第八十一話 終戦


「ヒャァッハァーー!!やっと出てこれたぜェーー!!」

我愛羅が完全に寝入り現れた"守鶴"は、やけにテンションが高かった。
だが戦闘能力は比ではない。早速ブン太とナルトに攻撃をしかけ始め、ブン太は必死に攻撃をかわす。応戦するも、相殺を狙った攻撃を一つ逃し、風遁・練空弾が二人に襲いかかった。

「痛いのォ...ようけチャクラ練り込んだ玉ァぶつけやがってからに。なんぼワシでもそう何発も喰らっとられんぞ!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだ!?」
「とりあえずはのォ、あの霊媒のガキをどつき起こしちゃれェ!術が解ける!」
「どうやって起こすんだよ!?」
「ガキに一発喰らわせりゃええて!!」

言ったブン太は、再び襲い来る練空弾を避けつつ守鶴に近づいた。まずはその両手で守鶴の肩を掴み、「今じゃ!!」とナルトに怒鳴る。しかし、ナルトが飛びかかるその前に守鶴が抵抗を見せ、ブン太は再び後方に退いていた。

「オヤビン、しっかり抑えといてくれねーと殴れねェってばよ!」
「フン!蝦蟇のワシにゃ、ヤツの動きを封じる牙も爪のねェけんのォ!!」
「じゃあどうするんだってばよォ!」
「......変化の術でそれらを持っとるもんに変化する!とはいえ、ワシは変化が得意じゃねーけんのォ」
「え!?」
「じゃけんの、お前がワシの意思になって、印を結べェ!」

突然の無茶振りにナルトは「えぇええ!?」と情けない声をあげた。だがブン太はお構い無しに、「コンビ変化じゃァ!」と吠えて再び守鶴に向かっていく。

「変化じゃァー!!」

もうそう距離がない。大蝦蟇の声に、ナルトはもう何がなんだが分からなくなっていた。
牙と爪のあるもの。こんがらがるその頭に視えてくる過去の映像。つい最近 見たーー目前の守鶴と似た空気を放つ"バケモノ"。


「ーーー変化の術!!」


赤い体、とんがった耳。鋭い牙と爪、九本の尾。
一尾の狸と、九尾の狐。



「終わり、だと......」

地に伏す北波が悠然と佇む朱雀を睨む。その目に宿る明らかな憎しみ。朱雀に向けるそれは、カナに向けるものとはどこかが違う。
朱雀は北波の言葉を耳に、不意に脳内のカナを意識した。朱雀は"現在の主人"の性格を知っていた、だがそれでも朱雀の答は変わらない。

「ああ、終わりだ」

カナの声が言う。体勢を立て直そうともがく北波は一層顔を歪めた。

「何が終わった......オレの憎しみは、まだ、消えちゃいねえ......!」
「戦えはするだろう。痛みを忘れていれば体は動かせる。だが、我を倒せるかとなると別問題だ」
「るせェ...!お前は、オレが潰すと決めた、最初の憎悪だ!!」

しかし既に限界か、北波は上体を起こすことすらままならない。吐血がその口からぽたりと落ちた。
朱雀は息をついて背後の木にもたれた。そうして空を仰ぐ。その耳にはまだ騒音が届いている。だが皮肉な程に空は青いままだ。

「......何故、そこまで風羽に執着する。何故それほどまでにこの一族に拘泥する?」

朱雀が静かに問うた言葉に、北波はぎらりと眼光を強めた。北波に視線を戻した朱雀はその光に不安定な感情を感じた。
憎悪、だが葛藤。憤怒、だが傷心。
朱雀は怪訝に目を眇めた。北波について朱雀自身が思うこともある。北波に対する不思議な感覚。カナは北波と相対峙したくないと頑なに思っている。

大蛇丸の配下であるということ以外は、北波はほとんどが謎に包まれていた。北波は風羽を恨んでいるという。募った恨みで大蛇丸に情報を流したのだろう。風羽の存在を無に帰したいが為に。
だが、そこに北波の瞳の色の理由はない。

しかし、北波にはやはり応える気がない。

「何も知らねえテメェなんかにゃ、言う必要もねえ......」

北波のギラついた視線を受けながら、やはりそうかと朱雀は目を細める。
カナが問うた時も北波は答える気はなかったようだった。何度訊いたところで、北波は口を割らないつもりなのだろう。

ならば、もう訊くまい。

淡々としたカナの声。それから、その足が一歩一歩北波へと向かっていった。



九尾は守鶴に飛びつき、その喉元を鋭い牙で噛みつき、その両肩を尖った爪で掴んだ。これ以上の好機はない、ブン太に怒鳴られるがままに、ナルトは飛び出した。

「いい加減にーーー起きやがれ、コノヤロウ!!!」

バキィと、我愛羅の頬が殴られる。
すると、僅かに我愛羅の口から漏れた声。"霊媒"が目を覚ましたのだ。ギャアギャアとうるさかった守鶴本人の意識は消えていき、代わりに、我愛羅はすっと目を開けていた。

その目に、守鶴からずり落ちていくナルトが映る。

「うぉッ!!?」

途端、ナルトの両足が砂に埋まっていた。次第に体までもを覆い始める。

「お前はオレに殺される...!オレの存在は消えない!!」

必死な姿だった。必死に何かをつなぎ止めようとしている表情だった。
だがナルトとて引き下がるわけにはいかなかった。どれだけ砂に蝕まれようとも、ナルトの背後には、脳内には仲間の姿がある。ナルトは仲間の為に戦わなければならない。誰が相手であっても。
ナルトは我愛羅を睨みつけ、バッと印を組んだ。

