第十五話 戦闘開始


「オレと戦え」

サスケとカナの二人の瞳に映ったのは、赤地に黒の三つ巴が描かれたカカシの左目だった。
二人は在らん限りに目を見開いていた。───何故。

「ほぉ。噂に聞く写輪眼を早速見れるとは、光栄だな」
「さっきからシャリンガンシャリンガンって、なんだよそれ!!」

暫く何も言えずに動揺していたが、「......写輪眼」と呟いたのはサスケだった。

「いわゆる瞳術の使い手は、全ての幻・体・忍術を瞬時に見通し、跳ね返してしまう眼力をもつという。写輪眼とは、その瞳術使いが特有に備えもつ瞳の種類の一つ。......だが、写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」

サスケにもカナにも未だ信じられない気持ちがあったが、カカシの目に宿るそれは紛れも無く写輪眼だった。誰もが恐れる能力をもつ。その事を知っているのだろう再不斬は、「御名答」と笑う。

「写輪眼の能力はそれだけじゃない。それ以上に怖いのは......その目で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ」

次第に霧がどこからか現れ始める。
「霧が、どんどん深く」とサクラが無意識に呟く。辺り一面は既に白で覆われ、再不斬の姿はぎりぎり確認できる程度にまでなってきた。

「オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していたビンゴブックにお前の情報が載ってたぜ。......それにはこうも記されていた。"千以上の術をコピーした男。コピー忍者のカカシ"」

下忍達の目が驚き見開かれるのも知らず、カカシと再不斬は互いに睨み合った。

「(なんなの、カカシ先生ってそんなに凄い忍者だったの!?)」

サクラは心中で戸惑い、ナルトは「スゲーってばよ!」と感嘆する。
一方で、カナはこくりと息を飲んだ。もちろんカカシの異名にも驚きだが、やはりサスケと同じく一番の関心は、写輪眼に向けられていた。何故なら、写輪眼はサスケの一族である、うちは特有の瞳だ。その血筋でもないカカシが持っている理由は。

「さてと。お話はこれぐらいにしとこうぜ。オレはそこのジジィをさっさと殺んなくちゃならねェ」
「!!」

タズナの目が見開かれると同時に、ナルト、サクラ、カナ、サスケはタズナを中心に卍の陣を組んだ。覚悟の上とはいえ緊張感が下忍の間に流れる。それぞれが強くクナイを握り、再不斬に意識を集中させた。
対し、再不斬は下忍達を全く意識していない。

「つってもカカシ......まずはお前を倒さなきゃならねェようだがな」


次の瞬間、再不斬はふっと消えた。


「!?」

下忍四人は隠しきれない動揺と共に辺りを見渡す。カカシはじっとそこで感覚を研ぎすまし、ぱっと水上を見た。
水面に移動した再不斬が印を組んでいる。

「あそこだ!」
「しかも水の上!?」

後から気付いたナルトとサクラが叫ぶ。
全員の視線が集まる中、再不斬のまわりに更に深い霧が集まり始めている。そして、再不斬はすぅっと消えていた。

「忍法 霧隠れの術」

その術名の通り、まるで霧の中に馴染み込むように、再不斬の姿が隠れてしまったのである。
カカシは背後の下忍達に説明するよう口を開いた。

「まずはオレを消しにくるだろうが......桃地再不斬、コイツは霧隠れの暗部で、無音殺人術の達人として知られた男だ。気がついたらあの世でした、なんてことになりかねない......オレも写輪眼を全てうまく使いこなせるわけじゃない。お前達も気を抜くな」

カカシの一言一言が重い。汗が滴り落ちる。心臓がこれ以上ないほど高鳴っている。背筋が、寒い。

また一層霧が辺りを包んでいく。下忍達から見ても、そんなに距離はないはずのカカシの背が見えづらい。再不斬の気配も捉えられない今、それが余計不安を煽る。
そして、不気味な声が全員の耳に届いた。

───八ヶ所。

「え!?な、なんなの!?」

───咽頭・脊柱・肺・肝臓・頚静脈に鎖骨下動脈、腎臓・心臓。さて......どの急所がいい?


