第八十九話 いざ


「"九尾"も"神人"も駄目だったか......」
「すみませんね。何せ相手はあの三忍、自来也様でしたから」

薄暗い闇の中、幻灯身の術で浮かんでいる姿が四つ。
ーー"リーダー"と北波、そしてイタチ・鬼鮫。
北波は鋭い目で任務報告に来た二人を見つめている。イタチの紅い瞳はじっと閉じられている。"リーダー"の言葉にあっさり返した鬼鮫は、くつくつと笑っていた。

「ところで、"神人"の件ですが。彼女、どんどんと"神鳥"の力を身につけているようですよ」

いかにも機嫌が悪そうな北波の目が僅かに細まった。北波の脳裏に過ったのは、その力をカナが引き出す切欠となったあの戦いだ。
しかし、動いたのは北波ではない。赤色の瞳を開き、"リーダー"を捉えたのはイタチだった。

「......リーダー」
「なんだ、イタチ」
「"神鳥"を封印するよりも..."神人"を引き入れたほうが遥かに"暁"にとっていいと思うが」

その言葉に、今度こそ北波が大きく反応した。

「何言ってやがる!!」

暗い空間に北波の怒鳴り声が響き渡る。ーーだがそれっきり、空間には暫しの静寂が滞っていた。
鬼鮫は目を丸め、"リーダー"は目を細め、突拍子のない発言をしたイタチを凝視していた。そのイタチは北波に目もくれない。もしここに本体があれば、攻撃をしかけそうなほどの北波の内心など知らず。

「"神人"はもう"神鳥"を手懐け始めている......それなら"神鳥"のみでなく、"神人"自身の力も使えるということか」
「...ああ。"神鳥"はただ集めた尾獣の力を安定させるための補助。実際封印せずともいいものだ。うまく利用すれば利益は上がるだろう」


ーー淡々と意見するイタチの声を、北波は歯を食いしばって聞いていた。
"神鳥"は尾獣ではない。本来の目的から言えば必須なわけではない。北波のノルマは、絶対ではないのだ。

だが、それでも。

北波の実体は深く眉根を寄せ、目を強く瞑っていた。
その手には以前も握ってた、あの、"腐った一族"の額当てがあった。



ガイと共に木ノ葉に帰還したカナは、病院に連れて行かれるサスケに迷わず付いて行った。入院の為の様々な手続きをしたガイには礼を言って別れ、そうして今はサスケの病室の前の椅子に座っている。検査の為と医者に待つよう言われたためだ。

病院の匂いに浸り、カナはじっと床を見つめていた。

その脳裏に甦っていく出来事は全て今日の出来事。イタチの顔を思い出し、服の裾を掴む力が強くなる。

「(お兄ちゃん......サスケ......)」

過去、無邪気に兄弟と遊んでいたカナは、いつかこんな想いを抱くことになろうとは塵ほども想像しなかった。イタチの深い黒の瞳と、ガイに背負われていたサスケの表情。サスケはどれほどの想いで兄に再会したのか。それは計り知れない。
そしてカナもまた、イタチが関わる運命に巻き込まれている。

「(イタチお兄ちゃんが......私を......"神鳥"を、狙ってる......)」

更にカナの頭に道中の自来也の台詞が流れる。極秘情報とはいえお前は知っておくべきだ、と自来也は前置きしていた。

『イタチ......それからあの鬼鮫というヤツは、"暁"という組織に入っとる。詳しいことはワシもまだ掴んでいないが、大蛇丸もその組織に入っていた』
『!! 大蛇丸も...?』
『......それだけ危険なヤツらが集まっとるという事だ。お前もナルトも、覚悟せにゃならんぞ』

普段気の軽い自来也でさえ深刻な表情をしていた。大蛇丸の顔を思い出し、身震いしたのをカナは覚えている。だが、同時に不思議にも思った。
ーー何故ナルトまでもが狙われているのか?聞けば、イタチと鬼鮫の本来の目的はナルトだったという。それは、何故なのか?


