第六話 演習開始!


群がる鳥に挨拶を告げる者一人。小鳥達が発する可愛らしい声に、その都度柔らかく笑っている。

早朝である。

時間より少し早い集合場所には、まだカナの姿しか見えない。まだ集合時刻にはなっていなかった。
カナ以外の班員が来るのはその数分後となり、次に来たのはもう一人のくノ一だった。

「あ、サクラ。おはよう」
「早いのね、カナ。おはよう」

カナの視線の先には、綺麗な桜色の髪をなびかせるサクラ。今日の演習に緊張しているのか、その顔は少々強ばっている。

「昨日寝れた?サクラ」
「あんまり......」
「根詰め過ぎないようにね」
「言っとくけど、人ごとじゃないんだからね、あんただって」

アカデミー時代からの関係のまま、いつも通りのやり取りをする二人。それが幸いしてか、最初のサクラの緊張していた顔も徐々にほどけはじめていた。
ただ、そうしたサクラが次に振った話題は、逆にカナの表情を強ばらせるものだったのだが。

「......そういえばさ」
「なに?」
「カナって……本当にサスケくんと、何もないのよね?」

首を傾げたカナに、サクラは若干疑わしそうな目を向けていた。
カナはぎくりとしてしまうのは否めない。いや、無論何もない。何もないのだが、例えば、深夜に家を訪問できるくらいの仲では、あってしまう。そんなことは口が裂けても言えない。

「……何回も同じこと言ってるけど、私たちは幼馴染で…」
「……なんかその間、怪しくない?」
「怪しくない!何言っても怪しいって言うよサクラ!」
「そうかしら……まあそりゃ、アンタは誰とでも仲良くしてるし、ものすごーーーく特別感を感じるわけじゃないんだけど」

カナがとても気をつけていたことだ。何せ、恋する女子が恐ろしいことを知っている。仲のいいあの引っ込み思案の子は例外だが。

「そういえば幼馴染ってずっと言ってるけど、そんな前からなの?」
「うーん……たしか、四歳とか……?」
「ええっ四歳のサスケくん、見たい!!ずるい!!カナばっかり!!」
「ええ……ご、ごめん……」
「大体なんで!?なんでサスケくんとそんな昔から面識あったの!?」

サクラにぐいっと詰め寄られるが、カナは何も言えない。色々と話していない事情が多すぎて、しかも少し重たい話になってしまう。「ご両親のつながりとか?」とサクラは続けて聞いてくるが、そうじゃないんだけど、と曖昧に濁した。
カナの一族はここ木ノ葉の所属ですらない。

「(一族が死んで、三代目様に引き取られて、うちは一族に引き合わされて……なんて話、できないなあ……)」

カナは頬を掻いた。

「まあとにかく、私とサスケは何もないから、安心してよ。ちゃんとサクラのこと応援してるから」

これに関しては嘘ではない。サスケの意思はまったく尊重していないが。
その言葉はいつも通り効果的面だったようで、サクラは気を良くしたように笑顔を咲かせた。

「じゃあカナ、教えてよ」
「え?何を?」
「何をって、サスケくんの好みよ、好み!」

サスケの好み、と言われて、思い浮かんでくるのはお弁当定番のモノだ。と思ってつらつらと知ってるだけのサスケの好物を答えるカナだが、サクラは「違うわよ」と即座に否定する。そんなことはとうに知っているらしい。

「鈍いわねぇアンタは。こうして恋する乙女が聞いてるってのに、食べ物の好みだと思う?」
「……えーっと?」
「だーかーら、食べ物の話じゃなくてね。サスケくんの、す、き、な、タ、イ、」

だがサクラがそうして最後まで言おうとした時、


「サックラちゃ〜ん!カナちゃ〜ん!おはよってばよぉーーー!!!」


サクラの声を遮ったその声は、カナの頭にぐわんと響いていた。
それは少なからずサクラをも苛つかせたようで、カナがその痛みに復活するまで、声の主・ナルトはサクラにボコボコにされていた。



......そして、その何時間か後。

「やー諸君、おはよう!」
「「おっそーい!!」」

ナルトとサクラの合唱にカナは苦笑し、カカシよりはずっと前にきたサスケは不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
カナはそれを見てまた苦笑し、そして"先生は遅刻魔"と頭の中の辞書に書き加えておいた。



「よし!12時セットオーケー!」

気を取り直して、といったところで、カカシが目覚まし時計を取り出して切り株の上に置いた。短針は今、11時前を指している。「何をするんですか?」とカナが尋ねると、カカシはまた別のものを取り出した。
 
「ここにスズが三つある」

そこから出てきたのはその通りスズである。シャラン、と甲高い音が鳴った。

「これをオレから昼までに奪い取るってのが課題。んで、もし昼までにオレからスズを奪えなかった奴は、昼飯抜き!あの丸太に縛り付けた上に、目の前でオレが弁当を食うから」

その言葉に反応する素直な下忍候補たち。「朝飯は食うな」とのカカシのセリフはまだ記憶に新しい。ゲ、とあからさまに嫌そうな顔をする者、冷や汗を流す者。カカシはそれらに横目を流してから、三つのスズをポーチの脇にくくり付ける。

「スズは一人一つでいい。三つしかないから、必然的に一人丸太行きになる。鈴を取れなかった奴は、任務失敗ってことで失格だ」

胸が高鳴る。任務失格はつまり、アカデミーへの逆戻りを意味している。この四人の中の一人だけとは、決して低い確率ではない。
カナは拳を握り、昨夜の約束を思い出し、力を入れる。

「ああ、手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」
「でも!危ないわよ先生!」
「そ、そうそう!黒板消しもよけきれねーほどドンくせーのにィ!本当に殺しちまうってばよ!」

しかし、"上忍"カカシは大きく溜め息をついた。

「世間じゃさぁ、実力のない奴にかぎって吠えたがる......ま、"ドベ"はほっといて、よーいスタートの合図で」

何気ないカカシの言葉、しかし、その一部の単語にナルトは大きく反応した。
"ドベ"。アカデミーにいれば一日に何度も聞かされていた言葉、しかしその屈辱はたまったものではない。ナルトの手はすばやくホルダーに下がっていた。

「ナルト!?」
「ちょっと!」

カナ、サクラが声をあげるが既に遅く、ナルトはクナイを手に猛スピードでカカシに迫った、が。

「そう慌てんなよ。まだスタートは言ってないだろ」

まさに刹那。気付いたら、カカシは下忍たちの隣にいたのである。
ナルトの持っていたクナイは、カカシの手によってナルトの後頭部に刺さる寸前だった。

「(速い......!)」

目を見張るカナ。目で追いきれなかったというより、そうすることを考える間もなかった。これが上忍のスピード。まともにやって勝てる相手じゃないことなど一目瞭然だ。
そんな四人の表情に満足したのか、カカシは不敵に笑った。

「オレを殺るつもりで来る気になったようだな。やっとオレを認めてくれたかな?」
 
そう言ってカカシは四人の顔を順に見渡す。

「クク......なんだかな。やっとお前らを好きになれそうだ」

カナには不思議と恐怖はなく、逆に早く始めたいと胸が高鳴る音のほうが大きく、自然と興奮に頬が赤く染まっていた。そしてサスケも同じく、昨日の約束が巡り響き渡っていて、奮起している。
カカシの次の言葉が待ち遠しいくらいに。

「じゃ、始めるぞ」

ようやく、とも思えるカカシの声に誰かが足場を均した。

「よーい.....」

あふれる緊張感に喉を鳴らす。そして、


「スタート!!」


その合図と共に、四人は一斉に消えた。


 
|小説トップ |


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -