第三十九話 一次試験、開始!


「静かにしやがれ、どぐされ野郎共が!!」

その怒声のせいで、カナはぽかんと惚けてしまった。
煙から現れたのは大勢の上忍たち。その彼らの前に堂々と立っているのは体躯の一際大きい男。

「待たせたな。中忍選抜第一の試験、試験官の森乃イビキだ」

イビキと名乗った男は手短かに自己紹介した後、その凄みのある視線をこの部屋の出入り口付近に向ける。

「音隠れのお前ら!!試験前に好き勝手やってんじゃねェぞコラ!いきなり失格にされてェか!!」
「すんませんね、試験官殿。失格だけは勘弁してやってくれないか?」

動ぜずにあっけからんと言ってのけたのは、元の位置に戻っていた青年、北波。
カナは怪訝な顔でその背中を見る。一方でイビキと北波の視線は交じり合い、しかし北波の不誠実な態度は結局咎められなかった。

「良い機会だ、言っておく。試験官の許可なく対戦や争いはあり得ない。また許可が出たとしても、相手を死に至らしめるような行為は許されん......分かったな」

イビキの迫力ある言葉に悪態をつく者は少ない。それほど薄気味悪い笑みを零している上忍たちの威圧感があったのである。

「ではこれから中忍選抜第一の試験を始める。志願書を提出して、代わりにこの番号札を受け取ってその番号通りの席につけ。お前らが全員席についたその後に、筆記試験の用紙を配る!!」

いわゆる、ペーパーテスト。
ナルトの叫び声が聴こえる中、カナもえっと驚いたあと、一種の落胆の表情を見せていた。



番号を受け取り、席を捜す。そうして席につこうとした途端、カナは隣の席に座っている彼の姿に目を瞬いた。
そこにいたのはカナが先日から意識している"砂瀑の我愛羅"その人だった。

しかし、我愛羅のほうは気付いているであろうに、目を瞑るばかりでカナを見ようとしない。カナは暫く突っ立っていたが、そのうちすとんと席に座り、硬い表情で膝の上で握る拳を見つめた。
我愛羅がその一瞬 横目を向けたことにも気付かずに。

一次試験は、イビキによる注意事項から始まった。

「この第一の試験には、大切なルールってもんがいくつかある。質問は一切受け付けんからそのつもりでいろ」

イビキは黒板に字を書きながら説明に入った。
まず一つ目のルールは、この試験の得点方法。受験者には全員に最初から十点ずつ配分されており、間違えたら一点ずつ引かれていくという。そして、合否はチーム三人の合計点数で判定される。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

頭を打ってまで第二のルールに動揺したのはサクラだった。無論、チームメイトに問題児がいるからだ。

「チームの合計点ってどういうこと!?」
「それに、木ノ葉と音のチームにフォーマンセルのところがあったじゃねェか!!」

サクラに次いで声を上げたのは他の隠れ里の忍。先ほどの部屋での一悶着を見て解釈したのだろうと思われる。その意見に賛同するような声も多数挙げられた。しかし、それらは「うるせェ!」というイビキの怒鳴り声で一蹴された。

「黙って説明を聞いとけてめェら!!その二つについてはワケがある!質問は受け付けねぇと最初に言っただろうが!」

しんと静まった場に溜め息をつき、イビキは今度は第三のルールへと入った。
それはカンニング対策だった。カンニング、及びそれに準ずる行為を行ったと監視員たちに見なされた者は、その行為一回につき持ち点から二点ずつ減点されるという。つまり、途中退場も有り得るということ。

「(......なんで減点?)」

カナはふいにそう思ったのだが、イビキはカナの思案を遮るように付け足した。

「ここでフォーマンセルを組んでる二組に枷を与える!この二組に関しては、班員全員のカンニング行為の合計が五回に達した時、問答無用で失格とする!」
「!!」
「えええええ!?それってかなり不利じゃねェかよォ!」
「黙れ小僧!!これは甘いほうだというのが分からんか...そんなに途中退場が怖ければ、カンニングなどやめてしまえ!」

ナルトが怯んでいる最中、カナはまたも首を捻る。さっきからなんだかイビキの言い回しがちょくちょく引っかかる。しかし、また一つルールが追加された時、カナは絶望に似たものすら覚え、それまでの考察など消え去った。
班員の中に一人でも0点がいた場合は、全員が不合格になる。
最初の難関が始まった。



......しかし開始十分後、カナは早くもお手上げ状態だった。
用紙には名前と、一部書こうとした形跡はあるものの、どれも答とはいえないものばかり。

「(これ、本当に解ける問題なの......!?)」

と思って顔を上げるが、何人かは鉛筆を動かしているようだった。カナはずぅんと暗い顔して用紙に顔を落とした。

実際、カナはアカデミー時代くノ一でトップだったとはいえ、それは実技も合わせての判定だった。筆記が悪すぎたというわけでもないのだが、実技よりはかなり不得手なのも事実。それでもアカデミー時代の試験は努力でなんとかしていたのだが。
ダメだ、とカナは机の上にバテた。挫けたくなくても挫けそうだ。

「(......でも、この試験何かおかしいよね......)」

すっと目を閉じる。思い出すのはイビキのルール説明の時の言葉だ。

「(普通、カンニングって許されるもの?何で一回で落とされないの?五回の猶予なんて)」

アカデミー時代、ナルトのカンニング行為がバレて、その度 試験監督の教師の雷に遭っていたことを思い出す。それが普通だ。むしろ今のテストは中忍試験という更に重要なものなのだから、その場で即失格も免れないと思われるのに。

悶々と考え続ける。一つ一つ、イビキの言動を思い出しつつ。最終的にカナの思考に決定打を与えたのは、イビキが口元を上げて言っていた言葉だった。

『仮にも中忍を目指す者......忍なら、立派な忍らしくすることだ』

「(もしかして、忍らしく忍べってこと?)」

カナはぱっと目を開いた。思いついてみれば、それほどの妙案はないように思えた。なんといってもこれは忍の試験なのだから。それにそれならばイビキの不可思議な言葉も全て解決される。

「(よし......!)」

思い立ったところで、カナは即座に鉛筆を置いた。


「(亥、戌、酉、申、未! 口寄せの術!)」


するとカナの手の平に両隣の者が気付くか気付かないか程度の煙が現れる。そこから飛び出し机の上に乗ったのは、紫色の小鳥だった。鳥のくせにいかにも強気そうな顔が特徴的である。
鳥はすぐに一度口を開いたが、咄嗟にカナは鼻に人差し指を当て、代わりに問題用紙を裏返してカリカリと何かを書いた。

"久しぶり、紫珀。早速で悪いんだけど頼み事してもいい?"

紫珀(しはく)。文面で話しかけられた小鳥は、解っているとでもいうようにその翼を広げた。何を隠そうこの鳥は喋れるのである。「久しいなァ」と独特の口調で鳥こと紫珀は返し、「で?」と首を傾げた。

「まさか下忍のテスト中とか言わんよな、カナ」
"声小さく。そんなわけないでしょ、中忍試験中"
「ま、見たとこそんな感じやな」

紫珀は辺りをぐるりと見渡した。すると紫珀の小さな目が試験監督の一人のものと合う。その者はふっと笑った後に視線を逸らしたが。「何やアイツ、感じ悪ゥ」との紫珀の言葉にカナは溜め息をついて"バカ"と書いた。

「バカてなんやねん、バカて。回答欄真っ白のお前のがバカやろが」
"この問題が難しすぎるだけ。絶対紫珀だって解けないから"
「ほお、んじゃ見せてみぃや」
"それよりもしてほしいことがあるんだけど"

カナは困った顔をするが、紫珀はいーからいーからと再びカナに問題用紙を裏返させた。結果は言うまでもないが。途端に不機嫌な顔を見せる紫珀に、今度はくすりと笑ってしまうカナ。

"解けなくて当たり前なんだよ、多分。この試験はカンニングすることが前提だと思う"
「それを早く言いや。で、オレ様にそのカナメになってほしいってか?」
"そういうこと。お願いします"

カナが机に両手をついてちょんと頭を下げれば、紫珀はしゃーないなぁと言ってすぐ、ばさりと飛び立った。
無論 その姿は他の受験者たちにも試験監督の者たちにも気付かれているだろうが、問題ないだろう。何故なら、キバと赤丸ペアの行いや、リーとそのチームメイトの連携プレーなどが普通にスルーされているからである。恐らく"忍らしい情報収集"なら何でも良いのだ。

カナがそうして紫珀を待っている間には、早くも脱落者が出てきていた。5回以上の"忍らしからぬ"カンニング行為。それから流れるように出てきた失格者に、カナはその中に知人がいないことを願った。


 
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