第八話 迷路?


「カナちゃん!」
「大丈夫?ナルト」

とりあえず、カナは一人置いてけぼりにされたナルトへと歩み寄っていた。「見事に罠に引っかかっちゃったね」とクスクスと笑うカナに、ナルトは先ほどの嬉しそうな顔とは一変、ムッとした表情を作る。

「ほっといてくれってばよ!」
「あはは、ごめんごめん。今、縄切るね」

相変わらずまだ笑っているカナだったが、ホルスターからクナイを取り出しながら近づいていく。
しかしその時、

「あぎゃぁぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!」

突如響いたその盛大な悲鳴に、ハッとしたカナとナルト。目を丸めた二人の脳裏にだんだんと一人の少女が浮かび上がった。

「今の......!」
「ああ、サクラちゃんの声だってばよ!」

カナの呟きに、捕まっているのが焦れったそうにナルトは返す。何かあったに違いないことは明白だった。動けるカナはとりあえずクナイを構えると、その場から投げていた。

「ごめんナルト、先行くね!」

カナの手から離れたクナイは、ピンポイントで縄を切った。その時には既にカナの姿は消えている。どうやらあっという間に走り去ったらしい。
足が自由になり地へと下りたナルトは、「サンキューなァ!!」と大声で言った。

しかし。ナルトの両足は地についたと思ったら、またも一瞬で捉えられていたのだ。

「ハァー!?」

叫ぶナルト、しかし最早救世主はおらず。結局また両足を縛られたままになってしまったナルトだった。



走る、走る、走る。
茂っている演習場の中を駆け巡って行く。さっきの声からしたらきっとサクラはこの先にいるはず。焦りからか落ち着いていられず、木の根に足をひっかけることもあるが、寸でのところで体勢をたてなおしてまた速度をあげる。
あれだけ大きな叫びをあげるなんて、一体何があったのか。まさかカカシも傷つけることはないだろうと思っていたが、寅の印の件もある、本当にそうなのか。そんな不確かなものを根拠にして果たしてよかったのか。


全速力で走ってるうちに、見慣れた赤色がカナの目に入った。
即座にそちらへ駆け寄り「サクラ!」と叫ぶが、返事はない。そこで寝ているサクラは傷一つないもののぐったりと気絶している状態。とりあえず怪我がなくて良かったとカナは安堵するが、サクラの顔に血の気はない。

「サクラ......サクラ、起きて」

ポンポン、とサクラを弱く撫でる。すると、「う......」と小さく身じろぎするサクラ。その瞼がぴくりと動いた。「演習中だよ?早くスズとらなきゃ」と続いてカナが声をかければ、「えん、しゅう......?」とぼやき、虚ろな目はようやくカナを映した。

サクラの瞳が、徐々にカナの顔のはっきりとした輪郭を映していく。そして、それがしっかりと意識を持った時。

「サクラ、」

と声をかけるカナの顔を映せども、今のサクラには全くそれが意識できなかった。ただバッと跳ね起きたので、カナの体はびくりと跳ねる。
「サ、サクラ?」と呟いて触れようとするが、その前にサクラの口から「......サスケくん」と小さく聴こえた。そしてそれにカナが反応する前に。

「サスケくん!!私をおいて死なないでぇーーー!!!」

突然悲鳴を上げたサクラは、あっという間に走って行ってしまったのである。
ポカン、と口を開けたカナは、ただ赤い服が遠ざかっていくのを見ているしかなかったのだった。



場所は変わり。

林の中の拓けている場所で、サスケはカカシと対峙していた。
サスケは少しだけ息切れをしている。といっても、先ほどのナルトのような無謀なことをやっていたわけではない。
確実にサスケはカカシに一番近かった、その証拠に一瞬ではあるがスズに触れることはできた。それに、カカシは既にあの本をポーチに閉まっている。

「ま!あの二人とは違うってのは認めてやるよ。まだカナとはやり合ってないけどね」

カカシの言葉に、サスケは短く「フン」と返す。そしてすぐさま印を組んだ。

「火遁 豪火球の術!!」

途端、それはそこに現れた。巨大な火の塊だ。燃え盛る火の球はカカシを襲い、その数秒間サスケは容赦なく術を続ける。
だが煙が晴れた時、カカシの姿は消えていた。

「(後方......いや上か!?どこだ!)」

確実に命中していたと思っていたのに、そこには焼けた服の切れ端一つない。冷や汗と共にカカシを探すサスケだが、結局感づくことはできないまま、

「下だ」

と聴こえた声と同時に、サスケは自分の足に違和感を覚え、

「土遁 心中斬首の術!」          
「なッ!!」

次の瞬間には土の中へ引きずり込まれてしまっていた。サスケ・生首同然である。
気付いた時にはその状態で、サスケはカカシの顔を睨みつける。ものすごい屈辱を受けているといった表情に、カカシはのほほんと変わらない顔を向けていた。

