第十七話 写輪眼


カナが少年に気絶させられた時と同時刻。

カカシは再不斬の戦法で水牢に掴まり、ナルトたちに相対しているのは再不斬の水分身。三対一という状況でもそれで不利なことに変わりはなかった。なんとしてでもカカシを水牢から引っ張りださなければ、七班に勝ち目はないのだ。
そして、ナルトとサスケは一つの作戦を遂行している途中だった。

「ここだァッ!!」

サスケが放った風魔手裏剣。それに変化していたナルトは、一直線にクナイを再不斬へと放っていた。
再不斬は一瞬反応が遅れる。弾き返すことも不可能で、再不斬はクナイが自らの腕に当たる寸前に腕を引いた。
だが、クナイは再不斬の頬に傷をつけ、再不斬の額には青筋が走っていた。

「このガキィ!!!」

そこからの再不斬の動きは速い。先ほど受け止めた一枚目の風魔手裏剣を手にナルトへと放とうと、した。

しかしその前に、ガキィンと金属同士の甲高い音が鳴っていた。

飛び散った赤い血はナルトのものではない。それは、風魔手裏剣を手の甲で受け止めたカカシのもの。
仲間を傷つけられたカカシの瞳は、再不斬に僅かな恐怖を覚えさせる。

「カカシ先生!!」

サクラが歓喜の声をあげる。同時に湖に落ちたナルトが水面から顔を出し、それを横目で見たカカシはふっと頬を緩ませた。

「ナルト。作戦、見事だったぞ。成長したな、お前ら」

カカシの予想外の褒め言葉に少し頬を染めたナルトは意気揚々と自分の作戦の説明をした。ナルトの意外性から生まれた発想は、見事 カカシを水牢から脱出させたのだ。「へへッ大成功だってばよ!」とナルトは嬉しそうに笑う。

「フン。カッとして水牢の術を解いちまうとはな」
「違うな。術は解いたんじゃなく、解かされたんだろ」

カカシの挑発的な言い方に再不斬は再び青筋をたたせた。ピリッとした苛立ちが伝わる。

「言っておくが、オレに二度も同じ術は通用しない。さて、どうする?」

カカシは再不斬の目を写輪眼で捉えながら言った。
敵対する二人は背後に飛び退き、また水上に立った。それから再不斬は一瞬にして最も適切な術を頭に浮かべる。そして再不斬はその術の印を組み始め、しかし同時に、カカシの写輪眼は鋭く光っていた。

"それから"は、見ているほうが奇妙な気分に囚われた。再不斬のとんでもなく長くスピードのある印は、確かに再不斬のものだというのに、カカシが全て同時に真似していくのだ。

「「水遁 水龍弾の術!!」」

印の組む速度が同じなら 術の完成も無論同時。双方の背後から飛び出した龍がお互いを噛み合うように絡み合っていく。お互いにお互いから同時にダメージを受けたことで龍たちは崩れていき、大量の水でできているそれらが弾けたことで 辺りは水に襲われた。

水はタズナ、サクラ、サスケにも襲いかかり、カカシらのそばにいたナルトは波にもまれていった。その中でカカシと再不斬はクナイと首切り包丁で互いを防ぎあっていた。

「(おかしい、どういうことだ)」

再不斬は違和感を感じていた。

「(コイツ、オレの動きを完全に......!)」
「読み取ってやがる」

再不斬の考えに呼応するようにカカシは言った。まさか心を読んだというのか。写輪眼だけが嫌に光っていた。チッと再不斬は舌打ちした。

「所詮は二番煎じ!」

しかし。

「「お前はオレには勝てねェよ、サルヤロー!!」」

重なった台詞に再不斬の苛立ちは更に高まった。

「テメェのそのサルマネ口、二度と開かねェようにしてやる!」

しかしその直後、再不斬の瞳にあり得ないものが映っていた。カカシの後ろに見えるのは、己の姿。再不斬に生まれた動揺、それにつけ込むように、カカシは術を発動した。

「水遁 大瀑布の術!」

その術は、今まさに再不斬が発動しようとしていた技。先ほどの龍よりも大量の水が再不斬を襲った。



「......再不斬さん」

木の枝に立つ面をつけた少年がぼそりと呟いた。
覆面忍者、カカシが放った術......大瀑布の術はその少年にも到達しようとしている。飲み込まれればただじゃ済まされないだろう。こちらも危ないな、と少年は思い、気絶したままの銀色の少女に目をやった。

「運びますよ」

少年は一応 声をかけ、それから少女のそばに近寄った。少女を抱きかかえ、そのまま少年は術の届かない更に高い枝まで上っていく。
再不斬はカカシの術に飲まれ始めている。少年は目を細めた。

「再不斬さん......恐らく首を狙うことになりますが、気を悪くしないで下さいね」

死闘の最中である慕う人に、彼はそっと呟いた。



大瀑布の術は仲間であろうとも容赦なく襲ってきていた。サクラやタズナ、ナルトは既に自分の視界からは捉えきれない。
だがサスケが一番気にかけているのは、言わずもがなカナだった。

カナを置いて来た場所にはまだ水は到達していないはずだが───しかし、サスケはその途端目を見開いていた。

「(いない......!?)」

確かに運んだはずのその場所に、カナの姿はなかったのだ。
しかし焦ろうにもサスケ自身でさえ身動きが取れず、クソッと心底苛立ったように呟きながら、サスケは波が静まるのを待ち続けた。



「ぐゥっ!!!」

水に流され大木にぶち当たった再不斬は、更に自分を襲った痛みを感じた。足に、腕に、合計四つのクナイが深々と刺さっている。

「終わりだ」

頭上から聴こえてきた強敵の声に顔を上げる再不斬。写輪眼を左目に灯し、自分を見下ろしてくるカカシに再不斬は息絶え絶えに尋ねた。

「何故だ......お前には、未来が見えるのか......!?」

それは、狂言などではない。カカシはクナイを片手に静かに答えていた。


「ああ。お前は、死ぬ」


だが、再不斬が倒れ落ちたのは、カカシがクナイを放つ前だった。

「!!?」

再不斬の首がガクリと垂れた。
その首に突然にも放たれていたのは、千本。


「フフ......本当だ。死んじゃった」


そこには面をつけた見覚えのない少年と、そして、抱えられているカナの姿があった。


 
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