第二十六話 助太刀二人組


白とサスケの戦いは未だ続いていた。
秘術、魔鏡氷晶。暫くの苦戦ののちに白はその術名を口にする。氷の鏡に囲まれたサスケは、冷や汗と共に周りを見渡した。

「じゃあそろそろいきますよ......僕の本当のスピードを、お見せしましょう」

瞬間、千本がサスケの左肩を擦った。だが次を避けるためにサスケが動く暇もなかった。サスケのくぐもった悲鳴が響く。動けない。唯一持っていたクナイさえ千本に弾かれ、サスケは頭を庇うようにかがんだ。
そのクナイは、魔鏡氷晶の外でタズナを護衛している、サクラの足下にまで飛んでいた。

「サスケくん!......タズナさん、ごめん!少しだけ、ここ離れるね」
「......ああ。行ってこい!」

タズナもすぐさま事態を呑み込み力強く促す。サクラは地に刺さるクナイを抜き、精一杯の速力で走った。仲間がやられているのに黙って見過ごすわけにはいかない。せめて、今サスケにとって唯一の武器となっている、このクナイを届けなければ。
サクラは精一杯の力で跳躍した。

「サスケくん!受け取ってェ!!」

サクラの手からクナイが離れていく。抜群のコントロールでそれはサスケに届く......はずだった。しかし、鏡の中から出てきた白がクナイを片手で掴んだのだ。

「キャッチされた!?」

サクラの絶望的な声が響く。サスケは受け取ろうと構えていた手を下ろし、その場に崩れた。
だが予想外の展開はそれだけでは終わらなかった。

白の姿が、鏡の中に再び戻るのかと思いきや、急に現れた手裏剣に弾かれていたのだ。

「え!?」

全員の視線がそこに集まる。弾かれた白は魔鏡氷晶の外で上半身を起こした。と同時に、ドゥウンと音をたて白い煙が上がり、視線は白から離れ、そちらへと向いた。


目立ち過ぎとまでいえるが、まるで目立つこと自体を目的としているような......そこまで考え、サスケは心底、"こんなことをするヤツ"に溜め息をついた。


「風遁使いで有名な風羽一族......意外性ナンバーワンのドタバタ忍者」

白が呟く。煙の中から現れたのは、確かに銀髪の少女と金髪の少年だった。


「うずまきナルト!ただいま見参!!」


ただしその二人の様子は、かなり対象的だったが。
自信満々笑顔でいうナルトに対し、カナはその数歩後ろで落ち込んだように暗かった。

「オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ!物語の主人公ってのはァ、大体こういうパターンで登場してェ、あっちゅーまに敵をやっつけるのだァ!!」

嘲笑する者有り、 かぶりを振る者有り。カナは後者。ナルトの主張はともかく、如何せんナルトもカナも忍者なのである。意外性ナンバーワンは、まったく忍者に向いていない、お騒がせナンバーワンだった。

「......ナルト、静かにしよう......」
「えー!?なんでだよカナちゃん、登場シーンはかっこよく!が基本だってばよ!?」
「とーっても、ナルトらしいとは思うけどね......」

"忍者らしく"はカケラもない。

「オレってばヒーローだかんな!目立たねえと意味がねえってばよ!」
「(悪目立ちだけどなあ)」
「おーし、そんじゃま、行くぜェ!!影分身の───」

まったく反省の色のないナルトはまたもや叫ぶが、途端、他の誰もがハッとした。ナルトの術を待つ前に、手裏剣が再不斬から放たれていたのだ。

「ナルト!!」
「え!?」

カナが咄嗟にナルトの体を押しやる。だがカナ自身が避けるまでの時間は足りない。風遁を使うにしてもギリギリか。

「......!」
「よけろっカナ!」

サスケは目を見開き、サクラは目を両手で覆い、カカシは咄嗟に身を乗り出して指示を出す。
カナは未だ体勢を直せないまま、手裏剣だけを集中して見た。この状況で、"風羽の能力"は使ってはいけないなどと言ってられない。

カナの体の周りに風が起き始めた。


しかし───カナは結局、"力"を使うには至らなかった。


「......白。どういうつもりだ」

再不斬の声が響く。
手裏剣はカナへ到達する前に、白が放った千本によって全て落とされていたのだ。

全員が目を見開いて白を見やる。白の実力をもってして、コントロール仕損なったなどとは思えない。明らかに二人を助ける形となっていた。再不斬の問いも頷ける。
白本人はゆっくりと立ち上がっていた。

「再不斬さん......この子達は僕に。この戦いは僕の流儀でやらせて下さい」
「......フン。手を出すなってことか。相変わらず甘い野郎だ」

再不斬は悟ったように鼻で笑う。ナルトとカナは怪訝気に。
鏡の中で倒れているサスケは、密かに再不斬に同調していた。サスケ自身の傷にしてもそうだ。傷は多くとも致命傷だけは外している。その上、先ほどの二人を助けた千本には、明らかに"感情"があった。流儀どうこうなどというのはサスケからすればただの言い訳だ。

「......だったらよォ」

そう次に口を開いたのはナルト。

「オレだって!先にお前をやっつけてやっからな!」

そのナルトの隣で、カナはカカシのほうを見やる。カカシがサスケを助けられなかったのは他ならない、再不斬がいるからだ。再不斬から目を離せば、次に危ういのはサクラとタズナになってしまう。それだけは避けなければならない。
白と戦うのは間違いなく自分たちしかいない。そう思った時、カナは無意識に呟いていた。

「私は、あなたとは戦いたくなかった......」

呟いた後にハッとしても、近くにいるナルトと白は既にその言葉を耳にし、カナを見ていた。バツが悪い気分になりながらカナは続ける。

「できれば、あなたには、霧隠れの忍でいてほしかった。......あなたも再不斬も戦わなければいけない相手じゃない。ガトーのせいでこんな状況になっているだけなのに......どうしても、戦わないといけないんですか?」

カナの本心が白に直球で届く。白は視線を逸らしていた。

「......僕は再不斬さんに従うだけ。今ここで戦いを放棄することは、できないんです」

それは答であってそうではなかった。結局は白の心の言葉ではない。だが白の言葉も真実だった。カナはもう何も言うことが出来ない。
代わりにナルトが、「やっぱ再不斬の仲間だったんだな!」と白を指差す。よくも騙しやがったなとナルトは言葉を続けるが、それに「すみません」と素直に謝られては、それ以上の文句は続かなかった。

「けれど、騙したり隙を狙うのは忍の本分。悪く思わないで下さい」

その時、クナイが風を切った。いち早く風の異常を感じたカナは目を見開く。クナイは白を狙い、だが白もそれを予知し、易々と避けていた。
クナイはナルトが放ったものではない。鏡の中からサスケの手で放たれたものだ。サスケはチッと舌打ちをしていた。白もサスケに顔を向ける。

「キミのこと、忘れたわけじゃありませんよ。できれば大人しく倒れていてもらいたかったんですが......そうもいかないみたいですね。いいでしょう、先に決着をつけましょう」
「!」
「お、おいってば!」
「カナさん、ナルトくん。キミたちとはまた後で」

白はそれだけ言って、再び氷の中に入っていく。途端、鏡の内側に白の姿が映っていた。


 
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