ナルトを間近で見下ろすのは、今、オビトだった。

神威の異空間。
この神威の外では、今、ミナトやカカシ、増援に来たガイたちが、十尾の人柱力と化したマダラと戦っている。
ミナトがナルトに預けようとした九尾は、先ほど、黒ゼツが奪ってしまった。だがその黒ゼツは今、オビトの強い意志によって、ただのオビトの半身と化している。
つまり九尾の半身は今、オビトの手中にある。

ナルトと一緒に神威で運ばれたサクラは、警戒を滲ませる目でオビトを見上げていた。目前にいるこの戦争の首謀者の本心が掴みきれなかった。
だが、オビトのその目にもう迷いは消えている。

道に迷った末に、答は得た。
今のオレは火影を語りたかったうちはオビトだ。

「オレは昔から真っ直ぐ素直には歩けなくてね…。だがやっと、辿り着いた」



そして同じ時、サスケを見下ろしているカブトは、ずっと疑わしげに自分を見てくる香燐や水月に語ってやった。
カブトもまた、己を見失いながら人生を送っていた。自分が何者なのか、その答を欲しながら生き、そしてその答を簡単に見せてくれる大蛇丸に甘んじて生きていた。

だがこの戦争のさなか、やっと本当の答に辿り着いた。
自分が何者なのか、自分の手で掴み取ることができたのだ。

「僕は今…帰る場所を無くしたくないと、心の底から願うようになった。そして、僕にそう思わせてくれたイタチ……彼が、死んでもサスケくんを守りたいと願ったその想いが、痛烈に僕の心を貫いてきた」

カナは切なげに目を細める。イタチ───彼は本当に、最後まで未来を繋げようとしてくれたのだ。

「僕もオビトも、この世の中に、自分の居場所がなくなってしまったと思い込み、みなを巻き込んだ。だが、もう自分が何者か分かっている───そして己が何をすべきかも!」



ナルトとサスケ。
二人の手が、ぴくりと動いた。

サクラとカナはそれを見る。
二人の瞼が開いていくのを見て、それぞれ名前を呼んだ。



ーーー第八十六話 かつての夢の先を見た



「……サスケ」

涙を滲ませながらカナが言うと、その双眸が動いた。カナ、と少し掠れた声で返事がある。
カナはその瞬間息を呑んだ。サスケの瞳に、今までになかったものが色づいていた。

「サスケ、その、目は」
「……輪廻眼だね。うちはの体に、僕が与えた柱間細胞が根付いたか……」

その左目だけが、藤色に変わっていた。

「サスケェ!!お前、お前心配かけやがってバカヤロー!!」
「香燐、ちょっと空気読んだら?」

相変わらずサスケに突撃しようとした香燐の首根っこを水月が掴む。
全員の視界の中で、サスケがゆっくりと上体を起こした。黒のままの瞳が周囲の状況を確認する。
カナ、カブト、大蛇丸一行、二代目火影。そしてまた視線がカナに戻る。カナは慌てて涙を拭いていた。

「…お前、マダラにかかっていってなかったか」

意識が消える直前の記憶だ。その状況を見られているとは知らなかったカナは、目を瞬いた。

「う、うん…冷静じゃなくて、返り討ちにあったけど…」
「返り討ち?……その手か」
「傷口は塞いでもらってるから大丈夫…これも、カブトさんに」

サスケに生命エネルギーを与える傍ら、カブトの医療忍術で治してもらっていた。出血した跡だけが残っている。カナの視線ががカブトに戻った。

「…あなたたちの起こしたこの戦争のことは、とても許せることじゃないけど…でも、サスケを助けてくれたことだけは、本当に…ありがとう」
「……いいさ。サスケくんの死も含めて、責任の一端を担ってるんだから」

カブトは目を逸らしている。だがそれでもと、カナはもう一度礼を言った。

「さて、サスケくんが生き返って万々歳…と言いたいところだけど」

大蛇丸が一歩近づいた。

「気配からして、今度はマダラが十尾の人柱力になってるわよ。無限月読までもう猶予は残されてないかもね」
「…うずまきナルトはどうなっただろうな」
「ナルトがどうかしたんですか?」

