第二話 友達


『ねえ』
『!』
『なにしてるの?』
『お前ってば、いっつもアイツといる、......なんでじいちゃんも一緒に?』

小さな少年は戸惑っていた。唐突に話しかけてきた少女は、少年がいつもライバル視している人物と仲がいいことを知っていたが、それだけだった。二人のケンカの、なだめ役。名前はなんというのだったか。そう思っているうちに、少年は更に隣の老爺にも気が付いた。老爺はこの里の中でも一番偉い人だと知っていた。

『久しいの、ナルト。元気にしとるかな?』
「......別に、普通だってばよ。何の用?こいつも......』

じろりと少女を睨んだ少年。いつも理不尽に冷たい目を向けられている少年は、外面はイタズラ坊主でも、内面では警戒心が強かった。ライバル視しているヤツと仲がいいヤツ。それだけで、少年が敵意を向けるには十分だった。
けれど、困った顔をしている老爺の隣で、少女はなにも気にしていないようだった。

『ナルトくん、もうお空が暗くなる時間だよ。危なくなるんだよ』
『んなもん、お前には関係ねーってばよ!』
『関係なくないよ』
『ねーだろ。オレってば、お前のこと知らねえし』
『わたしはよく知ってるよ。うずまきナルトくんでしょ?』

少年は目をまたたかせる。少年の記憶では、少女はアカデミー生でもなかった。学校では見たことない。だけど、外でアイツとケンカする時には、どうしてかいつもいるヤツだった。

『わたし、カナっていうの』
『カナ?』
『うん。ナルトくん、サスケのお友達でしょ?それで、イタズラが大好きな、明るい男の子!』
『!』
『ずっと思ってたの。私とも仲良くしてほしいなって』

夕焼け空の下。小さな砂場の上で、少年は少女を知った。







「......で、私はなんでナルトくんに掴まってるんだろう?」
「んー?そんなの、ワケなんて簡単だってばよ。あの場にいられたら、サスケを縛った縄なんてカナちゃん、すーぐほどいちまうだろ?」

にっこにっこにっこにっこ。
カナの目の前にいるのは満面の笑顔を誇るナルト。いたずらっぽく、けれど無邪気に。

「あー、うん......」

曖昧な返事をしたカナは、何故こうなったのかと頭をかいた。
事の発端はついさっき。特に仲が良かった引っ込み思案の友人と挨拶を交わしてから、サスケと共に移動し昼食をのんびり頂いていた時。何気ないやりとりをしてカナがサスケから目を離した瞬間、

『なっ!?』
『覚悟しろっサスケェ!!』

すぐ近くで大声があがり、カナが目を戻した時には既に時遅し。
ナルトに奇襲をかけられたサスケは天才とはいえ対処しきれなかったのか、ネコのような引っ掻きあい取っ組み合いの末に縄で縛られていた。さらにドベだのウスラトンカチだのサスケが怒鳴っている最中に、ぽかんとしていたカナを目に入れたのがナルトである。
ニッといつものいたずらっぽい笑顔をカナに向けたあと、

『じゃっカナちゃんも一緒に行こーぜ!』
『え?......えええ!?』
『おいコラ待てウスラトンカチ!!』

サスケの剣幕にも反応せずにカナの腕をとったのである。それから侵入に利用した窓から脱出し、アカデミー周辺の木々を跳び回り現在。

むやみやたらに引っ張られたため、カナは抵抗しきれなかったのだった。

「後でサスケ怖いよ?」
「へーんっ!サスケなんてオレの足下にも及ばねーってばよ!仕返しにきたって返り討ちにしてやらあ」
「あはは…でも、正直、面白かった」
「だろ!サスケをあーんなんにできんの、オレくらいだってばよ!」

カナが笑ったのをいいことに、ナルトは得意げに鼻を擦っている。正直返り討ちの返り討ちには合う気がしたが、それも含めて、カナは二人の喧嘩を見るのは好きだった。ケンカするほどなんとやらだ。

「相変わらずナルトくんはサスケと仲良いなあ」
「な、ないないない!!それはねえってばよ!オレとアイツはアレ、犬と......えーと、サルの仲で」
「犬猿の仲?」

それそれ、とこくこく頷くナルトにカナはくすくすと笑った。

「私は羨ましいと思うけどな。ケンカしてる二人っていつも楽しそう」
「......昔っからカナちゃんは誤解してるってばよ。オレってば、サスケとだけは絶対に友達じゃねーし」
「昔?」
「最初にカナちゃんと、ちゃんと話した時、......覚えてねーかもしれねーけど」

意地を張るように顔を背けたナルト。サスケと仲がいいなどとは認めたくないらしい。
一方で、カナは思い出すように視線を左上に流し、しばらくして「ああ」と思い出したように言った。もう五年以上前になる出来事だ。昔からカナはナルトとサスケの仲の良さを肯定していたふしがあった。

「覚えてるよ。懐かしいなあ。やっぱり二人は昔から仲が良かったんだよ」
「オレってばサスケとまともに会話したこともねーのに!ありえねえってばよ」
「そうかなあ。......まあいいか。とにかく、ナルトくん、これからはそのサスケ共々、サクラとも同じ班になるし......よろしくね」

"サスケとナルトは仲がいい説"を推すのを諦め、カナは気にせず笑って言う。少しばかりむすっとしていたナルトも、それで少し機嫌を直したようにはにかんだ。カナに「よろしくね」と言われるのは二回目だ。懐かしい気分が拭えなかった。
そうして数秒だんまりになったナルトを、カナは不思議そうに見る。

「どうかした?ナルトくん」

が、カナがそう問いかけた途端、ナルトはカッと目を見開き、「ダメーーー!!!」と急に叫んだ。カナの体はびくっと跳ねる。

「ダメダメダメー!その呼び方はもうダメ、ノー!!」
「なっなにが?」
「オレらってば今日からもうチームメイト!おんなじ班の仲間だろ!カナちゃんってばサクラちゃんもサスケのヤローも呼び捨てにしてんのに、オレだけ"くん付け"なんてよそよそしいってばよ!」
「ええ、でもそっちだって私のこと呼び捨てじゃあないけど、」
「オレはいーの!サクラちゃんにだって"ちゃん付け"だから!でもなんか、カナちゃんはオレにだけだから、なんか、オレだけ仲間はずれみてーな、」

唐突に叫んだかと思えば、唐突にしょげだすナルト。しばらくぽかんとしていたカナは、暫くしてぷっと吹き出した。

なんのことはない、ナルトがカナを呼び捨てにすることがなかったから、カナのほうもナルトを呼び捨てにする機会がなかっただけである。それだけのことで、二人の心理的距離は呼び捨てにできないほど離れているわけでもなかった。








「あれ、サスケいないし......どこ行ったんだろ」

ナルトに捕らわれ連れ去られた数分後、カナが元いた場所に戻ってみれば、幼なじみの姿は既になかった。ふいに肩に降りてきた小鳥に「黒髪の子知らない?」と問うてみても、結局情報は得られずじまい。

その鳥がまた羽音をたてて窓から出ていくのを目で追うと、カナは目的とは違う人物を目の端で捉えた。鮮やかな桜色の髪を誇る同期生。それがサスケとナルト以外のもう一人のチームメイト、サクラだということに気付く。

ただしなにか、とてつもなく落ち込んでいる。カナは何気なく窓枠を飛び越えた。


「どうしたの?サクラ」
「きゃっ!?......なあんだカナ、びっくりさせないでよもう!」

唐突に隣に立った人影に驚いたのだろう、責めるような口調のサクラにカナは「ごめんごめん......」と半ば笑いながら返す。サクラはそろそろ教室に戻ろうとしていたところのようだった。

「で、どうしたのって、なにが?」
「いや、なんとなく落ち込んでるように見えて」
「えっ......そ、そう?そんなこと......ないわよ」

カナの言葉に歯切れ悪く返すサクラ。図星だということはカナの目にも明白である。サクラも気づかれたことに気づいたが、それでもカナが第三者である手前、サクラは無理矢理笑顔を作った。

「あんたの気のせいよ!別になにもないわ」
「......そう?それなら、いいけど」

カナは合点がいかないままだったが、意地でも聞き出すほど強情な性格は持ち合わせてなかった。

「それじゃ、一緒に教室に戻りましょ」
「うん。ナルトとサスケももう集まってるかな」
「さあ......って、あれ?カナって、ナルトのこと呼び捨てだった?」


『わかった。じゃあ今度からナルトって呼ぶよ』
『うおっしゃあ!さっすがカナちゃん!話が分かるってばよ』
『あはは......』
『じゃ、オレも行きてえとこあるから、またあとで!そんじゃなカナちゃん!!』

そんな数分前のやりとりを一瞬で回想したカナは、苦笑いしながら、でもどこか楽しそうに「うん、今日からね」とサクラに返したのだった。


 
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