチャクラが消えていく。立ち上がって振り返ったカナはぺこりと頭を下げた。そのまま、数秒。カブトは目を眇める。

「......そこまでいくと、不気味だよ」

頭を下げたままその言葉を受けたカナは無言。ゆっくり顔を上げて、カブトに対峙する。だが何も言わない。しっかりとカブトの目を見るばかりで、反論もなにもなかった。
木ノ葉から帰ってきて既に数日。帰ってきた日から何度かにわけて治療を受けているカナ。今回でもうほとんど癒えた。この件のことでカブトから治療を受けることはもうないだろう。

「なにかあったの?」
「いいえ。何も」

そうしてカナは一つ笑う。口元を上げる程度の笑み。
もう一度頭を軽く下げたカナは、静かに部屋を出て行った。カブトはまだ自分の目を疑っていた。あのカナが、音の忍に向けて笑うとは。

予感はそれだけで十分だった。




酷い咳の音を耳に捉える。暗闇の廊下で、カナはぴたりと止まった。
無駄に広い大蛇丸のアジトでは、一つ一つの音が響く。"本人"は今どこかの部屋で休んでいるはずで、扉越しのはずだが、それでもこの距離でも届いている。酷く苦しそうな咳き込み方。
同情の一片もない。カナは無表情で振り返った。蛇は、自分の術で苦しんでいる。

「(......なんであの人は、本当の自分では満足できなかったんだろう)」

わざわざ人の体を盗み、人の能力を盗む。若々しさは保てているが、引き換えに、苦しんでいる。
一族を殺した蛇だ。同情が湧くはずもなかった。だが、暫くこのアジトから離れていたせいだろうか。今まで考えもしなかったことが、ふとカナの頭に浮かんでいた。

「(カブトさんも同じだ。......なにが、彼らをそうさせたんだろう)」

再び歩き出す。咳き込みはまだ脳に響いている。苦しんでいる蛇───それは、一体なにに?



「カナ」

不意に呼び止められ、カナはもう一度止まった。警戒心はない。

「......サスケ」

カナの使っている部屋はまだ先だ。すぐそばの扉が開き、黒の瞳がカナを捉えていた。だがそれが無言で部屋の奥へ消えていく。察したカナは、躊躇わずにその部屋に入った。
廊下よりは明るい部屋だった。サスケは寝台の上に座っていた。

「カブトに余計なことは言ってないだろうな」
「......気をつけてるよ」

カナは背後で扉を閉める。一応周囲の気配は確認した。今、この部屋の付近には誰もいない。

「感付かれたらやりにくくなる。あいつも一応手練れだ」
「わかってる。実行する時は私に任せて、彼は引きつけておくから」
「......確認しないのか」

なにを、とは聞かなかった。沈黙が落ちる。一息ついたサスケは、自ら横にずれた。
カナはそれには一瞬躊躇して、ゆっくり近づき、同じように寝台に座った。間は一人分空いている。

「殺すかどうかは決めていない」
「......うん」
「だが、オレはあいつは殺せる。都合がよければオレはそうする」
「うん。わかってる」
「お前は、あいつを、自分の手で殺したいとは思わないのか」

一族の仇を、自分の手で。
目を瞑ってサスケの話を聞いていたカナは、サスケに顔を向けていた。黒い瞳と目が合う。幼い頃から一族の仇を討つことを夢としていた瞳。そこに見える、沈殿するような憎悪。

綺麗事はカナの口から出なかった。『殺してもしょうがない』と、今まで使っていた言い訳は、この場では口にできない。事はもう目前になってしまった。今までは目を逸らしていたことだった。だが、もう逃げられない。

「......一族のみんなは、私を恨むかな」

仇討ちをしない末裔。母と父が脳裏に蘇った。

「私はあの人が憎い。たとえあの人はあの人で苦しんでいたとしても、何かしょうがない理由があったんだとしても、そんなのは関係ない。あの人は私の幸せを奪った。だから、憎いし、恨んでる。......だけど、私の中でそれは殺意につながらない」

サスケにはサスケの想いがある。だから、カナの言葉は、サスケには理解できないだろう。同時に、カナはサスケの想いを口にして否定したことはないが、サスケの殺意が理解できていたわけではなかった。お互い様でここまできた。
北波に向ける感情も似たようなものだ。殺戮の原因、しかし、北波には他にも別な想いもある。

「一族のみんなが、彼を殺せって願うなら......決意もすると思う」

自分の手を見下ろす。まだ誰かを殺したことはない手。ずっと忍の業から逃げていた。何度それを指摘されたか、カナは綺麗事ばかりに逃げていた。覚悟はまだ決めきれていない。「でもね」とカナは小さく笑った。
「正直、もうみんなの顔すら、おぼろげなの」と、困ったように笑った。

「もうすぐ、音の里で過ごした年月のほうが、風羽で過ごした頃より長くなる......しかも小さい頃のことだから、記憶だって断片的。"平和を望んだ一族"だって言われてるし、私も知識の上でその事は知ってる。でも、"本当の意味で"知ってるのかって言われたら、それすら怪しい」

みんなならなんて言うかなんて、こんな私がわかるわけがない。
カナが隣でそう話すのを、サスケは黙って聞いている。励ますのも同情するのも違うとわかっている。カナは話すだけ、そして、サスケは聞くだけだ。

「だから、今の私の優先順位は決まってる」
「......過去よりも、未来か」
「きっと、そうだから、彼を殺したいとまでは思わないんだと思う......」
「......」
「ずっと練ってた計画がここまできた。サスケが相手するほうが、可能性があることはわかってる。私の個人的な感情も特別強いわけじゃない。答はでてるよ」

カナは笑みも振り切って、真っ直ぐな目をしてサスケを見た。

「任せてもいい?」
「......ああ」

サスケは応えた。同じように、カナを真っ直ぐに見て。
ありがとう、とカナは言った。サスケはそれを横目で見る。カナは気づいていない。もしかしたら、以前より雰囲気が柔らかくなっていることにも、気づいていないのか。

「......実行はヤツの様子次第だ」
「うん。心の準備はしとく。それじゃあ、私行くね」

ぎしりと寝台から立ち上がる。迷わず扉に向かったところを、サスケの声が止めた。

「カナ。オレのことは恨んでないのか」

振り返ったカナは、目を丸くしていた。なんで、と聞こうとしたところで、カナはサスケの目の異様な真剣さに気づき、口を噤む。
サスケは本気で聞いている。───カナは先ほど言った。幸せを奪った大蛇丸が憎いし、恨んでいる、と。

「オレが三年前ここに来なければ、お前は幸せだったはずだ。木ノ葉でのお前の幸せを奪ったのは、オレだぞ」
「......でも、この道を選んだのは私だよ」

二人の脳裏に同時に蘇る、あの雨の日。
サスケは自分の選択をした。木ノ葉での安住を捨てる道を選んだ。そして、カナもまた自分の選択をした。義務があったわけではない。サスケはあの日、むしろカナを止めようとしたのだ。

「それに、木ノ葉での幸せは、サスケがくれてたんだよ」
「.........」
「......こっちこそ、ごめん。サスケ」

カナは扉に手をかけた。廊下の暗闇に足を踏み出す。閉める直前に、カナは振り返って謝った。

「......なにがだ」

サスケが問いかける。カナは言おうとして口を開いて、しかし、結局閉じていた。緩く首を振る。「ううん、なんでもない」とそれだけ言って、カナは扉を閉じた。

暗闇の中で懺悔する。

そんなふうに思わせてごめん、と。


 
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