その時ちょうど病室のドアが開き、ぱっと立ち上がった。出てきた医師を迎える。

「あの、サスケは......」

言外の問いに、医師は小難しそうな顔で応えた。その結果にカナは眉根を下げる。済まなさそうにする医師に頭を下げ、それから病室に足を踏み入れた。

ベッドに寝かされているサスケの髪が揺れている。開いている窓から訪れた風は、そうしてカナの銀色も揺らす。目前の光景と、とある記憶が重なった。


『一緒に生きよう』


あの夜の惨劇の数日後。イタチに気絶させられたカナが目を覚ましたのは、数日が経過した後だった。意識が戻った時、初めに目にしたのは三代目のほっとした顔。しかし、あの時のカナはそれどころではなかった。独りきりになってしまった幼なじみを捜し、病院の冷えた廊下を走ったのを覚えている。

そうしてサスケと誓った約束の場所は、今、この病室によく似ている。

丸椅子に座ったカナは、そうっとサスケの頬を撫でていた。サスケの顔は蒼白だった。外傷もあるけれど、主に負ったのは精神攻撃だと聞いた。全ては、イタチの手によって。
カナは何も覚えていない。だがナルトから聞いた話がある。サスケは頑なにイタチに向かって行ったという。実力の差を知ってもなお、その憎しみは、抑えきれていなかったという。

『オレは、アンタの言った通り......アンタを恨み、憎み、そしてアンタを殺すためだけにオレは......生きてきた!!』

そんな事を言っていたと、カナに教えたナルトもまた、苦渋の表情だった。そしてナルトは他にも様々なことをぽつりぽつりと口にしていたが、実際、その半分も覚えていない。サスケの言葉だというそのセリフはあまりにも重かった。

ーーーその為に、本当にそれだけの為に、生きてきたの?

その憎悪の想いを知っていたとはいえ、カナを襲った痛みは半端なものではなかった。酷く暗い灰色の霧が、カナの心を覆った。サスケがどれだけイタチを憎んでいるかだなんて、知っていたはずなのに。


「(......何かが変わってしまう。そんな、嫌な予感がする。ーーーだけど、私は)」


白い病室に、二人。
窓から差し込んでいる日の光が唐突に弱くなっていく。太陽が陰り、病室は徐々に、だが確実に暗くなっていく。くしゃり、と布団を掴むカナの手。銀色の髪が顔を隠す。その瞳に今宿っているのは確かにーーー暗い色。

カナの脳裏に甦ったのは、何者をも逃さない、爬虫類のギラつく刃。

「サスケ......」

小さく、ぽつりと、だがはっきりと、呟いた。


「......私は......ずっとサスケと............」


しかし、そのセリフは最後まで続かなかった。

「サスケくん!!」

血相を変えたサクラが病室に駆け込んできたのだ。
驚いて振り返ったカナが「サクラ?」と漏らせば、サクラも気がつき「カナ...!」と動揺する。だが、サクラは眠っているサスケを見てハッとし、すぐさま駆け寄っていた。

「サスケくん...!!カナ、サスケくんは...!」
「......お医者さんにはもう看てもらったんだけど、どうにもできないって。暫く安静に休ませておくしかないって......」
「ガイ先生が教えてくれたのよ、でも、全部は言ってくれなくて......どうしてサスケくんが...!?」
「......ごめん、私もよくは......」

そう応えるしか、カナにはできなかった。全てを教えるにはサスケの事情が深すぎ、正直に言えないと告げるにはサクラのサスケへの想いが強すぎる。
「...ごめん、サクラ」ともう一度謝るカナに、しかしサクラは「...ううん」とぼやいていた。少しは落ち着いたのか、サクラは暫く黙り込む。カナはそんなサクラにかける言葉もなく。
再び、「カナ」とサクラが声をかけるまで、カナは俯いていた。

「大丈夫よね......サスケくん......」

か細い声に、そっとサクラを見上げた。ーーそして思った。サクラは本当に、サスケが好きなのだと。

「......うん、きっと......」

胸が酷く熱い。カナはそれ以上の言葉を口にできなかった。



サクラと別れ、病院を出たカナは、再び雲から顔を出した太陽を見上げていた。

「(じっとしてるから、嫌なことばっかしか考えられないんだ...)」

眩しすぎるということはない。むしろ今の自分には程よい光だと思い、甘んじて眩しさを受ける。
サクラが来る前、心に浮かんだある事は、今はまだ、と心の奥深くにしまいこんだ。

自来也とナルトは"伝説の三忍"の一人、綱手を捜しに行った。カナは綱手と面識こそないが、どんな人物かは知っている。自来也の同期。三代目の弟子。最高の医療忍者、医療のスペシャリスト。自来也は言っていたのだ。綱手なら、サスケを看ることができると。

「(サスケのことは、ナルトと自来也さんがなんとかしてくれる。私は私で、やらなきゃいけないことがきっとまだいっぱいある)」

ぱちん!と両頬を叩き、よし、と自分に喝を叩き込んだ。気持ちを入れ替えれば、木ノ葉にはいつも通りの空気が流れている。雲はゆっくり進んでいる。風はやさしい。太陽の光は暖かい。ちっぽけな非日常などそっちのけで。

「...アカデミーに戻ろうかな」

カナは小さく呟いた。まだ日は高い。また戻ってくるから、と言ったのはカナ自身だ。
カナの足はゆっくりとアカデミーへの方角に向けられた。


ピーヒョロロロ...


しかし、不意に聴こえた鳥の声に、反射的に空を見上げていた。大きな翼を広げ旋回しているのは忍鳥だ。その円でありながら鋭い瞳はカナを捉えて離そうとしていない。
察したカナはすっと手を掲げ、素直に舞い降りたその忍鳥の喉元を撫で、その小さな足につけられていた伝達用紙を受け取った。ーーそうして文書を読んだカナは、怪訝気に眉をひそめていた。

「(ご意見番が、私を呼んでいる......?)」



火影室。
現在主のいない部屋の中心に、大きな火影用の椅子がただじっと静寂を保っている。壁に飾られた四人の影。その全員が今やこの世から消え、椅子はひっそりと次の主を待つばかり。
ご意見番の二人、三戸門ホムラとうたたねコハルはその椅子を目に眉を寄せていた。

「本当に..."神人"一人だけで十分なのか」

コハルが難しい顔で零す。表情からしても何かを懸念している様子である。窓から覗く空にはご意見番二人が先ほど放った忍鳥が飛んでいる。目的を果たした今、忍鳥たちの待機所に戻るのだろう。

「いくらなんでも危険すぎる。"神人"を他里やあの組織に盗られれば...」
「仕方あるまい。今はなんといっても人員不足。それに話に聞けば行ったこともあるという」
「だが......」

そうホムラの言葉にコハルが返そうとした時、ちょうど火影室の扉がノックされた。コハルとホムラは互いに目配せし、体をそちらに向ける。「誰だ」と威厳あるホムラの声に返ってきたのは「風羽カナです」と名乗る声。二人が隠密に呼んだ者だった。

「入れ」
「失礼します」

カナはゆっくりと部屋に足を踏み入れた。その途端、きゅっと口元に力を入れる。ここは懐かしい三代目の部屋だ。暫く来なかったこの場所に、過去ずっと見てきた三代目の笑顔はない。
代わりに、ご意見番の険しい表情。僅か俯いて息を漏らし、カナはもう一度二人の顔を見据えた。

「それで、私に何のご用件で、」
「お前には"砂"へ向かってもらう」

「(....え?)」ーー間髪入れずの返答に、カナは動揺が隠しきれなかった。

「お前の疑問も分かる。突然な話だ。しかし、分かってるとは思うが今は人手が足りん。何名も遣うことはできんのだ」
「い、行くのは構いません。ですが、今 木ノ葉と砂は」

戸惑うカナに、ホムラとコハルは淡々と現在の国交状況を話した。
里の上層部にしか与えられなかった事実。全てが、大蛇丸の策略であったこと。砂の里をまとめていたはずの風影は中忍試験前には殺されていたこと。代わりに大蛇丸が里の天辺に居座り、砂の民全員が操られ、木ノ葉崩しが発端してしまったということ。

それを聞いたカナは、ひたすらに歯を食いしばっていた。何を知ってもカナの中の大蛇丸への負の感情は強まるばかりだった。

「そんな顔をするな。過去は変えられん。考えるべきなのはこれからのことだ」
「......はい。それで、今、砂とは?」
「砂は全面的に降伏を示してきた。同盟もふたたび組み終わっている。......だが」

コハルは一息ついた。その目はどこか遠くを見据えている。長らくこの世に行き、大戦を味わってきたが為の懊悩。コハルとホムラは里の上層部に立つが為に、楽観視は許されない。一旦 目を床に落としたコハルはそのまま続けた。

「早々に元の様に接する事はできまい。全面降伏は表向きで、実際には再び木ノ葉襲撃の準備をしている可能性もある」

重々しいセリフに、カナは一瞬で悟った。元々緊張していたその面持ちが更に険しいものとなる。

「つまり、疑っている......ということですね」

返答したのはホムラのほうだ。うむと一言口にする声は決して軽くはない。今一度コハルの言葉を脳裏で反芻したカナは、密かに吐息を漏らした。

「私はどうすれば」
「お前には、表向きは密書を届ける役割として砂に向かってもらう。だが真の任務は砂の調査だ」
「...木ノ葉出身である私に砂の方々がどう目を向けるか...怪しい動きがないか...ですか」
「そうだ」

暗い感情がカナの胸に渦巻く。気乗りしないのはカナの性格ゆえだ。しかし同時に、カナの頭にはいつかのイビキの言葉が甦っていた。里に仕える忍には時として嫌な任務も舞い降りるが、忍は自国の為、任務を選び断ってはならない。
数秒目を閉じた後、カナは静かに「わかりました」と応じた。どちらにせよ、選択権がカナにあったわけではない。うむ、とホムラが再び言った。

「お前は以前 砂へ行ったことがあると、亡き三代目に聞いていた。お前を行かせる一番の理由はそれだ。頼んだぞ」


ーーバタン。

ご意見番に一礼したカナは、失礼しますと一言残し、火影室から退出した。息苦しさから解放されてカナの口から大きな溜め息が出る。

「(国って、大きい......)」

コハルやホムラの考えは一見疑り深すぎるようにも思うが、国という巨大な組織を案じるならば、二人の懸念は当然だ。何の批難もできるはずがない。

「(......でももし、本当にナルトが火影になったなら、こんな任務なんてなくなるんだろうなあ)」

猪突猛進でありながら寛仁大度であるチームメイトを思い出し、カナはようやく弱々しくも微笑んだ。



木ノ葉とは一変、そこは自然に囲まれた砂漠の地。風の国、砂隠れーーつい最近木ノ葉を騒がせた組織が立つ。
だが、風影を主とする風影室もまた、火影室と同じく主が不在の司令室となっている。木ノ葉を突如襲撃した砂隠れもまた木ノ葉と状況は大差ない。戦力が激減し、新たな影を決める余裕もなく、されど他国から入る任務を断ることはできず。外交は通常通り行わなければならぬ故に人員が不足し、更に内情に対処できなくなるという堂々巡りである。
だが影が決められぬとはいえ、忍に指示を出す役は必須。現在里のまとめ役を買って出てるのは、今回の戦争でも頼りにされたバキ。

そしてそのバキは今、風影室改め司令室にて執務机を背に腕組みをして立っていた。
その硬い表情の前に集められたのは数十名程の砂忍。下忍、中忍、上忍が混じり、全員がどこか緊張した様子でバキを見返している。

「急な召集に応じてくれ、感謝する。今回集めたのは、ある任務に就く者を選ぶ為だ」

低い声でバキが話しだす。それに怪訝な顔つきをする者が多数だった。忍は任務を選べない、それはどこの里でも同じ事。こうした目的の召集はまず初めてだった。

「無理にと言うつもりはない。就いてもいいという者がいなければ、オレが就くつもりだ。そこは気にしなくてもいい」
「......?」
「ランクで言えばDランクなのだが......今回の任務は、木ノ葉が関わってくる」

バキの言葉に、全員に衝撃が走った。誰もが息を呑みバキの顔を凝視した。ーー砂忍たちにすれば、木ノ葉はつい先日まで敵だったのだ。大蛇丸に乗っ取られていた砂が非を認めて降伏したとはいえ、まだ切り替えられる者はいまい。
この反応を大方予想していたのだろう、バキは眉を寄せ、瞼を落とす。

「とはいえ、木ノ葉の里自体が深く関わってくるわけではない。木ノ葉の忍が一名こちらに密書を届けにくるだけだ」
「一名...?三日はかかる距離で、一名、ですか」
「木ノ葉も砂と同じだ、人員不足では仕方あるまい。"丁重に扱ってくれ"とのことだ。再び同盟を組んだ今、それに従わぬわけにはいかない。何せ今は......立場が弱い」

深い溜め息を零したバキ。しんと室内は静まる。沈むような空気が流れている。誰もが先の戦を悔いるように、拳を握りしめていた。その中で、再びバキは言った。

「誰か就いてくれる者はいるか」

飽くまで強制はない。それゆえに、顔を伏せる者が多い。手を挙げる者も声を発する者も、一人も。
しかし、当然の結果だとバキは思った。木ノ葉の忍相手に今、どのような顔をして迎えればいいのか、バキですら苦悶するのだ。しかし誰もいないのならバキが就かねばならないのは必至。覚悟を決めなければならない。

だが、不意に冷静な声が響いていた。


「オレがやる」


軽い足音がする。そうして忍たちの中からバキの目前に立ったのは、一人の少年だった。
他の忍たちが目を丸くする。その色は驚愕と、ーー恐怖。
バキもまた目を見開いていた中、その少年の後を慌てた様子の二名が続いた。三人とも、バキにとってはかなり馴染みのある者たちだった。

「ちょっと、我愛羅」
「マジでやるつもりかよ、お前......」

テマリ、カンクロウ。そして誰よりも先に名乗りを上げたのがーー我愛羅であったのだ。
我愛羅の落ち着きぶりは相変わらず、兄姉の声にも反応はない。隈で象られたその目でしっかりとバキを見据えている。周囲の忍の全員が後ずさりしていた。我愛羅の瞳に潜む色。
ーーだがバキはその色に、"見つけた"。

「任せた、我愛羅」

バキは一言、返した。僅かな笑みを口に浮かべて。我愛羅はそんな担当上忍の様子にフンと一つ、そうしてさっさと扉を開け部屋から消えていた。
途端に忍たちがざわめき始める。誰もが扉を見つめて、「ヤベェんじゃねぇの...」「できるわけないだろ」_と、漏らしている。だがそんな面々を散らすように、バキは「解散」と告げた。僅かにその言葉には刺がある。バキの眼光に怯んだ忍らはそそくさと部屋を退出していった。

残された兄姉もまた彼らを睨んでいたが、扉が閉じればすぐに二人してバキに詰め寄った。

「バキ、やっぱり我愛羅を下ろせ...!いくらアイツが決めたこととはいえまだ危ねェじゃん!」
「そうだ、木ノ葉と関わる任務はまだなるべく控えたほうが」
「気にするな」

しかし、兄妹の不安を前にバキは笑っていた。言葉に詰まったテマリとカンクロウは、ただバキを見上げる。

「我愛羅の目には確固たる意志があった。少しでもこの里の役にたとうとしている意志だ。...我々が犯してしまった過ちから数日。たった数日だが、お前らももう感じているだろう。アイツは......変わり始めているんだ」

ーーー信頼できる、砂の忍に。

司令室の窓から覗く、砂の道を歩く赤の髪。そこに以前のような刺すような空気は感じない。
我愛羅は確実に、前進している。




「さてと。お願いね、紫珀」
「ハイハイ。砂まで三日ァ?んなアホな、余裕で二日以内に辿り着いたるわ!」

上下し始める紫色の翼。跳躍する銀色の影。信頼できる相棒の背に乗ったカナは、小さくなっていく木ノ葉を目に、呟いた。

「行ってくるね......サスケ。サクラ、カカシ先生......ナルト」

胸に宿る想いが、入り混じる。


 
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