重吾の言葉にカナが反応する。

「あのナルトってヤツも、死にそうになってたんだよ。いや、あれもう死んでたのかな?」
「ナルトが…!?」
「いや。アイツも死んでいない」
「え?どうしてキミが分かるのさ、サスケ」
「……気配を感じるからだ。オレに与えられた力の、片割れの……」

その言葉の意を分かるものはここにはいない。サスケの夢の中で現れた六道仙人。彼が与えた力は二つに分断され、陰の力をサスケが、陽の力をナルトが受け取った。
───サスケは手を握りしめる。今度こそマダラの力に辿り着ける確信があった。

「オレとアイツで、マダラを倒す……」

立ち上がったサスケを見つめるカナは目を細める。輪廻眼を背負うようになったサスケとの、圧倒的な差を感じてしまった。サスケもまた、カナを見下ろした。

「カナ、お前は……ここにいろ」
「……」
「もうすぐ終わる。何度もお前がヤツに立ち向かう必要はない」
「……サスケ、それは」

優しさで言っているのか。それとも…サスケの横に並べるほどの力を、カナがもう持っていないからなのか。
そう問いかけようとして、カナは顔を伏せた。聞いたところで答は得られないだろう、という諦めに似た思いがカナをそうさせた。
サスケも口を閉ざしたカナに追って聞くようなことはなかった。ただ静かに言う。

「……ちゃんと話しに戻るから。待っていてくれ」

カナが返事をする前にサスケは歩いていく。それを無言で見送るカナの横に、香燐が気遣うように寄り添った。

全員の視線を受けながらサスケが向かった先は、倒れている扉間の元だった。扉間を刺し留めていた黒い杭をあっさりと引き抜く。六道のそれは、触れた者の力を奪う仕組だったはずだが、サスケにもうそれは通用しないようだった。

「飛べるか二代目」

片目の輪廻眼が扉間を見下ろす。ずっと無言で場を観察していた扉間は、ようやく自由の身になって立ち上がる。

「四代目の術式が残る場所になら。ヤツの術式とリンクさせておいたから飛べるが…」

扉間の視線がその場から動かないカナを射抜く。

「……一人分だけだ。今の力でワシが飛ばせるのは」

それでいい、とサスケは躊躇なく言った。オレ一人で充分だ、と。

「……そうか。では」

扉間の手が上がっていく。その手がサスケの肩に触れる。
もうすぐにサスケは飛ばされるだろう。カナは黙ってその背中を最後まで見つめていた。───サスケが光に包まれて、一人、一瞬で姿を消した。


扉間の送り先は完璧だった。
サスケが舞い降りた先には確かに、十尾の人柱力となり仙人化したマダラがいた。
そしてサスケの隣には、四代目の術式を連ねたクナイを咥えるナルトの姿───ナルトの九尾の衣も、今や六道仙人の力を受け取り、容貌を変えている。

「かたや六道仙術を開花し…かたや輪廻眼を開眼をしたか」
「オレらで、お前を倒す…!」
「お前をな…マダラ」

一人で六道の力の全てを得たマダラと、対するは六道の力を分け合ったナルトとサスケ。マダラとの最後の戦いが始まろうとしていた。



残された沈黙。夜の闇が増したようだった。あの恐ろしい満月はずっと空に輝いているというのに。
扉間は置き場所をなくした手を下げる。全員の視線がややあって、次第に黙り込んでいるカナへと移っていった。

「…カナ。良かったのかよ、サスケに置いてかれて」

カナの横にいる香燐が眉根を寄せている。声をかけられたカナはようやく張り詰めていた表情を無理やり動かした。

「いいんだ」
「……」
「……それより、香燐、水月、重吾さん。記憶なくしてた時のこと、ごめんなさい。迷惑たくさんかけました。色々あって、ちゃんと思い出せた」
「…カナ、それがお前の本来の表情だったんだな」

重吾が言う。記憶喪失など関係なかった小隊“蛇”の時は時で、カナはなるべく自分を押し殺して生きていたためだ。水月とはそれゆえの確執も大きかった。
カナは申し訳なさそうに、曖昧に笑う。

「それも含めて、みんなには謝らなきゃね…」
「いや。お前が色々抱えてることは気づいていた。別に謝る必要はない」
「まあ大体、私のせいかしらね」
「…大蛇丸様、それは笑えない合いの手ですよ」
「あらそうかしら?」

カブトが口を挟んで、大蛇丸は肩をすくめる。その、少しだけ緩んだ空気になった瞬間に、サスケが一人この場を去った時からずっと口をへの字に曲げていた水月が、刺すような言葉を投げた。

「また自分の心を隠すわけ?カナ」

ピン、と再び空気が張り詰めた。
指名されたカナはそっと水月に目を合わせる。水月…彼はそう、小隊“蛇”の頃から、本来の自分を押し殺して嘘を貫こうとしているカナのことを、嫌っていた。

「もう本音で喋れるんだろ?なんで一緒に行きたいって言わなかったんだよ。サスケと」

水月の視線はいつも厳しくカナを貫く。対するカナはそっと視線を下ろし、自分の左手を見つめた。カブトに治療された痕が残っているが、その実───

「……左手が、動かない」
「!」
「カブトさんに止血はしてもらったけど、中の神経の回復には時間がかかるって…。それにそうじゃなくても、今の私にできることは少ない」
「…だから?」
「だから、足手まといになるくらいなら、」
「いいじゃんそれでも、行きたいってくらい言えば。散々人のために色々してきたんだから、それくらいのワガママ許されるんじゃないの?」

思ってもみなかったことを言われて、カナは追い詰められるような感覚がした。

「また本音を言わないなら、僕はやっぱりキミが嫌いなままだ」

「おい水月!」と香燐が殴りかかろうとするが、それを重吾の手が止める。冷静に物が見える重吾には、水月が無為にカナを傷つけようとしているわけじゃないことが分かる。
カナも分かっている。だからこそ葛藤が胸に広がる。その様子が表情に表れている。水月はそれをじっと見つめている。

「…そうやって表情に出るようになっただけ分かりやすいじゃん。そんなカオするんなら、もう諦めて全部言いなよ。別に言ったってなにかが解決するわけじゃないけど、僕がイラつくから」
「……あはは、なにそれ……水月はほんとに、いつも私に一番キツく当たるよね」
「…カナ、僕からもひとつ、お節介だ」

次に言ったのはカブトだった。

「イタチの術、イザナミを喰らっている時…サスケくんを守りたいという彼の想いが僕を貫いた…そう言ったね。その時、同時に見えたものがある」
「…?」
「サスケくんの隣にいるキミの姿だ」

カブトが見たものは映像のようだった。イタチが本当はその目で見たかったであろう未来の姿。笑っている二人の男女…弟のサスケとその幼馴染、カナの姿が、互いに寄り添って進んでいく。
イタチの願いの中に、カナはいた。

「イタチも望んでいたよ。キミたちが一緒にいることを。それを見ることが、彼の夢だったようだった」

夢。イタチの。どこまでも弟のため、平和のために自己犠牲を払ってきたイタチらしい夢だ。サスケと一緒にいてくれてありがとうと、そう言っていたイタチの最後の笑顔。
夢、とカナはもう一度呟いた。

自分の夢を語った、第七班の結成時のことを、今でも鮮明に思い出せた。


「私の…夢は」


───カナはとうとう、観念したように、自分の本当を吐き出した。

「ずっと、サスケと、生きていくことだった…」
「……」
「だから本当は…サスケと一緒に行きたかった…足手まといになろうとも、最後まで一緒に…。…でも」
「出た、“でも”。でもの先はもういらないよ」
「ううん、違うの水月。でもね、あなたたちと…水月、重吾さん、香燐とも一緒にいたいと思う気持ちも、嘘じゃないんだよ」

呼ばれた三人が目を丸めた。カナは三人それぞれに確かに視線を合わせる。
小隊“蛇”で動いていた頃がもう懐かしい。だけど鮮明に覚えているあの時の感覚。共に行動し、目的を共にして動いていたあれは間違いなく、

「三人も、私の仲間になっていたから」

香燐が息を呑んだ。
それはあの時…イタチを目前にして、カナと別行動になる直前に、香燐が問いかけても答を得られなかったことだった。

「香燐、あの時、答えられなくてごめん…。本当は、ずっとちゃんと仲間だと感じてた…」
「カナ……」
「……私の夢は、サスケと共に生きていくことだった。それはね、今は少し、形をを変えたんだ。今は……」

カナがこれまで仲間と呼び、仲間と呼んできてくれた者たちを脳裏に呼び起こす。


「仲間たちみんなと、生きていきたい」


サスケを一番大切に思っている。けれど、欲張って良いのなら、カナはもう誰一人逃すことなく共に生きたいから。
これもまたカナの本心。サスケだけを追って、ここにいる香燐たちを放っていきたいわけじゃないから。

「……これが私の本当だよ、水月」

カナはふわりと微笑む。嘘偽りのない笑顔だ。水月は目を逸らしてしまう。確かにそこに嘘はもう見つからなかった。
その笑顔をじっと見るのは、香燐だった。───なぜなら香燐は、少しだけ木ノ葉の里で過ごしたから。

「だとしたらさ…カナ。お前が一番に仲間だと思うヤツは、ウチら以外に他にいるだろ…悔しいけど」

香燐は一歩踏み込む。

「うずまきナルトとか」
「!」
「悔しい、悔しいけどよ、アイツはあの時誰よりもお前を救ってくれたんだろ」

牢屋の鉄格子越しでの邂逅の時。記憶を失っているカナの横にナルトは寄り添っていた。カナの記憶について、ナルトは任せろ、と香燐に頷いた。そして本当に今カナは記憶を取り戻している。
カナが言う”仲間達みんな”の筆頭がナルトだということは疑いようのない。

「サスケが向かった先に、お前を誰より救ってくれた仲間がいるんだから。…今からでも向かえよ、カナ。お前は本当の夢をちゃんと追っていいんだ」

カナの脳裏に、ナルト、サスケ、サクラ、カカシの顔が思い浮かんだ。彼らとの記憶が鮮明に思い出された。
項垂れて笑ってしまう。彼らの元へ行きたいなんて、今の状態を思えばわがままでしかあり得ないのに、”夢”という単語を使うと許されてしまう気がするのは何故だろうか。───でももう、確かなことだった。

真の髄まで見抜かれた。無言だった重吾も頷いている。


「……ありがとう、みんな」


体の向きをゆらりと変える。間に合うかどうか知らない、だが、それもまた行かない理由にはならない。

「行ってみる。…自分のために」


この戦争は、未来の夢を掴み取る闘いだから。
カナの背中に水月が近づき、軽く背中を叩いた。目を丸めたカナが振り返ると、初めてカナに向けられた水月の満足そうな笑顔があった。苦笑したカナは頷く。

さあ───とカナが踏み出した時、それを「待て」と止める声があった。



戦況は五分五分だった。ナルトとサスケ、二人の力は充分マダラに及んでいた。
マダラが使う”輪墓”は、本来現世からは見えざる六道の世界に存在する分身。だが、その六道の力を受け継いだ二人には捉えられないものではない。

サスケはマダラの本体のほうを追い、今その”輪墓”の分身体を抑え込んでいるのはナルトだった。授かった六道の杭で見えざるものをガチガチに固定しきっている。
ふう、とナルトは額の汗を拭った。

「これで動けねーだろ…。さて、マダラとサスケを」

休む間もない。
すぐさま感知を発動させたナルトは、視線をそちらに向けて───しかし足を踏み出す前に感じた違和感に、首を捻った。

「…なんだ?また、父ちゃんのクナイに…」

ホルスターにしまっていたミナトのクナイを取り出すと、その術式がチャクラに満ちているのが分かった。

また誰か飛んでくる。

そう思った瞬間、無から銀色が現れた。
送られてきたカナは片膝をついて着地して、すぐさま顔を上げた。

「ナルト!」
「カナ!来たのか!」
「ナルト、大丈夫なの…!?死にかけたって聞いたけど」
「あ、ウン…!それは…まあ、色々あって、オビトに助けられたんだってばよ」

オビトさんが、と呟いたカナは、続いて「無事でよかった…」と心からの言葉をこぼした。

「カナは?どうやってここに…」
「…二代目様が送ってくださったの。夢を追う決心がついたなら力を貸してやる、って」
「夢?」

頷いたカナは、つい一分ほど前のやり取りを思い起こす───。



自分の足で戦場に向かおうとしたカナを、『待て』と呼び止めたのは扉間だった。一部始終、一切口を出さずにカナを見ていた扉間が、やっと発言した。

『夢を追う決心がついたならワシが飛ばしてやる』
『!』
『あら、二代目様……先ほど、今の力では一人が限界、とおっしゃってたのでは?』

大蛇丸が口を挟むが、扉間は意に介さずカナに近づいてくる。

『決心つかぬ者は死にに行くだけだ。初めからもう一人送れると言えば、成り行きでついて行こうとしただろう…風羽の末裔よ。そして想いが曖昧なまま、お前はまたサスケが死にそうになれば、代わりに死んでも良いという行動に移る』
『…ええ、きっと』
『共に生きるという夢は確かだろう。その夢を胸に、必ず生き延びろ』