「忍戦術の心得その三!忍術だ。にしても、お前はやっぱ早くも頭角を現してきたか」

サスケの前で馬鹿にするようにしゃがんでいたカカシは立ち上がり、サスケに背を向け歩き出す。「でもま!出る杭は打たれるって言うしな」とヒラヒラと手を振った後、再びポーチから本を取り出し文を目で追いながら 口を開いた。

「......さてと、次はカナのところに行くか。サスケほどの好成績を残してくれるといいけど」

今までも確かに不機嫌な顔だったサスケだったが、カカシから出たカナの名前一つで更にカカシを睨みつけた。その表情をちらりと振り向いたカカシが見る。

「おーおー、恐ろしい顔しとるねえ。何か言いたいことがあるか?......カナについて?」
「......なにもねェよ」

カカシは目を細める。サスケがチームメイトの中で唯一関心を寄せるのがカナであることは明白だ。三代目から聞くには、二人は幼い頃からの付き合いで、幼なじみ。サスケは何もないといって口を閉ざしたが大体言いたいことはわかる。
その気持ちをチームメイト全員に向けられたらいいのだが。

「心配しなくても、あの子はお前みたいな無謀なことはしない気がするけどね」
「......どういう意味だ?」
「さーね」

そして、カカシは消えた。



「うーん、いないなぁ、サスケもサクラも......」

演習場の森の中。慣れない地形を歩きながら周囲を見渡すカナ。その脳内を駆け巡っているのは第七班(仮)のメンバーの二人だった。

「(サクラ、サスケのことで動揺してたみたいだし......きっとサスケのところへ向かったんだろうけど。サスケに何かあったのかな)」

サスケの実力はよく知っているとはいえ、気になる。と思って、カカシがいないのなら他にすることもないためにカナはずっと仲間の姿を捜していた。のだが、見つかる気配がない。

「(この演習場の森って、こんなに広かったんだ?)」

カナは首を傾げる。しかし実はその悩みはお門違いだった。
見つからないのもそれもそのはず、カナはずっと同じところをぐるぐると歩いていただけだったのだ。ちなみに幻術ではない。
自分の欠点である方向感覚の皆無性に気付いていないだけである。

「おかしいなあ......二人とも、それにナルトも、大丈夫かな......」

サスケとサクラの他、もう一人のチームメイト・ナルトの顔もカナの頭に思い浮かぶ。そういえば一度喋れば騒がしいナルトも、先ほど接触したとき以来声を聞いていない。縄は切ったことだし無事だとは思いたいが。
とにもかくにも、今はサクラとサスケだ。

カナは立ち止まり、数秒逡巡するように俯き、それからきょろきょろと周囲を見渡した。

「(言いつけはあるけど......使ったら早いし、いいかな。誰もいないし)」

カナには三代目に「禁止」だと強く言われた能力があった。誰にも見られてはいけないし、命の危機に迫った場合以外は使うなと。
だがこの状況、人探しには打ってつけの能力。鳥たちに聞くよりも手っ取り早く済ませられる方法。三代目に、否と言われている、"一族の能力"なのだが。

「(ちょっと見逃してね、おじいちゃん)」

カナは思い、目を瞑った。そうして、カナを取り巻き始めたのは風だった。
ぶわり、とカナの髪が舞い上がる───


だがちょうどその時、ぞくりとカナの背筋に冷たいものが走った。


「人のことばっか考えてないで、まず自分の事でしょ」


カナは咄嗟に目を開き、印を組んでいた。ざわりとした直感のおかげかその攻撃を防げたのは間一髪。

ゴウ___!! 

カナの印で術が発動してから、現れたのは"風"。カナを中心として張られている球状の風の膜が"それら"を弾いた。

「風遁 風繭(かざまゆ)!」

カナの口から紡がれる術名。それが現れたのは数秒、周囲を確認してから、術を解いた。風繭に弾かれ、周囲に転がっているのは数本のクナイ。
静かになった木々の上で、鳥が上空で鳴いている。カナは、自然な動作で振り向いていた。

「私の番、ですか」


 
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