タイヨウの君 | ナノ


▼ 8:ゆめのおわり

『ナルトォー?ナルトはそうねえ、作中一番真っ直ぐで、ずっと自分の信念を通すのよねえ。えっと、ド根性ってヤツでさ?最初は落ちこぼれだったのがどんどん強くなって、なんてーか主人公だから当たり前なんだけど、どんな苦境もはねのけるーみたいな〜?サスケなんてどんどん目がなくなっちゃう感じ〜?連載初期はサスケに飲まれっばなしだったのが逆に飲み込んじゃってもっと言えば包み込んじゃって、キラキラ輝きすぎダッテバヨみたいな!もうとにかく最後まで行くと世界救っちゃうし、惚れないワケないじゃんってさーあ、ほんっとヒナタがうらやましーって。やばいよほんと、読めば読むほどナルトほどカッコいいキャラいないんじゃないって感じになるからね!ああ〜思い出したら熱くなってきたー!』

例の漫画について話し出したら止まらないイコの話はまだ続いた。

『最近完結したんだけど大人ナルトもまたかっこよくて…大事なコトだから二回言いますケド、ヒナタ羨ましいったらありゃしないよほんとぉ』
「あ、終わってたんだ」
『何で知らないワケ!?世界的大人気漫画の話だってえのにほんとも〜、漫画読まないなんて人生の十分の九は損してるって絶対!小説もいーけどさ、漫画は絵が付いてるからアッサリ世界に入れていーのよね!あ〜ナルトに会いたい…...会ってハグしたい、できることならあのイケメンにハグし返して貰いたい!』

ふ、ふーん、と(実際にナルトとハグしたことのある)私はしどろもどろ返事する。予想通りではあったけど、酒が入ってるイコの話はあんまり脈絡がないというか、伝える気が見えない話でよく分からなかった。他の登場人物の名前出されても私には分からないし。かろうじてサスケって名前は聞いたことあるけど。主要キャラクターの一人だろうか。あとなんか畑に立ってるアレの名前とか聞いたことがあるような......主に情報源はイコだったけど。
とにかく、今 私が聞きたいのはナルト個人についてだけなのだ。
それにイコの語るナルト像は、今 私の目の前で寝てる子とほとんど被らなかった。そりゃそうなのかもしれない。だってナルトの作品は多分、基本もっと大きくなってからの物語のはずだ。本屋で見かけたことのあるナルトはもっともっと大きかった気がする。小さな時のことはあんまり触れられてないのかもしれない。

「その、イコさ。ナルトって小さい時は、どんなだった?」
『小さい時ィ?』

呂律が怪しいイコの声が復唱する。うーん、と必死に頭を動かしてるような声。だけど不意にそれがはたと止まった。

『…ていうか、上々と語っちゃったけどさあ。何でいきなりナルト?』

ゲ、今更そうくる?

「いや、まあ…...その?ちょ、ちょっと漫画に興味出てきたなァ......なんて」
『えー?でもナルトの子供の時とかいうピンポイントな話っておかしくない?』

ごもっとも。言い訳としては苦しすぎる。酒入ってるくせに何で気づいてしまったんだ。

どうしよう。
ナルトの小さい手を握る手が汗ばむ。
この際、イコに全部話してしまおうか。でも。いや。イコを信用してないってわけじゃないけど、口に出すのは躊躇ってしまう。万が一ってこともある。なんとか別の言い訳を。なんて言えばいい、…

『ま、いーけど』

とか思ってるうちにあっさりイコは言った。
ガクッと肩が落ちる。

「相当酔ってるね、イコ…」
『えー?そんなことないって!ホラ、ナルトの話はしっかりしてあげたでしょー?』
「うーん、正直よく分からなかったけどね」

オブラートに包んでモノを言いました。正直に言えば、欲しかった話は全然ありませんでした。

「(…でもこれで良かったのかもしれない)」

イコと話してるうちに少し頭が冷えた気がする。あるよね、話してる相手のほうが興奮してればしてるほど、逆にこっちは冷静になってくって現象。イコは酒に酔ってるだけだけど。

「うん…...そうだよね。その子が知らないところで、その子のことを聞き出すなんて、考えてみればひどい話だよね…...」
『え、いきなりなんの話?』
「…...たとえその子が小さい子だとしても、関係ないよね」
『ちょっとー、アキ?何勝手に一人で納得してんのよー。もしかして酔ってる?』
「今のイコにだけは言われたくないよ」

ナルトに泣かれて、私はかなり焦ってしまったんだと思う。この子のことを今までちゃんと知ろうとしなかったから、泣かせてしまったんだって。この子が人の言動にいちいち敏感だってことも知らなかったから、私は相手が子供だと見くびって、無神経な視線を注ぎ続けてしまったんだって。
だから、イコが例の漫画を好きなのを良いことに、ナルトの知らないところでナルトのことを知ろうとしてしまった。

多分間違いなく、この子は過去に何かを持ってるんだ。たかが漫画の設定かもしれないけど、この子にとっては間違いなく真実の、重い重い本当のこと。
そんなことを、自分の知らないところで知られたりなんかしたくないよね。たとえ子供であってもさ。

瞼をつむったままのナルトを目にして、また私はこの子に謝った。
ほんと、情けない姉ちゃんだよ。ごめんね、ナルト。

「ごめんイコ。ありがとう、気持ちの整理がついたよ」
『んー?......こっちとしては意味わかんないんだけどー?なに、ナルトの話が電話の目的だったわけえ?』

ぎくっ。

『…ナルトの子供時代がどうのって言って?例え相手が小さい子だとしても、その子に関連することを勝手に聞き出すのはよくないだろうって?』
「ちょ、ちょ、ちょっとイコ、あんた酔ってたんじゃ」
『……うん〜。そうね......確かに私 酔ってるみたいだわ』

やっと認めたか。

『アンタんとこに子供のナルトが現れたんじゃないかって、そんなバカなことを一瞬でも考えるなんて』
「そっ!!?」

声が裏返りました。

「そ、そんな、なァに言ってんのよ、あるわけないじゃんそんなこと!!??」」
『よね〜、ちょっとひと寝入りして酔い冷ますわ。アキももういい?』
「うっうん!!ありがと、ごめんね突然!」
『お金尽きる前にまたバイト探しなさいよー。じゃあおやすみ〜』

ぷちっ、つー、つー……。

電話が切れた音がしても、私は暫く固まってた。お、恐ろしや、我が友よ。酔ってるくせに頭の回転早すぎだろ。まさかそんなピンポイントに言われるとは思わなかったぞ。

動揺して思わず声を荒げてしまったので、電話が切れて数秒後慌ててナルトを見たけど、泣き疲れた少年はまだぐっすり眠っててホッとした。
小さな手を解放して、今度は金髪を撫でる。

確か今は8歳って言ってたかな。まだ、こんなに小さい子。イコの言ってたナルトは何歳のナルトのことなんだろう?まだ数年後かな、それとももっともっと先の話かな。

キミはとってもすごい人になるみたいだね、ナルト。
はじめのうちは落ちこぼれらしいけど、今はじゃあ、それを脱するために奮闘中だったのかな。
落ちこぼれだったのに、将来は世界を救うんだってさ。
きっとこれからずっと、ド根性とやらで頑張って頑張って頑張って乗り切ろうとしないと、そんなことはできないんだろうね。
世界を救って…えっと、それから、ホカゲだっけ?初めて言った時にそんなことを言ってたけど、きっと最後はその夢を叶えて、みんなに認めてもらえる人になるんだろうなあ。
みんなに認めてもらえるような、かっこいい、すごい人に。

「(…私には想像つかないや。だって今のキミは、ただの8歳児。なんの変哲もない、…)」

キラキラ輝くタイヨウのような髪をしているけど。でも、今はどこの子供とも変わらない、ただの子供なんだ。

ちゃんと、今目の前にいる子のことを知ろう。
目を背けないで、この子のことを、この子の世界のことをきっちり知って、その上でこの子の世界に返してあげよう。
それから、この子にもちゃんと本当のことを教えてあげよう。夢の中だなんていい加減なことを言ったことを謝ろう。

もう中途半端にするのはやめよう。
知れば知っただけ、きっと離れがたくなっちゃうだろうけど。
この子の涙なんて、もう二度と見たくないから。

改めてした決意の形。
私はこの日、後片付けをしてお風呂に入って歯を磨いて就寝するまで、その決意を胸に過ごしたのだった。

もしかしたら、そうして心をきっちり決めたからこそ、安心しきってしまったがために、いつもより深く寝入ってしまったのかもしれない。

次の日の朝、いつも通りのAM6時。
私は目が覚めた時、ここ数日いつも隣で寝ていたはずの、金色が消えていることに気づいた。

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