第二十七話 夢へと繋がる橋の上で


サスケは一人、白の作った鏡の中で奮闘していた。サスケの真正面に現れている鏡の中の白。他の鏡を見渡しても他に白の姿がないことを確認し、これが本体だと確信する。
しかし、そのままクナイを手にとる最中に背後から白の声が聴こえ、サスケの体は跳ねていた。

「こっちだよ」

その時には既に目前の鏡には白の姿がない。移動したというのか。一体どうやって。サスケが冷や汗を流す時には、サスケを囲う全ての鏡に白の姿が映っていた。
そして、全員が千本を構え、サスケが動く前に放つ───サスケの悲痛の声が場に響いた。

「サスケ!!」

叫んだカナだが それでも動き出そうとする自分の体だけは必死に押さえ込んだ。
二の舞は、駄目だ。
深呼吸して気を落ち着かせ、カナは強い目で鏡を睨む。全ての鏡に映る白。影分身か?いや、それならあの鏡の意味はない。サスケは内側から必死に対抗しようとしている。なんにせよ、私とナルトができることは今一つしかない、とカナは喉を鳴らした。

「(外からの攻撃なら、もしかしたら)」

あるいは、壊すことができるかもしれない。
カナはナルトに声をかけようと、視線を鏡からナルトに移した。......はずだったのだが、


「よっ助けにきたぞ!」
「な!?」
「えっ」


カナが見た先に既に人の姿はなかった。

「だーいじょうぶかぁ、サスケェ」
「こっ、このウスラトンカチ!忍ならな、お前、もっと慎重に動け!」
「なんだお前ェ!せっかく助けにきてやったのに!!」

ナルトの姿は既に鏡の中、サスケの隣だったのだ。
サスケの心からのツッコミと罵倒もナルトには届かない。カナはといえば、この場に来て二度目のどんよりした雰囲気を醸し出している。ナルトの意外性にカナはどうしてもついていけない。

「カナちゃんもこっち来いってばよ!そこは危険だからな、オレが護ってやっから!」
「絶対危険性が増すよね......」
「ん?なんか言った?」
「......ううん」

ナルトは先ほどのサスケを見ていなかったのだろうか。ナルトに常識は通用しない。
タズナ家でのことは忘れたように、「おいカナ、来るなよ!」と切羽詰まった顔で叫んでくるサスケ。カナは苦笑いして頷いた。

「ったく......こうなったら鏡をぶっこわすまでだ。カナ、できるか!」
「ちょっと遠いから、威力は半減すると思うけど。やってみる」

サスケの急な要求、それも詳細など一切言っていないそれでも、カナはすぐに理解して頷く。サスケもそれを確認し、頷き返す。二人は同時に印を組む。サスケは火遁の印、カナは風遁の印。組み終わるのも変わらず同時。

「火遁」「風遁」

二人がそう言い出してから、ナルトがやっと「おい、何する気だってばよ!」と声をかければ、「こいつは水を凍らせて作った鏡。なら!」とほんの少しだけ説明を零し、サスケはカナと再びアイコンタクトをとっていた。

「豪火球の術!」「風波!」

すると、サスケの炎とカナの風が綺麗に合わさり、豪火球は更に巨大なものとなり鏡を襲う。一面の鏡を包む炎。轟々と燃え盛るそれに、サスケとカナはよし、と心中で声を合わせた───しかし。
鏡は多少溶けたものの、まだきちんと形を成していた。

「!!」
「うそ......」
「全然効いてねえじゃん!」

そのナルトの声は二人の耳に届かなかったが、冷静に口を開く白の声はよく届いた。

「風遁と火遁を組み合わせるとは。カナさんがこの術の中にいれば、溶けたかもしれませんね」

カナがぴくりと体を揺らす。「......やっぱり、私!」とカナが呟き足を一歩踏み出した時、その声にすぐさま反応したのはサスケだ。

「そこから動くな、カナ!!」
「でも、私がそこにいれば!」
「いいから来んな!お前は自分の心配だけしてろ!」

そんな、何の為に強くなったと思ってるの。
だがカナがそう言う前に、サスケとナルトの叫び声が遮った。

カナの顔が蒼白に変わっていく。仲間二人の体が急速に傷ついていく。血が、舞っている。それだけで思い起こしてしまう記憶が恐い。同じことを繰り返さない為に強くなったのだ、何故身を挺して守ってはいけないのか、問うべき相手も見つからない。

「(やっぱり、サスケの言葉は無視してでも!)」

カナは再び鏡の中に踏み込もうとした。
けれどまた、制止の声がかかった。今度はサスケの声ではない。

「カナさん」

敵であるはずの、白だ。鏡の中の彼の一人がカナを目に捉えていた。
柔らかい雰囲気の彼が今仲間を傷つけている。カナは背筋に冷たいものが走った感覚がした。白はカナの返事も聞かずに更に言う。