「(みんなは...オレが護る!!)」

赤いチャクラが、吹き荒れた。その力は足下の砂を吹き飛ばし、額当てをほどくほどに。
金髪がチャクラに揺れる。そのチャクラを身にまといながらナルトは駆け出した。拳に力をこめて。


「行くぞ、バカダヌキ!!!」


飛び上がったナルトは、しかし、我愛羅にぶつかる寸前で砂に止められる。それでも、諦めるわけにはいかない。

「こん......」

頭を思いっきり引いてーーーただの頭突きを。

「ちくしょうがァ!!」



「最後にもう一つ聞く......これは答えろ」

朱雀は北波を見下ろす。北波は黙って朱雀を見上げていた。

「貴様は本当に、大蛇丸の仲間として動いているのか」
「...!」

ピクリと眉を動かした北波。朱雀は目を細めた。北波の台詞の端々には、大蛇丸の存在が一切なかった為だ。
またも「関係無いだろ」と一蹴される可能性は高かったが、しかし朱雀の予想に反し、今度こそ北波は答えていた。

「てめえの考えはアタリだ......」
「!」
「オレは大蛇丸の配下のモンじゃねえ......ある組織の一員だ」
「......ある組織?」
「何なのかまでは教えねえ......けど、姫を......"お前"を狙った組織であることに変わりはねえさ」

北波の視線は、ふっと朱雀から外され、木々の間から見える空を見上げた。どこまでも清々しい、やはり、皮肉な空だった。
視界にちらつく、カナの銀色。状況に似合わない穏やかな風がそれを揺らしている。
北波はそれを眩しそうな目で見ていた。だがそれもこれで終わりだと、北波は瞳をゆっくりと閉じた。

そしてその口が問う。オレを殺すか、と。数秒もしない内にカナの声が紡ぐ。ああ、と。

そこに立つのは北波の憎悪。それは変化しない。北波は今一度 体を動かそうと力を込めたが、やはり体は主人の言う事を聞こうとしないらしい。ぐっと砂を握りしめた北波の手。小石で手の平が痛む程に。だが、数秒の後、それはふっと緩んでいた。

「てめえなんかにゃ......殺されねえ」

北波の言葉に眉根を寄せた朱雀。だが北波はふっと笑う。その手が余力を振り絞って懐に届いた。
その手が掴んだのは、数個の起爆玉。朱雀相手にはあまりにも頼りない忍具。

「......何をする気だ?」
「ヘッ......確かに、もうオレはまともに戦えねえ」
「それならば、その起爆玉はなんだ」

北波がその手に転がしているのは爆弾、相手を傷つけるための手段。それなのに、戦えないという。
怪訝に思う朱雀の思考はもっともだっただろう。この状況で、ようやく北波のほうが余裕に構えているように見えた。北波の考えは、朱雀に掴みきれるものでなかった。

「なんもおかしいことはねえ......元よりこうするつもりだった。それが少し、早まっただけだ」

曖昧なことを言ってはぐらかす北波は、笑っていた。


「てめえなんかにゃ殺されねえ。オレは、自分で死ぬすべを持ってる」


やけに静かな声だった。
北波は空を見上げながら、起爆玉を上へと放り投げた。



ナルトの額からも、我愛羅の額からも、血が滲んだ。
攻撃を仕掛けたナルトも反動で後ろに弾かれ、我愛羅の守鶴も砂となって崩れ始めていた。

著しくチャクラを消耗したガマブン太も消え、その場に残るは、それぞれ木の上で体勢を立て直したナルトと我愛羅のみ。
肩で息をしているも、ボロボロの傷だらけなのも、二人とも変わらない。
同じ痛みを背負っていることも。

「さすがに、オレももう、カラッポだってばよ......お前も、だろ」

睨む我愛羅に、ナルトは言う。

「お互い、似た者同士。これで終わりにしようぜ」



それでも朱雀は冷静だった。起爆玉が落下してくる速度は、朱雀にとってはノロすぎる。

何を思ってか、この男は自ら死のうとしている。何故かは知らないが、朱雀にとって、それを止めることに意味はない。朱雀の使命はただ、主を護ること。それ以外のことをする理由はなかった。
静かに死を待つ北波を目に、朱雀は迷いなく、退去しようとしたのだった。


ーーーだが、その声は響いた。



"それでも、私は願いません"ーーー



それは確かに、朱雀が護るべき"神人"の声だった。
"神鳥"は願われなかったのだ。

朱雀はその一瞬、呆れた。
だが同時にその表情に浮かび上がったのは、穏やかな微笑みだった。

起爆玉はもう、地面に接する。



ーーー木ノ葉舞うところに火は燃ゆる



派手な爆音。
それが響き渡ると同時に、朱雀ーーー否、"その意志"は倒すべきはずの敵の元へと動き出していた。
金色でなくなった瞳は穏やかに光り、風をまとって軽やかに。この決意ある大爆発に巻き込まれぬよう足を急がせながら。

一束ねにした後ろ髪を犠牲にしようとも。



ーーー火の影は里を照らし



ナルトと我愛羅は枝を蹴り、相手へと、跳ぶ。双方共に唸り声をあげ、互いの信念の為に。
どちらの想いをとっても虚偽はない。どちらも互いの切望の為に必死だった。だが、それでも勝敗がついたのは恐らく、互いの想いの相違のため。

ナルトは"大切な者たちの為"と一心で、我愛羅を倒したのではなく、木ノ葉を護り通したのだった。

落ちていく二人。木々の間を抜け、二人は同じような勢いで地面との距離を縮めていく。どさりと地上に倒れ込んだ二人に、確かにもうそれ以上の力はなかった。
我愛羅は、初めて自分を倒した存在であるナルトを、わけもわからず見つめていた。



ーーーまた、木ノ葉は芽吹く


 
|小説トップ |


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -