第十二話 Cランク任務


上には青空。下には延々と続く木々。木ノ葉の里内部。
そこに素早く動き回る四人の影があった。何かを追うようにしながら気付かれないように、常に目標を伺っている。その四人の腰につけてある無線機から無機質な音が漏れだす。

「目標との距離は?」

それにはまず「五メートル。いつでもいけるってばよ」と一人が応え、他三人もそれぞれ返事をする。準備は万端、狙いは定められた。

「よし......やれ」

途端、四人は一気に茂みから飛び出していった。

「うりゃぁあああ!」

そのうちの一人が気合いの声をあげながら両腕を大きく広げる。"目標"はやっと気付いたが、既に時遅し。見事その体を"抱き上げられていた"。

「つっかまぇたぁああ!!」

結論からいえば、ただの猫捕獲任務だった。
第七班。四人はそれを町中からやっていたわけだが、猫ゆえのすばしっこさで逃げに逃げられ、今はもう壮大なる森の中。やっとナルトの手によって捕獲された今でも体力は有り余っているらしく、その猫・トラは渾身の力でナルトの顔を引っ掻いている。サクラがそれを笑い、サスケがカカシに任務報告を。
カナはうんと伸びて、木々の間から見える青空を仰いだ。暗い森への明るい光が眩しい。

「あーもう引っ掻くなってーのー!!カナちゃん、パス!」
「え?わっ!」

唐突だ。
呼ばれたので振り返ってみると、カナは突如として目前に迫ったトラにぎょっとし、大慌てで受け止めた。

「ちょっとナルト、なにしてんのよ!」
『ギニャアアアア!!』
「うわっなにすんだってばよこのバカ猫ォ!!」
「当たり前でしょうが!乱暴に投げられて怒らないはずないでしょ!」

「あーびっくりした......トラの怒りの矛先が私にむかなくてよかった......」
「切実だな。ったくあのウスラトンカチ」
「何をォサスケェ!」
「やめなさいよもう!」

顔中傷だらけのナルトがトラ片手にサスケに食って掛かり、サスケがそれに程々に応じ、サクラがナルトのみを怒鳴るという、ここ最近のいつもの光景に、カナは心底面白そうに笑っていた。




「ああ!私の可愛いトラちゃん、死ぬほど心配したのよぉ!」

七班の任務は終了し、一同は任務受付所に戻り、依頼主に猫を返していた。飼い主である福与かな女性が力いっぱいトラを抱きしめている。愛情がいっぱいなのは分かるが、あれでは逃げたくもなるだろう。

「さて」と、三代目火影であり、任務受け渡しの最高責任者である猿飛ヒルゼンが切り出した。

「カカシ班の次の任務はと。老中様の坊ちゃんの子守りに、隣町までのおつかい......芋掘りの手伝いか」

しかし。

「ダメーッそんなのノーサンキュー!!オレってばもっとこうスゲェ任務がやりてーの!!他のにしてェ!」

もういい加減飽きてきたナルトは思いっきり両腕を使ってバツを作っていた。ナルトを外す第七班の心情はそれぞれ、分からなくもないナルトの気持ちである。
しかし、三代目の隣にはそんなナルトをずっと傍で見て来たイルカが。

「バカヤロー!お前はまだぺーぺーの新米だろうが!!誰でも初めは簡単な任務から、場数を踏んで繰り上がっていくんだ!」
「だってだって!この前からずっとショボイ任務ばっかじゃん!」
「いい加減にしとけコラ」
「いでっ」

まるで聞く耳をもたないナルトを見かね、カカシが問答無用で拳骨を振り落とした。「やれやれ」と三代目も肩を落とした。

「ナルト。お前には任務がどういうものが説明しておく必要があるな。いいか、里には毎日多くの依頼が舞い込んでくる。子守りから暗殺まで......」
「昨日の昼はとんこつだったから、今日はミソだなー」
「聞けぇええい!!」

三代目の一喝。「どーもすみません」と愛想笑いをする担当上忍、カカシが謝る始末である。しかしやはりナルトは反抗をやめない。

「あーあ!そうやってじいちゃんはいっつも説教ばっかだ!けどオレってばもう、いつまでもじいちゃんが思ってるようなイタズラ小僧じゃねェんだぞ!」

だが、ナルトがそう叫ぶと、場の雰囲気が少し変わっていた。イルカが驚いたような顔をして、笑う。ナルトの成長を思ってのことだ。三代目もイルカと似たものを感じていた。
数秒沈黙した場に、三代目の小さな笑い声が響いた。

「わかった」
「え?」
「お前がそこまで言うなら」

いきなり変わった展開に他三人も驚く。三代目の顔は微笑んでいるだけで、理由も何も語らない。

「Cランクの任務をやってもらう。ある人物の護衛任務だ」

カナは驚いた後、小さく「さすがナルト」と呟いた。当の本人はといえば、ただ告げられた事実に「だれ、だれ!?」と実に嬉しそうにしているだけだが。

「そう慌てるな。今から紹介する」

そう言って、三代目は扉のほうに目を向けて続けた。

「入ってきてもらえますかな」

するとタイミングよく入ってきたのは、一見するとただの酔っぱらいだった。僅かに赤らんだ頬が今も酒が入ってることをもの語っている。「なんだァ?」と意外にもしっかりとした低い声で男が唸る。

「超ガキばっかじゃねーかよ。特に、そこの一番ちっこいアホ面。お前、それ本当に忍者かァ?」
「へっへー、誰だ?一番ちっこいアホ面って......」

酔っぱらい男に続いて言ったのはナルト。そうしてナルトは仲間を見回したのだが......ナルト以外は、ただ男を見てるだけだった。何故って、誰が一番身長が低いのかは既に明白だったからである。ナルトはそのうち気付く。この班のメンバーの顔を見る時、いつも自分は見上げていたことを。

「ブッコロース!!!」
「これから護衛する方を殺してどーする、アホ」

そうして当然ナルトは突っ込もうとするのだが、また当然止める役目を負うのはカカシ。カカシの手に掴まってバタバタしているナルトを、呆れたような冷めた目で見ていた酔っぱらい男は、また一口酒をあおって言った。

「わしは橋造りの超名人、タズナというもんじゃわい。わしが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」


 
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