タイヨウの君 | ナノ


▼ 1:はじめまして

ある日曜日の午前六時。八月上旬、夏休み真っ盛り。学生という身分で平和な長期休暇を満喫していた私は、趣味である朝の散歩途中、とある小さな公園の隅で丸っこいものを見つけたのだった。

丸っこいもの。
いや、丸っこく丸まった子供だ。

「(…!?)」

二度見三度見したのは当然じゃなかろうか。

え、子供?こんな朝早くの公園で?おーい少年、ここはラジオ体操の場所じゃあないぞ。いや待て待て、ラジオ体操にしても早すぎじゃないか。
迷子?まさかの?こんな朝早くに?まさか昨晩からとか?

公園の隅っこで丸くなってるそれを、公園の入り口から怖々様子を伺う私がいた。

…というか、あの子、日本人でもなくね?

染めたような色でもない、綺麗な金髪が目に明るい。外国人の子供の迷子とか更なるレア過ぎる。いやいや、そんな悠長なこと言ってていいのかな…声かけてあげるべき?

夏とはいえ、夜から朝にかけて夜風にずっと晒されてたなら、あの子くらいの年ならあっという間に風邪ひいちゃうかもしれない。きっと親も心配してるだろう。ほっといたら人間として終わる気がする。

おずおずと少年に近づいて行く。体を丸めて顔を伏せているからどんな子なのかはよく分からない。え、英語で話しかけるべきかな。子供ごときに緊張してる私を内心バカにしながら。

「ハ、ハロー?」

たった一言で分かるぎごちなさマックス日本語英語で口にした。
すると、少年は途端にビクついて顔を上げたのだった。

うわ、ホントに外国人の子だ。

金色の髪に、空色の瞳。日本人ののっぺり顔じゃない可愛らしい顔立ち……ん?欧米人には決まってほっぺにヒゲがあるんだっけ?
なんかどっかで見たことある顔な気がするけど、いや待て、私に外国人の知り合いはいない。気のせいだ。

「あー…あーゆーおーけー?」
「......誰だってばよ」

日本語しゃべんじゃん!!恥ずかしいわ!!

「むしろ私のほうがキミがどこの子かって聞きたいよ」
「…?」

至極真っ当なことを言ったつもりなのだが、少年は酷く胡散臭そうな顔をしてこちらを睨んできた。か、かわいくない。こっちは親切心オンリーで話しかけたっていうのに!

「オレのこと知らねーわけねーだろ。大人のクセに」
「…ガキンチョから見たら大人って何もかも知ってるように見えるかもしれないけどね、大人だって全人類を把握してるわけじゃないんだからね?」

会ったこともない子供のことまで知っててたまるか。頭パンクするわ。
なのに、少年はまだ警戒する視線を向けてくる。とりあえず愛でたくなるようなかわいい子供じゃないことはよーく分かった。めんどくさいタイプの子供だ。
だが落ち着け、と自分に念ずる。どれだけかわいくなかろうが子供は子供、庇護対象だ。

「とにかく、キミ、迷子なんでしょ?」

すると少年は俯いてしまった。え、泣くの?

「…ここ、どこだってばよ?オレ、こんな場所見たことねえ…」
「うん、だから、迷子なんでしょ?」
「違うってばよ!だってアンタだって、オレのこと知らねんだろ!?」
「...? う、うん」
「やっぱりだ......なんか、なんか違うんだ!ここってば、オレの知ってる里じゃねー…」
「…里?」

なんの話だ。外国って里制度だっけ。

「…キミはどこに住んでるの?」
「……木ノ葉隠れ」
「こ、この…? 知らないなあ。キミはどうやってここまで来たの?」
「だから、知らねーんだってばよ!オレってばこんなとこに来た覚えねーもん!」
「そんなこと言ったって、」
「だってオレってば、!…オレってば…」

突然声が小さくなる。あ、やばい、本気で泣きそう。慌てて少年の目線に合わせるようにしゃがんでやる。それから、ぽん、ぽん、と髪を撫でてやった。
ものすごい驚いた顔をされた。大きな瞳に涙を溜めたまま。くそ、かわいくないクセにかわいいな。

「分かった分かった。とりあえず、交番に行こうか?」
「…こーばん?」
「交番知らないの?おまわりさんがいるところだよ。コノハガクレってのがどこにあるのか聞いてみよう」

しかし変な名前だな。コノハガクレ町っていうんだろうか。長いし言いにくいな。

「…そしたら、オレってば、帰れる?」
「帰れるよー。おまわりさんはすごいからねー」
「ソイツってば忍者?」
「え?」

に、にんじゃ?
首を傾げてる少年を前に、私はぽかんと口を開ける。

「…外国の子がニンジャに憧れるのは分かるけど、残念ながら現代にニンジャさんはいないよ?」

この子の親はいったい何を教えてるんだ。
だが、そう言えば予想以上に少年が反応を示した。

「なんで、んなこと言うんだってばよ!」
「え、ええ?」
「三代目のじーちゃんは火影で!木ノ葉で一番えらい忍者で!オレだって忍者になって、いつか火影になるって決めてんだ!いないわけねーってばよ!」
「ま、漫画の話?ごめんだけど私アニメには疎くて…」
「なんで、っ」

ぎょっとする。なんでまた泣くの。

「知らねーわけねーってばよう…っ」
「ご、ごめん、ごめんってば!」
「オレってば、こんなとこ、知んねーもん…木ノ葉は、どこだってばぁっ」
「ごめんね、おねーちゃん知らなくてね、ほら早くおまわりさんのとこ行こう?ね、お手て繋いであげるからね、」

とんだ朝の散歩になってしまった。まさか朝からちびっ子を泣かすハメになるなんて。私に非はないはずなのに罪悪感やばい。えぐえぐと泣き続ける少年はようやっと私の手を握ってくれた。
よしよし、と声をかけながら、歩き出す。励ますように小さな手をぎゅっぎゅと握る。憎らしくても泣いちゃえばただの子供だな。

「そういえば、名前聞いてなかったね。おねーちゃんはアキっていうの。キミは?」

…その瞬間まで、私にとってはただの子供だった。

「うず、まき…」
「…ん?」
「うずまき、ナルト」

…ん??

聞いたことある。いやいや、待て待て?えっなに?その名前ってば、超有名じゃないですか?
いやいや、待て待て?

忍者とか言ってたな。

え?

ナルトって?


内心汗ダラダラで改めて少年の顔を見た。
本屋でよく見る顔が、そのまま幼くなったような…

「…ナルト」
「なんだってばよ…」

「ここは、夢の中の世界だよ」


なんて妄言を吐いてしまったんだ私は。
だけど、とても気のせいとは思えなくて、私は気の迷いにつられて言ってしまったのだった。

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