カナの身が震える。
どこにいるかも知れないというのに、再不斬の圧力が体中にのしかかっているようだ。ただならぬ殺気の、その全てが自分に向いているようで、真っ先に殺すと無言のうちに言われているようで、怖い。それを紛らわせるためにより一層強くクナイを握る。

「(大丈夫、大丈夫、大丈夫......)」

歯を食いしばり、自分に教え込もうとする。

「(近い......)」

一方で、カカシは細胞の一つ一つが再不斬の気配に反応を示していた。カカシにとってはこちらに下忍、一般人がいる以上、あまり長引かせたくない戦いだ。守りながらでは確実にこちらの体力が削られる。

カカシはすっと印を組んでいた。そして、その行動と同時にカカシの殺気もまた流れ始める。再不斬のそれとも劣らぬそれに、下忍達はびくりと体を震わせた。

上忍同士の殺気のぶつかり合い。身近で感じる初めての感覚に体は正直だ。お互いがお互いを蹴落としあい、殺そうとしている。この恐怖は並大抵のものではない。ほんの一瞬でも気を抜くと、あっという間に死んでしまう。

特に、サスケとカナは実力に伴ってか、余計にそれを感じ取っていた。

いつもの冷静で動じないサスケは今はいない。今はただ、その実力の差に体がどうしようもないくらいに震えている。
二つの殺意が同時に自分を襲ってくる。
圧倒、なんて言葉ではとても言い表しきれない。手を伸ばしたところで絶対に届かない距離。圧されている。そのうち狂乱してしまいそうだ。
震える手でカナは自分の服を強く握った。


その時、カカシの声が響いた。

「サスケ、カナ」

急に呼ばれたことに二人は同時に顔を上げ、霧の向こうのカカシを見上げる。広い背中がそこにあった。

「安心しろ。お前達はオレが死んでも守ってやる」

それから二人に振り向いた。


「オレの仲間は絶対、殺させやしなーいよ」


カカシの表情は、この戦闘の場には似合わないくらいの、いつもの柔らかい微笑みだった。
カナとサスケの二人だけでなく、ナルトとサクラもその表情にほんの少し落ち着いた気持ちを取り戻す。

恐怖が一瞬だけ、和らいだ。
そう、一瞬だけ。


───それはどうかな...?


背後からの声。


どくん


それに、カナの心臓が張り裂けるように鳴った。明確なものとなった殺気に、後ろを振り向くことすらできない。

どくん

背後で何かが風を切る音が聴こえる。


どくん


何かを想像した。それは最悪の事態だった。
再不斬の一振りで、ここにいる全員の喉が掻っ切られるような。そういう起こりうる惨劇が一瞬にしてカナの脳裏を通り抜けたのだ。

限界、だった。

こみ上げてくる熱さがあった。腹の奥で何かがうずいていた。それが、命の危機に差し迫ったことに反応するように、悲鳴を上げていた。


普段穏やかなカナの口からは想像もつかないほどの悲鳴が上がった。


「え!?」
「キャッ!!」
「っカナ!?」

叫び声と同時に突然の突風が吹き荒れていた。それは明らかにカナからの風で、カナを中心とする台風のような。

「(チッ、なんだこのガキは......!)」

風に素早く反応し、再不斬さえ風から、カナから離れた。
近くにいることすら危険な風。普通の風とは違い、それは鋭く、荒々しく、冷たい。

「カナから離れろ!!」

カカシも一秒程遅れてカナ以外の三人に命令した。下忍達はタズナをつれて命令のままに離れる。ほぼ風の音に邪魔されてはいるが、それでも耳を澄ませば、風の中からカナの叫び声が聴こえてきていた。

「おい、カカシ!カナはどうなってやがる!?」

カナの異常事態にサスケが叫ぶ。台風のような風をカカシは冷や汗を流しながらじっと見ていた。

「オレにも分からない......!火影様も、こんなことは......」


その会話を、再不斬はカカシ達の逆方向から聞いていた。

「(火影.....か)」

カカシの言葉から察するに、あの下忍は恐らく火影の関係者。その上、あんな小さなガキだということは......。

「どうやら、噂は本当だったようだな」と再不斬は呟き、口布の中で口角を上げた。何か獲物を見つけたような、そんな瞳の色だった。


 
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