「あなたに今来られると厄介だ。すみませんが、動けないようになってもらいます」
「!?」
「カナ!!」
「カナちゃん!!」

カナよりも更に反応したのは、鏡の中にいるカナの仲間達だった。二人は同時にカナの名前を叫び、だがカナは白の一連の動作を凝視していた。

放たれた千本。

避けきれないというわけではない。サスケたちに放たれたように無数なわけでもない。カナは咄嗟に身を横にずらすだけで千本の攻撃を避けていた。......なにも、起こらない。

「......それだけ、ですか?」
「それだけとは?」
「動けないようにって、どういうこと......?」

白の攻撃はそれっきりで終わっていた。千本が数本飛んできただけだ。カナには傷一つついていない。サスケとナルトも遠目で訝し気に見ている。

白は無言だった。だが、カナはそれがチャンスとばかりに足を踏み込んだことによって、カナの足下にあった水たまりから跳ねた水が、カナの足を包んでいた。
その瞬間だった。
カナは何故か止まっていたのだ。自分の意思ではなく。それにすぐ気付いたのは本人と、術者である白のみ。

サスケが眉を寄せて「......カナ?」と呟いた後、カナの口から出てきたのは「なにを......?」という疑問。それは真っ直ぐ白を見つめたものだった。ようやく、白の口も動く。

「察しの通り僕の術......」
「!?」
「その千本には予め術を仕込んでいました。僕が印を組んだ瞬間に、密接しているあらゆるものを凍らせる術を」

パキリパキリとカナの足が凍り始めていた。さらに、ゆっくりではあるが、冷気の面積が徐々に広がっている。

「僕の千本が今 刺さっているのは、カナさんの足下にある水たまり。その水がカナさんの足を一瞬覆った時、僕は印を組んだ。水たまりは今は僕が操る氷となっているんですよ......僕が解除しない限り簡単には溶けることのない氷とね。カナさん、あなたはもう動くことは出来ない」
「......!」
「カナさん、あなたがまたそこの彼と術を掛け合わせたら厄介なことになる。......それに」

白はそこで言葉を切る。白の面が地面に向いた。カナは言葉を待ったが、結局 白は「......いえ」と言葉を切り、再びナルトとサスケのほうへ意識を向けていった。

「では。ナルトくん、サスケくん......お待たせしました。再開しましょう」


そこから数分、カナ自身に状況を打破するすべはなかった。

ナルトとサスケ、二人が、千本によって痛めつけられていく。カナはその度悲鳴を上げた。二人の悲痛の叫び声が耳に嫌になるほど染み付いた。二人は必死に白に抵抗しようとするが、どの方法もあまり効果がない。ナルトの多重影分身さえほぼ一瞬にして消え去った。

「やはり......」

そう唐突に口に出したのは再不斬と相対しているカカシだった。視線は教え子たちの戦いのほうに向いている。

「血継限界......!」
「血継限界?」

サクラが不思議そうに返す。カカシは血の系譜からなる類いの術だ、と厳しい顔で説明した。血から成る術ゆえに、例えカカシの写輪眼でコピーしたくともできない。言ってみれば写輪眼と同種のもので、破ることは不可能と言われているのだと。

そのカカシの声はカナたちのほうにも届いている。
カナは動けない状態のまま、ナルトとサスケは全身の鋭い痛みに耐えながら聞いていた。カカシの言葉は絶望的だった。沈黙が場に滞る。だがそのうち、「ちくしょう......」と小さな声が響いた。

「だから、なんだってんだ......!」

ナルト。小さな、しかし強い呟きだった。ナルトの瞳はいつもと変わらない。最悪な状況だと理解しているくせに、言葉はいつもと変わらなかった。

「こんなところでくたばってられっか......!オレには叶えなきゃなんねェ夢があんのに!里の皆にオレの力を認めさせて、火影になるって夢がよォ!!」

初めて第七班として自己紹介した時。その時と変わらない夢が、ナルトの中でまだずっと生き続けている。
ナルトの言葉は曇りなく白の胸を貫いていた。昔の記憶を思い起こす程に。ナルトの瞳の輝きは白のそれととても似ている。白は、ふいに口に出していた。

「僕にとって、忍になりきることは難しい。できるならキミたちを殺したくないし、キミたちに僕を殺させたくもない」

ナルトも、サスケも、カナも、自然と白を見つめる。

「けれどキミたちが向かってくるなら、僕は刃で心を殺し、忍になりきる」

白の胸に浮かぶ暖かい光。それが忍の性を好むものではなくても、白は自分の信念を折るつもりはない。

「この橋は、それぞれの夢へと繋がる戦いの場所。僕は、僕の夢の為に。キミたちは、キミたちの夢のために......恨まないで下さい」

白は、他の、普通の少年達となんら変わらない様子で、ぽつぽつと自分の心を語った。

「僕は大切な人を守りたい。その人のために働き、その人の為に戦い、その人の夢を叶えたい......それが僕の夢。その為なら、僕は忍になりきる。あなたたちを、殺します!」

どんな者の夢であろうとその重みは変わらない。
たくさんの夢。誰のものでも変わらない。夢のためだけに、自分たちは懸命に今、戦いに臨んでいる。

白の言葉は自然と三人に戦意を甦らせていた。ナルトとサスケは口元を上げ、カナは目尻を上げた。


 
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