背の高い扉間をカナは見上げていた。切長の鋭い瞳は恐ろしく厳しい印象もあるが、こうして見つめると、何かを大事にできる心があるからこその強さが垣間見えた。
装甲をつけている扉間の手がカナの肩に触れる。
カナは最後に問いかけた。

『二代目様。どうして、私にこんな…優しさを?』

優しさ、という言葉が適切かどうかは分からない。けれど扉間は否定せずに応えてくれた。

『シギもよくワシにいらぬ世話を焼いてきた。まあ…そのお返しのようなものだ』


───つくづく、先代には感謝しかないとカナは思った。
首を捻っているナルトにカナは「うん、夢」とだけ笑って流した。

「それよりナルト、状況は?」
「あ、ああ…!今サスケがマダラを追ってる。オレたちも急ごう。ちょっち距離があるからよ、オレが引っ張っていいか?」

ナルトのスピードは最早並大抵の忍が追いつける速度ではないのだろう。もちろん、とカナが頓着なく頷くと、ナルトも頷いてカナの左手を手に取った。
だがその瞬間、ナルトは行こうとした足を止めて、カナの手をまじまじと見つめた。

「…カナ、この左手」
「え…よく気づいたね。ちょっと今、動かなくて…」

傷は塞がっているから、見た目だけで判断できるようなものではないはずだが。

「…朱雀も取られちゃったし、今、まともに戦えないかもしれないのに、みんなと戦いたくて来たんだ…ごめん」
「……なんで謝るんだってばよ。何回もオレ言ってただろ?ここに仲間が、カナがいることが嬉しくて、それだけでオレは頑張れんだって」
「……うん」
「それに、大丈夫だってばよ。───見てろ」

ニッと得意げに笑ったナルトは、改めてカナに向かい合って、カナの左手を両手で包み込んでいた。

え、とぼやいたカナは目を見開く。一秒、あっただろうか。
ナルトの手が開いて、カナの左手の様子が見えた。無意識に動かそうとして、そして間違いなく、動いた。

「うそ…!」
「へへ…今のオレってば、何でもできそうな気がすんだ。それに、元々カナは強えかんな!なんかあった時、助けてくれると嬉しいってばよ」
「ナルト……ありがとう」
「よし!今度こそ行くぞ!」

ナルトの手が改めてカナの左手を掴み、走り出した。カナは走るというより跳躍だけしておけば、勝手にナルトが引っ張っていってくれる。この力強さに、カナは何よりも励まされた。




その先で、サスケは今、マダラを取り逃していた。
千鳥の刃が貫通したものの、その直前にマダラはカカシの写輪眼を奪い、神威の時空間に消えていたのだ。こうなってしまえばサスケにはそこに行きようがなくなった。

「クソ、あっちには今オビトとサクラが…!」

盗られた左目を押さえながら、カカシが言った瞬間、再び空間が渦巻いた。
サスケがすぐさま身構えたが、出てきたのはマダラではない。

「サクラ!」
「…カカシ先生…サスケくん!?」
「…なぜサクラがここに出てくる?」
「時空間へ行ってたんだ。サクラ、向こうの状況は」

顔が蒼白になっているサクラは、すぐに伝えようとして、カカシの顔を見てぎょっとした。

「カカシ先生、その左目…!?」
「…ああ。一瞬だったよ…マダラに奪われた」

左目から血を流すカカシにサクラは駆け寄り、医療忍術をあてがった。すまない、と言うカカシにとっては、自分の目のことよりも、かつてのチームメイトのことのほうが気になっている。

「それより、オビトはどうなった?マダラがそっちへ行っただろ」
「え!?え、私は急にこっちへ」

サクラはマダラの接近に気がつかなかった。だが───そう言われて、サクラはハッとする。

ナルトの命を助け、ナルトを見送ったオビトは、その後サクラに頼み事をしてきた。味方としてではなく、敵として、自分の左目に残っている輪廻眼を潰してくれと。
オビトに残る輪廻眼をマダラが狙っている。これが奪われ、マダラの両目に輪廻眼が揃ってしまうと、今度こそ無限月読が発動されてしまうために。

しかしサクラは一瞬で決断できなかった。
そして突然、オビトがサクラを現実に戻したのだ───まるで、逃がすかのように。

「マダラに…輪廻眼が揃ってしまう…!」
「!」
「オビト、私に、輪廻眼を潰せって言ったんだけど…私、躊躇しちゃって…」
「…そうか。オビトが、そう言ったか…」

あの状況、オビトはもう抵抗する力が尽きていた。ほぼ動けない状態で、だからこそサクラに自分の目を潰させようとしたのだ。もうマダラから逃れるすべはないだろう…輪廻眼が揃ってしまう。
やり取りを黙って聞いていたサスケは、自分の輪廻眼で周囲を警戒した。

「なら、いつ出てくるかも分からない…気を抜くな」


しかし次に現れたのは、警戒していた敵ではなかった。
サスケの輪廻眼はすぐに僅かな動揺を見せたが、それを見つけた者は誰もいなかった。

「みんな!」
「ナルト!カナも…!」
「無事だったか…」
「カカシ先生、サクラ……サスケ、」

九尾モードで煌々と輝いているナルトと、その手に引かれてきたカナが、凄まじい速度で現れていた。
サスケの目がカナを映すと、カナは少し頭を下げる。

「ごめんサスケ…私もやっぱり、みんなと戦いたかった」
「……印も組めないんじゃないのか」
「気づいてたんだ。それが、ナルトが治してくれて」

カナはひらひらと手を振ってみる。ナルトが?と眉間に皺を寄せたサスケの横で、今まさにナルトが、カカシの目にも手をあてがっていた。
首を傾げていたサクラが目を見開く。ナルトが手を離すと、写輪眼でなくなってはいるものの、カカシの眼球が戻っていたのだ。

「うそ!!どうやってこんな…!?」
「あのね…口で説明すっと難しんだけども…なんかカカシ先生の一部をちょっともらって、んで…それにこう…」
「私の時もそんなことしてたの…?もう人並外れてるね…」
「…気を抜くなと言ってるんだ、ナルト」

両の目が戻ったカカシの前で、かつての教え子たちが会話をかけあっている。

「あ!?オレってばそれ初聞きなんだけど!そういう時オレにしか言わねーの、ほんと昔と変わってねーなお前は!」
「もう!こんな時にまで食ってかかんなナルト!」
「あはは…サクラも含めて、昔と変わらないよ」
「マダラがカカシの目を奪りオビトのところへ行った、次は輪廻眼を揃えて出てくるんだぞ!」
「え!?そうなの!?」

昔と、変わらない───そう一番思うのは他でもないカカシだった。

四人とも大きく強く成長して、あの頃とは比べ物にならなくても、カカシにとっては変わらない。思い返す記憶は、この四人と初めて対面した日のことから。
初めは点でバラバラだった…それが任務を繰り返すうちに、一つにまとまったチームとなった。あの頃と変わらないこの様子を見ていると、あの頃と同じようなチームのままに見えなくもない。

だけれど、たった一人、まだその心が読めない者がいる。
サスケ、とカカシが声をかける。全員の視線が低く声を出したカカシに集まった。

「お前の今の夢はなんだ?」

沈黙。カカシを見ていた他の三人の目が、サスケへと移っていく。
火影になると、サスケは全員の前で言ってのけた。しかしその意味はナルトが言う意味とはきっと違う。

「こうしてかつての第七班が揃ったのも何かの因果かもしれないな…。サスケ、お前が今何を思っているのか、オレたちにも話したくないならそれでいい…」
「…」
「ただ、オレたちが第七班だったことは紛れもない事実だ…そうだろう?」

サスケはじっと口を閉ざしたまま。

誰もがその答を掴みきれないまま、しかし、全員が迫り来る気配を感じた。


「前…来るよ…」


カカシが号令を出す。


「お前たち、スズ取りの最初の任務を覚えてるな。あの時の教訓を忘れてないな?」
「うん!」
「はい…!」
「フン…」
「ったりまえじゃん!!チームワークだ!!」


五人の前に、渦が巻いた。


 
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