タイヨウの君 | ナノ


▼ 4:ちがうこと


『えー!?なにそれ!?突然すぎでしょ!?』
「う、うん.....分かってるよ私も」

電話の向こうの声に苦笑いする。ちらりと視線を向けた先には、興味深そうにテレビの画面を見つめてるナルト。

「でもちょっと事情があって。バイトはしばらくしないことにしたの。幸い今まで溜めてた分はあるし」
『なによそれー。店長怒らなかった?』
「そりゃもう。すぐには代わりきかないんだぞって散々。でもしょうがなくってさ」
『どんな事情よ?』

疑り深そうに聞かれても、答えられるわけがない。言えるものか、まさか漫画の世界の住人がこちらにやって来て帰れそうもない、なんて。頭おかしいと思われるに決まってる。
ごめん言えない、って言えば、バイト仲間のイコは不満そうに声を漏らす。うう、申し訳ない。

「(そういえばイコは例の漫画好きだったっけ...)」

「なー、アキねーちゃん」

不意にナルトがとてとてと近づいて来た。焦る。

『? 今なんか聴こえた?』
「なななにも聞こえてないよ!!んじゃイコ、また連絡するね!」
『あ、ちょっと!』

一方的に切らせてもらってから、ほっと一息、ナルトを見下ろした。不思議そうに首を傾げてるちびっ子。それから急に目尻を下げる。

「......オレってば、邪魔だった?」

慌てて首を振った。

「そんな顔しないの、邪魔じゃないから。それで、どしたの?」

そう言ってやると安心したような顔をするナルト。それから話しだすこの子に、うんうんと相づちを打ちながら、心のどこかでチリッとした痛みを感じていた。

「あの......あのさ、あのてれびってヤツの中身って、どうなってんの?」
「ど、どうなって?......うーん、ごめん、お姉ちゃんもよくは知らないんだけど」


テレビ、スマホ、パソコン。そういうのの諸々は、知らないらしかった。興味深そうにじろじろ見たり触ってみたり。スマホのアプリのゲームを触らせてみたら小一時間くらいは時間潰してた。とても必死でかわいかった。
かと思えば、冷蔵庫やレンジとか洗濯機とかは知ってるらしい。ほんとどうなってんだ世界観。

ちなみに一度スマホで検索して以来、一切あの漫画関係のことは調べてない。見せてはいけない子がいると思うと中々踏み切れないし、後あんまり目を離せないこの子。

「いや、テレビの裏見てもなにもわかんないって」
「んん〜......じゃあこの中の映像ってなんで見えてんだってばよ?」
「いやこう......電波とか」
「電波があったら見れるのか?雷遁とか?」
「(らいとんってなに...)まあうん、多分そんな感じ」

ふ〜んと言いながらじろじろテレビ裏を眺めてるナルト。テキトーでごめんよ。知らんのだ。

とてとてとまた歩いたナルトはクッションにぼふんと座り込む。じっと見てると、じっと見返された。あ、初めましての時の警戒心満々目つきの悪さはカッ消えました。今はとてもかわいいです。

「アキねーちゃんは...その」
「ん?」
「てれび、見ねーの?」
「あーそうだねえ...」

ちなみにもう夕方。今日一日はナルトの家電への興味で終わった。
ベランダの向こうの夕焼け空を見て、時計を見る。もうそろそろ夕飯の準備しなきゃ。私一人ならテキトーでいいけど、お客さんがいるならそうはいかない。こんな育ちだかりの子だしな。

「おねーちゃんはナルトくんにご飯を作って上げよう」
「......そういえば、腹減った」
「はは、さすが...お昼ご飯も食べて一日中家にいたってのに、子供はすぐお腹空くね。何が良い?といっても、今ある材料ででしか作れないけど」

ナルトの視線に合わせてしゃがむ。そう言うと、ぱちっとした目は戸惑うように上下左右に動いた。目ぇ大きいなあ。あとすごくキレイな空色だ。
「ラ......」と言いかけたナルト。「ら?」と首を傾げる私。だがナルトはそれ以上続けようとせず、目を逸らした。

「な、なんでもいいってばよ」
「......そう?」
「ウン」
「......分かった。じゃあ、ちょっと待っててね」

こくんと頷いたナルトを撫でてから台所に立った。ちらりと見れば、ナルトはぼんやりテレビの画面を見始めていた。

「(......違和感)」

冷蔵庫の中身をチェックしながらぐるぐると考える。何も知らない私には分かりっこないんだけど。



夕食は結局ミートソースのスパゲティを作った。ぐうぐうお腹を空かせていたナルトは喜んで食べていたからホッとした。嫌いなものは子供らしく野菜って言ってたけど、炒め物を別に作って、味付けしたら普通に食べてくれた。生野菜がダメらしい。

「ごちそうさまでしたってばよ」
「はい、お粗末様。あ、このお粗末様ってのは、作った側が言う言葉なんだよ、ナルト」
「そーなの?どーいう意味で?」
「えーっと...だから、大したものじゃなくてごめんねってこと」
「おいしかったってばよ?」

心底不思議そうにするお子様に苦笑を零す。普段は一人だし、他人に振る舞ったりすることも滅多にないから、こそばゆい言葉だ。

「ありがとう。そう言ってくれるととっても嬉しいな」
「! へ、へへっ」

するとナルトも照れくさそうに笑った。ほっぺたを赤くして髪をかいて、歯を見せて笑ってる。子供っぽくないな、なんて思ったのは気のせいだったかも。いいなあ、小さい子って。裏表ないからほっこりする。

後片付けは手伝ってくれた。シンクには全然身長が足りないから、お皿運びだけ。それでも危なっかしかったから「一つずつね、一つずつ」と何度も言えば、「オレってば一気にできるから!」って見栄張ったナルト。フラグは無事回収して、こけそうになったナルトを必死で支えた。
さっき「いいな〜小さい子って〜」って思ったところだけど.....

「(素直じゃない......)」

というのかなんというのか、まあ、子供らしいっちゃらしいのだけど。

「よし、お片づけ終了。ありがとナルト」
「ど、どうってことねえってばよ!」
「じゃあこっちおいで」
「え?」




恋人なんていないし、つまり子供なんているわけがない。自分の子供に関する未来を夢見た事もない。だけど今ばっかりは、この子ホントにうちの子にならないだろうかって思った。
この子のお父さんお母さん、すみません。ナルトくんくれませんかね。

一人暮らしの狭いお風呂場でわしゃわしゃ。こんなキレイな金色の髪を洗えるなんて、もうそうそうないだろうな。
さすがに一緒には入ってないけど。入り口のところで袖をまくって手を伸ばしてるだけです。

「かゆいとこはないですかー」
「うー」

最初は恥ずかしがられたけど、お風呂場の使い方を教えるついでに、ってことで押し通しました。ごめんナルト、やってみたかっただけだ。髪洗い。

「(......あれ?私なんかすごい変態くさくね?いやいやいや)」

まあ今はナルトも気持ち良さそうに洗われてくれてるので結果オーライってことにしとこう。
流すよー、って声をかけて、シャワーをかける。金色から徐々に泡が落ちていく。ぱちっと一瞬目を開けたナルトは、慌てて目を閉じた。

「泡が目に入ったら痛いよ、ちゃんと閉じてて」

細かく声をかけると、ナルトはそのたびこくこくと頷く。出会った時は生意気って思ったけど、素直な子ではあるんだな。あの時なんであんなに私を警戒してたんだろ?
シャワーをきゅっと閉じると、ナルトはそーっと目を開けて、ぶるぶると頭を振った。犬か。

「......アキ姉ちゃんは入らねーの?お風呂」
「ナルトの後で入るよー」
「オレが髪、洗ってあげるってばよ?」
「あはは、ありがとう。でもお姉ちゃんは自分でできるからね」
「オ、オレだって自分でできたし!」
「そうだね、明日からは一人で大丈夫かな」

湯船に浸かりなよ、と促しながら笑う。何も言わなくても食器を片付けてくれたり、ゴミを捨ててくれたり、意外としっかりしてるから、あんまり過保護にならなくても大丈夫みたいだ。
だけどそう言うと、ナルトは不自然に口をつぐんで、尖らせた。お湯にアゴまで浸からせながら、すねたような声が風呂場に響く。

「で......でも、髪洗ってもらうのは、気持ちよかったってばよ」

きょとん、と目を丸めて、瞬きを一回、二回。熱さのせいか、それとも他のなにかのせいか、顔を赤くしてるナルトを見て、また笑った。

「ナルトが望むなら、また明日も洗ってあげるよ」
「......ウン」


拝啓、我がお父さん、お母さん。
娘はどうやらたった二日で子供を授かったようです。......気分だけね。

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